臨床精神薬理

Volume 24, Issue 8, 2021
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【展望】
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評価尺度を用いた抑うつ症状の重症度評価
24巻8号(2021);View Description
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うつ病・うつ状態を評価するために様々な評価尺度が開発されている。なかでもハミルトンうつ病評価尺度やモンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度は精神科領域で広く使用されている。これらの尺度は,主としてうつ病患者の経時的な重症度の推移を評価する際に用いられ,臨床試験等における薬剤の有効性や臨床研究における改善や寛解等を示す指標として用いられている。一方で,特定の精神疾患を対象としてうつ状態を評価する目的で開発された評価尺度として,認知症患者を対象としたコーネル認知症抑うつ尺度,統合失調症患者を対象とした統合失調症カルガリー抑うつ尺度,双極性うつ病患者を対象とした双極性うつ病評価尺度などがある。このほか,抑うつ症状を 1 ポイントで評価する目的で開発された標準化うつ病臨床転帰尺度や,精神症状全般を評価する尺度の中に含まれるうつ状態に関連した評価項目について概観する。 臨床精神薬理 24:775-779, 2021 Key words ::depressive symptoms, rating scale, depression
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【特集】 評価尺度を用いた抑うつ症状の重症度評価
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うつ病における抑うつ症状の評価
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精神医学では症状の評価を血液検査や画像診断によって定量的に測定した数値で行うことが難しいため,「評価尺度」を用いることで症状の有無や重症度の評価を行ってきた。抑うつ症状を評価する場合に様々な評価尺度があるが,うつ病の臨床研究,抗うつ薬の薬効評価などさまざまな臨床や研究の場でうつ病の重症度評価において最も広く用いられている,観察者による評価尺度であるハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)とモンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)を取り上げる。それらの評価尺度の特性や問題点を十分に理解した上で使用することで,より深く丁寧なうつ病診療につながると考えられる。 臨床精神薬理 24:781-788, 2021 Key words ::depression, rating scales, HAMD, MADRS -
統合失調症における抑うつ症状の評価
24巻8号(2021);View Description
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統合失調症において,しばしば抑うつが認められることはよく知られており,陰性症状や陽性症状,あるいは薬剤との関連が指摘されている。しかしながら,統合失調症の抑うつに関しては,とりわけ純粋な抑うつと陰性症状あるいは薬剤性錐体外路症状との区別がしばしば困難である。Calgary Depression Scale for Schizophrenics(CDSS)は錐体外路症状や陰性症状に影響されない統合失調症者における抑うつの重症度評価尺度であり,統合失調症における抑うつの理解や研究,あるいは治療効果の判定などに用いられている。本稿においては,実際に CDSS を用いて評価を行う際に注意すべき点について述べる。 臨床精神薬理 24:789-793, 2021 Key words ::assessment, Calgary Depression Scale for Schizophrenics, depression, schizophre nia -
双極性うつ病における抑うつ症状の評価尺度
24巻8号(2021);View Description
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軽躁・躁病エピソードの既往が聴取されなければ,うつ病エピソードで受診する双極性うつ病の患者を単極性うつ病と鑑別することは容易ではない。両者は薬剤選択などの治療方針が異なり,双極性うつ病では抗うつ薬治療による気分変動や急速交代化など診断の遅れに伴う難治化をもたらすことから正しく評価する必要がある。さらに,双極性障害は病相が変化することから,治療経過中の症状モニタリングと臨機応変な治療方針の決定も欠かせない。現在,うつ病評価尺度のほとんどは単極性うつ病を評価するために考案された尺度であり,双極性うつ病を対象に用いる評価ツールとしては限界がある。本稿では,双極性うつ病を検出し,そのうつ症状の重症度を評価するために開発された Bipolar Depression Rating Scale(双極性うつ病評価尺度)の開発経緯や尺度について概説する。 臨床精神薬理 24:795-802, 2021 Key words ::bipolar depression, depression rating scale, mixed feature, atypical symptom -
