臨床精神薬理
Volume 22, Issue 11, 2019
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【展望】
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栄養精神医学の現状と展望
22巻11号(2019);View Description Hide Description栄養精神医学は,精神疾患の予防・治療経過,そしてメカニズム解明に対して食 事・栄養の観点から科学的に厳密な方法でアプローチする新しい専門領域である。観察研 究のメタ解析から食事の質がうつ病リスクに関連することが示されている。さらに介入研 究によっても健康的な食事がうつ症状の軽減に効果的であることが示されている。サプリ メントとしてはオメガ3系脂肪酸のエビデンスが豊富であり,うつ病に対する効果が期待 されている。今後は,食事・栄養とうつ病の関連を確認する研究からそれを臨床現場に実 装する研究,統合失調症,双極性障害,不安症との関連を検討する研究,食事・栄養と精 神機能を結ぶメカニズムに迫る研究が求められる。特に腸内細菌の関与を検討したり,プ ロバイオティクスの効果を検討したりする研究が期待される。臨床精神薬理 22:1031-1036, 2019 Key words :: diet, nutrition, psychiatry, prevention, management
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【特集】 栄養精神医学が拓く精神科治療の新たな可能性
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気分障害とω 3系多価不飽和脂肪酸
22巻11号(2019);View Description Hide Description日本の臨床現場でω 3系多価不飽和脂肪酸が使われ始めてからおよそ 30 年が経つ。 当初は脂質異常症や動脈硬化症に対する予防や改善効果をねらったものだが,ここ最近世 界各国より精神疾患分野(特に気分障害)に対する効果をねらった研究報告が増えてき た。メタ解析の結果によると,うつ病に対してω 3系多価不飽和脂肪酸はリスク低減効果 があることが示唆されている。本稿ではこれまでに世界および日本で行われたいくつかの 観察研究や介入研究などを作用機序とともに紹介したいと思う。臨床精神薬理 22:1037-1043, 2019 Key words :: ω3 polyunsaturated fatty acids, depression, epidemiology, clinical trial -
気分障害と腸内環境
22巻11号(2019);View Description Hide Description近年,腸内細菌と脳機能や精神疾患との関連(腸脳相関 Gut-brain interaction)に 関する研究成果が蓄積され,ストレス応答や精神疾患の病因において腸内細菌叢を中心と した腸内環境が重要な役割を果たしていることが明らかにされつつある。うつ病動物モデ ルを用いた検討では,ストレスによって引き起こされた行動異常や脳内変化が腸内環境と 関連し,プロバイオティクスやプレバイオティクスによって改善されることを示唆する結 果が得られている。遺伝子解析技術を活用した大うつ病性障害や双極性障害患者の細菌叢 解析も報告されるようになり,有機酸の産生を行う菌の低下がみられることなどが報告さ れている。筆者らは,大うつ病性障害患者では健常者と比較して,Bifidobacterium やLactobacillusが少ないことを報告した。近年,大うつ病性障害患者を対象としたプロバイオ ティクスの有用性を検討したプラセボ対照二重盲検比較試験も行われ,有用性についても 報告されている。臨床精神薬理 22:1045-1052, 2019 Key words :: gut microbiota, intestinal flora, probiotics, major depressive disorder, bipolar disorder -
妊娠中のうつ症状に対するオメガ系脂肪酸の有効性
22巻11号(2019);View Description Hide Description筆者らは,先行研究から妊娠中のうつ症状に対する有効性が期待されたオメガ3系 脂肪酸を用いて,一定のうつ症状がある妊婦を対象としたランダム化比較試験を行った。 日本2施設と台湾1施設の合計3施設で 108 人の妊婦が研究に参加し,エイコサペンタエ ン酸(EPA)を主成分とするサプリメントを 12 週間投与した。研究の結果,オメガ3系脂 肪酸の有効性は示されなかったが,施設ごとのサブグループ解析では日本の1施設におい てのみ比較的高い効果量が示された。その1施設の研究参加者は血漿中のエストラジオー ル(E2)値が他の2施設の参加者より高く,また介入群において血中のEPAおよびE2 の増加がうつ症状の減少と有意に関連していた。このことから,E2が上昇する妊娠中期 から後期にかけてオメガ3系脂肪酸のサプリメントを服用することで,より大きな抗うつ 効果が期待できる可能性が示唆された。臨床精神薬理 22:1053-1058, 2019 Key words :: depression, pregnancy, omega-3 fatty acids, eicosapentaenoic acid (EPA), estradiol -
不安症と栄養
