臨床精神薬理

Volume 24, Issue 5, 2021
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【展望】
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精神疾患の適切な診断と評価に基づく向精神薬の適正使用
24巻5号(2021);View Description
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薬剤には効果と副作用があり,この副作用や有害事象から患者の安全を守るために,医薬品には法規制がある。向精神薬では,乱用や依存,多剤処方といった問題があり,診療報酬減算や処方日数制限などで規制がなされている。一方で,適切とは言い難い添付文書上の規制もある。例えば,有用なエビデンスが添付文書上の適応症に反映されておらず,適応外のために使用ができない疾患があったり,小児と成人で適応承認が異なる場合,生涯を通じて使用できなかったり,周産期の使用では児への影響を懸念して有益性投与,場合によっては禁忌となっている薬剤もあり,これらの法規制により未承認薬や適応外使用の問題が生じている。こうした規制が,患者の安全を守るという本来の目的より,診療の障壁となり,患者に不利益をもたらしている可能性も懸念されることから,これらの問題に直面している精神科医及び薬剤師の立場から現在の問題や今後の課題について論考した。 臨床精神薬理 24:443-453, 2021 Key words ::psychotropic drugs, psychiatric disorders, off label use, contraindicated drug, laws and regulations
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【特集】 向精神薬の保険適用と規制
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向精神薬の名称と適応の不一致を克服する新しい国際的分類法(NbN)
24巻5号(2021);View Description
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"現在使用されている向精神薬の命名法(nomenclature)は,適応疾患に基づき命名するため,最新の科学的知見を必ずしも反映しているわけではない。そこで,欧州神経精神薬理学会(ECNP)が中心となり,現在の科学的知見を反映させた新しい多軸命名法"" Neuroscience-based Nomenclature(NbN)""を提唱することになった。NbN は明瞭なシステムであり,新たな薬物,標的,作用機序は,容易にこのシステムに追加することができ,正確な最新の科学的情報を提供可能である。より簡便に使用できるように無料のアプリが制作されている。疾患の病態生理や薬剤の作用機序が不明瞭なことの多い精神科領域で,この命名法が定着するためには時間を要すると考えられる。また,言語という文化を変えることは容易ではない。しかし,現在の命名法がもはや妥当とは言えない以上,この挑戦は非常に有意義であるといえよう。 臨床精神薬理 24:455-461, 2021 Key words ::neuroscience-based nomenclature, NbN, psychotropic drug" -
わが国の精神科医療における適応外投与の実情
24巻5号(2021);View Description
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医薬品の添付文書には臨床試験により有効性が確認された効能・効果や用法・用量が記載されており,保険診療を行っている際にこれらを逸脱した場合には,原則として,「適応外投与」とみなされて診療報酬は支払われないことになっている。このため,わが国の臨床現場ではほぼ全ての医療機関が程度の差こそあれ,適応外投与を行う際に,いわゆる「レセプト病名」を用いることによって査定を回避していると推測され,その結果,適応外投与の実態がよくわからないのが実情である。本稿では,最初にわが国と海外の適応外投与に対する考え方の相違点について述べ,次いで,薬理作用の面で合理的であり,論文などによるエビデンスも存在する場合に適応外投与を許容する『55年通知』,および医学論文などによって上市済みの医薬品の未承認の有効性が医学薬学上の公知であると認められる場合に限って,新たに臨床試験を実施することなく効果・効能を追加できる『公知申請』と呼ばれるシステムについて解説した上で,適応外投与によって健康被害がもたらされた結果,損害賠償を請求された際の訴訟に関連した問題や,同じく健康被害が発生した際に副作用被害救済制度の対象になりうるのかといった問題について検討した。 臨床精神薬理 24:463-472, 2021 Key words ::off-label use, psychotropics, “the Notification No. 51 issued by the director of the Health Insurance Bureau of the Ministry of Health and Welfare, Japan, Septem ber 3, 1980”, “application based on evidence in the public domain -
精神科領域での医薬品副作用被害救済制度の問題点
