臨床精神薬理
Volume 22, Issue 9, 2019
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【展望】
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精神疾患患者の身体的健康と向精神薬の副作用について
22巻9号(2019);View Description Hide Description様々な向精神薬の登場によって精神疾患の治療は進歩していると言われているが, WHO が 2018 年に“Management of physical health conditions in adults with severe mental disorders”というガイドラインを発表したことからもわかるように,患者の身体的健康管 理が十分に行われていない。身体的健康管理を行う上で向精神薬による身体的副作用の問 題は欠かせないが,副作用の中には心電図異常や悪性症候群,lithium中毒,重症薬疹と いった素早く対応しなければ短期間で患者の生命予後に影響を及ぼすものと,代謝性副作 用のような長期の経過の中で死亡率の増加につながるものがある。これらの副作用発症を 事前に予測することは現時点で困難であるため,向精神薬を使用する場合は,副作用の早 期発見,早期対応のために,定期的な副作用モニタリングが不可欠であるが,実臨床で は,この定期的なモニタリングが行われていない。本稿では,精神疾患を有する患者の身 体的健康管理の重要性と実際の方法についてまとめる。 臨床精神薬理 22:863-870, 2019 Key words :: psychotropic drug, adverse drug reactions, mortality rate, monitoring, physical health
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【特集】 精神科診療で必須の向精神薬副作用の診断と対応
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QT延長
22巻9号(2019);View Description Hide DescriptionQT延長は,Torsades de Pointes(TdP)のような致死的心室性不整脈の素因とな りうる。向精神薬には,QT延長やTdPと関連しているものが少なくないが,QT延長を 起こしうる向精神薬のリストは,CredibleMedsのウェブサイト(https://crediblemeds. org)等で随時更新されているため,本稿ではQT延長やTdPへの対応に焦点を当てて解 説した。QT間隔の計測からQT延長への対処,TdPを伴う後天性QT延長症候群の診断 からTdP発生時の急性期治療,QT延長やTdPのリスク因子となりうる潜在性の遺伝子 変異キャリアの存在や,徐脈・電解質異常・器質的心疾患などの病態,女性・高齢者など の患者背景,ポリファーマシーの問題を含む薬物相互作用,リスクに基づいたQT間隔モ ニタリングの重要性について言及した。本稿が,向精神薬を処方される際の一助となれば 幸いである。 臨床精神薬理 22:871-876, 2019 Key words :: QT interval, Torsades de Pointes, genome mutation, polypharmacy, drug-induced QT prolongation -
静脈血栓塞栓症──向精神薬と関連して
22巻9号(2019);View Description Hide Description静脈血栓塞栓症は,深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症の総称であり,前者の一部が塞 栓子となって肺動脈を起点に後者を発症する一連の病態である。血流停滞,血管内皮障 害,血液凝固能亢進に関わる危険因子が知られており,多様に関与しながら血栓が形成さ れる。静脈血栓塞栓症の危険因子として抗精神病薬と抗うつ薬が指摘されており,さまざ まな実証が重ねられているが,一致した結果には至っていない。しかしながら,精神科医 療において,一定の割合で静脈血栓塞栓症が出現する以上,その危険性を常に意識し,リ スクに応じた予防法を取り,相応する症状が出現した際には,積極的に静脈血栓塞栓症の 発生を疑い,速やかに診断・治療に当たらなければならない。 臨床精神薬理 22:877-886, 2019 Key words :: venous thromboembolism, pulmonary thromboembolism, deep venous thrombosis, antipsychotics, antidepressant -
抗精神病薬によって誘発される高血糖