発達障害がある人の抑うつ症状に自己記入式評価尺度を用いる際の注意点
24巻8号(2021);View Description
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抑うつ症状は発達障害に高頻度で併存し,主観的な生活の質にも影響する。発達障害がある人の抑うつ重症度を把握するためには,構造化面接や,発達障害の認知特性を踏まえた評価尺度が求められる。しかし現状では,発達障害がない人の認知特性に沿った既存の評価尺度を発達障害がある人に用いざるを得ない。発達障害がある人では,うつ病と診断されていなくても抑うつ自己記入式尺度のスコアが高いことが報告されている。診断基準の変遷から,特に 30 代以上の人では未診断の発達障害を考慮する必要がある一方で,自分の状態を悪く見積もる抑うつ状態の人では,発達障害がなくても,発達障害に関連する自己記入式評価尺度のスコアが高く出ることがある。自己申告のスコアは必ずしも抑うつ症状の重症度を反映せず,自覚的な苦痛の指標と捉える方が有効な支援や介入につながるかもしれない。 臨床精神薬理 24:803-809, 2021 Key words ::autism spectrum disorders, attention deficit hyperactivity disorder : ADHD, subjective symptoms, common chronic illness -
高齢者にみられる抑うつ症状の評価
24巻8号(2021);View Description
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高齢者の抑うつ症状を評価する自記式評価尺度として,Geriatric Depression Scale(GDS)が広く用いられている。GDS は身体症状に関する項目を含まないことと,回答が「はい」か「いいえ」の 2 択であることが特徴である。カットオフが設定されており,うつ病・抑うつ状態のスクリーニングとしても用いることができる。他覚的評価尺度としては高齢者に限定されたものはなく,一般的な抑うつ症状の評価尺度を用いるが,施行に時間を要するものが多いので,評価の際には患者の負担とならないような配慮を要する。うつ病性仮性認知症と認知症の鑑別には,認知症のスクリーニング検査の所見の違いがその一助となることがある。 臨床精神薬理 24:811-815, 2021 Key words ::depression, elderly, geriatric, scale, evaluation -
周産期メンタルヘルスにおけるスクリーニング
24巻8号(2021);View Description
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妊娠・出産は,喜ばしい出来事と捉えられる一方で,うつ病をはじめとする精神的不調を引き起こすことがある。本稿では,妊産婦のメンタルヘルスケアを行う上で知っておくべき周産期うつ病に関する基本的事項を概説した。また,妊産婦の健診にて行われる代表的なスクリーニングである 3 つの質問票(育児支援チェックリスト・エジンバラ産後うつ病自己評価票・赤ちゃんへの気持ち質問票)を紹介した。最後に,周産期における最近のトピックとして,①妊産婦の自殺とそのリスク因子,②新型コロナウイルス感染拡大による周産期うつ病の増加,③外国人妊産婦に対するケアの必要性に関して述べた。 臨床精神薬理 24:817-822, 2021 Key words ::perinatal depression, EPDS (Edinburgh Postnatal Depression Scale), perinatal mental healthcare -
休職中うつ病患者の職場復帰評価
24巻8号(2021);View Description
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2000年ころと比較して約 20 年間でうつ病患者数は増加しており,さらに精神疾患等の心の問題により休職する労働者も増えている。メンタルヘルス疾患では,一度休職した後の退職率や復職後の再休職率が高いことが知られている。その理由の 1 つとして,精神症状評価や復職準備性が不十分であること,復職に対する評価が不十分であること,不十分な回復状況のまま復職してしまうことが予測される。今回,うつ病を中心とした精神疾患による休職者を対象とした,復職の際の判断基準や評価に関しての評価尺度を中心に概説する。これらの評価尺度の多くは,精神科医等の医療従事者評価によるものが多く,患者自身による評価尺度は少なかった。今後は患者や家族,職場なども含めた多面的な評価が必要である。職場復帰や就労継続予測ができる尺度,さらには職場復帰および継続に際して必要な機能および支援方法に対する評価が必要ではないかと思われた。 臨床精神薬理 24:823-829, 2021 Key words ::depression, return to work, assessment scale -
身体疾患にみられる抑うつ状態の評価
24巻8号(2021);View Description
