Volume 26,
Issue 10,
2023
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【展望】
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臨床精神薬理 26巻10号, 927-936 (2023);
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現在の統合失調症の薬物療法では,ドパミン拮抗作用を主体とした抗精神病薬が主流であるが,グルタミン酸系や GABA 系の異常,細胞内シグナルの異常,炎症性サイトカイン(interleukin-6 など)の上昇などの病態がみられることから,これらの知見に基づく創薬が試行されつつある。近年,ゲノム,プロテオーム,メタボロームなどのオミックス解析が進歩し,それによる知見もこれらの創薬の方向性を支持する知見が多く,新たな標的分子を見出す可能性を持つ。本稿はこれらのオミックス解析の動向について概観し,トランスレータブルな生理学的指標の 1 つとしてプレパルスインヒビションについても触れた。今後,新たな創薬標的を見出すためには,標準化したプロトコルで採取された生体試料(脳の病態を反映する試料として脳脊髄液が望ましい)を収集し,その多層的オミックスによる膨大なデータと標準化された神経生理学的データを組み合わせ,精神疾患を生物学的指標によって疾患横断的に類型化し,それぞれの類型に対する創薬を行っていくことが望まれる。 臨床精神薬理 26:927-936, 2023 Key words : schizophrenia, genome-wide association study, proteome, metabolome, drug dis covery
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【特集】精神疾患や向精神薬関連症状の発症機序仮説
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臨床精神薬理 26巻10号, 937-942 (2023);
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統合失調症の病態生理を説明するものとしては,抗精神病薬の出現を機にドパミン仮説が発展してきた。しかしドパミン仮説では治療抵抗性統合失調症の病態生理やclozapine の作用機序を十分に説明できない。より包括的な分子病態の理解を求めて,NMDA 受容体を介したグルタミン酸神経系の異常から説明を試みるグルタミン酸仮説が注目されるようになった。本稿ではグルタミン酸仮説に焦点を当て,画像・生理・検体検査や治療との関わりについて,知見を紹介する。なお統合失調症の病態を解明するにあたっては,本症が類型概念であることを念頭に置くべきであり,多方面からの慎重なアプローチが重要になってくる。グルタミン酸仮説は生物学的精神医学の立場からの重要なアプローチとして,今後も益々その精度を高めていくことが期待される。臨床精神薬理 26:937-942, 2023 Key words : schizophrenia, dopamine, glutamate, treatment resistance, 1H-MRS
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臨床精神薬理 26巻10号, 943-949 (2023);
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統合失調症の病態生理としてドーパミン仮説が提唱されているが,近年ではグルタミン酸の関与も指摘されている。中でも AMPA 受容体は脳内の興奮性神経伝達の大部分を媒介し,シナプスの可塑性と学習に不可欠の分子で,統合失調症の病態への関連が示唆されている。統合失調症死後脳研究における AMPA 受容体関連分子の発現を報告した研究は多数あるが,その結果は一貫していない。近年,AMPA 受容体を標識する PET トレーサーが開発され,今後,ヒト生体脳における AMPA 受容体の発現と分布の測定を通して,統合失調症患者における AMPA 受容体の意義が明らかになることが期待される。臨床精神薬理 26:943-949, 2023 Key words : AMPA receptor, postmortem, schizophrenia, synapse
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臨床精神薬理 26巻10号, 951-957 (2023);
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統合失調症では,これまでにドパミン仮説をはじめとして種々の病態仮説が提唱され,世界中の多くの製薬企業により様々な分子標的を狙った新薬開発が試みられてきた。しかしながら,ドパミン D2 受容体の遮断作用を有する薬剤以外で薬事承認に至ったものはない。そのような中,Sumitomo Pharma America(旧 Sunovion)社が開発する SEP 363856(ulotaront)が急性増悪期の患者を対象とした第二相試験において有効性及び安全性の双方で良好な成績を収めたことにより,ulotaront の主要標的である trace amine associated receptor 1(TAAR1)に高い注目が集まっている。TAAR1 は比較的新しく同定された受容体で未だ不明な点も多いが,本稿では統合失調症の病態における TAAR1 の役割,TAAR1 作動薬の想定作用機序について概説する。 臨床精神薬理 26:951-957, 2023 Key words : schizophrenia, trace amine-associated receptor 1, TAAR1, SEP-363856, ulotaront
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臨床精神薬理 26巻10号, 959-966 (2023);
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統合失調症治療薬として広く使用されている olanzapine には副作用として糖尿病を発症させるリスクが高いことが知られている。従来は食欲を増進させ,肥満とインスリン抵抗性を経て糖尿病を発症させると考えられてきたが(>90%のケース),肥満を介さない非典型的な発症例があることも報告されている(<10%のケース)。我々は膵臓β細胞由来の MIN6 細胞を用いて,olanzapine が小胞体においてプロインスリンの高次構造形成に悪影響を与え,誤ったジスルフィド結合形成により高分子量プロインスリンを生じさせること,高分子量プロインスリンは小胞体に留められ,やがて細胞質に逆向き輸送されてユビキチン・プロテアソーム系により分解されることを見出した。ヒトの摂取量と同等のolanzapine をマウスに毎日経口投与すると,islets で高分子量プロインスリンが生じていた。Olanzapine 投与時には体重だけでなく,血糖値もモニターすることが望ましい。臨床精神薬理 26:959-966, 2023 Key words : antipsychotic olanzapine, atypical diabetes, proinsulin, misfolding, endoplasmic reticulum
