臨床精神薬理

Volume 24, Issue 6, 2021
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【展望】
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剤形百花繚乱,その意義を考える
24巻6号(2021);View Description
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現在,向精神薬の分野でも多種多様な剤形を利用することができる。このように剤形が発達してきた背景には,薬物療法の様々な分野で有効性と安全性に関して科学的な検証が繰り返されてきたことに加えて,当事者の権利が見直され,医療における当事者中心主義が定着してきたことがあげられる。そこでは,当事者の価値観や主観が尊重され,アドヒアランスやリカバリーの概念が重要視されてきた。開発メーカーにとっても新しい剤形の投入は,新しい利用者の掘り起こしなど,企業戦略面でも価値のある分野となっている。臨床現場においては,剤形を変えることで,飲みごこちや使用感,効果や有害事象で変化が得られ,当事者にとっても治療者側にとっても薬剤選択の幅が広がっている。個々の薬剤の価値を引き出すには,薬剤と当事者の相性を見極めることが重要であり,臨床医は,剤形の違いによる薬剤の特性を理解すると共に,当事者の言葉に十分耳を傾けなければならない。 臨床精神薬理 24:563-572, 2021 Key words ::dosage forms, injection, oral solution, orally disintegrating tablet, tape
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【特集】 向精神薬のさまざまな剤型の可能性について再考する
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精神科臨床における口腔内崩壊錠の意義
24巻6号(2021);View Description
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近年,様々な向精神薬の剤形が使用できるようになってきた。そのうち口腔内崩壊錠は,水なしで服用できるから楽といったアドヒアランスに訴えるプロモーションが一般的であるが,現場ではそのような表面的な意図を超えて,諸々の状況に対応する手段として用いられるようになっている。本稿では,精神科臨床における口腔内崩壊錠の意義について,精神科救急の現場,せん妄臨床,緩和ケアといった状況での具体例を示しつつ概説する。 臨床精神薬理 24:573-575, 2021 Key words ::psychiatric emergency, delirium, olanzapine, risperidone, pregabalin -
精神科疾患における内用液の意義
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内用液は水なしで飲めるという簡便さがある。他科疾患でも小児や経口摂取困難な者に対して使用されているが,精神科疾患にと言われてまず頭に浮かぶのは,本邦ではrisperidone や aripiprazole の液剤分包品(pouch 製剤)であろう。しかし剤形としての内用液の登場は,抗精神病薬である haloperidol 液がさらに古く1978年まで遡る。同様に抗てんかん薬の内用液もさらに古く遡る。DSM-5 の精神疾患の分類と診断の手引きには「てんかん」の項目は入れられてないが,以前はてんかんも精神科疾患に分類されていた。また成人期慢性精神障害の鑑別診断として考慮されていなかった注意欠如・多動症(ADHD)も,小児期に発症するところから内用液がある。近年では後発品で既存の薬剤にはなかった剤形として液剤分包品も上市されている。本稿では向精神薬の剤形の 1 つである内用液全般について広く述べたい。 臨床精神薬理 24:577-581, 2021 Key words ::mental disorders, oral solutions, liquid pouch, dry syrup -
散剤の向精神薬の特性と有用性
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近年,向精神薬においても多様な剤形が開発されており,剤形選択は臨床上の利点が期待できる一方で,思わぬ有害事象を誘発する可能性があるため,各剤形の特性の理解と場面に応じた使い分けが肝要である。本稿では散剤の特性や使用用途を概観し,臨床における注意点や有用性について検討した。散剤は一般に錠剤やカプセル剤よりも早い効果発現が期待でき,粒子径が小さいほど消化管内の溶解速度が速いが,種類によっては吸収部位への薬剤の移行が遅延して吸収速度が遅くなることがあるため,多めの水で服用するなどの工夫が必要である。散剤は細かな用量調整を要する症例や,投与経路が経管に限定される場合において有用である一方で,苦みや刺激性による不快感や,粉でむせてしまうことによる患者の服薬アドヒアランス低下の原因となりうる。その他にも,薬剤性の胃腸障害のリスクや,調剤や保管における品質への影響の問題があり,注意を要する。 臨床精神薬理 24:583-587, 2021 Key words ::psychotropics, dosage form, powder, powdered medicine -
精神科で使用される徐放剤の特徴
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現在様々な薬理作用を持った向精神薬が上市されている。精神疾患の多くは,長期的な治療が必要となることが多いため,アドヒアランスの低下が再燃・再発などの予後や認知機能,社会機能に影響することが知られている。徐放剤は,処方の簡素化や忍容性に変化をもたらすことで,結果としてアドヒアランスの改善に寄与することができるかもしれない。本稿では主に,徐放剤の歴史や原理,特徴に加えて,個々の薬剤の薬物動態学的/ 薬力学的な特性や,速放剤との比較に関する臨床成績にも触れながら述べていきたい。 臨床精神薬理 24:589-596, 2021 Key words ::extended release, controlled release, adherence, pharmacokinetics, OROS -
向精神薬の筋注製剤(短時間作用型筋注製剤)