22巻9号(2019);View Description Hide Descriptionわが国の添付文書上,重要な基本的な注意または警告として,高血糖出現のリスク が明記されている向精神薬には第二世代抗精神病薬が挙げられる。統合失調症患者におけ る糖尿病の合併リスクが一般人口に比べて約2倍であることが指摘されており,単に抗精 神病薬の影響だけではなく,様々な要因が複合的に関係している可能性がある。統合失調 症患者に突然死が多く,平均余命も短いことの背景には糖脂質代謝障害の合併が示唆され ている。糖尿病予防のためのガイドラインは世界中でこれまで数多く出されているが,そ のモニタリングの項目や頻度は必ずしも一定していない。しかし,継続的なモニタリング はきわめて重要であり,その励行によって糖尿病への進行が抑えられることが確認されて いる。したがって,使用している抗精神病薬の高血糖誘発リスクの高低にかかわらず,定 期的な血糖モニタリングを継続していくことが非常に重要である。 臨床精神薬理 22:887-892, 2019 Key words :: antipsychotic, blood glucose, diabetes, monitoring, schizophrenia -
向精神薬による副作用としての腎機能障害
22巻9号(2019);View Description Hide Description薬剤性腎障害に関する診療ガイドラインが 2016 年に日本腎臓学会から公表された。 発症機序に基づき,①中毒性腎障害および②アレルギーによる急性間質性腎炎,③電解質 異常等を介した間接毒性,④尿路閉塞性腎障害に分類できる。いずれの場合においても, 可能な限り被疑薬を中止することが基本である。向精神薬によるものでは稀であるが悪性 症候群に合併する横紋筋融解症による急性腎障害が重要である。原因不明の発熱,筋強剛 などの症状が認められた場合は検尿と尿沈渣を行い,ミオグロビン尿が疑われたら直ちに 輸液と尿アルカリ化を行い,急性腎障害を予防する。Lithiumによる腎性尿崩症が頻度と しては最多であるが,最近はバゾプレシン分泌過剰症による低ナトリウム血症も多い。脳 神経に作用する薬は肝代謝性が多く,腎不全患者では減量不要とされるが,感受性の亢進 や腎排泄性の代謝物の蓄積がありうるため,腎機能低下例では減量して開始する。 臨床精神薬理 22:893-898, 2019 Key words :: rhabdomyolysis, acute kidney injury, myoglobin, SIADH -
HIV治療,抗がん剤治療中の薬物相互作用による向精神薬の有害事象について
22巻9号(2019);View Description Hide Description近年の高齢化社会に伴い,ポリファーマシーが問題となっているが,併用する薬剤 が増えれば増えるほど,薬物相互作用により有害事象の出現頻度も増加する。薬物相互作 用は,血中薬物動態の変化を伴う「薬物動態学的相互作用」と血中薬物動態の変化を伴わ ない「薬力学的相互作用」があり,それぞれ注意が必要である。第二世代抗精神病薬の多 くはCYPやP糖タンパク質の基質であり,その阻害薬や誘導薬との併用で影響を受けや すく,抗うつ薬や抗てんかん薬はCYPやP糖タンパク質を阻害する作用を有するものが 多く,併用する薬剤に影響を与えやすい。また,ベンゾジアゼピン系薬の多くはCYPで 代謝される薬剤が多い。一方,抗がん剤および抗HIV薬は,近年目覚ましい進歩を遂げ ており,次々に新薬が開発され効果もあがっており,向精神薬との併用も増えている。併 用による有害事象を防ぐためには,それぞれの薬剤の薬物動態学的特徴を理解した上で, 処方を検討することが重要である。 臨床精神薬理 22:899-906, 2019 Key words :: drug interaction, adverse event, cytochrome P-450, CYP inhibitory action, CYP induction action -
向精神薬の妊娠期曝露による胎児への影響
22巻9号(2019);View Description Hide Description妊娠中の向精神薬曝露による胎児への影響が懸念されている。具体的には形態的催 奇形性,胎児の発育不全,産科合併症,新生児への影響,機能的催奇形性などさまざまな 影響が報告されている。本稿では,とくに注目されているバルプロ酸やlithium carbonate,SSRIなどの抗うつ薬のほか,抗精神病薬についてこれまでに集積されている知見に ついて概説する。これらのリスクについては,ほぼ確定しているレベルから今後も知見の 蓄積を重ね検討を要するレベルまである。前者ではバルプロ酸による形態的,機能的催奇 形性が,後者ではlithiumによる形態的催奇形性,SSRIや抗精神病薬による機能的催奇形 性などが挙げられる。今後,周産期メンタルヘルスの領域で薬剤のリスクとベネフィット を勘案したガイドラインの作成により,国内の多職種における共通した適切な理解が望ま れる。 臨床精神薬理 22:907-916, 2019 Key words :: valproic acid, lithium carbonate, selective serotonin-reuptake inhibitor, morphological teratogenicity, functional teratogenicity -
向精神薬・抗てんかん薬による重症薬疹
