臨床精神薬理

Volume 24, Issue 3, 2021
Volumes & issues:
-
【展望】
-
-
Clozapine のモニタリング制度の現在と未来
24巻3号(2021);View Description
Hide Description
Clozapine は,治療抵抗性統合失調症に有効性を示す唯一の抗精神病薬である。本邦の clozapine のモニタリング制度は,国際的なモニタリング制度とは大きく異なる点がいくつかあり,clozapine 治療が国際水準並みに普及しない一因と考えられている。本特集では,本邦の clozapine のモニタリングにおける残された課題を多方面から検討している。Clozapine は好中球減少症・無顆粒球症など命に関わる重大な副作用が発現する可能性がある。その対策として頻回の血液モニタリング(CPMS:Clozaril Patient Monitoring Service)を実施するなど,厳しい管理下で clozapine の使用が認められている。しかしながら clozapine の管理の仕方は国ごとに異なる部分がある。特に導入の基準,採血間隔,血糖採血の必要性等では本邦は諸外国に比べて厳しい基準を採用している。現在,基準緩和に向けてさまざまなデータの見直しを行っている。今後は,本邦も国際水準に合わせた採血基準にすることで clozapine の恩恵を受けられる患者が増えることを期待したい。 臨床精神薬理 24:215-220, 2021 Key words ::clozapine, CPMS, blood sampling interval, white blood cell count, neutrophil count, blood glucose level
-
-
【特集】 わが国の clozapine のモニタリングにおける残された課題
-
-
CPMS データからみたわが国のモニタリングにおける残された課題
24巻3号(2021);View Description
Hide Description
CPMS データを用いたわが国の全症例調査では,clozapine 投与患者において無顆粒球症を 1.0%,白血球減少症/好中球減少症を 4.9%に認めた。発症時期は 89.5%が 6 ヵ月以内,全例が clozapine 開始42週以内であった。すなわち,clozapine誘発性無顆粒球症の発生頻度,時期はわが国と海外とで大きな相違はないことが示された。無顆粒球症および白血球減少症/好中球減少症の背景因子,回復の経過等から,白血球減少症/好中球減少症患者には,元来白血球/好中球数が少ない患者や,何らかの要因により一過性の白血球減少症/好中球減少症を来たした患者が多く含まれた可能性が示唆された。わが国では2 週間に一度の血液モニタリングが義務付けられており,また無顆粒球症および白血球減少症/好中球減少症を呈した患者においては再投与ができない規定があるが,患者の治療機会の損失を防ぐため,これらの見直しについて検討していくべきであると考えられる。 臨床精神薬理 24:221-228, 2021 Key words ::agranulocytosis, clozapine, leukopenia, neutropenia, schizophrenia -
Clozapine のモニタリング間隔の拡大は可能か?
24巻3号(2021);View Description
Hide Description
Clozapine に関連した無顆粒球症による死亡例を防止するためには,重度の白血球減少を早期に診断し,合併症出現以前に clozapine を中止することが鍵であることが明らかになり,本剤投与患者を登録して一括管理し,その処方に際して定期的な白血球数などのモニタリングを必須とする制度が作られた。このモニタリングの間隔は各国で異なっているが,日本以外の国々は,本剤投与開始 1 年以降は月に 1 回のモニタリングとなっている。英国における経験から,日本で開始後 1 年以降に毎月のモニタリングに拡大させると,開始後 1 年以降の無顆粒球症の出現率は上昇するかもしれない。しかし,これによる無顆粒球症による死亡リスクは,統合失調症患者の高い全死亡リスクの中では極めてわずかなものと推定され,一方でより多くの治療抵抗性患者に回復のチャンスを与えられるだけでなく,回復した患者の社会参加をより促進し,その生命予後も改善できる可能性がある。したがって,日本でも世界各国と同様に clozapine 開始 1 年以降のモニタリング頻度を 2 週毎から月に 1 回に拡大させることが望ましく,その上でこのような制度の変更に伴う白血球や好中球減少,無顆粒球症の出現率や無顆粒球症による死亡率に関して,長期的な前向きの検討を行うべきである。 臨床精神薬理 24:229-237, 2021 Key words ::clozapine, hematological monitoring, agranulocytosis -
Clozapine の地域連携「沖縄モデル」とモニタリング体制
24巻3号(2021);View Description
Hide Description
