臨床精神薬理

Volume 25, Issue 4, 2022
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【展望】
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統合失調症患者の mortality gap を考える――理由を考え対処法に至る
25巻4号(2022);View Description
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100 年近く前より統合失調症患者の死亡率は一般人口と比較して短いことが認識されており,自殺の多さは E.Kraepelin や E.Bleuler によって既に指摘されている。また統合失調症患者では突然死が多く代謝性疾患等多くの身体疾患への罹患率が高いことが知られており,これらの一部は抗精神病薬使用と関連している。一方で抗精神病薬の服用は患者全体で見た場合には死亡率を低下させる。この事実は,当然のことであるが全体としてみれば良いことが目の前の患者に対して良いことかはわからないことを示しており,長らく個人の危険性予測が期待されている。しかし過去統合失調症患者は結核による死亡率が一般人口より高いことが問題となっていた時期もあり,その時期一般人口でも結核で死亡する率が高かったことを考えると,mortality gap の抜本的な解決には合併する疾患そのものの克服法の開発が求められるようにも思われる。 臨床精神薬理 25:359-369, 2022 Key words : mortality gap, anti-psychotics, suicide, sudden death, personal causes
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【特集】 統合失調症患者の身体的脆弱性:精神科薬物治療と寿命の短縮
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統合失調症の自殺および向精神薬との関係
25巻4号(2022);View Description
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統合失調症患者は,一般人口と比較して自殺の危険性が高い。統合失調症患者の自殺の危険因子には,自殺未遂歴や自殺の家族歴といった一般的なものの他,陽性症状や病識の獲得などといった特異的なものがある。また,精神病症状だけでなく抑うつ症状も自殺に関係すると言われる。Clozapine は,統合失調症患者の自殺を予防する効果があることが示されているが,他の抗精神病薬における統合失調症患者の自殺予防効果は十分に明らかにされていない。統合失調症患者の自殺を予防するためには,まず危険因子を把握し,患者の心理・精神病理を理解することが大切である。薬物療法においては,抗精神病薬の選択以上に,副作用やアドヒアランスに注意することが重要である。臨床精神薬理 25:371-376, 2022 Key words : schizophrenia, suicide, antipsychotic, clozapine -
統合失調症に合併しやすい循環器系疾患と抗精神病薬治療の影響
25巻4号(2022);View Description
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統合失調症患者は,平均余命が健常者と比べて短く,早期死亡の原因として,心血管疾患による死亡が最も多い。また,統合失調症の治療薬である抗精神病薬の服用により,心臓突然死が増加する。統合失調症に合併しやすい循環器系疾患として,虚血性心疾患や,clozapine 使用による心筋炎・心筋症,そして,心伝導系の障害による致死的不整脈があげられる。特に致死的不整脈の予測因子として心電図上の QT 間隔延長があり,抗精神病薬の投与により用量依存性に延長するとされている。一方で,QT 間隔は不完全な指標であることから,QT 間隔よりも鋭敏な指標が求められ,QT dispersion や T wave peak to-end などの心電図上の指標や心拍変動が注目されている。本稿では,統合失調症に合併しやすい循環器系疾患や抗精神病薬の循環器系へ与える影響,心臓突然死予防のための様々な予測因子について概説する。 臨床精神薬理 25:377-382, 2022 Key words : schizophrenia, cardiovascular disease, cardiac sudden death, antipsychotics, QT prolongation -
統合失調症における糖脂質代謝障害の発症リスクに対する生物学的脆弱性と抗精神病薬治療の影響
25巻4号(2022);View Description