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身体疾患患者の抑うつ状態やうつ病を評価,診断する上での問題点の 1 つは,食欲低下や倦怠感などのいわゆる身体症状に関して,うつ病によるものなのか,身体疾患によるものなのかの鑑別が困難なことである。DSM-Ⅳおよび DSM-5 ではうつ病の診断基準項目の一つ一つをうつ病によるものか身体疾患によるものか鑑別することを前提とした診断アプローチを採用しているが,現実的にはこれは困難であることが多い。それでは,実際に身体疾患患者のうつ病はどのように診断すればよいのであろうか。これに関しては,以前から様々なアプローチが提唱されてきているが,本稿では,その中で代表的な 4 つのアプローチを紹介した。加えて,本邦におけるコンサルテーション・リエゾン精神医療の現場で最も頻用されている抑うつ,不安をスクリーニングするための代表的な自記式尺度として,身体疾患患者を想定した Hospital Anxiety and Depression scale(HADS)を紹介するとともに層別尤度比を用いた使用の実際についても概説した。 臨床精神薬理 24:831-837, 2021 Key words ::depression, physical disease, diagnosing depression, psychooncology
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【シリーズ】
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臨床に役立つ基礎薬理学の用語解説 第 22 回 インスリン様成長因子 -1(Insulin-like growth factor 1)
24巻8号(2021);View Description
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【原著論文】
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アルツハイマー病発症患者の特性探索及び発症リスクへの寄与因子に関する研究
24巻8号(2021);View Description
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本研究は,レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を利用し,2017年度にアルツハイマー病を初めて発症した患者(AD 初発患者)の年齢分布,地域分布,発症前の患者特性(併存疾患,処方医薬品)を把握することを目的とした。AD 初発患者数は158,526人(男性62,855人,女性95,671人)で,男女ともにその約 75%は75~89歳であった。AD 初発患者の地域分布において地理的な一定の特徴は認められなかった。AD初発患者のうち,精神・神経系疾患がある患者の割合は,男女ともに65歳未満の年齢層で最も高かった。また,AD 初発患者の発症 6 年前と 1 年前を比べると,特に精神・神経系疾患の診断とこれに対する処方医薬品が増加していた。今後,NDB を含め医薬品や医療全般に関する様々なデータベースを利用し,AD の発症及びそれに関連する可能性のある各種背景因子について継続的に基礎データを収集し,評価・分析を行っていくことが重要と考える。 臨床精神薬理 24:841-857, 2021 Key words ::Alzheimerʼs disease, dementia, NDB, characteristics, newly diagnosed -
医療観察法病棟で行ってきた服薬プログラムの重要性
24巻8号(2021);View Description
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医療観察法に基づき策定された入院処遇ガイドラインには,多職種チームによる医療提供が定められている。しかしながら,多職種による服薬心理教育の取り組みは報告されていない。賀茂精神医療センターでは2009年より服薬プログラムを実施し,薬に対する構えの評価尺度(以下,DAI-30),病識評価尺度(以下,SAI-J)を用いて評価している。今回,DAI-30 と SAI-J の得点を服薬プログラム開始前後で分析した結果,DAI-30,SAI-J さらに,SAI-J の下位項目「自己の疾病についての意識」「精神症状についての意識」にて有意差が認められた。さらに,対象者へのアンケートから,服薬プログラムによって,自分が抱えている不安感や寝つきの悪さは,単なる心身の不調ではなく,統合失調症の症状であると認識されるようになったのではないかと考えられる。以上から,服薬プログラムにて,薬に対する知識が向上し,病識が深まることが示された。しかし,一部の対象者で病識が獲得できず入院を継続していることは,服薬プログラムの限界であり今後の課題といえる。 臨床精神薬理 24:859-870, 2021 Key words ::Medical Treatment and Supervision Act, medication program, pharmacist, Drug Attitude Inventory-30 (DAI-30), Schedule for Assessment of Insight (SAI-J)
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