臨床精神薬理
Volume 22, Issue 8, 2019
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【展望】
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向精神薬の長期投与を巡る論争と減薬・断薬のリスクとベネフィット
22巻8号(2019);View Description Hide Description近年保険診療の面から向精神薬の多剤投与の規制,ベンゾジアゼピン系薬物の長期 漫然投与の規制が行われるようになり,臨床現場では困惑が広がる一方で,エビデンスに 基づいた適切な薬物療法普及の契機ともみなされている。こうした規制の背景には,向精 神薬の有効性のエビデンスに関する疑問と長期服用による精神行動面への悪影響などへの 懸念を背景にしたユーザーによる活動と行政への働きかけがある。本稿ではランダム化比 較試験(RCT)による向精神薬の有効性のエビデンスの意味と,化学物質としての向精神 薬の作用を再考するとともに,国内外における減薬・断薬を巡る動向,向精神薬の減量中 止の際に求められる原則,臨床医が知っておくべき離脱のプロセスや,ユーザーの間で大 きな問題となっている遷延性の離脱症候群について述べ,今後求められる精神医療,治療 者のあり方を示した。 臨床精神薬理 22:767-775, 2019 Key words :: psychotropic drugs, long-term use, deprescribing, acute withdrawal, protracted withdrawal
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【特集】 精神疾患の寛解・回復後,症状消失後の治療ストラテジー
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統合失調症患者の寛解,回復後の薬物療法と減量・中断の試み
22巻8号(2019);View Description Hide Description寛解期,回復期の統合失調症患者への抗精神病薬の投与は再発を予防する上で大切 である。非定型抗精神病薬を適量投与することが好ましく,アドヒアランスを保つ上で持 効性注射薬も有用である。しかし,抗精神病薬の副作用により,認知機能や社会的適応能 力が低下している可能性もある。また,一部の患者では,抗精神病薬の投与がなくても幻 覚妄想の再発はないことが知られている。抗精神病薬の再発予防効果を必要としない患者 の特徴は現在のところ明らかではない。このことに関して,今後の研究が期待される。 臨床精神薬理 22:777-782, 2019 Key words :: schizophrenia, antipsychotic, maintenance dose, reduction/withdrawal, relapse
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【特集】
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うつ病の寛解・回復後の治療:再発予防に向けた薬物維持療法と減薬・休薬の基準
22巻8号(2019);View Description Hide Descriptionうつ病は再発の可能性を秘める疾患であり,寛解後も6ヵ月間の抗うつ薬による持 続療法を行うことが一般的なコンセンサスとなっている。持続療法後の抗うつ薬による維 持療法についてもその有効性を支持する報告は少なくはないが,一方で治療終結に向けた 具体的な基準や方策は示されていない。現時点において,回復後の薬物維持療法の可否 は,原則として個別の治療反応性や再発リスクの吟味を基に決定されるべきであろう。そ の際,患者自身に備わるレジリアンスをどのように評価するかが課題となる。また,同時 に,薬物治療終結に向けて非薬物的治療をいかに戦略的に併用していくかも問われるであ ろう。近年,漫然とした抗うつ薬長期投与によりtachyphylaxis(耐性)やtardive dysphoria(遅発性不快気分)などのリスクが生じる可能性が示唆されており,回復を維持する 患者には出口戦略を見据えた薬物療法も検討すべきと考えられる。 臨床精神薬理 22:783-790, 2019 Key words :: antidepressant, maintenance, relapse prevention, discontinuation, resilience -
双極性気分障害の寛解・回復後の治療:薬物維持療法と減薬・休薬の基準
