臨床精神薬理

Volume 26, Issue 3, 2023
Volumes & issues:
-
【展望】
-
-
精神科臨床における AI 活用の可能性と課題――薬物療法を含めて
26巻3号(2023);View Description
Hide Description
人工知能技術(artificial intelligence:AI)の進展は著しく,医療分野においても AIを用いた研究は年々盛んになっており,製品化も進んでいる。我が国でもすでに複数の AIを用いて開発されたプログラム医療機器が承認され,実臨床で使用され始めている。診断および重症度評価に有用な客観的指標となるバイオマーカーに乏しい精神科領域においては,AI を活用することによる病態解明,診断支援,治療薬選択などへの期待は大きいが,未だその実用化には至っていない。目下行われている研究がスムーズに社会実装されていくためには,規制当局からの承認や,保険収載などの観点も含めて戦略的に取り組んでいくことが求められる。本稿では,我が国における医療における AI 活用の状況について確認しつつ,精神科臨床における実用化・普及に向けた課題について整理する。臨床精神薬理 26:235-244, 2023 Key words : artificial intelligence(AI), Software as a Medical Device(SaMD), machine learn ing, medical fee, ELSI
-
-
【特集】 特集 AI(人工知能)を用いた精神科薬物療法の近未来を問う
-
-
精神科領域における AI 技術を活用した評価尺度
26巻3号(2023);View Description
Hide Description
精神科領域では精神症状の重症度評価を系統的に行うために様々な評価尺度が開発されてきたが,評価者や評価状況によって評価が変動するため,誰がいつどこで評価をしても,同じ評価面接の回答では,同じ結果が返されるような精度の高い評価尺度が求められている。近年,人工知能技術のめざましい進歩により,評価面接で得られた精神症状や,目の前で観察される患者の特異的行動や異常運動等のデータが系統的にデータとして集積され,機械学習により精度の高い回答を再現する人工知能アプリの開発が広くすすめられている。本稿では,精神疾患の重症度評価に評価尺度が用いられるようになってから精度の高い評価尺度として仕上げるためにどのような工夫が行われてきたかの歴史的変遷を紹介し,続いて精神科臨床評価面接で得られた音声データ(MADRS)や映像データ(DIEPSS)を集積して,精度の高い人工知能アプリの開発に著者が実際に関わっている事例を紹介する。 臨床精神薬理 26:245-251, 2023 Key words : rating scale, artificial intelligence, AI, MADRS, DIEPSS -
電子カルテビッグデータ分析を活用した精神科薬物治療
26巻3号(2023);View Description
Hide Description
近年,医療 DX の推進が本格化し,国民の健康増進や切れ目のない質の高い医療の提供に向けたデジタル化や保健・医療情報の利活用の推進は重要である。精神科医療でもビッグデータ活用による個々の患者の最適な治療法の効率的な探索などが期待されるが,日常診療で電子カルテに蓄積された膨大なデータに存在する多種多様な治療アプローチから最適な治療を見つけることは難しい。MENTAT®は精神科電子カルテデータ分析ソリューションであり,電子カルテ情報の自動分析と情報整理により病院全体の薬物治療の状況や注目患者群を“見える化”する。異なる医療機関の電子カルテ情報を統合しビッグデータ化すれば,更に最適な薬物治療選択が期待される。 臨床精神薬理 26:253-261, 2023 Key words : electronic medical records, healthcare digital transformation, psychiatric medica tion, big data analysis, integrated clinical dat -
創薬における AI の活用――Ulotaront の創製と TAAR1 作動薬の可能性
26巻3号(2023);View Description
Hide Description
1950 年以降製薬企業での新薬開発の成功確率は下がり続けている。その状況を打破するため,人工知能(artificial intelligence:AI)を創薬研究開発に活用する取り組みが製薬企業各社で活発に行われている。住友ファーマグループが見出した ulotaront は,現在Phase3 試験を実施中の統合失調症治療薬候補化合物である。AI を活用した in vivo フェノタイプスクリーニングアッセイがその発見に大きく貢献し,その後様々な薬理評価結果から,ulotaront が Trace amine-associated receptor 1(TAAR1)作動性という,統合失調症に対する全く新しい作用機序を示すことを見出した。本稿では,製薬産業における AI 活用事例とその有用性を概説し,ulotaront の発見の経緯や非臨床薬理プロファイル,そして今後の展望について紹介する。 臨床精神薬理 26:263-269, 2023 Key words : schizophrenia, antipsychotics, Trace amine-associated receptor 1 (TAAR1), ulo taront, dopamine D2 receptor -
統合失調症の中間表現型を用いた診断と個別化医療
26巻3号(2023);View Description
Hide Description
