臨床精神薬理
Volume 22, Issue 12, 2019
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【展望】
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リアルワールドエビデンスの重要性─展望について
22巻12号(2019);View Description Hide DescriptionEBMとは「強い根拠(エビデンス)」を基に,「臨床家の専門性(熟練,技能な ど) 」と「患者の希望・価値観」を考え合わせて,より良い医療を目指そうとするもので ある。エビデンスレベルの強い無作為化比較試験(RCT)を行うため厳しい選択を設け成 功させることが求められていることは理解できるが,この症例が実臨床の一部しか反映し ていないのは明らかである。この限られた対象群から得られたエビデンスをすべての患者 に当てはめられるのだろうか。そこで,近年リアルワールドデータを活用したリアルワー ルドエビデンスに注目が集まっている。リアルワールドデータには医師の好みなどのバイ アスが入り込みやすい一方,RCT対象群から外れた症例を含む。RCTとリアルワールド データは車の両輪のように相補的関係であることに留意し,これらの情報を臨床に生かし ていく必要がある。 臨床精神薬理 22:1147-1151, 2019 Key words :: real world data, real world evidence, clinical trials, RCT
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【特集】さまざまな背景のある患者にどうする? ─ リアルワールドの薬物療法 ─
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小児期の精神科薬物療法
22巻12号(2019);View Description Hide Description抗精神病薬,抗うつ薬,抗不安薬,睡眠薬,抗けいれん薬,抗てんかん薬等の向精 神薬は,主として成人を対象とした臨床試験でその有効性や安全性に関する情報が集積さ れ,小児の臨床試験に基づいたエビデンスは少ない。そのため精神科疾患に対する使用を 含め,医師の裁量や海外において得られた知見を参照して用いられることが少なくない。 小児症例に対する各薬剤の選択方法,有効性・安全性の評価方法については,薬理学的機 序や特性,各受容体への親和性と薬力学的作用の関連を理解することが有効である。実臨 床では,薬物動態特性を把握した薬剤師と臨床経験が豊富な医師との協働に加え,保護者 への使用理由や安全性に関する十分な説明・コミュニケーションを図っていくことが重要 である。 臨床精神薬理 22:1153-1159, 2019 Key words :: psychotropic medications, children, adolescent, sedation, hypnosis, delirium -
高齢統合失調症患者への薬物療法
22巻12号(2019);View Description Hide Description近年,高齢化に伴い,高齢の統合失調症患者が増えてきている。高齢統合失調症患 者には,ケアに高額な費用がかかること,寿命が短いこと,死亡率が高いことなど,様々 な問題がある。一方で,統合失調症の症状は高齢になるにつれて良くなる傾向にある。ま た,年齢が上がるにつれて薬剤への感受性が上がるため,高齢統合失調症患者への抗精神 病薬の投与量は若年統合失調症患者のものよりも少なくて良いのではないかと考えられて いる。実際,近年行われたいくつかの研究では,抗精神病薬の投与量を減らしたところ, 統合失調症の病態は改善したとの報告がある。そして,ある研究結果から,高齢統合失調 症患者の線条体におけるドパミンD2⊘3 受容体の占拠率の治療域は50 ~ 60%と,若年統合 失調症患者の治療域65 ~ 80%に対して低い値が算出された。これらのことから,高齢統 合失調症患者には低用量の薬物療法が推奨されている。実際に臨床現場において,PET を用いて投与量を治療域内にコントロールするのは非現実的だが,その代わりに人口的薬 物動態学モデルを用いて,抗精神病薬の血中濃度からドパミンD2⊘3 受容体の占拠率を推測 する方法が提唱されている。 臨床精神薬理 22:1161-1165, 2019 Key words :: elderly schizophrenia patients, antipsychotics, dopamine D2/3 receptor -
高齢うつ病患者への薬物療法:薬物動態とリアルワールドにおける介入研究
