臨床精神薬理

Volume 24, Issue 1, 2021
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【展望】
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精神科におけるリアルワールド・データを活用したリアルワールド・エビデンスの創出:持続可能性のある研究体制構築に向けて
24巻1号(2021);View Description
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本稿では,レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)に焦点化して,精神科におけるリアルワールド・エビデンスを紹介し,リアルワールド・エビデンスが創出されるまでの流れを解説する。民間企業からも NDB を利用できるようになったため,NDB を活用したエビデンスがより多く創出されていくことが期待される。しかし,十全な研究体制を整えることが困難であるからか,これまで NDB を活用した論文は少ししか出ていない。持続可能性のある研究体制を構築するためには,①(業務委託も考慮に入れて)分業できる研究班を作ること,②経験者による指導を受けること,③簡単な研究疑問から始めること,④研究班の全構成員が,当該研究以外の本来業務を行いながら,過度な負担なく研究遂行できるよう整理すること,⑤ 3 年以内の計画で 1 つの研究を論文化できる成功体験を得ること,⑥同じ研究班で長く研究を続けること,が重要になる。 臨床精神薬理 24:3-11, 2021 Key words ::real-world data, routinely collected health data, real-world evidence, National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan
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【特集】 ビッグデータを活用した精神科薬物治療
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精神科における polygenic risk score の臨床応用の可能性
24巻1号(2021);View Description
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近年,全ゲノム関連解析(GWAS)では数千~数十万人という大規模なサンプルと数十万の single nucleotide polymorphisms(SNP)データを用いることにより,多くの疾患の疾患感受性遺伝子の同定に成功している。精神疾患においても GWAS により疾患感受性遺伝子の同定がなされており,特に統合失調症,双極性障害,うつ病において大きな成功を収めている。さらに,GAWS から得られたデータに基づいて算出される polygenic risk score(PRS)が,疾患の発症予測や薬剤の選択に役立つ可能性が示されている。本稿では PRS が精神疾患の診断や薬物療法などの治療の選択に寄与するのかについて検討し,その課題と展望について述べる。 臨床精神薬理 24:13-20, 2021 Key words ::GWAS, SNP, PRS, biomarker -
人工知能技術を用いた最適な薬物選択に関する選択的レビュー
24巻1号(2021);View Description
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抗精神病薬や抗うつ薬など,精神科薬物治療における選択肢は年々増えてきている。しかし,精神科領域においては,各疾患の発症メカニズムが完全にわかっていないこともあり,目の前の患者にとってどの薬剤が最も有効であるかを予測するのが難しいという問題がある。そのため,精神科薬物治療における治療効果予測は長年の研究テーマとなっている。近年では,膨大なデータからその特徴量を抽出する解析技術である機械学習を用いた研究も数多く報告されるようになってきており,脳画像や脳波などの検査結果や,遺伝子多型を分析したデータなどと組み合わせることにより,薬剤の治療効果や副作用の予測を行う試みがなされている。このような研究がさらに発展していくことで,個別の症例に合わせた薬剤選択が可能となることが期待されている。本稿では,機械学習を用いた新しい試みについて紹介する。 臨床精神薬理 24:21-26, 2021 Key words ::machine learning, artificial intelligence (AI), treatment response, side effect, precision medicine -
NDB オープンデータを用いた向精神薬の処方分析
24巻1号(2021);View Description
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レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)は,厚生労働省により構築・運用され,研究者などに対するデータ提供を含めた利活用の実績を有している。本稿では,NDB を精神医学研究に活用するために,レセプトデータの特徴を知り,第三者提供の制度や2020年における改正点などを紹介するとともに,精神医学領域での代表的な先行研究について見ていく。さらに,近年公開された NDB オープンデータに関して,データ活用における注意点を含めて紹介した後,オープンデータを活用した分析について,向精神薬の処方データを用いた具体例を提示してその利用可能性を示す。今後,レセプトデータを用いた精神医学研究がさらに発展することが期待される。 臨床精神薬理 24:27-41, 2021 Key words ::National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan (NDB), NDB Open Data Japan, psychotropic drug, prescriptive analysis -
電子カルテ分析ソリューションを用いた精神科薬物治療
24巻1号(2021);View Description
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"精神科は一般科のように血液データや画像データを用いて客観的に治療を評価することが容易ではなく,多数存在する治療アプローチの中から最適な方法を特定し標準化していくことは簡単なことではない。有益な情報が蓄積された電子カルテを分析し最適な治療アプローチを効率よく見つけることが期待されるが,精神科の電子カルテは,約 90%が自然言語で記載された構造化されていない文字情報を含むため簡単には分析できない。MENTAT® は自然言語で記載された精神科の電子カルテ情報を分析し日々の業務に有効活用できるようにわかりやすく""見える化""した精神科電子カルテ分析ソリューションである。電子カルテに蓄積された大量の治療アウトカムから薬物治療選択の参考になる情報が画面に表示される。異なる医療機関に点在する医療情報を統合しビッグデータ解析すれば精神科薬物治療の標準化につながる可能性もあり,将来起こりうる患者のさまざまな問題解決に期待できる。 臨床精神薬理 24:43-52, 2021 Key words ::electronic medical records, psychiatric medication, standardization, big data analysis, integrated clinical data base" -
システマティックレビューとメタアナリシスを用いた精神科薬物治療
24巻1号(2021);View Description