24巻6号(2021);View Description
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一般的には,筋注は経口投与に比べ,生物学的利用率が高く,また,最高血中濃度到達時間が短く効果発現までの時間が短いと考えられている。精神病性障害による精神運動興奮に対し抗精神病薬は有用であるが,治療に同意を得られた場合,筋注に経口薬に対する優位性はないかもしれない。せん妄に対してはデータが乏しく,抗精神病薬の筋注製剤の有用性は不明である。Diazepam 筋注は手技により血中への移行に差があり,必ずしも内服に比べ早期に血中濃度が上昇するわけではない。Biperiden は経口投与に比べ筋注でより早期の効果発現が期待できるかもしれないが,biperiden の事前投与に錐体外路症状予防の evidence は乏しく,いわゆる「セレアキ」と称される haloperidol 注に biperiden注を併用,筋注する処方に対しては否定的な見解も認められる。薬剤毎の特徴を理解した上で,薬剤の選択および投与経路について検討の上,薬物療法を施行することが望まれる。 臨床精神薬理 24:597-602, 2021 Key words ::short-acting intramuscular formulations, intramuscular injections, antipsychotic agents, anti anxiety agents, antiparkinsonian agents -
統合失調症の再発予防における異なる試験デザインを加味した持効性抗精神病薬の可能性
24巻6号(2021);View Description
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抗精神病薬によって統合失調症の再発リスクは大きく低下する。しかし,服薬アドヒアランスの低い症例が一定数見られ,2 ~ 12 週に 1 回の注射でアドヒアランスを保つことができる持効性抗精神病薬注射剤(LAI)は有効な治療戦略となりうる。本稿では,LAI の経口薬に比した有用性について筆者らが行った最新のメタ解析を中心に概説する。無作為化比較試験(RCT),コホート研究を対象としたメタ解析では,小さい差であるが,LAI の優位性が示された。また,ミラーイメージ試験のメタ解析においては LAI が経口薬に比して大きく優位であることが示された。副作用に関して,注射部位の反応などの問題はあるものの,LAI と経口薬で明確な差は認められなかった。対照的な 3 つの試験デザインによる結果はそれぞれのデータの性質をよく理解し,注意深く解釈する必要がある。臨床医はこれらのエビデンスを踏まえつつ,個々の患者の病態・背景などを総合的に鑑みて,最適な shared decision making を行う必要がある。 臨床精神薬理 24:603-608, 2021 Key words ::long acting injectable antipsychotics, randomized controlled trials, mirror image studies, cohort studies, schizophrenia -
成人統合失調症患者の急性期治療におけるアセナピン舌下錠の最新のエビデンス:系統的レビューとネットワークメタ解析の結果から
24巻6号(2021);View Description
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アセナピン(商品名:シクレスト®)は,本邦初となる舌下錠の非定型抗精神病薬である。アセナピンは幅広い受容体に高い親和性を有し,多元受容体作用抗精神病薬(multi-acting receptor targeted antipsychotics:MARTA)に属するが,従来の MARTA とは異なる薬理学的特徴を有し,D2 受容体への親和性は比較的高く,ムスカリン受容体への親和性は極めて低い。また,アセナピンは急性期統合失調症患者の興奮に対する速やかな効果が期待できるが,一方で,口の感覚鈍麻といった舌下錠に特有の副作用に注意が必要である。さらに,最新の系統的レビューとネットワークメタ解析によると,アセナピンは急性期統合失調症患者に対して,益と害のバランスの良い薬の 1 つであることが示されている。舌下錠という新しい剤型は,統合失調症の薬物治療における新たな治療選択肢となるかもしれない。 臨床精神薬理 24:609-612, 2021 Key words ::asenapine, systematic review, network meta-analysis, efficacy and safety, schizo phrenia -
精神科臨床における貼付剤の意義
24巻6号(2021);View Description
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服薬アドヒアランス向上のための方策の一つである薬剤の再検討においては,半減期の長い薬剤やデポ剤と並んで「貼付剤」が推奨されている。精神科領域における貼付剤は,わが国では blonanserin,海外では asenapine と,いずれも統合失調症治療で導入されている。貼付剤は,侵襲的と感じられにくく,投与回数や消化器症状などの副作用が少ないことから,安全性が高い印象を与え,当事者に受け入れられやすい。他にも,過量服用や依存の問題,相互作用や食事の影響が小さいなど,当事者にとってのメリットは多岐にわたる。他方,デメリットとしては,貼付部位の皮膚反応や免疫反応,そしてこの剤型自体が当事者のスティグマを刺激しうることが考えられる。貼付剤という選択肢が増えることで,SDM を用いた薬剤選択を行う際にもより当事者のニーズに応えやすくなる。さらに,剥がすことで投与を中止できるという自律度の高さは,対応に苦慮するアドヒアランス不良例に対しても有効と考える。このように貼付剤は,既存の向精神薬が持つ問題の多くを克服していると言える。さらに,剥がし方の説明やライフスタイルのヒアリングなど新たなアプローチも生まれ,当事者と治療者との間にもより厚みあるコミュニケーションが実現する可能性も秘めている。 臨床精神薬理 24:613-618, 2021 Key words ::patch, schizophrenia, antipsychotics, adherence, shared decision making -
向精神薬の合剤の可能性について