22巻12号(2019);View Description Hide Description一般的なうつ病の薬物療法のエビデンスでは高齢患者が対象から外されることが多 いが,特に急速な高齢化を迎えている我が国においては,高齢うつ病患者の診療機会は増 え続けており,高齢患者を含めた治療のエビデンスの集積が求められている。限定的なエ ビデンスではあるが,高齢うつ病においても一般成人とほぼ同様に抗うつ薬の有効性と安 全性が示されているが,薬物動態や薬力学の加齢変化に基づく副作用の出現には十分注意 する必要がある。一方,地域在住の高齢うつ病を対象としたリアルワールドの介入研究で は精神療法や薬物療法を組み合わせたうつ病のケアマネージメントの有効性が示されてい る。 臨床精神薬理 22:1167-1173, 2019 Key words :: depression, late-life, elderly, treatment, pharmacological -
肝疾患・心疾患の精神科薬物療法
22巻12号(2019);View Description Hide Description向精神薬の多くは肝臓にて代謝を受け,排泄されるため,肝疾患がある場合,代謝 活性低下に伴い,薬剤の血中濃度が上昇し,副作用発現のリスクが高まる。さらに,心疾 患時においても,心拍出量の低下に伴い,薬剤のクリアランスが低下することが報告され ている。しかしながら,臨床現場においては肝疾患ならびに心疾患があっても,向精神薬 の投与を必要とする場合は多く存在する。さらに,向精神薬の多くは薬物代謝酵素や薬物 輸送トランスポータの基質または阻害剤となり,考慮しなければならない薬物相互作用も 多い。そこで本稿では肝疾患・心疾患時の精神科薬物療法について各薬剤の特性をまと め,薬物動態の観点から違いを理解し,臨床にて留意すべきポイントを中心に述べる。 臨床精神薬理 22:1175-1183, 2019 Key words :: liver disease, heart disease, cytochrome P450, P-glycoprotein, blood-brain barrier -
腎疾患・透析患者の薬物動態と精神科薬物療法
22巻12号(2019);View Description Hide Description腎疾患は薬物動態に大きく影響する。具体的には,腎排泄能の低下により,投与さ れた薬物(未変化体)やその代謝物の排泄が遅延するだけでなく,タンパク結合率,腸肝 循環,薬物代謝酵素・トランスポーターの活性など,種々の薬物動態因子が変動する。そ のため,腎排泄型薬物の減量はもちろんのこと,肝代謝型薬物をはじめとした腎外クリア ランスの大きい薬物についても注意が必要である。また,透析を始めとした血液浄化療法 においては,薬物の物性や,血液浄化療法の種類・条件により,薬物の除去に差異が生じ る。一方,精神科で使用される薬物はその多くが肝代謝型であるものの,一部の薬物は特 殊な薬物動態を示し,腎不全時に減量を必要とする。そのため,特に腎不全患者に対する 精神科薬物療法では,病態・薬物・腎排泄機能を総合的に評価・判断することが重要であ る。 臨床精神薬理 22:1185-1193, 2019 Key words :: kidney, pharmacokinetics, renal failure, renal replacement therapy, psychiatric pharmacotherapy -
周術期における向精神薬管理
22巻12号(2019);View Description Hide Description術前において特にbenzodiazepine系薬剤をはじめとした向精神薬を服用している 患者は非常によく遭遇する。その割に,これら向精神薬を休薬すべきか,その運用につい て示した文献は意外に少ない。これは,患者の精神状態や手術,麻酔手技がそれぞれに異 なるために,質の高い研究を行うことが困難なことに由来する。しかしながら,向精神薬 は周術期に用いる薬剤との併用により,患者に対して中枢神経や循環器系などに無視し得 ない影響をもたらすことが過去の報告から明らかとなっている。三環系抗うつ薬が心伝導 系など血行動態を変化させたり,抗精神病薬が錐体外路症状を惹起させることは知られて いるところではあるが,昨今,perioperative serotonin syndromeや選択的セロトニン再取 り込み阻害薬による術中,術後の出血リスクの増大など,周術期特有の向精神薬の有害事 象が新たに指摘されている。本総説では周術期における向精神薬使用に関連する過去の症 例報告や研究から,個々の向精神薬が周術期に与える影響,周術期に用いる薬剤との相互 作用について述べ,具体的な向精神薬の管理について説明する。 臨床精神薬理 22:1195-1203, 2019 Key words :: psychotropic drug, perioperative period, anesthesia, drug interaction -
妊娠授乳期の精神科薬物療法