統合失調症の診断は疾患に特徴的な精神症状とその経過によってなされる。しかし,国際的な診断基準において 2 つ以上の疾患の診断基準を満たすことがしばしばあり,同一の診断基準を満たす患者であっても,それぞれが示す症状や機能低下は必ずしも一通りではなく,同じ治療が功を奏するとは限らない。このことは,生物学的原因が異なるサブタイプが存在することを示している。現時点では,統合失調症の個別化医療に結びつく客観的な指標を用いた診断法は無く,その開発は精神医療における緊急かつ最重要な課題である。統合失調症の中間表現型である認知機能の障害,眼球運動などの神経生理機能の異常,脳構造の異常は再現性が高く,比較的効果量が高い指標として,個別化医療に結び付く可能性のある診断マーカーの候補として研究が進められている。本稿では,認知機能,眼球運動および脳神経画像に関する研究について概説する。臨床精神薬理 26:271-277, 2023 Key words : cognitive function, eye movement, neuroimaging, intermediate phenotype, preci sion medicine -
ゲノム情報を起点とした精神疾患の病態研究と人工知能の活用
26巻3号(2023);View Description
Hide Description
疫学研究から,統合失調症,自閉スペクトラム症(ASD)の発症に遺伝要因が強く関与することが明らかになっている。近年のゲノム解析技術の進歩により,リスクとなるゲノムバリアントの同定が進み,その知見に基づいた分子病態解析や創薬研究が開始されている。本稿では,筆者らが ASD,統合失調症を対象に行ったゲノムコピー数バリアント(copy number variation : CNV)の研究を中心に紹介する。人工知能(artificial intelligence : AI)が医学領域においても活用されつつあるが,ゲノム・病態・創薬研究の分野における例について紹介する。 臨床精神薬理 26:279-283, 2023 Key words : schizophrenia, autism spectrum disorder, copy number variation, artificial intelli genc -
AI を用いたうつ病の病態解明と個別化精神医療に向けた展望
26巻3号(2023);View Description
Hide Description
うつ病を含む精神疾患の病態解明のために,罹患者と対照者のゲノム,エピゲノム,転写物,タンパク質,代謝産物等の分子レベルの情報を網羅的に把握する技術が導入されて久しい。しかし,うつ病の病態が多因子で多様性が高く,また,表現型となる診断が主観的な訴えや観察に基づくことは,依然,病態解明を困難にしている。一方,人工知能技術は,網羅的な分子解析により得られた情報から,特定の候補分子を探索するのではなく,情報全体から一定の基準で特徴を見出したり,疾病などの関心のある事象を予測したりすることを可能にする。また,罹患者の音声,体動等に関する情報をセンシング技術で集積し,人工知能技術で処理することで,うつ病に起因する言動の変化を客観的に捉える試みも進んできている。うつ病研究に人工知能技術を導入することは,病態の理解や,個人の特性に合わせて有効な治療法を提供する個別化医療技術の開発に繋がるものと期待される。 臨床精神薬理 26:285-292, 2023 Key words : artificial intelligence, machine learning, deep learning, depression, emotion -
電子カルテビッグデータの AI 解析による入院高齢患者の転倒転落の予測
26巻3号(2023);View Description
Hide Description
超高齢社会を迎え,病院内では,高齢者の医療事故が多発しており,そのなかの 1つが転倒転落である。対策として院内で発生する転倒転落を予測するチェックシート等が開発されているが,その精度は不十分であり,実用には程遠い。既存の医学研究においては,個々の要因が転倒転落に寄与するオッズ比等を算出することは可能であるが,多くの変数を組み合わせて高い精度で医療事故を予測することは不可能であった。そういった状況のなか,人工知能の医療への応用の機運が高まり,多くの領域で活用されるようになってきた。本稿では,転倒転落の現状と課題を振り返るとともに,我々が行った患者の電子カルテに含まれる膨大な情報を機械学習を用いて解析し,入院高齢患者の転倒転落を予測するシステムの開発研究の概要を紹介する。 臨床精神薬理 26:293-298, 2023 Key words : fall, prediction, AI, medical incidence, big data -
AI を用いた職域におけるメンタルヘルス支援
26巻3号(2023);View Description
Hide Description
産業保健のメンタルヘルス分野では,AI(artificial intelligence)の導入はほとんど進んでいない。厚生労働省の検討会でも産業保健における AI 技術の利用は推進すべきと考えられているが,メンタルヘルスの分野は,他の医療の分野と比較して主観的な評価が多く,AI の導入が難しい傾向にある。また,産業保健においては企業がどの程度健康管理を重要視しているかで,かけられるコストが変わり企業間での格差も生じている。他の分野と同様に AI への期待は高まっており,年々産業保健の分野で発表が増えてきたり,AI の研究会も発足したりしている。今後,AI が本格的に導入され技術が確立してくれば,ストレスチェックに応用することや,精神科医と産業医との間での情報共有の在り方などが変わってくることが予想される。本稿では,産業保健のメンタルヘルス分野に AI を導入する上での課題や今後の展望について解説する。 臨床精神薬理 26:299-304, 2023 Key words : artificial intelligence, health management, occupational health, psychiatry, stress check -
