臨床精神薬理
Volume 22, Issue 7, 2019
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【展望】
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精神科疾患の治療における薬物療法の立ち位置
22巻7号(2019);View Description Hide Descriptionさまざまな治療の中で,薬物療法は科学的根拠と臨床的な利便性が特徴であり,基 本的なスキルの1つであると言える。他の治療と併用が可能であり,また効果を増強する ことができる。さらには第一選択として,他の治療を追加していくsequential treatment (順次的治療)における出発点となり得る。精神療法や電気けいれん療法を行う際にも薬 物療法については必ず考慮される。しかし機能的なリカバリを目指していくには薬剤単独 では困難であり,精神療法的な関わりを付与することも求められる。また患者は精神療法 を希望することが多く,治療者側の提案とは乖離する可能性がある。さらに薬物療法と精 神療法について,生物学的 - 非生物学的という分類や,副作用 - 安全という対比が生じや すいが,そのような二分化をする根拠は乏しい。そして将来的にはprecision medicine (精密医療)において薬物療法は重要な位置を占めていくであろう。我々は個々の患者に 最適な治療が行われるよう,知見を蓄積していく必要がある。 臨床精神薬理 22:647-652, 2019 Key words :: sequential treatment, precision medicine, cognitive behavioral therapy, recovery
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【特集】 さまざまな疾患における薬物療法の立ち位置
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統合失調症の陰性症状に対する薬物治療・非薬物治療の効果
22巻7号(2019);View Description Hide Description統合失調症の陰性症状に対する治療は,認知機能障害に対する治療と並んで,統合 失調症治療における大きなアンメットニーズである。陰性症状に対する治療の効果を検討 するには,二次性の陰性症状の影響を慎重に除外する必要があるが,このような研究は実 際には難しい。本稿では陰性症状に対する種々の薬物療法・非薬物療法の効果を,RCT のメタ解析の結果を中心に紹介する。一次性と二次性の区別をつけない場合まで含めれ ば,陰性症状に対する効果がメタ解析で示された治療法は少なからず存在するが,その効 果量はおしなべて小さく,臨床的に意味があるサイズとは言えない。陰性症状の大幅な改 善のためには新たな薬剤や治療法の出現が待たれる状況であるが,今できる治療を目の前 の患者に積み重ねていくことが現時点では大切と思われる。 臨床精神薬理 22:653-658, 2019 Key words :: schizophrenia, negative symptoms, antipsychotics, antidepressant, psychotherapy -
うつ病治療における併用療法と増強療法
22巻7号(2019);View Description Hide Descriptionうつ病に対する薬物治療の原則は単剤療法であるが,第一選択薬が反応しない,ま たは反応したものの寛解に至らない場合に,抗うつ薬の切り替えや2種類の抗うつ薬によ る併用療法,気分安定薬や非定型抗精神病薬による増強療法を試みることが多くのガイド ラインで推奨されている。その中でもaripiprazoleやquetiapine,risperidone,brexpiprazoleといった非定型抗精神病薬による増強療法は,抗うつ薬の切り替えと比較して有用性 が高い結果が報告されており,一方で我々が行ったGenotype Utility Needed for Depression Antidepressant Medication(GUNDAM)studyでは,1剤目の抗うつ薬で反応が不十 分なうつ病に対してのSSRIとmirtazapineの併用療法が,それら単剤での治療と比較し て8 週間後の改善効果に優れていた。本稿では増強療法と併用療法それぞれについてエ ビデンスやガイドラインに触れながら解説したい。 臨床精神薬理 22:659-664, 2019 Key words :: depression, combination, augmentation, treatment resistant, antipsychotics -
双極性うつ病における抗うつ薬の立ち位置
22巻7号(2019);View Description Hide Description2000 年代初頭には,双極性うつ病にも抗うつ薬は有効であり,積極的に使用すべ きであるという考えが主流であったが,その後まもなく双極性うつ病への抗うつ薬の有効 性を否定する報告が相次ぎ,流れは大きく変わった。それで決着がついたかに見えたが, その後抗うつ薬の有効性を支持するメタ解析も発表され,現時点では結論に至っていない が,抗うつ薬投与を可とする条件のもと,その有効性と安全性が再評価される傾向にあ る。これまでに得られた様々なエビデンスを最大公約数的にまとめると,以下となる。① まずはquetiapine,lithium,lamotrigineなどの非定型抗精神病薬や気分安定薬の単剤使用 を試みる,②それらで十分な効果が見られない場合に初めて抗うつ薬の併用を試みる,④ 原則として抗うつ薬単剤投与は行わない,④原則として双極性うつ病が寛解に達したら抗 うつ薬は早期に減量中止とする,⑤急速交代型や混合状態には抗うつ薬は使用しない,⑥ 三環系抗うつ薬は使用しない,⑦抗うつ薬を使用する場合には,(軽)躁転の初期徴候と その対処法についてあらかじめ十分な心理教育を行っておく。 臨床精神薬理 22:665-675, 2019 Key words :: bipolar depression, antidepressants, meta-analysis, guidelines, pros and cons -
