臨床精神薬理

Volume 25, Issue 3, 2022
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【展望】
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思春期の精神疾患に対するエビデンスに基づく治療;心理社会的アプローチ
25巻3号(2022);View Description
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児童・思春期は精神疾患が発症しやすく,早期に適切な治療がなされない場合,学業上・対人関係上の問題や機能低下につながることが指摘されている。それにもかかわらず,心理社会的治療が十分に提供されているとは言い難い。本稿では,いくつかの精神疾患に対するエビデンスに基づく治療について,心理社会的治療を中心に紹介した。また,児童・思春期の精神疾患に対する有効性を示すエビデンスが比較的多い認知行動療法を取り上げ,実施に伴う障壁に対処するための国内外の取り組みなど,自験例を交え概観した。 臨床精神薬理 25:231-239, 2022 Key words : evidence-based treatment, mental disorders, childhood, adolescence, cognitive be havioral therapy
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【特集】 思春期患者への精神科治療と薬物療法の役割
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早期発症統合失調症の薬物療法
25巻3号(2022);View Description
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統合失調症の早期経過への注目が高まる一方,児童・青年期に発症した統合失調症への介入も重要な課題である。これまでに児童・青年期発症の統合失調症について多くのプラセボ二重盲検比較対照試験が実施され,その有効性が確認されているが,薬剤間の有意な有効性の差は認められず,低用量から中用量で有効性を示している。他方では,内分泌代謝系の副作用には脆弱である。薬剤選択に当たっては,忍容性や治療継続性を重視することが大切である。しかしながら,副作用モニタリングが十分に行われていないことも報告されており,ガイドラインの作成等が求められる。また,心理社会的治療の有用性については,数々の研究が計画されながらも十分なエビデンスがないのが現状である。本人,家族支援を含め,今後の検討が求められる。 臨床精神薬理 25:241-244, 2022 Key words : early-onset schizophrenia, efficacy, tolerability, children and adolescents -
思春期の抑うつ障害,双極性障害の薬物療法
25巻3号(2022);View Description
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思春期の抑うつ障害,双極性障害は成人と同じ概念を用いて診断されるが,思春期のそれらは成人と比較して非定型的な臨床症状を呈することが多い。薬物療法を検討するためには,抑うつや意欲減退といった抑うつ状態,また気分高揚や誇大感,観念奔逸といった躁状態を的確に捉えた臨床診断の存在が前提となる。思春期のうつ病に対する薬物療法としては,海外におけるエビデンスを参考にセロトニン再取り込み阻害薬を,自殺関連行動の発症に注意しつつ少量から開始し,臨床効果をみながら漸増することが現実的であろう。双極性障害の躁病エピソードに対しては成人と同様に,炭酸 lithium または非定型抗精神病薬が使用しやすい。抑うつエピソードに対しても非定型抗精神病薬が選択されるが,治療に抵抗性となることが多い。非定型抗精神病薬を用いる場合には,体重増加や代謝系の異常の発生に注意し定期的なモニタリングが不可欠である。臨床精神薬理 25:245-252, 2022 Key words : bipolar disorder, child and adolescent, major depressive disorder, pharmacological treatments, monitoring schedule -
ひきこもり・不登校と精神科薬物療法と心理社会的治療
25巻3号(2022);View Description
