臨床精神薬理

Volume 24, Issue 2, 2021
Volumes & issues:
-
【展望】
-
-
精神科における pharmacogenetics/pharmacogenomics の現状と展望
24巻2号(2021);View Description
Hide Description
プレシジョンメディスンを目指した pharmacogenetics/pharmacogenomics 研究への期待は精神科においてもますます高まっている。知見の蓄積や科学技術の発展とともに,従来の候補遺伝子研究からゲノムワイド関連解析研究,そしてポリジェニックスコアを代表とする集合的アプローチなど,新たなパラダイムシフトが起こっている。本稿では,臨床医の視点から見た pharmacogenetics/pharmacogenomics の現状と展望を,現時点での pharmacogenetics/pharmacogenomics 関連のリソース等を織り交ぜつつ,紹介したい。 臨床精神薬理 24:111-116, 2021 Key words ::pharmacogenetics, pharmacogenomics, GWAS, PRS
-
-
【特集】 Pharmacogeneticsは治療反応・副反応予測にどこまで寄与できるか
-
-
向精神薬の薬物代謝・動態に関する基礎知識
24巻2号(2021);View Description
Hide Description
向精神薬の薬物動態は,薬物の吸収,分布,代謝,排泄からなり,薬物のプロファイルや,患者の個体差により多彩な変化を示す。投与された薬物は消化管から吸収され,体内に分布し,肝臓で代謝されて腎臓から排泄されることで体内から消失する。薬物投与後の血液や組織中の薬物濃度は吸収,分布,代謝,排泄の過程に伴い変化する。また,患者に同じ薬物を同じ用量で,同じ時間に投与しても,臨床効果が得られない患者もいれば,効果が強すぎて副作用を発現する患者もいる。Precision medicine の観点から,向精神薬の薬物療法を行うときには,薬物動態学(pharmacokinetics:PK)理論と,薬力学(pharmacodynamics:PD)理論をもとに,状況に応じた薬物投与法の選択・工夫を行うことが重要である。本稿では,向精神薬の薬物動態を振り返りながら,向精神薬治療における PK/PD 理論を概説する。 臨床精神薬理 24:117-123, 2021 Key words ::pharmacokinetics, pharmacodynamics, pharmacogenetics, precision medicine, cytochromeP450 -
Pharmacogenetics の人種差・性差
24巻2号(2021);View Description
Hide Description
本稿では cytochromeP450(CYP),HLA,セロトニントランスポーター(5-hydroxytryptamine transporter : 5-HTT)に関する人種差・性差について最近の知見を含め概説を行った。特に FDA が 2007 年,carbamazepine の治療前にアジア人に対し遺伝子検査を要求する警告を発したことを踏まえ,人種差は最近の pharmacogenetics(PGx)におけるトピックとなっている。人種的背景が異なる集団間では薬物反応が異なり,その要因として人種差による遺伝子変異の影響が挙げられる。しかしながら,これまで PGx の研究は西洋人を中心に知見が集積されてきており,アジア人や他人種についてはまだまだ実装に至るまでの研究成果は不足していると言わざるを得ない。これまで以上に実装に向けて研究が盛んになることが期待されている。 臨床精神薬理 24:125-133, 2021 Key words ::pharmacogenetics, ethnic difference, gender difference, cytochrome P450, HLA -
統合失調症患者に対する抗精神病薬治療における薬剤性錐体外路症状に関わる pharmacogenetics
24巻2号(2021);View Description
Hide Description
統合失調症治療における抗精神病薬の薬剤性錐体外路症状は個体差が大きく,臨床現場では様々な試行錯誤がくり返されているのが実情である。このような個体差の要因の1 つとして遺伝的背景の影響が考えられており,統合失調症の precision medicine initiative に向けて,副作用発現の予測につながる薬理遺伝学的情報の集積が進んでいる。主な研究手法には候補遺伝子アプローチとゲノムワイドアプローチがあるが,現時点では両手法から 1 因子で忍容性を十分に説明できる遺伝子は同定されているとは言いがたい。本稿ではこのような現状と薬理遺伝学研究の展望および問題点などについて概説していきたい。 臨床精神薬理 24:135-143, 2021 Key words ::schizophrenia, antipsychotic, pharmacogenetics, tardive dyskinesia, extrapyramidal symptoms -