22巻8号(2019);View Description Hide Description双極性気分障害の維持期の薬物療法においては,急性期とは異なるマネジメントが 必要である。治療自体が長期間におよぶ疾患であるため,戦略を持たずに漫然と薬物療法 を行うのみでは症状の再燃を招きかねない。本稿では,実臨床に活用しやすい治療ガイド ライン(CINP・WFSBP・CANMAT⊘ISBD・NICE・BAP)に記載されている各治療薬の 有効性を中心に述べる。最近のメタ解析の結果も含めて,双極性障害の維持期薬物療法の 第一選択薬として最初に候補に挙がるのはlithiumであるが,最新のCANMAT / ISBD 2018ガイドラインにて推奨度がより高くなったasenapineのように,エビデンスの蓄積 とともに推奨される薬剤もアップデートされていくため,他の薬剤についてもその特徴を 熟知し,適切に処方できるようになっておく必要がある。薬剤の減薬や休薬については判 断に迷うことが多いが,現時点では十分なエビデンスがなく,症状再燃で起こる様々な損 失を考慮すると,維持薬物療法を継続する方がメリットは大きいと考えられる。 臨床精神薬理 22:791-797, 2019 Key words :: maintenance pharmacotherapy, guideline, meta-analysis, reduction, discontinuation -
強迫症の寛解を目指した治療と維持療法,治療終結
22巻8号(2019);View Description Hide Description強迫症の患者が初診したら,どう治療を始めるべきかについての知識は治療ガイド ラインなどによって広く知られるようになった。一方,長期間治療を継続している患者に 対してそのまま継続するか,薬を減らすのか,止めるのか,さらなる症状の改善を目指し て強迫症専門医に紹介するのか,そのような判断の助けになる資料はほとんどない。本論 文はそのような資料になるようにした。 臨床精神薬理 22:799-806, 2019 Key words :: obsessive compulsive disorder, obsessive compulise spectrum disorder, SSRI, maintenance therapy, relapse, personality trait, review -
パニック症:パニック発作消失後の薬物療法の進め方と治療終結の基準
22巻8号(2019);View Description Hide Descriptionパニック症は回復しやすいがまた再発もしやすい慢性の経過を取る精神障害であ る。発作が消失しても,根底にある病理は簡単には正常化せず,ストレスにより再発す る。パニック症の主な治療抵抗要因としては症状の重篤さ,併存疾患,養育歴,現在のス トレス度が問題となる。発作消失後の減薬は数年をかけて行う必要がある。最終的には SSRIのみで臨床観察を続ける。パニック発作,残遺症状,予期不安および広場恐怖が最 低1年以上存在しない場合に,上記の治療抵抗要因に注意を向けながら,断薬を考慮す る。STAI(状態─特性不安尺度)の所見が,39 点以下が断薬を考慮する客観的所見であ る。 臨床精神薬理 22:807-813, 2019 Key words :: panic disorder, refractory factors, chronic recurrent course, agoraphobia, depression, STAI -
不眠症改善後の睡眠薬の使い方・減らし方・やめ方
22巻8号(2019);View Description Hide Description不眠症は有病率が高く,精神障害や心血管障害のリスク因子となるため,介入が必 要である。本邦では不眠症治療薬として,ベンゾジアゼピン系睡眠薬が広く用いられてき た。ベンゾジアゼピン系睡眠薬は急性期治療においては速効性がある上,重篤な副作用も ないため,睡眠非専門医でも使いやすい薬剤である。その一方で,長期使用時には依存形 成のほか,認知機能障害や転倒リスクの上昇など目立たない副作用もあるため,注意が必 要である。本稿では,不眠症改善後の睡眠薬の使い方,減らし方,やめ方について解説す る。 臨床精神薬理 22:815-820, 2019 Key words :: benzodiazepines, cognitive behavioral therapy, hypnotics, insomnia -
てんかん発作消失後の抗てんかん薬の治療終結についての考え方
22巻8号(2019);View Description Hide Descriptionてんかんの6~7割の症例では抗てんかん薬の内服により発作が消失すると言われ ている。しかし,成人のてんかんでは抗てんかん薬の中止に伴って発作再発が多いことが 指摘され,中止に対する警鐘が鳴らされてきた。そのため,成人てんかんにおいては発作 消失後にも抗てんかん薬を継続して処方されていることが少なくない。一方で,小児期発 症の予後良好なてんかん症候群,長期寛解が得られている症例,外科手術後に発作が消失 した例,妊娠出産を考慮している女性例など,抗てんかん薬の減量・中止を検討すべき症 例が存在する。本稿では,治療によりてんかん発作が消失した成人において,抗てんかん 薬をどのように調整すべきかについて考え方を提示する。 臨床精神薬理 22:821-825, 2019 Key words :: antiepileptic drug, drug withdrawal, epilepsy resolved, recurrence, risk factor -
抗認知症薬の減量・中止基準──抗認知症薬はいつまで使い続けるべきか?