22巻9号(2019);View Description Hide Description薬疹は体内に摂取された薬剤,あるいはその代謝産物によって,皮膚や粘膜に発疹 をきたした疾患である。重症型薬疹であるStevens-Johnson症候群(SJS),中毒性表皮壊 死症(TEN) ,薬剤性過敏症症候群(DIHS)では急激に皮疹が拡大し,重篤な後遺症を残 したり,生命にもかかわることもあるため,早期に診断し治療を開始することが重要であ る。向精神薬による重症薬疹の発症頻度は比較的高い。そのため,薬剤服用中に皮疹を認 めた場合に, 薬疹を疑うことは早期診断につながる。ステロイド全身療法(パルス療法), 免疫グロブリン大量療法,血漿交換療法などの治療を早期に行うことが重要である。 臨床精神薬理 22:917-923, 2019 Key words :: severe drug eruption, psychotropic drugs, SJS, TEN, DIHS -
神経遮断薬悪性症候群の診断と対応
22巻9号(2019);View Description Hide Description悪性症候群(神経遮断薬悪性症候群,neuroleptic malignant syndrome : NMS)は, 主に向精神薬服薬下で起こる,発熱,意識障害,錐体外路症状,自律神経症状を主徴とし た副作用である。臨床症状や重症度は多彩で,第二世代抗精神病薬が処方の中心となって いる近年では,その発症頻度は減少し,軽症例が多いと報告されている。しかし,NMS は時に死に至ることもある重篤な副作用であり,向精神薬を投与中に発熱や自律神経症状 を認めた場合には,常にNMS発症の可能性を考慮して対応する必要がある。治療の基本 は早期発見,原因薬剤の中止,輸液管理や体温冷却などの保存的治療であり,あわせて合 併症治療を含めた全身管理が必須である。薬物療法ではdantrolene sodium hydrateが症 状緩和に効果的である。 臨床精神薬理 22:925-931, 2019 Key words :: neuroleptic malignant syndrome, adverse drug reaction, antipsychotic drug -
遅発性ジスキネジアの治療に関する歴史的変遷と最近の話題
22巻9号(2019);View Description Hide Description抗精神病薬の長期投与後に発症する遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia, 以下 TD)は,難治性の異常不随意運動であることから,精神科の日常臨床においてはその治 療アプローチがしばしば話題となっている。その治療介入としては,①薬物療法の見直し を検討する(a. 原因となっている抗精神病薬の減量・中止を試みる。b. 精神症状の再発・ 悪化がみられたら,まだ使用していない錐体外路症状が少ない第二世代抗精神病薬やclozapineへの切り替えを行う) 。それでも改善しない場合には,② TDに有効性が示されて いる薬剤の追加投与等が選択肢として挙げられる。それらの薬剤としては,いずれもわが 国では治療適応がないものの,ビタミンE,clonazepamなどのベンゾジアゼピン系薬剤, valbenazineやtetrabenazineなどの小胞モノアミントランスポーター2型(VMAT2)阻 害薬,イチョウ葉(ginkgo biloba)などが多くのガイドラインで紹介されている。TDの 治療にあたっては,患者に対して,それぞれの治療アプローチの長所と短所を十分に説明 した上で,患者との共有意思決定(shared decision making)を尊重して治療をすすめる ことが望まれる。 臨床精神薬理 22:933-944, 2019 Key words :: tardive dyskinesia, treatment, drug-induced extrapyramidal symptoms, dystonia, antipsychotics
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症例報告
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巨大結腸症を有する統合失調症患者2例に対するbrexpiprazoleの使用経験
22巻9号(2019);View Description Hide Description精神科臨床において使用される向精神薬には抗コリン作用を持つものがあるが,抗 コリン作用によって消化管運動が抑制され,結果的に巨大結腸症を発症した報告が散見さ れる。今回,巨大結腸症を呈した高齢の統合失調症患者2例に対して,brexpiprazoleを 投与し,その後は巨大結腸症の増悪を呈することなく経過したので報告する。抗コリン作 用による副作用を回避しながらの治療を考慮した場合に選択できる非定型抗精神病薬とし ては,aripiprazole,asenapine,paliperidone,risperidoneなども挙げられるが,brexpiprazoleはその選択肢の1つとなる可能性が示唆された。また本症例のような高齢の患者に 対しては,その受容体結合親和性からしてもbrexpiprazoleが他剤と比較しても優位性を 有するものと考えられた。 臨床精神薬理 22:945-950, 2019 Key words :: anticholinergic effect, atypical antipsychotics, idiopathic megacolon, psychotropic drugs, serotonin-dopamine activity modulator
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