Clozapine 誘発性無顆粒球症の遺伝的因子とその臨床における有用性の検討
24巻2号(2021);View Description
Hide Description
Clozapine は治療抵抗性統合失調症に対して適応がある唯一の薬剤である。しかし,clozapine 誘発性無顆粒球症が 1%程度の頻度で認められるために,使用頻度は低い。より安全に使用できるように副作用に対する薬理遺伝学・ゲノム学的研究はなされ,遺伝的リスクの同定は進んでいるが,感度が低いために,ゲノムバイオマーカーとして無顆粒球症の発症リスクを事前に推定し,完全に防ぐことが難しいこともわかっている。しかし費用対効果分析の視点を用いることで,これらの遺伝的リスクを用いた遺伝子検査が,患者のリスクを事前に見積もり,そして患者を層別化することで,臨床に役立つ可能性も十分有り得ることがわかった。遺伝子検査を用いることで,clozapine の安全性が向上し,患者と精神科医が安心して clozapine を使用できるようになり,治療抵抗性統合失調症患者の症状改善に繋がる。 臨床精神薬理 24:145-149, 2021 Key words ::clozapine, cost effectiveness analysis, clozapine-induced agranulocytosis, pharmacogenomics, pharmacogenetics -
抗てんかん薬による皮膚症状と関連する遺伝因子
24巻2号(2021);View Description
Hide Description
薬物応答性とゲノム情報との関連を調べることを目的としたファーマコゲノミクス研究により,薬の効果や副作用のリスクを治療開始前に予測可能なゲノムバイオマーカーが多数報告されつつある。特に,いろいろな医薬品で誘発される薬疹とヒト白血球抗原(human leukocyte antigen:HLA)との関連は広く研究されており,特定の HLA アリルと薬疹との関連のオッズ比は約10~数千に上り,薬疹の発症リスクに対する影響が極めて大きいことが示唆されている。てんかん治療では carbamazepine や lamotrigine などの重篤な薬疹を起こしやすい医薬品を使用するため,事前の HLA 遺伝子検査で薬疹の発症リスクを予測し,その結果に基づいて治療薬を選択したり,投与量を調節したりするような治療介入を行うことにより,集団全体の薬疹の発症頻度を低下させることが望まれる。 臨床精神薬理 24:151-156, 2021 Key words ::carbamazepine, clinical utility, HLA, SJS, DIHS -
抗うつ薬の治療反応・副反応と薬理遺伝学研究
24巻2号(2021);View Description
Hide Description
これまで,抗うつ薬の治療反応や副反応に関わる複数の遺伝子が研究され,個々の遺伝子に関する情報が蓄積してきている。しかしながら,大規模研究や randomized controlled trial による十分な根拠が実証されておらず,実臨床に応用できる遺伝子はほとんどないのが現状である。加えて,うつ病治療には環境要因など様々な因子が影響し,また,うつ病自体の診断概念の曖昧さの問題もあり,遺伝子だけで治療反応を予測することは非常に難しい可能性がある。そうした中でも,薬物動態学的遺伝子が薬物治療の副反応予測に有用である可能性が示唆されてきている。一部のガイドラインや 2019 年の国際精神遺伝学学会の声明では,CYP2D6 ならびに CYP2C19 の代謝活性に応じた抗うつ薬の選択,用量調整を推奨するようになっている。本稿では,抗うつ薬の薬理遺伝学研究について最新の知見を概説するとともに,今後の展望について述べたい。 臨床精神薬理 24:157-166, 2021 Key words ::pharmacogenetics, antidepressant, treatment response, side effect, predictor -
悪性症候群と CYP2D6
24巻2号(2021);View Description
Hide Description
