臨床精神薬理

Volume 26, Issue 4, 2023
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【展望】
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わが国で実施された臨床試験の結果から見た抗精神病薬投与下で見られる重篤有害事象について
26巻4号(2023);View Description
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統合失調症患者の薬物治療を行う際には,しばしば,有害事象のリスクを考慮した薬剤選択を行うが,薬剤選択をする上で参考となりうる各抗精神病薬の有害事象の発生頻度に関する質の高い網羅的な文献レビューは少ない。そこで,本稿ではわが国で実施された統合失調症を対象とした市販前臨床試験において観察された重篤な有害事象,死亡,有害事象による投与中止などといったイベントの発生頻度に関する文献レビューを行って,わが国で使用可能な抗精神病薬のリスク評価を試みた。文献レビューの結果,clozapine を除く抗精神病薬による 24 週未満の短期治療では重篤な有害事象が 4.3%,死亡が 0.3%,有害事象による投与中止が 8.9%に,24 週以上の長期治療では重篤な有害事象が 9.4%,死亡が 0.8%,有害事象による投与中止が 12.4%に見られること,haloperidol と mosapramineの投与下では副作用による投与中止の頻度が比較的高いこと,perospirone の投与下では重篤な有害事象,および有害事象による投与中止の頻度が比較的少ないこと,clozapine 投与下では重篤な有害事象,および有害事象による投与中止の頻度が比較的高いことが示された。また,重篤な悪性症候群とその関連症状の出現頻度は短期治療では 0.18%,長期治療では 0.05%であること,重篤な水中毒とその関連症状は短期治療では 0.08%,長期治療では 0.16%であることが示された。 臨床精神薬理 26:343-356, 2023 Key words : antipsychotics, clinical trial, schizophrenia, serious adverse event
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【特集】 抗精神病薬・抗うつ薬にみられる重篤副作用の発症率・関連する要因
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悪性症候群の発症率・死亡率の変化と近年の知見
26巻4号(2023);View Description
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悪性症候群(あるいは神経遮断薬悪性症候群,neuroleptic malignant syndrome : NMS)は現在も向精神薬(特にドパミン遮断作用をもつ抗精神病薬)の副作用として最も重篤なものの 1 つである。向精神薬服用中の高熱,錐体外路症状,意識障害,急激な自律神経症状を主徴とし,放置すると重篤な転帰を取るため,迅速な対応が必要となる。特に抗精神病薬の開始時,増量時,変更時,あるいは抗パーキンソン病薬の中止時に起こりやすい。対応として,早期発見が肝要で,臨床症状,検査所見から悪性症候群を疑われた場合,原因薬剤を中止する。同時に,循環器・呼吸機能をモニタリングしながら全身管理および,体液・電解質の補正を行う。薬物療法は dantrolene が第一選択であり適応があるが,bromocriptine(適応外)などの併用が効果的である場合もある。抗精神病薬は第一世代から第二世代に置き換わってきており,悪性症候群の発症頻度は少なくなっているが,悪性症候群の発症の危険性や対処法に関する知見の把握は,重篤化の防止に重要である。臨床精神薬理 26:357-365, 2023 Key words : neuroleptic malignant syndrome, schizophrenia, antipsychotic, antidepressant, mortality -
遅発性ジスキネジアの発症率とリスク因子について
26巻4号(2023);View Description
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本邦では,2022 年 6 月に valbenazine が上市され,適応症の遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia : TD)が再度注目されている。TD は抗精神病薬を投与された患者の平均 25%程度に認め,日常生活や生命活動に影響を与える。しかしその疫学についての研究は少なく,各研究間で TD の有病率は幅広い。そこで本稿ではこれまでの疫学研究を中心に,その異質性や特異性について理解を深める。TD リスクは,高齢,女性,第 1 世代抗精神病薬の使用,抗精神病薬の高用量・長期使用で高く,アジア人では低い。さらに疾患間,遺伝子変異によっても差がある。本邦での研究に関しては少数で結論は限定的だが,リスク因子に関しては,これまでの報告と概ね同様の結果であった。精神科医は TD リスクについて熟知した上で薬物治療計画を立て,適切に診断や対応を行う必要があり,さらには TD の予防や早期発見に努めねばならない。 臨床精神薬理 26:367-373, 2023 Key words : tardive dyskinesia, epidemiology, side effect, risk factor, antipsychotics -
抗うつ薬・抗精神病薬による体重増加と糖・脂質代謝異常について考える
26巻4号(2023);View Description