琉球病院(以下,当院)では延べ325人の治療抵抗性統合失調症患者に clozapine(CLZ)治療を行った。このうち185例(57%)は紹介例であった。当院は専用のクロザピン治療病棟を有し,他施設から患者紹介を受け,CLZ 導入を行い,退院後は紹介元病院に通院するという沖縄モデルの拠点である。CLZ パスを使用し,心エコー,トロポニンT,脳波などをモニタリングすることで安全性を担保し,多職種による手厚い心理社会的治療を行うことで重度の精神症状を有する患者も退院が可能となる。専門スタッフや整備された院内体制を持った拠点病院が導入期の治療を担うことは,CLZ の効果を最大化し,有害事象を最小限に抑えるためには最適である。CLZ 開始 1 年後には無顆粒球症等の有害事象の発現は少なくなるため,先進国と同様に 4 週に 1 回の血液検査に緩和することが患者・家族と医療関係者の負担の軽減と CLZ 治療の普及に繋がると考えられる。 臨床精神薬理 24:239-248, 2021 Key words ::clozapine, treatment-resistant schizophrenia, CPMS, agranulocytosis, myocarditis -
さわ病院における clozapine のモニタリング体制と今後の課題
24巻3号(2021);View Description
Hide Description
さわ病院では2009年秋以来110名の患者が CPMS に従って clozapine を使用し,取り上げる特徴的なことはない。分院を含めて clozapine 使用有資格者で,使用経験者15名にアンケート調査をした。何もないと答えた人を除く14名(93%)はすべて第一に通院と採血の間隔が短いので延ばしてほしいというもので,次に多いのが血液検査の基準を再考してほしいという意見で,15名中 9 名(60%)でそのうち 8 名は第 2 位に挙げていた。その他では外来でスタートできるようにしてほしいというものであった。現在のコロナ禍の中の対感染政策を見本とし,また緊急事態宣言時の緩和通知も考えると,有給休暇だけでは通院をこなせない,まさに生活者である精神障害者を見殺しにする現在の基準は見直して,「コロナ果」の延長を考えるべき時であろう。 臨床精神薬理 24:249-255, 2021 Key words ::clozapine, blood monitoring interval, blood monitoring standard, Covid-19 strategies, psychiatric community treatment -
Clozapine の心筋炎・心筋症リスクと対応
24巻3号(2021);View Description
Hide Description
Clozapine は治療抵抗性統合失調症に対する唯一承認された薬剤であり,その有効性はこれまで多数の報告がある。一方で死亡に至る重篤な副作用が発現するリスクもある。心血管系の副作用では,稀ではあるが生命を脅かす心筋炎や心筋症などがある。このような重篤な副作用を引き起こすリスクを有することから,その使用率が低くなっている可能性がある。さらに,不確実な診断により,不必要に clozapine 投与を中止している例が存在すると思われる。しかし,現時点で心血管系の副作用をモニタリングする明確なガイドラインは本邦を含め,いずれの国においても存在しない。Clozapine 誘発性の心血管系障害を確実に診断するガイドライン,投与中のモニタリングプロトコルが必要である。 臨床精神薬理 24:257-264, 2021 Key words ::clozapine, treatment-resistant schizophrenia, myocarditis, cardiomyopathy -
Clozapine の増量速度および投与回数に関するエビデンス
24巻3号(2021);View Description
Hide Description
Clozapine は,我が国含め各国の添付文書上,緩徐増量および分割投与が定められている。しかし,もしより急速増量が可能であれば精神症状の早急な改善が,もし 1 日 1回投与が可能であれば服薬アドヒアランスの向上が期待できるかもしれない。増量速度について,clozapine 以外の抗精神病薬に関してはメタアナリシスが存在し,急速増量は緩徐増量よりも精神症状の早期改善において優れており,副作用については差がないことが示されている。Clozapine に関しては症例対照研究が 1 つとコホート研究が 4 つあり,急速増量は緩徐増量よりも精神症状の早期改善がみられ,ほとんどの研究で副作用のリスクを増やさないことが示されている。投与回数について,clozapine 以外の抗精神病薬に関してはメタアナリシスが存在し, 1 日 1 回投与は分割投与と効果については差がなく,一部の副作用については 1 日 1 回投与が優れていることが示されている。血中半減期が 24時間以内の抗精神病薬に関しても,同様の結果が示されている。Clozapine に関しては横断研究が 1 つあり,北米では実臨床で 1 日 1 回投与が広く行われており,また 1 日 1 回投与と分割投与では効果については差がないことが示されている。しかし,clozapine の増量速度および投与回数に関するエビデンスは不足しており,現時点では添付文書を遵守するべきであろう。 臨床精神薬理 24:265-272, 2021 Key words ::clozapine, rapid titration, dosing, once daily, schizophrenia -
Clozapine 治療中のイレウス・腸管穿孔を防止するためには?