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現代の医療現場では,医師は科学的根拠に基づいた医療(evidence-based medicine:EBM)を実践することが求められている。特に精神科医療において,科学的根拠に基づいた精神科医療(evidence-based mental health:EBMH)が注目されており,個々の患者の病状や合併症,患者の価値観や社会的要因も取り入れ,患者と共に診療方針を決定することが求められている(shared decision making:SDM)。本稿では,最もエビデンスレベルが高い研究手法であるシステマティックレビューとメタアナリシスの意義や研究手順について述べ,具体的に2019年に Hahn らが報告したネットワークメタアナリシスの論文を用いて,連続変数および二値変数のアウトカムの見方を解説する。また,効果量や異質性などのメタアナリシスの結果を理解する上で必要な専門用語や,近年報告数が増えてきているアンブレラレビューについて解説する。 臨床精神薬理 24:53-61, 2021 Key words ::systematic review, meta-analysis, umbrella review, evidence-based medicine, evidence-based mental health -
副作用自発報告データベースを用いた精神科薬物治療
24巻1号(2021);View Description
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医薬品の安全性管理のためには,承認前の試験だけでは不十分で,上市後も安全情報を収集することが必要である。副作用自発報告はその主なソースで,特に,まれな副作用や重篤な副作用の検出に有用である。自発報告のデータベースが我が国においてもJADER(Japanese Adverse Drug Event Report database)として公表されている。このデータを利用して,比例報告比や報告オッズ比等を算出することで副作用のシグナル検出が可能である。また,時間情報のデータを用いて,時間経過に伴う副作用の発現パターンを評価することができる。しかし,これらのデータは,報告バイアスや薬剤の投与人数という分母情報が欠損しているという問題を有していることに注意が必要である。近年,JADER を用いた研究報告が増えており,日常診療にも利用可能なものであるため,その長所・短所を理解した上で幅広く利用し,より安全に薬物治療が行えるようになることが期待される。 臨床精神薬理 24:63-69, 2021 Key words ::spontaneous report of adverse events, JADER (Japanese Adverse Drug Event Report database), signal detection, Time-to-Event analysis
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【シリーズ】
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臨床に役立つ基礎薬理学の用語解説 第 15 回 REST(repressor element 1 - silensing transcription factor)
24巻1号(2021);View Description
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【原著論文】
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Aripiprazole LAI 継続症例における患者主観的満足度評価 ——神奈川県多施設共同研究
24巻1号(2021);View Description
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統合失調症の寛解の予測因子は精神症状の変化以上に,患者主観的評価の変化が重要といわれている。2015年 5 月から,神奈川県下にある精神科病院 7 施設に通院,入院中である統合失調症患者において,aripiprazole 持効性水懸筋注用薬剤(AOM:aripiprazole one-monthly)が開始され, 3 ヵ月以上継続している79例を対象に,その忍容性,患者満足度評価を調査した。調査項目は AOM 使用血中濃度が安定する 3 ヵ月後以降に,患者主観的評価として,持効性注射剤(LAI:long-acting injection)の満足度を独自に考案した AOM 使用前後の患者満足度アンケート( 8 項目,800点満点),薬剤の嗜好調査(POM),注射の痛みの評価(VAS)を,また客観的評価として AOM 使用前後のCGI-Iを実施した。患者満足度アンケートの総点は430.6から574.8に上昇しており,項目すべてにおいて上昇していた。医師の主観的評価と患者の主観的評価において相関関係はほとんど無かった。POM においては「少し良い」以上の評価が 73.7%であった。痛みの程度はVAS において 30.86mm であった。AOM の継続投与されている「患者の声」が,忍容性評価として今後の LAI 導入の際に貢献するものと想定された。 臨床精神薬理 24:73-83, 2021 Key words ::aripiprazole, long-acting injection, patient satisfaction, questionnaire survey, schizophrenia -
治療抵抗性統合失調症患者を対象とした clozapine の製造販売後調査結果 ——患者背景によるサブグループ解析
24巻1号(2021);View Description
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Clozapine(以下本剤)は治療抵抗性統合失調症に対して有効性を示すが,無顆粒球症など重篤な副作用が発現することが知られている。2009年の本邦での発売後,全例を対象として 2 年の観察期間にて製造販売後調査を実施した。本論文においては本剤投与により血球減少を含めた副作用の発現が懸念される患者要因や有効性に違いがあるような患者要因があるかを調べる目的で,新規投与開始症例(1,860例)における患者背景による安全性,有効性についてサブグループ解析を実施した。副作用および白血球減少症,好中球減少症の発現状況を患者背景要因(性別,年齢,使用理由,投与開始前重症度,罹病期間,等の18の患者要因)別に調べたところ,前治療薬(quetiapine,olanzapine)が有る場合,罹病期間が10年を超える場合に白血球減少症,好中球減少症の発現率が高いこと,などが示された。患者背景要因別での CGI-C の有効率に関しては年齢が低いこと,発症・再燃回数が多いこと,喫煙経験,合併症(糖尿病),血糖値および HbA1c が高いことが有効率の高さに関係し,調整解析後においても有意差が認められた。また,他の抗精神病薬を漸減,中止後に本剤の投与を開始した非クロスタイトレーション群と,中止前に投与を開始したクロスタイトレーション群においての副作用発現は同程度であった。クロスタイトレーション有無での CGI-C での有効率については,投与初期において非クロスタイトレーション群でクロスタイトレーション群よりもわずかに高かったが,投与期間とともに同様な推移を示した。今回のサブグループ解析の結果から本剤の副作用発現の懸念となるような患者要因は見られなかったが,血球減少症については発現率が高かった罹病期間の長い患者,前投与薬として quetiapine,olanzapine がある患者においては注意が必要と考える。有効率に関して有意差が認められた患者要因については解釈が難しいものもあり,これを明らかにするためには更なる研究が必要である。 臨床精神薬理 24:85-100, 2021 Key words ::treatment-resistant schizophrenia, clozapine, Clozaril, post marketing survey, sub-group analysis
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