強迫症治療における薬物療法の立ち位置
22巻7号(2019);View Description Hide Description強迫症(OCD)の薬物治療としては,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI) が広く用いられているが,その反応率は4割程度にとどまることから,薬物療法だけで OCDの治療を行うのは困難であり,認知行動療法(CBT)の併用が必要となる。臨床 上,治療開始時期にCBTが導入できない場合でも,薬物療法を先行させ,強迫症状や合 併する不安,抑うつの改善が得られればCBTを実施できることが多い。また,寛解に至 れば薬剤を漸減し,減薬によって生じる強迫症状に対してさらなるCBTを行い,治療の 終結を目指すこともできる。このように,OCD治療において,薬物療法は,患者がCBT を開始するためのつなぎ役であったり,患者がCBTを実践して自ら症状を制御できるよ うになるための補助的な役割を果たしていると言える。さらに,近年SSRIが消去学習を 促進する可能性も示唆されており,CBTの効果を押し上げる役割も期待される。 臨床精神薬理 22:677-682, 2019 Key words :: obsessive-compulsive disorder, pharmacotherapy, serotonin reuptake inhibitors, cognitive behavioral therapy, fear extinction -
境界性パーソナリティ障害に対する薬物療法の有効性と限界――双極スペクトラム障害,自閉症スペクトラム障害の視点から
22巻7号(2019);View Description Hide Description境界性パーソナリティ障害(Borderline personality disorder,以下BPDと略す) は近年,縦断研究により予想外に予後が良好で,生物学的基盤を有し,精神療法の有効性 がランダム化比較試験で証明された。一方でシステマティックレビューやガイドラインで はBPDへの薬物療法の有用性は限定的とされている。ところが実臨床では空虚感,同一 性の混乱,理想化とこき下ろし,見捨てられ不安といった典型的BPD中核群より,自傷・ 自殺未遂,衝動性,気分反応性,怒りなどBPDの周辺症状を主とする非典型的BPD周 辺群の方が多く受診し,それらは双極性障害を併存する双極スペクトラム障害や,背景に 診断閾値以下を含む自閉症スペクトラム障害を有することが多い。それら,非典型的 BPD周辺群でも精神科看護師や臨床心理士との協働が必須であるが,気分安定薬(抗て んかん薬)や第2世代抗精神病薬が有用である可能性がある。 臨床精神薬理 22:683-691, 2019 Key words :: borderline personality disorder, pharmacotherapy, bipolar spectrum disorder, autism spectrum disorder -
過量服薬を繰り返す当事者における薬物療法の立ち位置
22巻7号(2019);View Description Hide Description本邦における過量内服を含む薬物中毒で入院した患者については,近年は横ばいで 経過している。一方で,過量内服後の退院した患者の12%が退院後1年以内に再度救急 搬送となる報告もある。本稿では気分障害,パーソナリティ障害,統合失調症を対象と し,繰り返す過量内服に対する各々の薬物療法に焦点を当て,エビデンスを中心に概説 し,個人的見解を述べた。また本稿最後には剤型の変更による過量内服の抑止について文 献学的考察を行った。自殺関連行動を扱う研究は限界を抱えており,またエビデンスレベ ルの優劣や,対象群・期間の選定等を鑑みて包括的な評価を下すことは困難を要する点は 留意したい。そのため医師は,薬物療法に偏重した医療とならないよう心掛け,薬剤処方 を行う際にはその適応を厳選し,心理社会的アプローチ等を含めた包括的治療を実施し, その上で治療過程全般において当事者と意思決定を共有していくことが肝要である。 臨床精神薬理 22:693-702, 2019 Key words :: overdose, suicide attempt, antidepressant, lithium, clozapine -
神経性やせ症の治療における薬物療法の立ち位置
22巻7号(2019);View Description Hide Description神経性やせ症(AN)には,向精神薬が処方されることが少なくないが,治療目標 とする症状が曖昧なまま処方されていることもある。近年は,非定型抗精神病薬も使用さ れるようになっているが,ANの薬物療法として,エビデンスをもって推奨される薬物は 少なく,海外のガイドラインでも積極的な使用は勧めていない。エビデンスの少なさに は,研究用の治療を完了できない人が多いという要因も影響している。現状のエビデンス から総合的に考えると,ANについては,薬物療法単独で臨床症状が改善するとは考えに くく,何らかの心理的治療や栄養療法と組み合わせて使用すべきである。また,薬物療法 を行うならば,他の精神疾患以上に副作用には注意すべきである。何をもって治療アウト カムとするかについては,今後検討が必要であり,薬物療法による精神症状の変化と体重 の関係などについても詳細な観察が必要だと思われる。 臨床精神薬理 22:703-709, 2019 Key words :: anorexia nervosa, pharmacotherapy, atypical antipsychotics, randomized controlled trial, osteoporosis -
児童思春期のうつ病における抗うつ薬の立ち位置