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臨床精神薬理 26巻10号, 967-972 (2023);
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NMDA 受容体阻害薬 ketamine は,1960 年代から全身麻酔薬として臨床使用されてきた。2000 年代の臨床研究により,麻酔用量より低用量の ketamine 単回静脈内投与が,治療抵抗性うつ病(TRD)患者に即効性かつ持続性の抗うつ効果を示すことが明らかになった。欧米では,2019 年に ketamine の S 異性体 esketamine(S-ketamine)が TRD 治療薬として承認された。しかし,ketamine や esketamine には,統合失調症様症状や依存性などの重大な副作用があるため,より安全性の高い新規治療薬開発が求められている。このような治療薬開発には,ヒトで有用性が実証されている ketamine の作用メカニズムの解明が大きく寄与するものと考えられる。本稿では,ketamine の即効性抗うつ効果の作用メカニズムについて,成長因子の役割に着目した筆者らの研究成果を中心に概説する。臨床精神薬理 26:967-972, 2023 Key words : antidepressant, ketamine, mechanistic target of rapamycin complex 1, medial pre frontal cortex, growth facto
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臨床精神薬理 26巻10号, 973-979 (2023);
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注意欠如多動症(ADHD)の神経生物学的要因として,報酬に対する感受性に関与するドパミン(DA)機能の特徴的な変化が考えられている。本稿では,強化学習におけるDA 機能と ADHD の報酬反応プロセスという観点から,ADHD 治療薬として使用されるmethylphenidate(MPH)の奏効機序を考察する。これまでの知見に基づくと,MPH は,強化学習における条件刺激(CS)への一過性 DA 発火を促進することで治療効果をもたらす可能性がある。無条件刺激(US)から CS への DA 発火の移行には,CS に対する DA 神経の活性化と,US に対する DA 神経の抑制という 2 つのプロセスが必要である。MPHは,前頭前皮質において CS 提示時に作動性神経活動を活性化し,腹側被蓋野の DA 発火を促すと同時に,線条体を介して,US 提示時の DA 発火を抑制する一連の神経活動の開始を促す可能性が考えられる。 臨床精神薬理 26:973-979, 2023 Key words : ADHD, methylphenidate, dopamine, reward sensitivity, reinforcement learning
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臨床精神薬理 26巻10号, 981-986 (2023);
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慢性痛と不安障害・うつ病の併発率が高いことが報告されており,共通の神経基盤の存在が推測される。慢性痛モデル動物において,分界条床核から腹側被蓋野に投射する神経への抑制性入力が恒常的に増大することで,脳内報酬系において中心的な役割を果たす腹側被蓋野ドパミン神経の活動が持続的に抑制される神経機構が明らかにされ,さらに,分界条床核から視床下部外側野に投射する神経への抑制性入力増大が不安情動を亢進することも示された。分界条床核からの出力神経が複数の脳部位に投射し,抑うつ,不安,恐怖などの負情動を統合的に制御していること,慢性痛はこの分界条床核からの出力を変調させることにより抑うつや不安を惹起していることが考えられる。臨床精神薬理 26:981-986, 2023 Key words : chronic pain, anxiety, depression, bed nucleus of the stria terminalis
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臨床精神薬理 26巻10号, 987-1002 (2023);
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近年,選択的セトロニン,セロトニン・ノルアドレナリン,ノルアドレナリン再取込み阻害薬(SSRI,SNRI および NRI)に代表される選択的神経伝達物質再取込み阻害薬がトランスポーター以外の標的分子にも作用している可能性が想定されている。うつ病の発症にミクログリアの活性化に伴う機能変調が関連している可能性が明らかとなり,SSRIの fluvoxamine や SNRI の duloxetine はミクログリアの活性化を抑えることで抗うつ効果を示すことが示唆されている。また,NRI の atomoxetine は電位依存性ナトリウムチャネル阻害作用を有し,これが注意欠如・多動症(attention deficit/hyperactivity disorder : AD/HD)の治療効果の発現に関わっている可能性がある。今後,これらの阻害薬の持つ多様な薬理作用の解析による精神疾患の新たな細胞分子病態の提示が期待される。臨床精神薬理 26:987-1002, 2023 Key words : atomoxetine, duloxetine, microglia, voltage-dependent sodium channel
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シリーズ
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臨床精神薬理 26巻10号, 1003-1005 (2023);
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