22巻8号(2019);View Description Hide DescriptionDonepezilをはじめとしてgalantamine,rivastigmineなどのコリンエステラーゼ阻 害薬やmemantineの長期的効果のエビデンスは得られており,抗認知症薬は長期にアル ツハイマー型認知症の進行を抑制すると考えられる。しかし,どの程度進行抑制するかに ついては,プラセボが長期投与できないことから,正確に知り得ない。中止による影響は 治験などで明らかに示されているが,減量については検討した報告はない。さらには, 「いつまで使い続けるか?」についてのエビデンスはなく,現場の判断によるところが大 きい。 臨床精神薬理 22:827-836, 2019 Key words :: donepezil, galantamine, rivastigmine, memantine, Alzheimer’s Dementia, cholinesterase inhibitor -
ADHD診療における回復後の薬物維持療法と減薬・休薬の基準
22巻8号(2019);View Description Hide Description注意欠如・多動症(ADHD)における薬物療法は環境調整や心理社会的治療に併せ て行われ,必須とは見なされないが,精神科における他の治療法と比較しても効果は高 く,必要かつ有効であれば維持療法が行われるべきである。ADHD患者は服薬アドヒア ランスが低いため,効果や副作用についての説明を行う,投与回数を減らすといった一般 的な工夫とともに用量調節の自由度を高めたり,服薬継続への称賛を行うなど動機付けを 行ったりする必要があるだろう。服薬継続に伴う経済的な負担も可能な限り軽減させる。 小児の場合は給食の摂食状況や学業,課外活動への取り組みへの影響など,小児特有の ADHD治療薬に対するスティグマへの配慮を行うとともに,保護者の状況にも配慮する 必要がある。家族や教師,その他の支援者から多角的に情報を集め,患者の回復を判断す るとともに薬物療法終結の時期を検討するが,その後も数年は経過観察を行う必要があ る。 臨床精神薬理 22:837-843, 2019 Key words :: attention deficit hyperactivity disorder (ADHD), children, maintenance therapy, discontinuation, stigma
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【原著論文】
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慢性期統合失調症入院患者の口腔保健状態と抗精神病薬およびbiperiden内服状況との関係:歯科を有する単科精神科病院における横断的調査
22巻8号(2019);View Description Hide Description慢性期統合失調症患者の口腔保健状態が悪いのは,抗精神病薬もしくはbiperiden の内服治療が一因と考えられる。本研究の目的は入院中の慢性期統合失調症患者の口腔保 健状態と抗精神病薬およびbiperiden内服状況との関係性を明らかにすることである。調 査対象者は,歯科を有するA精神科病院に入院中の 40 歳以上の慢性期統合失調症患者 167 名のうち同意が得られた 89 名であった。評価指標は,The Global Assessment of Functioning(GAF) ,chlorpromazine(CP)およびbiperiden (BP)換算による内服量,口腔粘膜 湿潤度,Eilers Oral Assessment Guideによる口腔保健状態およびアイヒナー分類,現在 歯数を用いた。統計手法は,記述統計量,対応のないt検定,χ 2 の独立性の検定,Fisher の直接確率検定,調整済み残渣であった。43 名(48.3%)が現在歯数 20 本以下,64 名 (71.9 %)が咬合支持域不良で,口腔保健状態が悪いことが示唆された。しかし調査対象 者の口腔保健状態とCP換算量およびBP換算量には関係性を認めなかった。 臨床精神薬理 22:845-853, 2019 Key words :: oral health conditions, hospitalized chronic-phase patients with schizophrenia, chlorpromazine-equivalent dose, biperiden-equivalent dose
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