22巻12号(2019);View Description Hide Description妊娠授乳期の向精神薬治療においては,母体および胎児/乳児のリスクベネフィッ トを十分考慮する必要がある。薬剤の胎児への影響を慎重に考慮する必要がある反面,十 分な薬物療法を行わないことにより生じ得る精神症状の悪化は,妊娠期のセルフケア低 下,睡眠障害や不適切な栄養による母体環境の悪化,産科的合併症,胎児の発育不全を引 き起こす可能性がある。精神疾患の重症度,各精神疾患の治療における薬物療法の位置付 け,各代替療法のリスクベネフィット,過去の病歴や治療反応性を考慮して薬物療法を行 うか否か,行う場合はどの薬剤を選択するか慎重に判断する必要がある。妊産婦とのリス クコミュニケーションの際,向精神薬の胎児や母乳への影響,服薬しないデメリットにつ いて,丁寧に情報提供し,妊産婦と家族が希望する治療選択ができるよう援助することが 重要である。また,妊娠授乳期には産科・小児科医と使用薬物や治療方針の共有を行うこ とが望ましい。 臨床精神薬理 22:1205-1212, 2019 Key words :: pharmacotherapy, perinatal period, pregnancy, breastfeeding, shared-decision making -
肥満者に対する精神科薬物治療
22巻12号(2019);View Description Hide Description一般的に小児科や麻酔科の薬は体重当たりで用量が決まっているが,精神科薬の投 与量は体重を基準としない。したがって,極度の肥満者に同一用量を投与すると血中濃度 が低下するため用量が足りないと考えられる。その理由として,超肥満者は脂肪量と体循 環量の多さゆえ正常体重者に比べ分布用量がかなり大きいことが想定されるからである。 しかし,これまでのrisperidoneやvenlafaxineの研究では肥満者(BMI 30以上)であっ ても薬物濃度が低くはならない。代謝物はrisperidoneでは肥満者の方が高く,venlafaxineでは肥満者の方が低く,一致しない結果であった。また,薬力学的な検討ではドパミ ンD2⊘3機能は肥満者では低下するという報告やむしろ高くなるという報告があり,まだ 一定の見解が出ていないのが現状である。限定的なデータではあるが,精神科薬では超肥 満者に対しても用量調整は不要である可能性が高い。 臨床精神薬理 22:1213-1217, 2019 Key words :: obesity, pharmacokinetics, metabolism, drug concentration, disposion
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【シリーズ】
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【原著論文】
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急性増悪期統合失調症患者におけるblonanserin治療反応の早期予測 ─特定使用成績調査の結果より
22巻12号(2019);View Description Hide Description急性期統合失調症の薬物治療には,速やかな効果発現が期待できることが重要であ る。また,薬剤選択の際には,更なる精神症状安定に向けた治療反応予測を早期に行うこ とができるエビデンスも有用と考えられる。今回,急性増悪期統合失調症患者を対象とし た特定使用成績調査の結果を用い,blonanserin(BNS)の治療反応が予測可能となる時 期を検討した。2週又は4週のBPRS改善率が20%以上であった患者が,その後 12 週で 30%以上,40%以上及び50%以上のBPRS改善率となる予測精度を確認したところ, BNS単剤例及び他の抗精神病薬併用例を併せた集計では,12 週での陰性的中率 ⊘ 特異度は 2週と4週で大きく変わらず,いずれも高い予測精度であった。一方,BNS単剤例のみを 解析対象とした場合,12 週のBPRS改善率30%以上での陰性的中率が2週より4週で 20%以上高く,BNS単剤治療の場合は2週時点の反応が悪くても 12 週での効果が期待で きる患者が一定数存在する可能性が示唆された。よって,抗精神病薬単剤治療を推進する 観点や治療反応の判断に十分なBNS投与量に調整する期間を加味すると,治療効果の判 断には4週間程度必要と推測された。なお,BNSの早期治療反応を期待するためには, 承認用量に従い初回1日投与量8mgとすることが重要であると考えられた。 臨床精神薬理 22:1223-1235, 2019 Key words :: blonanserin, schizophrenia, post-marketing surveillance, response prediction
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