臨床精神薬理

Volume 26, Issue 11, 2023
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【展望】
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患児や養育者が薬物療法を望まない背景をどう読み解き,いかに治療プロセスを支えるか
26巻11号(2023);View Description
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児童青年期の精神科治療において,十分な心理社会的治療を実施し,そのうえで合理的な治療オプションとして薬物療法を提案していたとしても,患児や養育者が薬物療法に抵抗を示すことは少なくない。その背景は多様であり,そもそも精神科治療への結びつけられ方が不本意であったり,患児に精神医学的問題があることや精神科治療に対するスティグマであったりすることもある。また,子どもの発達段階や発達上の課題から大人の提案を直ちに受け入れることができないことも多い。薬物療法の選択に否定的な態度を示した場合,その選択肢を提案した主治医の方には合理的な根拠があるから,薬物療法を強く推奨したり,患児や養育者にとって否定的な態度を取ったりしがちである。しかし,児童青年期の精神症状の背景は極めて複雑であり,主治医はいかなる時点においても,その全貌をつかめているわけではない。薬物療法に消極的な理由に積極的に耳を傾け,患児のよりよい生活を実現するオプションとして薬物療法を含めた治療を位置づけ,患児自らが選んだとき,その意向を尊重するという姿勢が望まれる。臨床精神薬理 26:1015-1021, 2023 Key words : shared decision making, nonadherence, assent, psychosocial background
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【特集】 薬物療法を実施しないことのリスクの評価と意思決定
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統合失調症前駆期に抗精神病薬を使用するリスクと使用しないリスク
26巻11号(2023);View Description
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統合失調症に関してはしばしば何年にもわたる前駆期があるとされ,その症候学については長年学術的議論が続いているものの一定の見解が得られていない。25 年ほど前に精神病発症危機状態の診断基準や早期治療介入専門施設が登場することで根拠に基づく研究が進んだ。そして,at risk mental state(以下 ARMS)の基準で診断され clinical high risk for psychosis(以下 CHR-P)という診断概念が生まれた。これは現在も操作的診断基準に収載されていない未整理な概念であるものの,発症前夜を連想させる統合失調症前駆期の症候学に結びつき臨床家を薬物療法による治療介入に後押ししやすい。顕在発症予防を期待して安易に抗精神病薬による薬物療法が実施されがちである。そこで本稿では,すでに論じられている統合失調症前駆期に抗精神病薬を実施するリスクと対比させながら実施しないリスク,その治療支援についても考察した。臨床精神薬理 26:1023-1028, 2023 Key words : prodromal, schizophrenia, antipsychotics, prognosis -
注意欠如多動症の児童に ADHD 治療薬を投与しないリスクをどう判断するのか?
26巻11号(2023);View Description
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ADHD 治療にかかわらず,子どもの精神科治療を考える場合,通常は薬物療法より環境調整や心理社会的介入が優先されるべきである。子どもの行動上の問題の背景を十分に検討し,環境調整や心理社会的介入を行うのは当然である。しかし残念ながら,すべての症例がそれらのみで改善するわけではなく,また年齢によっては環境調整や心理社会的介入にスムーズに導入できない場合がある。そのような場合は薬物療法も治療の選択肢の一つである。医師から薬物療法を提案するが,保護者や子ども本人が薬物療法を拒否する場合,一般的には薬物療法を行わないことになるが,その場合のリスクをどのように説明し,どのように保護者や子どもとともに判断していくのかを概説した。臨床精神薬理 26:1029-1037, 2023 Key words : ADHD, pharmacotherapy, dependency, growth suppression -
希死念慮のあるうつ状態の児童・青年に抗うつ薬を投与しない,または投与するリスクの評価