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統合失調症患者において,メタボリック症候群や 2 型糖尿病の合併がしばしば認められ,心循環器系疾患の罹患につながることで,一般人口に比べて短い平均余命の原因になっている可能性がある。メタボリック症候群や 2 型糖尿病の発症の誘因として,第二世代抗精神病薬の服用が注目されているが,統合失調症では,両合併症と共通した生物学的脆弱性やそれと関連した病態メカニズムを有しており,その他にも食習慣や生活様式などの様々な環境因子がそれらと関係している。抗精神病薬の副作用としてメタボリック症候群や 2 型糖尿病の発症を捉えると,様々な交絡因子が複雑に絡み合っているがゆえに,合併についての大きな個人差が生まれている可能性がある。したがって,これらの合併症の出現を予測することは容易ではなく,どの抗精神病薬を用いていても,注意深い血糖モニタリングを継続することが必要になると考えられる。 臨床精神薬理 25:383-389, 2022 Key words : antipsychotic, diabetes, metabolic syndrome, schizophrenia, vulnerability -
統合失調症における locomotive syndrome/sarcopenia と向精神薬治療の影響
25巻4号(2022);View Description
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サルコペニア sarcopenia やロコモティブシンドローム locomotive syndrome といった身体機能の低下は ADL(activity of daily living)だけではなく健康寿命や生命予後へも影響を与え,精神疾患や向精神薬使用との関連も指摘されている。統合失調症とサルコペニア・ロコモティブシンドロームとの関連について直接の報告は少ないが,それらのリスク要因となる身体的低活動,栄養障害,骨粗鬆症,骨折などは統合失調症患者で多いことが報告されており,症状に加えて生活・行動習慣,栄養状態,抗精神病薬の影響など様々な要因が影響を与えていると考えられる。統合失調症の経過は長期にわたるため,治療に際しては症状だけではなく生活習慣や栄養,体重,運動量などに目を向けることも重要である。また,抗精神病薬による薬物療法では過鎮静,肥満やメタボリックシンドローム,パーキンソニズムなどをできるだけ引き起こさないことに留意すべきである。臨床精神薬理 25:391-396, 2022 Key words : locomotive syndrome, sarcopenia, schizophrenia, antipsychotics -
統合失調症における凝固系の脆弱性と抗精神病薬治療の影響
25巻4号(2022);View Description
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統合失調症患者の治療として抗精神病薬が使用され,これにより静脈血栓塞栓症の発症のリスクが増加することがよく知られている。抗精神病薬による血栓発生の機序には様々な仮説が発表されており,最近では高プロラクチン血症が活性化凝固マーカーの上昇と静脈血栓塞栓症の発症に関連していることを示す報告もある。しかし,抗精神病薬の直接の薬理作用で静脈血栓塞栓症が誘起されるのか,鎮静作用等を介した間接的な影響で誘起されるのか等,未だに解明されていない部分も多い。また統合失調症の病因に凝固経路の調節障害,特に組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)活性およびプロテイン S 活性が関与しており,薬剤の投与にかかわらず疾患自体によって静脈血栓塞栓症の発症リスクが増加することを示す研究もある。本稿ではこれらとともに,身体拘束と静脈血栓塞栓症の関連性や,静脈血栓症の予防や診断,治療に関しても概説する。臨床精神薬理 25:397-403, 2022 Key words : schizophrenia, antipsychotic medication, venous thromboembolism, deep venous thrombosis, pulmonary thromboembolism -
統合失調症と呼吸器疾患:薬理学的視点を中心に
25巻4号(2022);View Description
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統合失調症治療では,抗精神病薬の継続治療が必要となることが多い。統合失調症患者に薬物療法を行う際には,抗精神病薬の有効性の評価をするとともに,長期内服の視点から副作用を評価する必要がある。抗精神病薬以外の向精神薬が併用されることも多く,それらの薬剤の影響についても考える必要がある。臨床現場では抗精神病薬投与中の患者が誤嚥や嚥下機能低下に伴うトラブルを起こすことをしばしば経験するが,教科書などの中では呼吸器系の副作用に関する記述は,錐体外路症状や代謝系副作用,内分泌系副作用,心血管系副作用と比べると乏しい。統合失調症患者は,喫煙率が高いこと,食行動の特性などから嚥下機能障害を来しやすい。また抗精神病薬やその他の併用薬によって嚥下機能が低下しやすい。実際に,統合失調症患者では肺炎や COPD,COVID-19 罹患率が高いことが知られている。今後は,統合失調症患者の呼吸器疾患に対するデータ集積や薬物療法の影響について検討することで,抗精神病薬の調整や生活スタイルへの介入などで呼吸器疾患予防を行っていくことが望まれる。 臨床精神薬理 25:405-411, 2022 Key words : schizophrenia, antipsychotics, respiratory disease, swallowing difficulties -