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不登校・ひきこもりは疾患ではなく,状態像である。また,不登校の一部にはひきこもりと親和性が高い一群があり,ひきこもりは子どもから成人までの広い年齢層に生じる社会現象である。これらは,個々によって多様性があり,治療・支援・介入には,多角的な評価が必要となる。その多軸評価に基づき,支援者は親支援・子ども支援をおこないながら,不登校・ひきこもりからの回復に伴走していく。また,評価の際に,精神疾患が診断された場合は,ひきこもり支援に並行して,精神疾患への治療がおこなわれることとなる。神経発達症を除く精神疾患で,主なものとして不安症と抑うつ障害があげられる。本稿では不登校・ひきこもりの評価,心理社会的介入,不安症の子どもへの薬物療法について述べた。 臨床精神薬理 25:253-258, 2022 Key words : pharmacotherapy, psychosocial treatment, withdrawal, school refusal, anxiety dis order -
自傷を繰り返す青年に対する精神療法と薬物療法
25巻3号(2022);View Description
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青年において自傷はありふれた行動であり,児童青年精神科の臨床場面では自傷がよく見られる。自傷はさまざまな精神障害を背景としており,臨床家は自傷の機能的アセスメント,医学的アセスメントを行い,自傷を精神療法で治療する必要がある。自傷そのものに有効であることが判明した向精神薬はまだ存在しないが,自傷の背景となる精神障害に対しては,うつ病に対する抗うつ薬,双極性障害に対する気分安定薬や抗精神病薬,注意欠如・多動症に対する抗 ADHD 薬など,その障害に対して有効性が報告された向精神薬が選択肢となる。DSM5 や ICD11 のような精神障害分類体系に含まれる諸概念を全体として理解し,臨床で偏りなく適用することが治療の成功につながると考えられる。臨床精神薬理 25:259-265, 2022 Key words : adolescent, self injury, self harm, psychotherapy, pharmacotherapy -
インターネット依存・ゲーム障害の現状と薬物療法の役割
25巻3号(2022);View Description
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今やインターネットやゲームは日常生活において当たり前にあるものになっているが,これらの過剰な没頭が社会的問題にもなっており,精神科医療現場においてもインターネット依存,ゲーム障害に関する相談も多くなってきている。特にゲーム障害は ICD 11 の診断基準に収載されることが決まった。現在,誰もがインターネットやゲームに没頭する可能性はあるが,依存状態に陥ると身体的・精神的影響が出現することが指摘されており,精神疾患が合併することも少なくない。そのため,医療現場では適切な状態像の把握と治療を行う必要がある。治療として,認知行動療法などの心理・精神療法や入院治療なども選択されるが,薬物療法に関する有効性の報告もあり,治療選択肢の 1 つとして検討が進んでいる。インターネット依存やゲーム障害の問題を抱える思春期患者に対し,薬物治療も含めた包括的治療が必要である。 臨床精神薬理 25:267-276, 2022 Key words : Internet addiction, online game, portable game, gaming disorder, smartphone -
児童・思春期における強迫の特徴と治療
25巻3号(2022);View Description
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強迫症は児童・思春期に多い精神疾患の 1 つである。成人してから受診した患者であっても思春期からその兆候があったことが多い。強迫症に対する治療として認知行動療法(cognitive behavioral therapy : CBT)とセロトニン再取り込み阻害薬(Serotonin Reup take Inhibitors : SRI)の有効性は実証されているが,一度治療すれば再燃や再発なく一生を全うできるわけではない。強迫症の現れ方,随伴する問題はそれぞれの時期・事例で異なり,診療もそれに合わせて変えていく必要がある。本論文では強迫症の特徴について成人期と比較しながら,児童・思春期の特徴をまとめた。また治療の実際については強迫症を専門にしている原井クリニックにおいて初診時に 20 歳未満であった患者に対して実際に行った治療内容をまとめた。9 歳以下から年代ごとに分けて,時期ごとの診療を解説することで実際に強迫症を見る機会がある臨床家の参考になるようにした。臨床精神薬理 25:277-284, 2022 Key words : obsessive-compulsive disorder, adolescence, behavior therapy, pharmacotherapy, review -
心的外傷や愛着の問題をかかえた子どもの治療と薬物療法の役割
25巻3号(2022);View Description