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向精神薬を含む医薬品の副作用により,不幸にして入院,障害,死亡に至った患者または遺族に対しては,因果関係がはっきりしており,使用目的と使用方法が適正であれば,医薬品副作用被害救済制度の対象となりうる。医薬品による副作用は,適正な薬物療法を行っていても出現するが,不適正な薬物療法を行った場合には,より出現しやすいようである。不適正な薬物の使用による副作用に対しては,医薬品副作用被害救済制度の救済給付の対象とならない(不支給となる)ので,注意が必要である。精神科領域では,la motrigine や lithium carbonate の不適正使用による不支給事例が多い。これらの薬剤を含め,向精神薬を投与するさいには,用量・用法を守って正しく使用する必要がある。 臨床精神薬理 24:473-481, 2021 Key words ::Relief System for Sufferers from Adverse Drug Reactions, Pharmaceuticals and Medical Devices Agency (PMDA), eligible, lamotrigine, lithium carbonate -
睡眠障害治療と流通管理
24巻5号(2021);View Description
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睡眠障害治療における流通管理は過眠症治療に用いられる精神刺激薬に対して行われる。現在は主に医師や薬局を登録し,製薬会社が主体となり第三者委員会とともに不適切な投薬などについて警察活動を行って流通を制限する(これを便宜的に処方登録制と呼ぶ)ものである。2007 年に始まったリタリン流通管理委員会による処方登録制は,当時乱用や不適切な処方が見られていたリタリンの流通状態を短期間で見事に解決した。しかし,2021年 4 月から始まるモディオダール適正使用委員会による処方登録制には,その必要性なども含め,少なからぬ問題が存在する。現在の処方登録制を見る限り,処方登録制とは適応外使用を全て封じる制度であり,適応外の治療が存在するとしても,医療倫理面からの検討などは全くなされない。このため,その導入には当該薬物のみならず周囲の状況変化も含む慎重な議論が行われる必要があると思われ,異なる形式の流通管理制度も求められる。 臨床精神薬理 24:483-490, 2021 Key words ::methylphenidate, modafinil, hypersomnia, distribution management, policing -
ADHD 治療と流通管理(コンサータ ®,ビバンセ ®)
24巻5号(2021);View Description
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麻薬および向精神薬については,本邦のみならず世界中において厳密な流通規制が行われている現実を直視することは重要である。そのためにも現代に至るまでの歴史的経緯を理解し,過剰診断や不適切な処方や流用などが決して少なくなく行われていた事実を知った上で,適切な治療を行うためにも向精神薬の適応疾患に留意することが望まれる。特に ADHD 治療薬として適応承認された中枢神経刺激薬である methylphenidate 徐放薬(コンサータ®)および lisdexamfetamine メシル酸塩(ビバンセ®)は,従来小児適応薬剤がほとんどなかった本邦において,小児 ADHD 治療薬として適応承認されたからこそ適切な流通管理が求められている。 臨床精神薬理 24:491-497, 2021 Key words ::distribution regulation, anti-ADHD drugs, ADHD, psychostimulant -
向精神薬処方の適正化と診療報酬
24巻5号(2021);View Description
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平成24年度(2012年)から平成30年度(2018年)まで過去 4 回連続で向精神薬の多剤併用および長期処方の制限を目的とした処方料・処方せん料が新設された。これらの保険給付政策は一定の効果を示しているものの,更なる向精神薬の適正使用を推進するためには,向精神薬を処方する医師自身がガイドラインなどを通じて各疾患に関する知識をアップデートするだけではなく,治療者と患者双方が医学的知識を共有した上で,選択肢となりうる治療法について益や害,患者の好みなどをふまえて積極的に協議し,共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)する取り組みが鍵となる。また,治療で安定した患者については,精神科薬物療法の出口戦略(減薬 ・ 中止,もしくは安全で安心な長期維持療法)についても SDM を行うと良いだろう。ベンゾジアゼピン受容体作動薬(睡眠薬,抗不安薬)に関しては,精神科医や心療内科医のみならず,これらの薬剤の過半数を処方している一般診療科の医師のほか,薬剤師,その他医療従事者の啓発が重要となる。 臨床精神薬理 24:499-504, 2021 Key words ::discontinuation, long-term prescription, polypharmacy, psychotropic drugs, shared decision making -
rTMS 療法の適正使用指針と保険医療の二重基準
24巻5号(2021);View Description
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COVID-19 パンデミックの中長期的影響も踏まえ,うつ病医療の体制強化は喫緊の社会的要請である。2017年 9 月,rTMS 療法の装置が薬機法の承認を受け,2018年 4 月,rTMS 療法の適正使用指針が策定され,2019年 6 月,国民皆保険制度のわが国で rTMS 療法がうつ病治療として保険収載された。しかし保険収載から約 2 年が経つ現在,わが国のrTMS 療法は十分に普及していない。その背景として,学会の適正使用指針と厚生労働省の保険の算定基準の二重基準が挙げられる。保険収載の際の医療経済的議論の詳細は定かでないが,採算が取れないほど低額の診療報酬が設定され,実施医療機関の基準を厳しく限定し,セッション回数も制限する算定基準であり,北米の状況と大きく異なり,適正使用指針の考えを厳しく制限するものである。その結果として,rTMS 療法がうつ病患者に届けられず,自由診療ビジネスが横行する現状は深刻な医療倫理的課題である。 臨床精神薬理 24:505-513, 2021 Key words ::repetitive transcranial magnetic stimulation (rTMS), major depression, appro priate use document, public health insurance, medical ethics -
