臨床精神薬理

Volume 26, Issue 8, 2023
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【展望】
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まれで治療のエビデンスの少ない精神疾患の治療について
26巻8号(2023);View Description
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臨床の現場では,必ずしも主要な精神疾患に分類されず,明瞭な治療ガイドラインを持たないまれな病態にも遭遇する。特に,薬物療法においては,そのような疾患や病態への適応が存在しないことが多く,その際には診断の枠を超えた適応外使用に活路を見出すことも少なくない。実際,薬剤の適応よりも薬理効果を重視した疾患横断的な使用は,精神科薬物療法の実践においてしばしば試みられる。これらはエビデンスの少ない領域を様々な治療的模索や工夫で埋めてきた 部分でもあり,結果として,自ずと薬物治療ばかりでなく併せて非薬物治療の充実を図ることも必要とされてきた。本稿では,定型の疾患プロトタイプに収まらない周辺病態に治療を適用する場合,いかなる病態モデルを想定した治療選択を行うべきかを考える一方で,十分なエビデンスにまで至らずともこのような病態に対してどのような経験知が蓄積されてきたのかについても概観したい。臨床精神薬理 26:739-745, 2023 Key words : minor psychiatric disorders, empirical treatment strategy, pharmacotherapy, off label use, non-pharmacological approach
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【特集】知っておきたい! ときどき遭遇する精神疾患の治療
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統合失調型パーソナリティ障害の治療
26巻8号(2023);View Description
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統合失調型パーソナリティ障害(schizotypal personality disorder : STPD)は,統合失調症スペクトラムの一類型であると同時にパーソナリティ障害(personality disorder : PD)としても位置付けられうる障害である。この障害単位の発祥は,統合失調症との遺伝的,症状論的なつながりであり,その後の研究でも統合失調症との臨床遺伝学的な近縁性や生物学的マーカーの共通点が確認されている。STPD の患者が経過の中で統合失調症が発病する比率は,諸説があるものの,20~40%だと言われている。STPD の心理社会的治療では,社会機能の改善が重要な目標とされ,特に社会技能訓練などの治療的介入が試みられている。STPD の薬物療法は,他の PD でのそれよりも重視されているが,その明確な治療指針を示しているガイドラインはわずかに 1 つである。そこでは,少量の抗精神病薬投与が精神症状の改善および統合失調症発病予防に有効だと考えられている。これらの治療の効果を実証する研究は,まだ不十分な段階にあり,今後,診断方法や障害概念が整備される中で,STPD の治療についての研究がいっそう発展することが期待される。臨床精神薬理 26:747-752, 2023 Key words : schizotypal personality disorder, schizotypal disorder, psychosocial treatment, schizophrenia spectrum disorder -
精神病発症危険状態(ARMS)への介入と諸問題
26巻8号(2023);View Description
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近年,身体疾患と同様に精神疾患においても早期発見,早期治療の重要性は増している。精神病性障害の早期発見,早期治療を目標とする臨床研究が広がる中で,精神病発症危険状態(at-risk mental state:ARMS)という概念が提唱された。ARMS とは明らかな精神病症状を発症する高いリスクを有すると考えられる臨床的状態を意味する。ARMS から精神病状態への移行予防を目的とした介入について,現状のメタアナリシスでは認知行動療法のみが有意であり,抗精神病薬をはじめとした薬物療法の予防効果は十分に示されていない。しかし,移行予防のみが ARMS への介入ではない。個々の苦痛や問題を和らげるべく事例に応じて多職種連携を通して包括的な介入が提供されるべきである。早期介入は,今後の目標とされる地域包括ケアシステムの中では専門医だけが行うものではなく,精神科医全員が基礎的に行うものになっていくことが望まれる。臨床精神薬理 26:753-758, 2023 Key words : duration of untreated psychosis, at-risk mental state, early intervention -
気分循環性障害の診断と治療
26巻8号(2023);View Description