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児童虐待件数は増加の一途をたどり,平成 8 年に 4,102 件だったものが,令和元年には 193,780 件とこの四半世紀に 50 倍近くに増加している。そのような時代的変化にあわせ,臨床家がトラウマ・インフォームドな視点を高めていくことは避けては通れなくなってきている。そしてトラウマを理解するためには,愛着システムの理解も必須であり,それらが合わさった病理である “ 愛着トラウマ ” という視点を臨床に用いることは有益であると考えられる。そのうえで,子どもの治療的な要素について評価し,順次介入していくことが,この領域の児童思春期の治療の基本的枠組みと言える。薬物療法に関しては,感情調整障害に準じた薬物治療,ADHD に準じた薬物治療,PTSD 治療に準じた薬物療法などが選択肢にあがるが,実際にはまだ十分なストラテジーが出来上がっているとは考えにくく,むしろ「薬物治療をしないこと」も念頭に入れておくべきである。臨床精神薬理 25:285-293, 2022 Key words : child abuse and neglect, attachment, trauma, PTSD -
摂食障害治療に果たしうる薬物療法の役割――摂食障害の病型や併存症を踏まえて
25巻3号(2022);View Description
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摂食障害治療の目標は食行動の正常化と歪んだ認知の修正であり,その背景にある心理社会的な要因へのアプローチが重要な鍵となる。治療の中心はあくまでも精神療法であり,薬物療法において単独で十分な効果をもつ薬剤は存在しない。しかし,米国食品医薬品局から摂食障害の治療薬として fluoxetine と lisdexamfetamine の 2 剤が承認されたことで,さらに新たな治療の選択肢が増えることが期待されている。先行研究では,神経性やせ症への第二世代抗精神病薬,神経性過食症への選択性セロトニン再取り込み阻害薬,過食性障害への注意欠如・多動症治療薬の有効性など,病型ごとに異なる治療選択が提案されている。また,併存症においては過食型の摂食障害は注意欠如・多動症,摂食制限型の摂食障害は自閉スペクトラム症との関連性が示唆されており,併存する神経発達症への治療が食行動異常を改善させたという報告がされている。摂食障害の病型や併存症は,背景をなす病態による相違を反映している可能性があり,薬物療法の選択に示唆を与えるものと考えられる。 臨床精神薬理 25:295-304, 2022 Key words : eating disorders, pharmacotherapy, neurodevelopmental disorders, ADHD, lisdex amfetamin -
思春期における睡眠の問題および睡眠障害:見立てと治療
25巻3号(2022);View Description
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子どもの睡眠は,成長とともに劇的に変化し,その変化は個人差が大きいのが特徴である。加えて,環境要因も大きく関与するため,睡眠の問題は個々の子どもに合わせて考える必要がある。思春期・青年期では,様々なライフイベントのため,睡眠を含めた生活習慣の問題は後回しになりがちで注意が必要である。睡眠の問題においては,どこまでが思春期の睡眠の特徴で,どこからが病気の範疇なのかを考えなければいけない。加えて,思春期になると保護者はわが子の睡眠の状態を把握していないことも多いため,子ども本人との対話による情報の収集が必須となる。このように子どもの睡眠の問題は,睡眠の内容だけでなく環境要因も把握した上で評価し,大人以上に子ども自身が取り組める方法を共に考える姿勢が重要である。本稿では思春期におこりうる睡眠の問題について触れ,睡眠障害の薬物療法を含めた治療について概説したい。臨床精神薬理 25:305-313, 2022 Key words : sleep, adolescents, sleep-wake disorders, hypersomnia, sleep hygiene education -
非行少年の背景病理と精神科医療の果たしうる役割
25巻3号(2022);View Description
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長崎大学病院地域連携児童思春期精神医学診療部は,長崎県で起こった重大な少年事件の振り返りのもとに設立されたという経緯があり,児童相談所や家庭裁判所へ嘱託医として医師を派遣しているため,比較的「非行少年」とのかかわりが多い。本稿では,非行少年の背景病理を,神経発達症の傾向,愛着形成・トラウマ体験などの問題から考察する。また反抗挑発症,素行症を中心に,初期対応・診断・薬物療法を含めた介入方法などについて概説する。 臨床精神薬理 25:315-322, 2022 Key words : juvenile delinquents, Oppositional defiant disorder, Conduct disorder -