26巻11号(2023);View Description
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精神科臨床のなかで,抑うつ状態を呈する児童青年の症例を経験することは稀ではないが,児童青年のうつ病は,その存在自体が議論になるほど頻度は低いとされている。しかし一方で,うつ病の初発エピソードの頻度が最も多いのは 10 代であることが示されており,児童青年のうつ病は,対人関係の困難さや学業などに深刻な弊害をもたらし,慢性化することで自殺関連行動が増悪するため,適切な診断のうえで,早期に治療・介入することが肝要である。児童青年期のうつ病に対する抗うつ薬は,賦活症候群や,自殺関連行動のリスクを高める危険性が示唆されている。そのため,実際の臨床場面で,児童青年の希死念慮のあるうつ状態の症例に対して,抗うつ薬による薬物療法の是非の判断は容易ではなく,治療に難渋することも稀ではない。そのため,本稿では,希死念慮のあるうつ状態の児童青年の症例における抗うつ薬を投与しない,または投与するリスクの評価について,成人と児童青年のうつ病の相違および,抗うつ薬と自殺関連事象の関係の歴史的経緯を踏まえて総説する。 臨床精神薬理 26:1039-1044, 2023 Key words : major depressive disorder, DSM-5, antidepressant drugs, suicide, suicidal ideation -
子どものパニック症に抗うつ薬でなく抗不安薬の頓用を希望されたらその是非をいかに考えるか?
26巻11号(2023);View Description
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子どものパニック症は比較的稀な疾患と考えられている。これまでのエビデンスから薬物療法における第 1 選択薬は選択的セロトニン再取り込み阻害薬と考えられている。しかし選択的セロトニン再取り込み阻害薬には自殺念慮や自殺行動が増加するリスクに対する懸念があり,子どものパニック症の診断の難しさ,併存症の存在などの要因を検討するなかで,ベンゾジアゼピン系抗不安薬の頓用も 1 つの選択肢となり得るであろう。しかしベンゾジアゼピン系抗不安薬には依存の生じるリスク,鎮静や奇異反応や脱抑制が生じるリスクがあり,ベンゾジアゼピン系抗不安薬は短期間の使用にとどめるべきであり,使用した場合においても,パニック症のみでなく併存症を含めた診断の評価や治療効果の評価を繰り返し行い,心理社会的なアプローチを続けていくことが求められる。臨床精神薬理 26:1045-1051, 2023 Key words : adolescent, antipsychotics, anxiolytics, child, panic disorder -
小児の不眠障害治療:薬物治療―実施する? 実施しない?
26巻11号(2023);View Description
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成人のみならず,小児の睡眠障害においても,最も頻度が高いのは不眠であり,その出現率は案外高い。しかし,「不眠障害と診断されるケースがどの程度か?」の問いに答えるのは難しい。不眠障害と診断するためには,日中の機能障害が存在する必要があり,睡眠の状態だけで診断するものではない。また,「眠れない」と訴える子どもたちや,「わが子が眠れない」と訴える養育者にはよく遭遇するが,本当の意味で不眠障害ではないケースにもよく遭遇する。まずは診立てが重要である。不眠障害と診断したとしても,「眠れるようになる薬が欲しい」と言われた際,処方すべきかどうか迷うケースも少なくない。小児の場合は特に,患児のみならず養育者の意向も十分にくみ取って判断する必要がある。本稿では,小児の不眠障害に対してどう対応すべきか,薬物療法は必要か,考えてみたい。 臨床精神薬理 26:1053-1060, 2023 Key words : pediatric insomnia, pharmacotherapy, psychoeducation, cognitive-behavioral ther apy-insomnia (CBT-I), shared decision making (SDM) -
発達障害に併存するてんかん―投薬の終結は可能か:成人 ASD を中心に
26巻11号(2023);View Description