22巻11号(2019);View Description Hide Description不安症治療の中心は現在,薬物療法と精神療法であるが,薬物療法には副作用の問 題,精神療法には実施できる治療者がいないという問題がある。そのため,不安症に対す る安全かつ普及が容易な方策が求められている。近年,食・栄養が精神疾患の予防・発 症・マネジメントに影響を持つことが示されつつあり,栄養精神医学という学問領域が注 目を集めている。本稿では基礎・臨床研究ともに盛んに研究がなされている,不飽和脂肪 酸と腸内細菌叢に関する研究を中心に紹介する。現時点において,食・栄養だけの介入が 標準的な向精神薬や精神療法にとって代わるほど強力であるというエビデンスはないが, 不安症の有病率の高さを考えると,公衆衛生の観点から食生活,食環境を改善させる意義 は大きい。不安症に対する栄養精神医学の研究が今後盛んに行われ,日本発のエビデンス が出てくることを切に願っている。臨床精神薬理 22:1059-1066, 2019 Key words :: anxiety disorder, PTSD, nutrition, omega 3 fatty acids, microbiota-gut-brain axis -
摂食障害と栄養
22巻11号(2019);View Description Hide Description摂食障害には食行動異常に伴い慢性的な低血糖や脂質異常,電解質異常などの身体 合併症が多くみられ,高い自殺率と合わせると,致死率は精神疾患の中で最も高い。栄養 不良の患者に対して栄養補給を行う際には,再栄養症候群に注意し,厳密な身体管理下で のエネルギー投与を要する。摂食障害の発症には,環境因と遺伝子因などによる多因子疾 患説が考えられているが,いまだ不明な点が多く,生物学的機序を含めた病態の解明が期 待される。本稿では,我々が行った脂肪酸との関連や治療効果とのメタ解析についても報 告した。メタ解析の結果で特記すべきは,摂食障害群では,健常者群と比べて末梢オメガ 3系脂肪酸が高値となり,オメガ6系脂肪酸が低値となった点である。さらに,オメガ3 系脂肪酸による治療的介入についてのメタ解析では,オメガ3系脂肪酸による治療の前後 で体重増加に有意な効果が認められた。臨床精神薬理 22:1067-1072, 2019 Key words :: eating disorder, anorexia nervosa, bulimia nervosa, nutrition, fatty acids
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【特集】 栄養精神医学が拓く精神科治療の新たな可能性
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栄養学から見た発達障害の予防の可能性
22巻11号(2019);View Description Hide Description多くの疫学研究から,妊娠期の感染,ストレス,栄養不足などによる母体免疫活性化が生まれくる子供の発達障害(自閉症スペクトラム障害,統合失調症など)の発症リスクを高めることが報告されている。母体免疫活性化は,酸化的ストレスや炎症に繋がり,多くの発達障害の病因に関与すると考えられる。例えば,妊婦の血液中の炎症性サイトカイン濃度が高いと,生まれた子供の発達障害の発症リスクが高いことが報告されている。以上のことから,抗酸化作用や抗炎症作用を有する安全な化合物は,これらの発達障害の予防薬・治療薬になりうる可能性がある。本稿では,発達障害の発症予防の可能性としてのブロッコリースプラウト等の野菜に含まれているスルフォラファンおよび前駆体グルコラファニンについて考察する。臨床精神薬理22:1073-1077,2019Keywords::autismspectrumdisorder,glucoraphanin,maternalimmuneactivation,schizophrenia,sulforaphane
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【特集】 栄養精神医学が拓く精神科治療の新たな可能性
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職域領域における食習慣と抑うつの関連について
22巻11号(2019);View Description Hide Description職域領域においては感情労働を中心とした様々な心理社会的ストレスがかかる。職 域領域における精神障害のうちもっとも頻度の高いものは抑うつ障害である。近年食習慣 と抑うつ障害,抑うつに関する様々な知見が報告されるようになってきている。ある特定 の食品や特定の栄養素,さらには日本食など伝統的な食習慣,健康的な食習慣が働く世代 において抑うつを予防する可能性が示唆されている。一方で,抑うつおよび食習慣は共に 多面的な様々な心理社会的な要因が関連し合っている。今後はこのような複雑さを考慮し た上での研究が必要であり,メンタルヘルスを改善するための有効な介入プログラムを 作っていくことが必要である。食習慣を改善することは,生活習慣病を予防することのみ ならず,職域領域メンタルヘルスの改善のために重要な役割を担う可能性がある。 臨床精神薬理 22:1079-1085, 2019 Key words :: nutrition, dietary pattern, depression, working place -
自殺と栄養