24巻3号(2021);View Description
Hide Description
Clozapine の重篤な副作用として消化器系機能低下(Clozapine-Induced Gastrointestinal Hypomotility : CIGH)があるが,無顆粒球症や心筋炎などと比べて,注目されることが少ない。今回,CIGH の疫学,発症メカニズム,危険因子,そして転帰について概説した。そして,山梨県立北病院で clozapine 投与中に CIGH に伴って消化管穿孔が生じた4例の自験例をまとめた。これらの症例では,虫垂やメッケル憩室などの盲端管状構造に炎症があり, 3 症例ではその構造付近に穿孔を認めたが,幸いなことに全例が救命できた。しかし clozapine を投与した全122例中 4 例(3.3%)に穿孔が生じており,このような副作用は先行研究よりも頻度が高いことが想定された。CIGH やこれに伴う消化管穿孔はさらなる注意喚起が必要な副作用であり,これらに対して多職種で取り組む体制作りが欠かせない。 臨床精神薬理 24:273-280, 2021Key words ::clozapine, clozapine-induced gastrointestinal hypomotility, appendicitis, perforation -
大地震・自然災害・感染症拡大などの緊急事態と clozapine 処方とモニタリング
24巻3号(2021);View Description
Hide Description
Clozapine 処方を受けている者は,災害時には,災害そのものによる困難に加えて,診察と血液モニタリング・処方のために頻度の高い受診の継続が負担となりうる。本来はこの問題の解決には,普段から簡便な clozapine 処方体制が準備されることが望ましい。しかし他国より clozapine の上市が遅く,処方患者の追跡データの蓄積期間が短い日本においては,現在のところ他国より短い間隔の血液検査モニタリングが必須となっている。日本は従来から地震など自然災害の頻発国であったが,昨今ではグローバル化に伴いMARS,SARS,COVID-19 と感染症パンデミックがみられるようになってきた。災害時・パンデミック時にも clozapine 処方が柔軟に行われる仕組みが必要である。振り返ると2014年には「震災等災害時のクロザリル処方について」が公表され運用なされてきたものの,採血頻度の緩和にまでは踏み込めたものでなかった。COVID-19 感染拡大では,不要不急の外出を自粛する必要が生じ,遠隔診療や処方日数の延長により対処がなされている。Clozapine の場合には,頻度の高い血液検査が必要であったが,緊急事態宣言期間は緩和措置がなされた。 臨床精神薬理 24:281-285, 2021 Key words ::regulation, clozapine, COVID-19, natural disasters, monitoring -
クロザピン治療はどのように我が国の統合失調症を持つ当事者・家族に届いているのか
24巻3号(2021);View Description
Hide Description
本稿ではクロザピン治療に関する当事者・家族の意見を紹介する。当事者からは「通院限定型クロザピンモニタリングシステム」創設への期待,治療抵抗性統合失調症についての正確な診断を前提として,無効例に関する情報提供を踏まえた上での共同意思決定の重要性,クロザピン治療に関して当事者にもわかりやすい情報提供の必要性が述べられた。家族からはクロザピン治療に関する情報についての普及状況と,意思決定の土台となる疑問点や様々な体験が寄せられた。その中で無効例についての情報提供が意思決定の土台となることが示された。今後のクロザピン治療についてさらなる普及を考えるにあたり,必要十分なモニタリングシステムの確立もさることながら,ともに治療を考えるために「当事者・家族が必要としている情報をわかりやすく提供すること」の重要性を改めて強調したい。 臨床精神薬理 24:287-293, 2021 Key words ::clozapine, schizophrenia, treatment resistant, patient, family -
クロザピンモニタリング制度に関する学会での活動
24巻3号(2021);View Description
Hide Description
本邦の Clozaril Patient Monitoring Service(以下,CPMS)の基準は諸外国のものとは異なる点が多く,より厳格な基準となっている。このことをふまえ,2016 年より日本臨床精神神経薬理学会,日本神経精神薬理学会,統合失調症学会の 3 学会共同で,2020年からは日本精神神経学会を含めた 4 学会共同で厚生労働省や CPMS 適正使用委員会と交渉を行ってきた。その結果,血液内科医の基準の緩和,緊急事態宣言下での採血および通院間隔の延長などが行われた。現在は,緊急事態宣言下でなくとも採血・投与間隔を 2週から 4 週にする検討に入っている。諸外国が少なくとも 1 年以上服薬継続している場合,採血・投与間隔が 4 週になっていること,諸外国と本邦の血球減少症発生頻度に差がないこと,採血間隔を伸ばしても血球減少症発生頻度は増加しないことを提示していく予定である。 臨床精神薬理 24:295-302, 2021 Key words ::Clozaril Patient Monitoring Service, regulation, loosening, international comparison, blood sampling interval
-
-
【シリーズ】
-
-
-
【原著論文】
-
-
統合失調症患者における羅布麻の認知機能に対する効果についての予備的研究
24巻3号(2021);View Description
Hide Description
羅布麻の主成分 apocynin は,動物モデルで認知機能障害を改善することが示唆されている。今回,予備的研究として羅布麻による統合失調症患者の精神症状および認知機能に及ぼす効果を検証した。精神科病院入院中の精神症状が安定して質問式検査等が実施可能な統合失調症患者 7 名が,羅布麻茶 120mL 量を 1 日 2 回, 6 週間飲用した(総飲用量:10.08L)。結果,精神症状は変化を認めなかったが,認知機能については主効果が認められ(p<0.01),検査項目の内,文章記憶課題の「即時再生」および「遅延再生」において有意な効果が認められた(p<0.05)。統合失調症患者の認知機能について,ワーキングメモリー障害仮説が議論されるが,羅布麻によりワーキングメモリー関連領域の機能改善が認められたことは特筆すべきことと考えられる。現行の統合失調症治療薬は認知機能の改善効果に乏しいとされるが,羅布麻は統合失調症治療薬を補完し,中核症状である認知機能障害を改善する効能がある可能性が示唆された。 臨床精神薬理 24:305-309, 2021 Key words ::schizophrenia, Luobuma, apocynin, cognitive function, working memory
-
-
【Letters to the editor】
-
-