Volume 22,
Issue 10,
2019
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【展望】
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臨床精神薬理 22巻10号, 959-965 (2019);
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精神刺激薬はドーパミントランスポーターに結合して再取り込みを阻害し,シナプ ス間隙に放出されたドーパミンの濃度を増加させることにより極めて強い快情動を起こ し,強い報酬効果を有する。精神刺激薬によるドーパミン神経伝達の反復的刺激は,報酬 回路におけるシナプス伝達に関わる神経可塑的変化を引き起こし,薬物過量摂取期,薬物 退薬期,渇望期の3段階を繰り返すことにより,依存形成が強化される。精神刺激薬の中 でcocaine,methylphenidateは細胞膜ドーパミントランスポーターによるドーパミンの再 取り込みを阻害する薬理作用を有するが,amphetamineは再取り込み阻害作用に加えて, 薬物が取り込まれる際にドーパミンを放出するとともに,シナプス小胞内のドーパミンの 細胞質内への放出を促進する複雑な作用機序を示す。精神刺激薬の薬理学的実験から,精 神刺激薬の乱用・依存リスクはおおむねドーパミン神経伝達への活性化の薬理学的特性に 比例することが明らかとなった。 臨床精神薬理 22:959-965, 2019 Key words :: amphetamine, methylphenidate, reward system, dopamine transporter (DAT) , attention deficit/hyperactivity disorder (ADHD)
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【特集】 精神刺激薬と依存・乱用
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臨床精神薬理 22巻10号, 967-974 (2019);
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Lisdexamfetamineの登場によりわが国の神経刺激薬を用いたADHD治療はより注 目を集めることになるだろう。しかしながら,臨床医たちはその有効性だけでなく,依存 性を含めた知識を十分に備え,その治療戦略を患者とその家族とともに練っていかなくて はならない。本稿では早期からADHDに対して神経刺激薬による継続的な治療を開始す ることが,ADHDの予後の改善だけでなく,その依存性の問題や物質使用障害の併発を 防いでいくことをいくつかの先行研究とともに論じた。特に非神経刺激薬の使用と比較し ても,そのリスクを下げる可能性があると考えられている。臨床的には,ADHD症状に 対してより強い効果を示している神経刺激薬に関してはその症状の軽減に加え,低い自尊 感情とともに併発しやすい反抗挑発症,素行症や成人期の物質使用問題へと展開していく ことを防ぐことにつながると言えるだろう。特に神経刺激薬の思春期年代になってからの 短期の使用は,その依存性の問題から避けるべきである。神経刺激薬を用いた注意欠如・ 多動性障害への診療はより早期からの介入と,継続した治療が肝要である。 臨床精神薬理 22:967-974, 2019 Key words :: stimulants, ADHD, pharmacotherapy, substance use, addiction
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臨床精神薬理 22巻10号, 975-981 (2019);
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成人の注意欠如・多動症(ADHD)には多くの併存症が知られており,その中の重 要な疾患として依存症があるが,一方で子ども時代のADHDに反抗挑発症や素行症を併 存していると,成人になってから依存症を併存しやすいことも知られている。さらに子ど も時代にADHD症状が強いにもかかわらず,配慮や支援を受けていない場合は,思春期 以降自尊感情の低下など二次障害が強く出ることが懸念されている。そのようなケースで は非行などの問題を経て依存症に至る場合もあり,心理社会的要因も重要なリスクファク ターになる可能性はあるが,エビデンスは乏しいのが現状である。本稿ではADHDの併 存症という視点,ライフサイクルという視点,心理社会的要因という視点から依存症リス クを高めるファクターについて,臨床事例も含め紹介したい。 臨床精神薬理 22:975-981, 2019 Key words :: attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD), comorbidity, dependence, psycho -social factors
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臨床精神薬理 22巻10号, 983-991 (2019);
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注意欠陥多動性障害(Attention-deficit⊘hyperactivity disorder:AD⊘HD)の治療に おいては,ドパミン神経機能を賦活化させる中枢刺激薬が主に用いられてきた。ただし, 中枢刺激薬は報酬系をも刺激するため,AD⊘HDに対する優れた効果と依存・乱用の問題 は不可分の関係にある。しかし,依存性については血中濃度の急上昇が多幸感の獲得と関 連があることから,methylphenidateはOROS® 錠という徐放性製剤を利用して依存性を 低減させた。また,lisdexamfetamineは,それ自体は薬理活性を持たず,血中で徐々に代 謝されて薬理活性を示すプロドラッグという仕組みで依存性軽減の取り組みがなされた薬 剤である。それらによって依存や乱用の懸念が完全になくなったわけではないが,そもそ も物質使用障害のハイリスク群であるAD⊘HD患者は中枢刺激薬で適切に治療を行うこと で物質使用障害の発症を抑制できるというエビデンスがある。正しい診断に基づく処方が 依存や乱用防止の鍵になると思われる。 臨床精神薬理 22:983-991, 2019 Key words :: attention-deficit/hyperactivity disorder, methylphenidate, OROS, lisdexamfetamine, drug abuse