入院包括治療における持効性抗精神病注射薬剤使用の保険収載とその意義─令和 2 年度診療報酬改定による
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令和 2 年度診療報酬改定により,持効性抗精神病注射薬剤(以下,LAI)の薬剤料が入院包括治療から除外となり,持続性抗精神病注射薬剤治療指導管理料は入院中の患者についても算定可能となった。薬価が高くとも治療に有効であり,患者の地域移行・地域定着の促進に資するのであれば,出来高算定を認めていこうという国の方針がうかがえる。本改定により精神科救急・急性期病棟でも LAI の導入がしやすくなった一方で,LAI自体にも薬の種類による違いや様々な課題があり,急性期症状が改善し,経口薬で有効性と忍容性を一定期間評価した後,慎重に患者個別にリスク・ベネフィットを勘案してタイミングを決めていく必要がある。今後とも LAI の使用促進策は進んでいくと思われ,LAIを使いこなせることも統合失調症の治療にあたる専門医にとっては必須のスキルになっていくことが予測される。 臨床精神薬理 24:515-524, 2021 Key words ::long-acting injectable antipsychotics, comprehensive ward, FY 2020 revision of medical fee
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【シリーズ】
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【原著論文】
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うつ病患者に対する vortioxetine の国際共同 / 国内治験における安全性情報の併合解析
24巻5号(2021);View Description
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日本人患者が組み入れられた vortioxetine の第 3 相試験のうち,投与期間 8 週の短期投与試験 3 試験を併合解析した安全性データ,及び52週間継続延長した長期試験1試験の安全性データを提示する。短期併合解析ではプラセボ群,10mg 群,20mg 群それぞれ総数436,435,313 例に対し有害事象発現頻度は 57.3%,61.8%,62.3%であった。発現時期別では投与開始から 1 ~ 7 日に最も高かった。発現頻度 5%以上の有害事象は悪心,下痢,上咽頭炎,頭痛及び傾眠で,投与中止に至った事象はそれぞれ 2.3%,4.1%,4.5%であった。長期試験では総数 280例に対し有害事象発現頻度は 80.7%であった。発現頻度が最も高かった時期は投与開始から 1 ~90日で,投与中止は 7.1%であった。以上より,短期投与及び長期投与時の安全性に大きな問題は見られず,うつ病患者におけるvortioxetine の安全性,忍容性が確認された。 臨床精神薬理 24:527-545, 2021 Key words ::vortioxetine, antidepressant, adverse events, clinical trials, major depressive dis order
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【症例報告】
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治療に難渋した解体症状が lurasidone への切り替えによって著明に改善した統合失調症の 1 例
24巻5号(2021);View Description
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2020年 6 月に市販された lurasidone は,セロトニン 5-HT2A,5-HT7 受容体,ドパミン D2 受容体に対してアンタゴニスト作用を有し,5-HT1A 受容体に対して部分アゴニスト作用を有しており,既存の抗精神病薬とは異なった薬理作用による臨床効果が期待される。統合失調症の解体症状は,本障害の基本症状と考えられているが,治療反応性が乏しいことが知られている。今回我々は,複数の第 2 世代抗精神病薬の単剤投与によっても解体症状が持続し,治療に難渋した統合失調症患者に対して,lurasidone への切り替えによって,解体症状が著明に改善した 1 例を経験したので報告する。Lurasidone を 60mg/日に増量後,軽度のアカシジアが発現したが減量にて消失し,その他の有害事象を認めなかった。抗精神病薬の単剤投与で解体症状が改善しない統合失調症患者に対して,lurasi done は新たな治療手段の 1 つになる可能性が示唆された。 臨床精神薬理 24:547-552, 2021 Key words ::schizophrenia, treatment-refractory, disorganized symptoms, lurasidone
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