統合失調症の病因および病態における消化管の関連性について
25巻4号(2022);View Description
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統合失調症の病因および病態には遺伝的要因と環境的要因が関与しているが,その中でも免疫機序は双方との相関を有していると考えられている。体内最大の免疫器官でもある消化管と統合失調症の関連性を総説する上で,本稿では特に,脳腸相関に重点をおいて解説する。腸内細菌叢の恒常性破綻が全身炎症と中枢神経系の局所炎症に関与することは近年のトピックスでもある。次に,統合失調症に特徴的な消化器疾患に関して取り上げるが,先行研究は少なく,本稿では悪性腫瘍を主体に取り上げ,統合失調症の生活習慣の乱れや医療アクセスの不十分さとの関連を考察する。最後に,統合失調症治療薬としての向精神薬と消化管有害事象に関してまとめる。消化管有害事象の中で,便秘は日常診療上最も頻度が高く,増悪するとイレウスや消化管穿孔などの致死性を有する。一般的な管理や精神科でまずは行うべき対処法を中心にまとめる。 臨床精神薬理 25:413-420, 2022 Key words : schizophrenia, brain-gut interaction, digestive organ, immunity system, psychotropic drug
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シリーズ
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原著論文[二次出版]
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入院環境,施設環境における suvorexant から lemborexant への変薬による有用性の検討
25巻4号(2022);View Description
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オレキシン受容体拮抗薬である suvorexant(SUX)は不眠障害治療に対する有効性が報告されているが使用制限も多い。そのため lemborexant(LEM)は新たな睡眠薬として期待される。本研究は SUX 内服中の患者から LEM に変薬した患者を,入院群と施設群に分類し,変薬してから 12 週間後まで比較検討した。SUX 内服例のうち,LEM へ変薬した例は 51 例で,検討対象は 43 例だった。不眠障害の改善に入院群と施設群の有意な違いは認められなかったが,入眠困難と中途覚醒においては,いずれの環境下においても改善効果を認める可能性も考えられた。LEM の方がオレキシン 2 受容体により高い阻害活性を示すことが改善効果に寄与したと考えられる。また重篤な副作用の発現はなく,SUX 内服中の不眠障害を呈している患者に対し,LEM への変薬は改善効果,安全性が期待できるため,選択肢の一つとして有用である可能性が示唆された。臨床精神薬理 25:423-434, 2022 Key words : suvorexant, lemborexant, insomnia, sleep disorders, elderly facility -
統合失調症患者を対象とした blonanserin 経皮吸収型テープ製剤の適用部位皮膚関連有害事象の検討――一般使用成績調査の結果と追加解析
25巻4号(2022);View Description
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抗精神病薬の新たな投与経路/剤型として,2019 年に blonanserin の経皮吸収型テープ製剤が医療現場に導入された。抗精神病薬経口剤では発現しない適用部位の皮膚症状(光線過敏症を含む)は,医薬品リスク管理計画でも重要な潜在的リスクとして挙がっており,「日常診療下での適用部位の皮膚関連有害事象(光線過敏症を含む)の発現頻度,重篤度,発現リスク因子(不適正な使用との関連等)などを検討する」ために一般使用成績調査を実施した。今般,一般使用成績調査の結果概要に加え,適用部位の皮膚関連副作用への対応や blonanserin テープ製剤の貼付中止に関連する情報についても追加解析により検討した。Blonanserin の経皮吸収型テープ製剤は日常診療下で適正に使用されれば,適用部位の皮膚関連有害事象が発現しても重篤に至る可能性は低く,治療要否の早期判断や適切な治療で貼付継続が期待できると考えられた。 臨床精神薬理 25:435-454, 2022 Key words : blonanserin, transdermal patch, antipsychotics, schizophrenia, post-marketing sur veillance
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