24巻6号(2021);View Description
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精神医学領域のガイドラインにおいて薬物療法では単剤療法が推奨されている一方で,併用療法を用いざるを得ない場面が多いことも否めない。しかし現時点での精神医学では合剤は一般的に使用されてはおらず,本稿では近年の報告を基に今後の向精神薬の合剤の可能性について検討した。Olanzapine と fluoxetine の合剤の研究ではその有効性および治療アドヒアランスの向上において重要なメリットをもたらすことが示唆された。慢性または再発性大うつ病性障害患者に対する aripiprazole の追加の研究では有効かつ忍容性が良好だと思われる結論となった。Aripiprazole と sertraline 合剤の研究では合剤が ser traline 単剤に対する有効性が示唆され,国内申請の段階まで至っている。固定用量合剤の研究開発には制限がかかることが考えられ,過量服薬などのリスクも踏まえつつ使用することになるだろうが,未解決の需要を満たすことにも繋がる。そのため合剤の使用に関してはリスク・ベネフィットをより吟味して使用することになるであろう。 臨床精神薬理 24:619-623, 2021 Key words ::psychotropic drug combination, combination products, fixed dose combination, olanzapine-fluoxetine combination, aripiprazole augmentation -
老年医療における向精神薬坐剤の可能性について
24巻6号(2021);View Description
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高齢者せん妄の薬物治療は,未だエビデンスに乏しい領域であるが,興奮の程度により,抗うつ薬や抗精神病薬を使い分ける。Trazodone 塩酸塩は選択的セロトニン(5-HT)再取り込み阻害作用と 5-HT 受容体拮抗作用をあわせもち,高齢者せん妄への効果を期待される薬剤である。しかし,高齢者では認知症の合併や機能障害等で嚥下困難な患者も多く,錠剤の経口投与が困難なこともある。そこで,全身作用を目的とする坐剤は,直腸粘膜からの速やかな吸収後に,門脈系をほとんど経由することなく循環血中に運ばれるため,小児や高齢者など経口投与が難しい症例では重要な経路となる。向精神薬の市販製剤における坐剤の数は少ないのが現状であるが,向精神薬を使用する症例や老年医療においては,坐剤製剤の使用が有用であることも多いと考えられ,積極的な院内製剤への薬剤師の関与が望まれる。 臨床精神薬理 24:625-628, 2021 Key words ::elderly person, delirium, trazodone suppository, in-hospital formulation -
精神疾患治療における点鼻薬の有用性
24巻6号(2021);View Description
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鼻腔投与は全身循環を介さず直接脳に薬物を送達することができることから,中枢神経疾患治療薬の投与方法として注目されている。精神疾患領域では,オキシトシンを鼻腔投与することで自閉症や統合失調症の一部の症状が改善する可能性が示唆されている。また,難治性うつ病に対する ketamine の点鼻薬には速く劇的な効果があるとされている。点鼻薬は精神神経疾患の新たな治療法として大きな可能性を秘めている。 臨床精神薬理 24:629-633, 2021 Key words ::intranasal administration, blood brain barrier, oxytocin, ketamine
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【シリーズ】
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【Letters to the editor】
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【新薬紹介】
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最強の注意欠如・多動症治療薬,lisdexamfetamine の開発物語
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注意欠如・多動症(ADHD)の有病率が調査の都度,高くなっていく中で,より優れた治療薬の開発は急務である。2003年から2004年にかけて世界初の dextroamphetamineの prodrug である lisdexamfetamine が創製された。Dextroamphetamine の薬物動態学的特徴を改善すべく創意・工夫されたもので,その安定化は有害事象や依存・乱用への可能性の軽減につながっている。米国では2004年に開発が開始され,2007年には小児のADHD に,2008年には成人の ADHD に承認・上市され,危惧された依存・乱用についてもさしたる問題はなく,売り上げの首位をひた走っている。わが国では,2012年から臨床開発が始まり,すべての試験は極めて順調に進められて,2017年には当局へ申請されている。中枢神経刺激薬の依存・乱用が大きな社会問題化しているわが国では,ADHD患者での臨床試験上の効果に優れ,安全性に問題が無くても,dextroamphetamine の pro drug であるだけに,厳密な流通管理システムが要求される。そうした条件の中で,わが国での使用実態における依存乱用性に関する評価が行われるまでの間は,他の ADHD 治療薬が効果不十分な場合にのみ使用されることが許されて,2019年に承認・上市された。現在,かなり綿密な市販後調査が実施されており,近い将来には晴れて第一選択薬として認められ,その仲間入りを果たすであろうと期待している。 臨床精神薬理 24:639-657, 2021 Key words ::lisdexamfetamine, dextroamphetamine, prodrug, ADHD, abuse liability
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