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精神疾患の罹患者は一般人口と比べて平均余命が短く,その死因として心血管疾患の割合が高いことが報告され,背景には糖尿病やメタボリック症候群(MetS)といった心血管疾患のリスクとなる疾患の存在が疑われている。また,精神疾患の罹患に伴う生活習慣の関与に加え,向精神薬が体重増加や糖・脂質代謝異常に与える影響についての報告が行われており,精神科診療を行うにあたって薬剤の副作用を無視することはできない。本稿では抗うつ薬と抗精神病薬に関して,MetS や糖・脂質代謝異常の発症リスクと,その対処法に関する考察を行った。 臨床精神薬理 26:375-381, 2023 Key words : antidepressants, antipsychotics, weight gain, metabolic syndrome, type2 diabetes -
Clozapine 服用患者にみられる重篤副作用の発症率・関連する要因
26巻4号(2023);View Description
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Clozapine は治療抵抗性統合失調症に適応を有する薬剤であるが,無顆粒球症や心筋炎・心筋症といった,致死性の転帰をたどる危険性がある重篤副作用が存在する。Clozapine による無顆粒球症は,1%程度以下の発症率で,高齢などが危険因子としてあげられ,大半が clozapine 投与後早期に発症すると報告されているが,時間を経過して発症する例もあるため,長期間にわたる血液モニタリングが必要である。Clozapine に関連する心筋炎発症率は 1-3%程度,心筋症発症率は 1%以下の程度と,それぞれ報告されている。心筋炎・心筋症ともに特異的な検査所見はなく,臨床所見と検査所見から総合的に診断されることになる。さらに,重篤副作用ではないものの,clozapine と血液系悪性腫瘍との関連性も指摘されている。Clozapine 使用にあたっては,こうした重篤副作用の可能性を念頭に置く必要がある。 臨床精神薬理 26:383-389, 2023 Key words : clozapine, agranulocytosis, myocarditis, cardiomyopathy, side effect -
抗精神病薬・抗うつ薬にみられる QT 延長・torsade de pointes
26巻4号(2023);View Description
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QT 延長・torsade de pointes(TdP)は,抗精神病薬ならびに抗うつ薬治療に関連した重篤な副作用の一つとして知られており,見逃せば患者の生命予後にも影響する可能性がある。しかしながら,QT 延長・TdP の発症は,患者個人のリスク因子にも影響されるため予測が困難であり,各薬剤の使用頻度や処方状況の違いなどから国ごとに発症率や注意すべき点が異なってくる可能性がある。こうした背景から,QT 延長・TdP リスクを軽減するためには,種々のリスク因子の除外や定期的なモニタリングが必須であり,本邦における多剤併用の問題などの実情を踏まえることも重要である。本稿では,抗精神病薬ならびに抗うつ薬の QT 延長・TdP に関して本邦の報告も踏まえながら最新の知見について概説していく。 臨床精神薬理 26:391-402, 2023 Key words : QT prolongation, torsade de pointes, sudden cardiac death, antipsychotics, antide pressant -
抗精神病薬や抗うつ薬を服用中の人における薬剤性の低ナトリウム血症
26巻4号(2023);View Description
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低ナトリウム血症は電解質異常では最も出現頻度が高いものである。低ナトリウム血症はその人の生命予後や原疾患の転帰にも影響を及ぼすとされており,看過できない病態であるが,中には無症候性のまま経過して血液検査で偶然発見されるものもある。精神科の臨床現場でも低ナトリウム血症は珍しいものではない。抗うつ薬や抗けいれん薬,抗精神病薬などによる薬剤性の SIADH や多飲症に続発する水中毒などで低ナトリウム血症を来すことが知られている。本稿では,抗うつ薬と抗精神病薬の副作用としての SIADHによる低ナトリウム血症の頻度や特徴についてと多飲症と向精神薬との関連について,これまでに報告された文献などをもとに考察した。臨床精神薬理 26:403-408, 2023 Key words : antipsychotics, antidepressants, hyponatremia, water intoxication, SIADH -
セロトニン症候群の発症率と発症に関する要因
26巻4号(2023);View Description
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セロトニン症候群は,セロトニン作動性薬の開始,増量または追加後,数時間から1 日以内に始まる神経筋,自律神経および精神状態の三徴候を呈する症候群である。発症率の詳細は不明であるが,早期にセロトニン作動性薬を中止すれば基本的には後遺症なく速やかに軽快し,入院に至る重症例はごくまれであると考えられている。セロトニン症候群が引き起こされる要因としては,原因となる薬として海外で抗うつ薬として使用されている monoamine oxidase inhibitor の報告が最も多く,ほとんどの場合で他のセロトニン作動性の薬との併用が行なわれている。個人の要因としては,セロトニン受容体のサブタイプである 5-HT2A 受容体およびセロトニン代謝に関連する cytochrome p450(CYP)の遺伝子多型の関与が指摘されている。また,過量服薬が原因とされる報告も多く,多剤併用の場合には薬物相互作用が関連している可能性もある。 臨床精神薬理 26:409-416, 2023 Key words : serotonin syndrome, serotonin toxicity, monoamine oxidase inhibitor, serotonin reuptake inhibitor, polymorphism -