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気分循環性障害は,軽うつとごく軽い軽躁を長期間にわたって繰り返す気分障害である。疾患として,軽微な双極Ⅱ型障害,双極性障害の前駆状態,ある種の気質・パーソナリティ障害などが混在した概念である。併存疾患が多く注目度が低いため診断および治療開始に時間を要することが少なくない。治療は,疾病教育・マネージメントと薬物療法であり,「気分反応性と不安定性」に焦点を当てたセルフモニタリング,衝動性・逸脱行動・併存症などに焦点を当てた問題解決アプローチが重要である。薬物療法は双極性障害に準じた lithium などの気分安定薬を用いた薬物療法が一般的である。臨床精神薬理 26:759-761, 2023 Key words : cyclothymic disorder, soft bipolar, mood stabilizer -
身体醜形障害の病態・診断と現在の治療
26巻8号(2023);View Description
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身体醜形障害(BDD)は,他人には意識されないような些細な身体的欠陥に関する過剰なとらわれを特徴とする疾患である。従来は身体表現性障害の一型とされていたが,DSM-5 の改訂以降,強迫症および関連症群に含まれるようになり,とらわれの反応として過剰に繰り返される行動あるいは精神的行為が診断上必須となった。概して BDD 患者では,症状の不合理性や過剰性に関する洞察は不十分で,欠陥について妄想的確信を抱く場合も少なくない。このため,精神科を受診する割合は低く,当初は歯科や皮膚科,美容整形外科などを受診することが多いため,身体科との連携が今後の課題である。また重大な社会的機能の低下を来し,自殺企図や引きこもりの割合も高率であり,発症早期の治療的介入が望ましい。この治療では SSRI や認知行動療法(CBT)を用いるが,定期的な受診自体が困難な場合も少なくなく,インターネット CBT など遠隔医療の試みもなされている。 臨床精神薬理 26:763-769, 2023 Key words : body dysmorphic disorder (BDD), obsessive-compulsive disorder (OCD), obsessive compulsive and related disorder (OCRD), selective serotonin reuptake inhibitor (SSRI), cognitive behavioral therapy (CBT) -
ためこみ症の病態とその治療
26巻8号(2023);View Description
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ためこみの症状は,一般的には価値のないモノの過剰な収集と,それら収集物を整理することなくためこんでしまい,捨てることができない状態のことである。近年話題となることの多いゴミ屋敷問題との関連も示唆されているが,その因果関係についてはよく分かっていない。ためこみ症は,2013 年に刊行された DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第 5 版)で新たに定義された精神疾患であり,2022 年に発効された ICD-11 でも,「強迫症または関連症群」のカテゴリーにやはり「ためこみ症」として収載されている。ためこみ症は,典型的には 10 代で発症し慢性的な経過をたどりながら増悪していく疾患であり,早期からの介入が望まれるが疾患に対する認知度は高くなく精神科医療につながるケースは少ない。治療に関しては,明確なガイドラインは存在しないものの認知行動療法が第一選択となる。本稿ではためこみ症について概説し,認知行動療法的アプローチを行った症例を提示する。 臨床精神薬理 26:771-778, 2023 Key words : hoarding, hoarding disorder, trash house(Gomi-yashiki), cognitive behavior therapy -
抜毛症・皮膚むしり症の治療
26巻8号(2023);View Description
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抜毛症や皮膚むしり症は病名こそ聞いたことがあっても,その病態や治療論に関する知識は十分に広まっていないかもしれない。いずれの疾患も外見的な変化を伴うこともあり,その症状ゆえに羞恥心や罪悪感から診療の場を訪れることを避け,その有病率も正確な数字とは言えず,実際には多くの抜毛症と皮膚むしり症の患者がいると推測される。現在では,抜毛症と皮膚むしり症に対する認知行動療法を中心に心理社会的治療が試みられており,薬物療法に関しては未だ十分なエビデンスを示す薬剤は存在しない。これらの疾患に関する疾病教育や早期発見の重要性は高く,これらの疾患を持った子どもたちが安心して成長できる環境,成人では落ち着いて生活できる環境を整えることが重要である。臨床精神薬理 26:779-786, 2023 Key words : child, trichotillomania, skin picking disorder, psychotherapy -
解離性同一性症の治療
26巻8号(2023);View Description
