Volume 25,
Issue 10,
2022
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【展望】
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臨床精神薬理 25巻10号, 1059-1069 (2022);
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精神疾患に伴う不眠や過眠(眠気),リズム障害(夜型生活や昼夜逆転)は精神症状の一部,ストレス性,引きこもりに続発したものだと考えがちだが,実際にはさまざまな睡眠障害が高頻度に併存していることが指摘されている。これら睡眠障害は患者の社会的機能,気分,認知,QOL に広範な悪影響を及ぼす。本稿では精神疾患患者で頻度が高い睡眠障害について概観し,各論につなげる。精神疾患に伴う睡眠症状に対しては,睡眠薬に加えて,抗精神病薬,抗うつ薬など催眠鎮静作用の強い向精神薬が頻用される。たしかにα1, 2,H1,5-HT2 受容体遮断作用などを有する向精神薬の中には,主観的催眠作用,睡眠ポリグラフ上での入眠潜時の短縮,総睡眠時間の延長,中途覚醒時間の短縮などの睡眠調節効果が確認されているものもある。しかし,それらの知見のほとんどは短期服用時の効果を見た小規模な(時には健常被験者を対象とした)試験によるものであり,不眠症患者を対象にして中長期服用時の不眠改善効果と認容性を検証した臨床試験はほとんどない。我々が経験的に行っている催眠鎮静系向精神薬による睡眠調節は必ずしもエビデンスレベルの高い臨床データに裏打ちされたものではないことに留意して,実際の投薬に当たってはその益と害のバランスを見極める慎重に用いる必要がある。臨床精神薬理 25:1059-1069, 2022 Key words : mental disorders, sleep disorders, psychotropics, antipsychotics, anitidepressants, hypnotics
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【特集】 「睡眠」に着目した向精神薬の作用再考
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臨床精神薬理 25巻10号, 1071-1077 (2022);
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不眠症(不眠障害)は罹患頻度の高い睡眠障害のひとつであり,一般成人のうち約2~3 割が入眠困難,中途覚醒,早朝覚醒等を含む何らかの不眠症状を有し,約 1 割が不眠症に該当することが報告されている。「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」においては,治療が必要な不眠症に対してはまず睡眠衛生指導を行ったのち,リスク・ベネフィットを評価した上で薬物療法を検討するという治療アルゴリズムが提示されている。これまで,不眠症に対する睡眠薬治療は,ベンゾジアゼピン受容体作動薬が主流であったが,近年オレキシン受容体拮抗薬やメラトニン受容体作動薬といった,新たな作用機序を有する睡眠薬が次々と上市されている。それぞれの睡眠薬の特徴を十分に理解し,個々の患者におけるリスクとベネフィットを検討した上で,患者と共同意思決定して治療選択を行うことが求められている。 臨床精神薬理 25:1071-1077, 2022 Key words : insomnia, hypnotics, benzodiazepine receptor agonists, orexin receptor antago nists, melatonin receptor agonist
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臨床精神薬理 25巻10号, 1079-1085 (2022);
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統合失調症患者は高頻度で不眠を呈し,不眠の併発は QOL や臨床転帰,自殺との関連が強く示唆されている。統合失調症の不眠はレム潜時の短縮やレム睡眠量の減少,また Stage4 の減少や中心・頭頂領域の紡錘波の減少が特徴であり,概日リズム障害も伴いやすい。抗精神病薬は幻覚や妄想などの陽性症状,陰性症状や認知機能への効果だけでなく,睡眠や鎮静に対しても有用な効果をもたらす。本稿は抗精神病薬の持つ受容体特性に着目し,PSG 研究の結果を中心に統合失調症患者に対する各抗精神病薬の不眠への効果について概説する。統合失調症の不眠がその後の臨床経過に影響を及ぼすことを考慮すると,受容体特性を踏まえた上での抗精神病薬の選択は臨床上重要な視点であると考えられる。 臨床精神薬理 25:1079-1085, 2022 Key words : schizophrenia, REM sleep, non-REM sleep, polysomnography
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臨床精神薬理 25巻10号, 1087-1095 (2022);
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抗うつ薬は,睡眠深度,持続性,REM 睡眠活動に影響を及ぼし,しかも薬剤間でこれらの作用がかなり異なっていることがわかっている。今日,慢性不眠症ないし不眠症状の強いうつ病患者に対して,主に睡眠維持障害の改善を目的として鎮静性抗うつ薬が用いられる機会が増えてきているが,その使用にあたっては,用量とタイミングに十分配慮する必要がある。また,不眠症以外の睡眠障害の中には,ナルコレプシーのように抗うつ薬が治療上重要な役割を占める疾患が存在する一方で,抗うつ薬の使用により悪化リスクを有する REM 睡眠行動障害,restless legs 症候群のような疾患も無視できないし,抗うつ薬連用による体重増加が病態悪化に結びつく可能性のある閉塞性睡眠時無呼吸のような疾患にも注意すべきであろう。 臨床精神薬理 25:1087-1095, 2022 Key words : antidepressant, chronic insomnia, narcolepsy, obstructive sleep apnea, REM sleep behavior disorder
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臨床精神薬理 25巻10号, 1097-1104 (2022);