抗うつ薬服用中にみられる躁転
26巻4号(2023);View Description
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抗うつ薬服用中にみられる躁転頻度について,インタビューフォーム,作用機序,双極性うつ病,単極性うつ病それぞれについての文献をレビューした。インタビューフォームから躁転頻度は高くても 5%と見積もられるが,販売許可を得る目的で実施された臨床試験特有の過小評価に留意する必要がある。作用機序で比較すると,SSRI < SNRI < TCAの順で躁転頻度が高い。単極性うつ病は,診断が正しければ躁転のリスクは低い。躁転のハイリスク要因である,双極性障害の家族歴,混合性もしくは非典型的な臨床症状,過去の抗うつ薬治療抵抗性,3 回以上の抑うつエピソードに注意したい。双極性うつ病では高い躁転頻度が知られているが,海外のガイドラインは,抑うつエピソードに対する抗うつ薬の有用性を考慮して,急性期,気分安定薬併用などの条件付きで使用を認めている。現段階では,抗うつ薬の有用性とリスクのバランスをとりながら,慎重に薬物療法の必要性と用量を判断することが求められる。 臨床精神薬理 26:417-424, 2023 Key words : activation syndrome, antidepressant-associated (hypo)mania, bipolar depression
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シリーズ
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【原著論文】
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統合失調症患者の慢性便秘に対するモビコール® の使用効果―大腸刺激性下剤・浣腸の使用を控えた排便管理を目指して
26巻4号(2023);View Description
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便秘は精神科薬物療法によくみられる副作用であり,向精神薬の抗コリン作用に起因する。この便秘は難治性になりやすく,大腸刺激性下剤や浣腸の使用が必要となることが多い。しかし,長期間使用すると腸の機能が低下し,イレウスや体重減少,フレイルなどの深刻な身体的問題をしばしば生じる。そこで,これらの薬剤を使用しない,より安全な排便管理方法を模索するため,統合失調症の入院患者 17 例を対象に,日本初の polyeth ylene glycol 製剤「モビコール®」の効果を検証した。開始 1 週後に排便回数が有意に増加し,便秘薬の頓用回数が有意に減少した。12 週後には,浣腸の頓用回数と定期服用便秘薬の薬剤数が有意に減少した。大腸刺激性下剤である sennoside を常用していた 5 例中3 例で同剤が中止となった。モビコール® は統合失調症患者の慢性便秘を改善し,大腸刺激性下剤や浣腸の使用量を減らせる可能性が示唆された。臨床精神薬理 26:427-434, 2023 Key words : constipation, intestinal function, polyethylene glycol, psychiatry, schizophrenia -
Brexpiprazole による治療から aripiprazole 持効性注射製剤への導入―多施設共同後方視的カルテ調査から
26巻4号(2023);View Description
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急性期における brexpiprazole の有用性と brexpiprazole から aripiprazole LAI への移行の有用性について多施設共同で後方視的カルテ調査を実施した。Brexpiprazole 投与時,aripiprazole LAI 導入時,投与 12 週後の CGI-S の変化と副作用の有無を収集した。評価対象 66 例における brexpiprazole の投与中止は効果不十分が 2 例,副作用が 1 例であった。Aripiprazole LAI の投与中止は効果不十分 2 例,副作用 2 例であった。CGI-S の変化は ar ipiprazole LAI 投与 12 週間完了 52 例では brexpiprazole 投与時の CGI-S スコアに対して,aripiprazole LAI 導入時,aripiprazole LAI 投与 12 週時において有意に低下していた。維持期を見据えた統合失調症薬物治療に対する brexpiprazole から aripiprazole LAI への切り替えに関して,脱落例は少なく有用であったと考える。しかしながら,brexpiprazole からaripiprazole LAI に切り替え時の用法用量について,今回の後方視的カルテ調査では限界があり,今後,更にエビデンスレベルの高い調査が必要である。臨床精神薬理 26:435-442, 2023 Key words : schizophrenia, brexpiprazole, aripiprazole, long-acting injection, maintenance therapy
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