22巻7号(2019);View Description Hide Description児童思春期に発症したうつ病は,学業成績の低下,対人的な困難さ,親子関係の拗 れ,ならびに他の精神疾患のリスクの増加など,その後の人生に重大な影響を及ぼすとさ れている。うつ病の子どもに対する治療は,心理社会的治療がファーストラインとなる。 成人期のうつ病治療と異なり,児童思春期のうつ病の治療における抗うつ薬を用いた薬物 療法の臨床的立ち位置は,その限られた有効性と臨床的に重大なリスクから,心理社会的 治療の後ろに控えているセカンドラインとなる治療である。児童思春期のうつ病に対して 抗うつ薬を開始した時や増量した時に自殺念慮や焦燥感が高まりやすいと指摘されるな ど,その投与には慎重な姿勢が求められている。すなわち,児童思春期のうつ病における 抗うつ薬は,有効性とリスクの両面を深く勘案した上で,観察可能な環境下で選択できる 限定的な治療技法の一つと言えるだろう。仮に抗うつ薬の投与を考慮したとしても,臨床 医は子どものうつ病を適切に診断できているのか,さらに心理社会的治療を十二分に行っ てきたのか,自己批判的な視点でこれまでの治療を検討し直すところから始めるべきだろ う。そして,本人とその保護者に適切な説明を行った上で,投与を開始するべきだと考え ている。うつ病に苦しむ子どもたちに出会った臨床医には,薬物療法以外の豊富な心理社 会的治療技法を選択できるなど臨床的技量が求められる。 臨床精神薬理 22:711-718, 2019 Key words :: antidepressants, depression, child, adolescent, pharmacotherapy -
不眠における睡眠薬の2剤併用療法
22巻7号(2019);View Description Hide Description不眠症は睡眠障害のうちで,最も高頻度で見られる病態である。日本における不眠 症の治療の中心となっているものは,薬物療法である。中でもベンゾジアゼピン受容体作 動薬(benzodiazepines:BZD)が最も種類が多く,精神科における仕様頻度も高い。睡 眠薬は単剤での使用が推奨されているが,我が国の睡眠薬治療においてしばしば問題とな るのが,睡眠薬の多剤・高用量処方である。BZDは転倒,依存の問題やや退薬兆候など に対して,注意喚起がなされており,診療報酬改定でも睡眠薬の多剤併用に対し処方料の 減算など制限がかけられるようになり,睡眠薬の多剤処方,長期処方を是正しようとの流 れがある。不眠治療の基礎介入である睡眠衛生指導や,不眠のための認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia:CBT-I)などの非薬物療法の重要性も知られるよ うになっている。不眠治療では,非薬物療法を行った上で,単剤の薬物療法を短期で行う ことが標準的な不眠の治療方法である。 臨床精神薬理 22:719-725, 2019 Key words :: insomnia, benzodiazepines (BZD), Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia (CBT-I) -
向精神薬の頓服使用の効果
22巻7号(2019);View Description Hide Description日常臨床の多くの場面そして多くの診療科で,薬剤を頓服として使用することはご く一般的である。本稿では,精神科における向精神薬の頓服使用について,精神科救急で の患者の鎮静を要する場面での薬剤使用も含めて,そのエビデンスや使い方について紹介 した。例えば,2019 年に発表されたメタ解析では,精神科もしくは一般病院の救急部門 における薬剤投与2時間後の各薬剤の効果を報告した試験を組み入れて解析がなされ, agitationやaggressionに対してはhaloperidol + promethazine,olanzapine,droperidolが 効果が高いことが報告されている(本研究では投与経路として筋注での薬剤投与が大半で ある) 。経口頓服薬の効果の比較を行った質の高い研究は依然少なく,今後のさらなる研 究が必要と考えられる。 臨床精神薬理 22:727-732, 2019 Key words :: antipsychotics, as required, benzodiazepines, pro re nata, psychotropics
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【原著論文】
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18歳以上の日本人成人てんかん患者1,641例に対するperampanelの有用性評価
22巻7号(2019);View Description Hide Description部分発作(二次性全般化発作を含む)又は強直間代発作を有する 18 歳以上のてん かん患者に対し,perampanel(PER)を長期投与した 1,641 例の使用成績調査の中間解析 を実施した。投与継続率は高く忍容性も良好であった。主な副作用は傾眠,浮動性めま い,易刺激性であるが,国内の臨床試験の報告に比べ低い発現割合であった。PERはこ れらの試験と比べて低用量で使用されており,併用薬が少ない傾向があり,またPER投 与中に他の抗てんかん薬が減薬されるなどの相違がみられた。有効性の解析において,単 純部分発作,二次性全般化発作,強直間代発作など様々な発作型で発作頻度の改善作用が 確認され,PERが他薬1剤に併用された症例で高い有効性が認められた。発作の強さ, 発作の持続時間,日常の活動性,全般改善度の評価からPERによる治療状況全般の改善 が確認できた。PERの併用療法はてんかん患者の治療に有用であることが示唆された。 臨床精神薬理 22:733-747, 2019 Key words :: perampanel, AMPA receptor antagonist, post-marketing surveillance, combination therapy
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【シリーズ】
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