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てんかんでは,発作抑制のためにまず薬物療法が行われる。抗発作薬はてんかん患者の睡眠構造に影響を与え,日中の過度の眠気を引き起こす可能性があるが,その影響や程度は抗発作薬ごとに様々である。抗発作薬の影響は健常者とてんかん患者で異なる可能性がある。てんかん患者でみられる睡眠に関する問題は,てんかん発作そのものの影響や,併存する原発性の睡眠障害の影響がありうるが,これらもまた抗発作薬の影響を受ける。抗発作薬は様々な形でてんかん患者の睡眠に影響を与えうることや,睡眠障害はてんかんの併存症として頻度が高くその影響が大きいことから,てんかんの治療を行う際には,睡眠障害にも留意する必要がある。 臨床精神薬理 25:1097-1104, 2022 Key words : sleep-wake disorders, epilepsy, antiseizure medicine (anti-epileptic drug, anticon vulsant), comorbidities, sleep architectur
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臨床精神薬理 25巻10号, 1105-1111 (2022);
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注意欠如・多動症(attention-deficit hyperactivity disorder:ADHD)や自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)などの神経発達症では,睡眠の問題が併存することが多いと考えられており,夜間の睡眠のみならず,日中の活動性や眠気にも関連することが知られている。その原因は多様であるが,治療に使われる ADHD 治療薬が睡眠に影響することも少なくない。2022 年現在,本邦で使用可能な ADHD 治療薬は 4 種類であり,2 剤を併用して用いる機会も増えた。我々は,それぞれの治療薬および併用した場合の特徴や副作用,副作用出現時の対処方法を知る必要がある。本稿では ADHD 治療薬の薬理機序から睡眠に関する効果,鎮静系副作用を中心とした有害事象について概説する。臨床精神薬理 25:1105-1111, 2022 Key words : attention-deficit hyperactivity disorder, pharmacotherapy, psychostimulant, guan facine, lisdexamfetamine
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臨床精神薬理 25巻10号, 1113-1119 (2022);
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パーキンソン病において睡眠障害は高率に合併する主要な非運動症状である。睡眠障害の原因は多彩であり,主に夜間の運動・非運動症状により睡眠の分断,中途覚醒や早朝覚醒をきたす。レストレスレッグス症候群は入眠困難の原因となり,レム睡眠行動異常症は夜間の異常行動により睡眠の分断を引き起こす。日中の過度の眠気や突発的睡眠といった日中の症状もみられる。パーキンソン病治療薬であるドパミン作動薬は用量により睡眠や覚醒に促進・抑制的に作用する。本稿ではパーキンソン病でみられる代表的な睡眠障害および治療薬の睡眠への影響について述べる。 臨床精神薬理 25:1113-1119, 2022 Key words : Parkinson’s disease, levodopa, dopamine agonist, non-dopaminergic drugs, sleep disturbances
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臨床精神薬理 25巻10号, 1121-1129 (2022);
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睡眠時随伴症(パラソムニア)とは睡眠中や睡眠の前後で出現する望ましくない身体的なイベントの総称である。パラソムニアは「ノンレム関連睡眠時随伴症」「レム関連睡眠時随伴症」「その他の睡眠時随伴症」の 3 つに大きく分類されている。ノンレム関連睡眠時随伴症の疾患群はいわゆる「寝ぼけ」と呼ばれる状態を基盤としつつ複雑な行動を呈し,その行動様式により「睡眠時驚愕症」(いわゆる夜驚),混乱状態を呈する「錯乱性覚醒」,もうろう状態で徘徊する「睡眠時遊行症」,寝ぼけ食いを呈する「睡眠関連摂食障害」などの疾患に下位分類されている。レム関連睡眠時随伴症には「レム睡眠行動障害」「反復性孤発性睡眠麻痺」(いわゆる金縛り),「悪夢障害」などの疾患群が含まれる。これらのパラソムニアは時に薬剤誘発性の睡眠障害として生じることもあり,せん妄や睡眠関連てんかんなど夜間の異常行動を呈する疾患との鑑別を要する。臨床精神薬理 25:1121-1129, 2022 Key words : parasomnias, disorders of arousal, sleep related eating disorder(SRED), REM sleep behavior disorder(RBD), parasomnia due to a medication or substance
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シリーズ
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臨床精神薬理 25巻10号, 1130-1131 (2022);
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【特別寄稿】
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臨床精神薬理 25巻10号, 1133-1148 (2022);
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1817 年に単離されたリチウムが前近代的な医学的使用の報告がされる中で,オーストラリアの John Cade は 1949 年に 19 例の躁病,躁状態の患者を対象にリチウムの抗躁作用を近代的手法によって証明した。これが世界最初の近代的な向精神薬の臨床試験の報告である。同国の Noack と Trautner の報告が続いたものの,世界的にはさほど注目されずに経過していたが,これが遠く離れたデンマークの Mogens Schou の目に留まり,1954 年の最初の報告から始まった獅子奮迅ぶりの活動の下に,リチウムはその予防効果を含めて双極性障害の治療の中心となっていった。開発の遅れていた米国でも 1970 年には FDA の承認を受けている。わが国では,1960 年代半ばから偉大な先人たちの自主研究の形で始まり,その臨床的有用性が検証されて,1980 年には承認された。現在もなお,リチウムは世界中の双極性障害の治療の中心に位置付けられており,golden standard の地位を維持している。古くて新しいリチウムの開発物語をここに紹介した。臨床精神薬理 25:1133-1148, 2022 Key words : lithium, John Cade, Mogens Schou, anti-manic effect, prophylactic effect