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解離性同一性症とは,複数のパーソナリティ状態が交代で現れる病態のことである。パーソナリティ交代が目撃されること以外にも,短時間の記憶がなくなる,覚えのない物品が部屋にある,いつもと違う言動が生じるといった場合に,解離性同一性症が疑われる。過去に虐待などのトラウマ体験があることが多く,トラウマからパーソナリティ交代が生じるメカニズムは構造的解離理論で説明される。治療としては,まず治療関係の確立を通じて生活上の安全感を獲得し,次にそれぞれのパーソナリティの役割を明らかにしようとすることで,パーソナリティ間の情報が共有され,パーソナリティの交代頻度が減少することが期待される。有効性が実証されている薬物療法は知られていないが,セロトニン系の抗うつ薬はトラウマの再体験症状を軽減させる効果を期待できる。ベンゾジアゼピン系薬剤は,意識レベルを低下させ解離を悪化させる危険があるため,用いるべきではない。 臨床精神薬理 26:787-791, 2023 Key words : dissociative identity disorder, traumatic experience, structural dissociation theory, psychotherapy, pharmacotherapy -
解離性健忘の薬物療法――通常の外来で医師が心がける 3 つのこと
26巻8号(2023);View Description
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解離性健忘は,かつては心因性健忘と呼ばれていたように,心理的な要因が大きく,薬物療法とは無関係の疾患のように思われがちである。しかし,うつ病エピソードの重度の時に解離症状が出現した,発達障害を有する人が抑うつ的になって解離症状が出現した,処方された抗不安薬を服用してから解離症状が出現した,飲酒量が増えてから解離症状が悪化したなど,他の精神疾患と関連して解離症状が出現することは少なくない。合併症や併発症が,薬物療法の確立されているものであれば,正しく診断し処方を開始することは,解離症の治療にも良い影響を与える。また,解離症の治療の前に,飲酒量や内服薬の調整が必要になることもある。解離症の治療においても,精神科薬物療法の切り口は重要であり,必要に応じて心理療法を併用しながら,精神科医が適切に関与することが求められている。 臨床精神薬理 26:793-799, 2023 Key words : dissociative amnesia, retrograde amnesia, loss of self identity, psychogenic amne sia, functional amnesia -
離人感・現実感喪失症の治療
26巻8号(2023);View Description
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1980 年に発行された DSM- Ⅲにおいて離人症は解離症に含められることになったが,それまで解離によって離人症状が生じるなどといった視点はあまりなかった。しかし実際の臨床では離人症の診断的位置付けはさまざまであり,経過を追って総合的かつ慎重に判断されなくてはならない。本稿では解離性離人症にみられる症状および「私」の構造について私見を述べた。さらに切り離しの観点から精神療法の骨子について述べた。つまり回復過程においては 3 つの場所に注目することが重要である。第一に「現実世界における居場所」,第二に「心的世界における居場所」,第三に「他者との関係における居場所」である。最後に薬物療法について述べた。 臨床精神薬理 26:801-805, 2023 Key words : dissociative disorders, depersonalization-derealization disorder, psychotherapy, pharmacotherapy, phase-oriented treatment -
悪夢障害とその治療
26巻8号(2023);View Description
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悪夢障害は,非常に不快な夢を繰り返し経験することにより重大な苦痛や日常生活上の問題が生じる睡眠障害である。悪夢は精神科臨床においてしばしば聴かれる訴えである一方,適切な治療法が普及しておらず,実臨床で軽視されることも多い。本稿では,悪夢障害について概説した上で,現在想定されている機序を説明する。その上で,悪夢障害に対する診断法,精神療法及び薬物療法を,睡眠障害国際分類第 3 版における記載と米国睡眠医学会の声明文を踏まえて述べる。 臨床精神薬理 26:807-811, 2023 Key words : nightmare, post-traumatic stress disorder, image rehearsal therapy, prazosin, ben zodiazepines
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シリーズ
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臨床に役立つ基礎薬理学の用語解説 第 46 回 APC(Adenomatous polyposis coli)
26巻8号(2023);View Description
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