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臨床精神薬理 22巻10号, 993-1000 (2019);
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Lisdexamfetamine(LDX)は,d- アンフェタミンのプロドラッグであり,その活性 本体であるd- アンフェタミンは中枢神経刺激作用を有することから,日本では覚せい剤 原料に,米国ではScheduleⅡの規制薬物に指定されている。LDXは,経口投与後,消化 管から吸収され,血中で加水分解されて薬理活性を示すことから,d- アンフェタミンの 急激な血中濃度上昇を抑制すると共に,血中濃度を持続的に維持することを可能としてい る。LDXは,小児AD/HD患者を対象とした臨床試験においては,薬物乱用および依存 に関連する有害事象は認められておらず,さらに,海外における臨床使用実績を有してい るものの,使用実態下における本剤の長期間使用時の依存性形成の可能性について留意す る必要がある。よって本剤の依存,乱用のリスクを低減するためにも,厳格な流通管理体 制を通じた適正使用の更なる遂行が必要である。 臨床精神薬理 22:993-1000, 2019 Key words :: lisdexamfetamine, d-amphetamine, AD/HD, dependence, abuse
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臨床精神薬理 22巻10号, 1001-1005 (2019);
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麻薬および向精神薬については,本邦のみならず世界中において厳密な流通規制が 行われている現実を直視することは重要である。現代に至るまでの歴史的経緯を理解し, 今まで過剰な診断や不適切な処方などが決して少なくなく行われていた事実を知った上 で,適切な治療を行うためにも向精神薬の適応疾患に留意することが望まれる。特に ADHD治療薬として適応承認された中枢神経刺激薬であるmethylphenidate徐放錠および amphetamineプロドラッグ(lisdexamfetamine),さらには自閉スペクトラム症の易刺激 性が適応承認となったrisperidoneとaripiprazole,また小児期の不安障害に適応承認され たSSRIなど,従来小児適応薬剤がほとんどなかった本邦において,適応薬剤となったか らこそ適切な流通管理が求められている。 臨床精神薬理 22:1001-1005, 2019 Key words :: distribution regulation, psychotropic drug, ADHD, ASD
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臨床精神薬理 22巻10号, 1007-1014 (2019);
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注意欠如・多動症に適応を有する薬剤(以下ADHD治療薬)の乱用・依存は短時 間作用型の中枢神経刺激薬で多く,長時間作用型の中枢神経刺激薬や非中枢神経刺激薬の 報告は極めて少ないが,他の薬剤に対する乱用・依存に対応した経験から,ADHD治療 薬における薬物乱用・依存の早期発見と対応方法についてのポイントを述べた。ADHD 治療薬の薬物乱用・依存の対応には2段階あり,第1段階の乱用・依存への対応としては ストレスコーピングの高度化,発達特性に基づく環境調整,薬物調整である。第1段階が 無効の場合は本人に対しては集団療法の導入や自助グループの紹介を検討し,家族に対し てはコミュニティ強化アプローチと家族トレーニング(CRAFT)の導入を検討する。米 国においては過食症に対するlisdexamfetamineの使用が認可されているため,今後,や せ薬として乱用される危険性があることにも一定の注意が必要である。 臨床精神薬理 22:1007-1014, 2019 Key words :: attention deficit hyperactivity disorder (ADHD), misuse, abuse, dependency, early detection
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臨床精神薬理 22巻10号, 1015-1021 (2019);
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米国精神医学会の診断基準であるDSM-5,世界保健機関の診断基準であるICD11では,ゲーム障害など嗜癖概念を源流とする精神障害が新たに追加された。インター ネット問題使用やゲーム障害は学業成績の低下,家族間の葛藤を引き起こしやすく,注意 集中困難,抑うつ,不安などのさまざまな精神症状と相関しており,行動嗜癖と総称され る。注意欠如・多動症を伴う児童や青年は,これらの障害のハイリスク群である。行動嗜 癖の治療としては,抑うつ障害や社交不安症などの併存症が治療され,認知行動療法が行 われる。中枢刺激薬がインターネット問題使用やゲーム障害を悪化させたり,インター ネット問題使用やゲーム障害が中枢刺激薬の乱用リスクを高めるというデータはまだな い。しかし,インターネット問題使用やゲーム障害では,睡眠の剥奪によって機能障害が 生じていることが多く,中枢刺激薬の有害事象である睡眠障害は問題になりうる。治療の 早期から認知行動療法を提供することが重要と考えられる。 臨床精神薬理 22:1015-1021, 2019 Key words :: ADHD, gaming disorder, behavioral addiction, psychostimulant, sleep