AI を用いた認知行動療法
26巻3号(2023);View Description
Hide Description
認知行動療法(CBT)において人工知能(AI)を活用する方法としては,治療的介入においてはスキルを導入したセルフケア型のアプリケーションや,チャットボットなどのプログラム,仮想現実を利用した手法などが挙げられる。さらには CBT 治療の質を担保するため,診療内容の解析やフィードバック,トレーニングでの活用などが考えうる。加えて,CBT が適しているかを判断するモデルの作成や技法の個別化などを支援することも想定される。今後,本分野はさらに発展していくと想定され,治療の効果や効率性を高めるだけでなく,均てん化にも寄与することが望まれる。臨床精神薬理 26:305-310, 2023 Key words : cognitive behavioral therapy, artificial intelligence, precision medicine -
AI を精神疾患研究に用いる際に生じる倫理的問題
26巻3号(2023);View Description
Hide Description
精神科診療への AI の導入は,医師ら医療従事者の負担軽減,診断やリスク予測の正確性の向上など,患者の福利に資するイノベーションをもたらす。他方で倫理的観点からAI 開発研究は,研究参加者の自律性の確保のため,ダイナミック・コンセントを射程に入れ,オプトアウト同意を自己情報コントロール権の観点から見直していく努力が必要である。研究開発者および医療者と患者を含む市民とが予めコンセンサスを形成する医療技術コミュニケーションが必要であり,それが顕著に要請されるのが,二次的所見・偶発的所見の問題である。偽陽性による研究参加者への負担,研究参加者の結果を知らされたくない権利の尊重,誤診の社会的リスクといった論点は,二次的所見・偶発的所見をいかに研究参加者に伝えるのかというコミュニケーションの問題へと収斂していく。十分なコミュニケーションが確保できない場合は特に,二次的所見・偶発的所見の返却に慎重になることは不合理ではない。 臨床精神薬理 26:311-316, 2023 Key words : ethics, mental disorders research, AI, autonomy, secondary findings -
AI を活用した研究成果が精神科医療に活用されるために必要なこと
26巻3号(2023);View Description
Hide Description
近年多くの分野で artificial intelligence(AI)が導入され,精神科医療においてもその導入,発展が期待されている。一方で,これらの技術が実際に役に立つ技術として活用されるためには,いくつかの課題があると考えられる。その中でも,1. AI 解析そのものの課題(ブラックボックス問題,ビッグデータ問題),2. 研究フェーズでの課題(バックグラウンドが異なる専門家同士での意思疎通の課題,アプローチの課題:仮説検証的か否か),3. 説明・フィードバックフェーズでの課題は,医療現場で AI を活用できるようになるために解決すべき課題であろう。これらの課題解決は容易ではないが,医療と AI の双方を理解する人材を育成すること,「AI 専門家」「精神医学の臨床家・研究者」「当事者・家族」がAI についてある程度の共通認識を持つことに加え,関係者間の双方向のコミュニケーションが重要であると考える。 臨床精神薬理 26:317-323, 2023 Key words : artificial intelligence, psychiatry, Big vs. Small Data, Black vs. WhiteBox, Patient and Public Involvement
-
-
シリーズ
-
-
臨床に役立つ基礎薬理学の用語解説 第 41 回 Amyloid-related imaging abnormalities
26巻3号(2023);View Description
Hide Description
-
-
症例報告
-
-
栄養療法・リハビリテーションの併用により,抗うつ薬単剤で寛解および生活機能回復に至った精神病症状を伴ううつ病性昏迷の高齢患者の 1 例
26巻3号(2023);View Description
Hide Description
精神疾患は早期の寛解が理想的であり,特に高齢患者で原疾患により栄養不良や寡動を伴っている場合は,将来的な ADL を考えても尚更である。ところが,高齢患者に対する薬物療法は,副作用の出現率の高さというリスクを伴っており,早期の回復を目指す上でジレンマに陥ることが往々にしてある。今回,数週間にわたり食事摂取不良が続き,精神病症状を伴う亜昏迷状態に至った高齢患者に対して,mirtazapine と olanzapine の併用療法を導入したものの,合併症により敢え無く中止とし,milnacipran 単剤療法に切り替えて,栄養療法・リハビリテーションと併用したところ,自宅復帰を実現することができた症例を経験した。本例を通じ,特に高齢患者の治療においては,患者の状態に併せてフレキシブルに薬剤選択を行い,栄養管理などを含めた全人的視点での治療に臨むことの重要性を再認識した。 臨床精神薬理 26:327-332, 2023 Key words : depression with psychotic symptoms, substupor, elderly patients, nutrition, disuse syndrome
-