悪性症候群(神経遮断薬悪性症候群,Neuroleptic Malignant Syndrome:NMS)は,主に抗精神病薬により惹起される,潜在的に致死性の高い重篤副作用である。近年,その発症頻度は低減しているが,精神科以外の治療ユニットでも抗精神病薬は少なからず使用されていることから症例報告があるし,他にも潜在している事例もあると思われる。NMS は発症頻度が低く,また緊急対応が必要なことから臨床研究に馴染みにくいが,いくつかのリスク因子研究や病態研究が行われている。リスク因子としては,患者の不良な全身状態と,ドーパミン受容体を急激に遮断するような抗精神病薬の投与法の関与が指摘されている。また,いくつかの病態仮説の中に,CYP2D6 遺伝子多型の介在による薬物代謝能の関与も含まれ,日本人の NMS 罹患者について遺伝子関連研究も実施されている。筆者らは,CYP2D6 酵素活性の欠損に関わる*5 アレルと NMS との関連について報告したが,今後,より大きなサンプルでの研究やハイリスク患者における検討が望まれる。また,事例が稀少なだけに,これを埋もれさせないための継続的な臨床研究に期待したい。 臨床精神薬理 24:167-173, 2021 Key words ::adverse drug reaction, CYP2D6, genetic polymorphism, neuroleptic malignant syndrome, risk factor
-
-
【シリーズ】
-
-
-
【原著論文】
-
-
抗精神病薬 blonanserin の実臨床における使用継続に及ぼす関連因子の検討
24巻2号(2021);View Description
Hide Description
Blonanserin(BNS)は,本邦で2008年 4 月に上市された第二世代抗精神病薬であり,統合失調症の陽性・陰性症状に対する改善効果が示されている。しかし,BNS は上市後10年以上経過しているものの,その臨床使用に関する報告は少ない。本研究では,BNS 使用患者における治療転帰について後方視的に調査を行ったので報告する。BNS 治療を開始した入院および外来患者575名の患者情報を電子カルテより取得し,BNS を定期処方された統合失調症患者292名について解析を行った。解析対象の BNS 使用患者292名の使用期間中央値は157日(最小値 2 - 最大値2,877)であった。BNS の中止理由は,効果不十分114/292名(39.0%),転院34/292名(11.6%),錐体外路症状28/292名(9.6%)であり,その安全性が示された。入院患者における BNS の使用期間は,BNS 導入後に薬剤数が減少した患者群が薬剤数が変化しなかった患者群より有意に長かった。以上のことから,BNS の上乗せ後他剤漸減実施の有無が BNS 使用継続に影響を及ぼすことが示唆された。 臨床精神薬理 24:177-185, 2021 Key words ::shizophrenia, blonanserin, continuation, safety
-
-
【最新情報】
-
-
Fluvoxamine が新型コロナウイルス感染の症状悪化を予防?――シグマ -1 受容体の関与
24巻2号(2021);View Description
Hide Description
2019年末に中国武漢市で見つかった新型コロナウイルスの感染が,現在世界中で猛威を振るっている。2020年11月に,抗うつ薬の 1 つである fluvoxamine が新型コロナウイルス患者の重症化を抑えるという興味深い論文が JAMA 誌に報告された。一方,新型コロナウイルスの複製に小胞体タンパクの 1 つであるシグマ-1 受容体が重要であるという論文が,Nature 誌と Science 誌に掲載された。本稿では,新型コロナウイルスの重症化の予防薬として期待されるシグマ-1 受容体アゴニストである fluvoxamine の最新の研究成果と作用機序について考察する。 臨床精神薬理 24:187-190, 2021 Key words ::COVID-19, endoplasmic reticulum, fluvoxamine, sigma-1 receptor, SARS-CoV-2
-
-
【新薬紹介】
-
-
世界で 2 番目の orexin 受容体拮抗薬でわが国創製の lemborexant
24巻2号(2021);View Description
Hide Description
Lemborexant の合成はより有効でより安全な orexin 受容体拮抗薬系睡眠薬への十分な研究態勢のもとに進められた。OX1R よりも OX2R への親和性の高い dual orexin receptor antagonist(DORA)を目指して辿り着いたリード化合物自体が非臨床試験で優れた睡眠効果を示しており,そこからさらに洗練された lemborexant が2009年に合成された。この段階ですでに臨床試験の結果が約束されていたといってよく,以後の米国とわが国を中心に実施された臨床試験をことごとく成功させている。とくに,polysomnograph と睡眠日誌を用いた客観的ならびに主観的評価で placebo はもとより zolpidem ER に有意差を示したことは特筆され,自動車運転試験や持ち越し効果への試験でもその影響の少なさが検証され,安全性の高さも示されている。こうして,2019年12月に米国で,2020年 1月にわが国で承認された。今後の臨床の場での活躍が大いに期待される。 臨床精神薬理 24:191-207, 2021 Key words ::insomnia, hypnotic, orexin receptor antagonist, lemborexant, developmental story
-