22巻11号(2019);View Description Hide Description多価不飽和脂肪酸,コレステロール,微量なlithiumと自殺関連行動の関連を文献 的に検討した。その結果,必ずしも意見は一致しないが,多価不飽和脂肪酸ではEPAが 自殺関連行動を予防する可能性があり,コレステロール低値が自殺関連行動を惹起する危 険性があり,微量なlithiumが自殺関連行動を予防する可能性があることが示唆された。 EPAや微量なlithiumの抗自殺効果を検証するには,RCTにより自殺関連行動がプラセボ と比較して有意に予防できることを確かめる必要がある。ただし,自殺自体がまれな事象 であること,自殺予防自体を目的にプラセボ対照のRCTを行うには倫理的な問題が大き いことから,自殺予防を直接的な目的としてRCTを行うことは現実的には難しいかもし れない。コレステロールの低下自体を検討するために行われたプラセボ対照のRCTの中 で副次的に自殺の発生率を検討したものを2次的に利用したように,方法論的に何らかの 工夫が必要であろう。いずれにしても,食生活や飲水から自殺対策を考えることは,今後 ますますその重要性を増すであろう。 臨床精神薬理 22:1087-1094, 2019 Key words :: EPA, DHA, lithium, nutrition, suicide -
食習慣による衝動性への影響
22巻11号(2019);View Description Hide Description栄養疫学を精神医学に応用する精神栄養学は,うつ病,睡眠障害,認知症などで研 究が展開されてきた。食行動と衝動性の関連を検討した研究としては注意欠如・多動性障 害を対象とした研究があり,システマティックレビュー,メタ解析が報告されている。不 健康な食習慣は注意欠如・多動性障害の発症リスクを向上させ,健康的な食習慣は発症予 防に寄与することが示されている。筆者らが行った健常者を対象とした研究では,米類の 摂取が少なく,肉類摂取が多い食行動パターンを有する集団は衝動性が高いことが示され た。また米食の摂取は大豆食品(味噌,豆腐,納豆)を介して衝動性を低下させることが 示された。伝統的な日本食パターンは心理状態を安定させることが示唆された。このよう に精神栄養学研究の発展により,従来の心因,環境因とは別に,食行動が精神疾患の発 症,症状の変化(悪化,改善)に影響する新しい因子として位置づけられつつあるといえ る。 臨床精神薬理 22:1095-1099, 2019 Key words :: attention-deficit hyperactivity disorder, impulsivity, dietary habit
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【シリーズ】
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【原著論文】
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治療抵抗性統合失調症患者を対象としたclozapineの製造販売後調査結果(最終報告)
22巻11号(2019);View Description Hide DescriptionClozapineは治療抵抗性統合失調症に対して有効性を示すが,無顆粒球症など重篤 な副作用が発現することが知られている。国内においては 2009 年に承認され,その条件 として入院での治療開始,定期的な血液モニタリングなどの安全対策が講じられた。この ような環境下で発売後に全例を対象として,販売開始日(2009 年7月 29 日)から 2015 年 12 月 31 日まで2年の観察期間にて製造販売後調査を実施した。新規投与開始症例 1,860 例 のうち 1,600 例(86.0%)に5,458件の副作用が認められ,主な副作用は流涎過多(39.0 %) ,便秘(23.7%) ,傾眠(16.0%)であった。有害事象により投与を中止した患者の割 合は15.1%であった。重点調査事項とそれに該当する副作用の発現率は以下の通りであっ た。 「白血球減少症・好中球減少症,(無顆粒球症を含む)」19.5%,「血糖値上昇・糖尿病 増悪」13.0%, 「心疾患(心筋炎,心筋症を含む)」9.5%,「性腺機能低下症(月経異常, 乳汁漏出症等を含む) 」0.3%, 「自殺関連事象(自殺企図・自殺念慮等)」0.3%,「痙攣発 作」6.5%。副作用として 21 例の無顆粒球症(1.1%)が報告されたが,これは米国におけ る報告の頻度と同程度であった,無顆粒球症による死亡はなく,その転帰は全例で回復も しくは軽快であった。18 例の死亡のうち薬剤との因果関係が否定されていない患者は9 名であった。死亡率は 1,000 人年あたり 5.79 であり,抗精神病薬投与下の各種調査と比較 して高いものではなかった。薬原性錐体外路症状スコア(DIEPSS)の合計スコアは最終 時点において投与開始前よりも低下した。CGI-Cが「有効」 (中等度改善または著明改善) であった割合は57.9%であり,最終時点のBPRS合計スコアの平均値および症状別スコア の平均値とも投与開始前に比べて有意に低下した。服薬コンプライアンスが75%以上で あった患者の割合は最終時点で97.6%と高かった。1,800 名を超える日本人の治療抵抗性 統合失調症患者集団を対象とした本調査で得られたclozapineの安全性,有効性のプロ ファイルは国内での臨床試験,海外での報告と大きく変わるものではなかった。無顆粒球 症は海外の報告と同様な頻度で発現したが,定期的な血液モニタリングにより重篤化が防 げたものと考えられ,厳格な管理の下でclozapineは適切に使用されているものと考えら れた。 臨床精神薬理 22:1107-1139, 2019 Key words :: treatment-resistant schizophrenia, clozapine, Clozaril, post marketing survey
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