子どもや教員に精神保健をどう伝えるか――私の実践報告
25巻3号(2022);View Description
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精神保健に関して子どもに教育することは自殺防止,さらに自分や友人の精神疾患の予防等において重要である。子どもへの教育にはさまざまな配慮すべきポイントがある。さらに子どもへの教育を直接行う教師に対する支援を行うことも大切であるが,その際,教員の幅広いニーズに丁寧に応じていく姿勢が医療側に求められる。筆者の行ってきた実践を参考までに紹介する。 臨床精神薬理 25:323-328, 2022 Key words : mental health education, school, teaches, children
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シリーズ
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臨床に役立つ基礎薬理学の用語解説 第 29 回 Kalirin(KALRN):シナプス機能の重要な調節因子
25巻3号(2022);View Description
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原著論文[二次出版]
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日本人の双極Ⅰ型障害患者を対象とした lurasidone の長期投与試験:52 週間非盲検試験
25巻3号(2022);View Description
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本試験では,日本人の双極 I 型障害患者を対象に lurasidone(lithium 又はバルプロ酸の併用の有無を問わない)の長期投与(52 週間)が安全性及び症状に及ぼす影響を評価した。なお,本論文は[Int. J. Bipolar Disord. 2021]で出版された論文を日本語翻訳した二次出版論文である。方法:非盲検で lurasidone の可変用量(20~120mg/日)を投与する本試験の対象は,lura sidone の先行する 6 週間二重盲検プラセボ対照比較試験を完了し,直近/現在のエピソードが抑うつであった患者(抑うつ群)と,継続試験に直接登録されることに同意した直近/現在のエピソードが躁病,軽躁病又は混合性であった患者(非抑うつ群)を組み入れた。有害事象及び安全性の評価尺度として,治験薬投与中に発現した有害事象,バイタルサイン,体重,心電図,臨床検査値,自殺リスク及び錐体外路症状の評価尺度などを用いた。症状の評価尺度としては,Montgomery Åsberg うつ病評価尺度(MADRS)及びYoung 躁病評価尺度(YMRS)などを用いた。結 果:Lurasidone の 投 与による主な有 害 事 象は,アカシジア(30.7%),上 咽 頭 炎(26.6%),悪心(12.1%),傾眠(12.1%)であった。脂質及び血糖値の変化はごくわずかであった。体重の平均変化量は,非抑うつ群で +1.0kg,抑うつ群で -0.8kg であった。先行の 6 週間試験でプラセボが投与されていた抑うつの被験者では,MADRS 合計スコアが継続試験のベースラインからエンドポイントまでに平均(SD)2.0(14.7)ポイント低下した。先行の 6 週間試験で lurasidone を投与されていた抑うつ群の被験者では,抑うつ症状の改善が維持されていた。非抑うつ群では,YMRS 合計スコアの経時的な低下がみられた。限界:本試験での限界は,対照群を設けていないこと,投与を盲検化していないこと,52週間の試験を完了した被験者の割合が 49.7%であったことである。結論:日本人の双極性障害患者に対する lurasidone 20~120mg/日の長期投与は,先行の6 週間試験でも投与を受けていた抑うつ群の被験者で抑うつ症状の改善を維持し,新たに組み入れた直近/現在のエピソードが躁病,軽躁病,混合性であった被験者群では躁症状の改善をもたらした。体重及び代謝パラメータにはほとんど変化が認められなかった。臨床試験登録:JapicCTI-132319, clinicaltrials.gov - NCT01986114臨床精神薬理 25:333-349, 2022Key words : lurasidone, bipolar disorder, atypical antipsychotic
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