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自閉スペクトラム症(ASD),注意欠如・多動症(ADHD)など,いわゆる発達障害にはてんかんが合併することがあるが,併存例の研究は小児に偏っており,成人の発達障害をもつ人がてんかんを発症した場合のてんかん治療における注意点や予後,薬剤終結方針などは十分に検討されているとは言い難い。小児のように自然終息する予後良好なてんかん症候群が知られていない成人てんかんでは,たとえ長期間発作が抑制されていても再発を危惧して抗てんかん薬を継続する例が多いが,コミュニケーションに困難があり,変化を嫌う発達障害者の場合にはその傾向がさらに強まる。しかし中には長期間寛解しており,抗てんかん薬による副作用で苦しんでいる例,妊娠・出産を希望している女性例などは積極的に断薬を検討した方がよい人も存在する。本稿では,成人の発達障害(特にASD)に併存するてんかんについて,治療終結に向けた検討事項や終結手順についての考え方を提示したい。 臨床精神薬理 26:1061-1067, 2023 Key words : epilepsy, adult autism spectrum disorder(adult ASD), withdrawal, antiepileptic drug, recurrence -
強度行動障害のある知的障害の成人に薬物療法の中止の希望があればどこまで可能か,リスクをどう見積もるか
26巻11号(2023);View Description
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「強度行動障害のある知的障害の成人に薬物療法の中止の希望があればどこまで可能か,リスクをどう見積もるか」というテーマに対し,1)強度行動障害あるいは Chal lenging Behavior に対する薬物療法,2)知的・発達障害への薬物療法の先行研究と環境因・専門的支援手法の関連,3)薬物中止・減薬について,4)専門的支援手法を導入した強度行動障害治療プログラム,5)薬物療法をしないことでの行動障害によるリスクと内服していることでの副作用リスク,の 5 つの観点から文献的背景も含め考察した。薬物療法の適正化と専門的支援手法を導入した非薬物療法の推進を図り,Bio-Psycho-Social モデルにより長期的に多機関多職種連携をしていくこと,児童から青年・成人期,高齢期における知的・発達障害に対する薬物療法ガイドラインを検討していくことが必須と思われる。臨床精神薬理 26:1069-1075, 2023 Key words : challenging behavior, autism spectrum disorder, intellectual disability, psychoso cial intervention, pharmacotherapy -
認知症診療において認知症治療薬や抗精神病薬を使わないことに伴うリスク
26巻11号(2023);View Description
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認知症診療において,一般的に,認知機能障害や進行抑制に対して認知症治療薬が,認知症の行動・心理症状(BPSD)に対しては抗精神病薬が用いられている。しかし,薬物療法に伴うリスクが多様かつ高度である認知症高齢者においては,リスクとベネフィットの適切なバランスの見極めがしばしば困難である。本稿では,認知症の中核的症状および BPSD に対する薬物療法のエビデンスをまとめ,薬剤を使用しないことのリスクを紹介し,現在得られるエビデンスの限界について考察した。認知症診療においては,介護環境や身体合併症,心理行動症状の有無など,個別性への配慮が必要不可欠である。故に,治験などでは除外されてしまう患者が相当数存在している。将来的には,複数の薬剤の組み合わせなども総合した,リアルワールドデータを用いた解析が必要であるが,現時点ではエビデンスを考慮した上で,患者の個別性に配慮した治療計画を実行していくことが重要であろう。 臨床精神薬理 26:1077-1083, 2023 Key words : dementia, acetylcholinesterase inhibitor, memantine, anti-psychotics
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シリーズ
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原著論文
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双極性障害におけるうつ症状を有する患者を対象とした quetiapine fumarate 徐放錠の使用成績調査結果
26巻11号(2023);View Description
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クエチアピンフマル酸塩徐放錠は「双極性障害におけるうつ状態」に対する医療上の必要性が高いと判断され開発,承認された薬剤であり,今回,観察期間 12 週間の使用成績調査を実施した。安全性解析対象症例 345 例中 111 例(32.17%)に副作用が認められた。主な副作用(1%以上)は傾眠 55 例,アカシジア 11 例,浮動性めまい 10 例,体重増加 6 例,口渇 5 例,過眠症,便秘および悪心が各 4 例であった。重篤な副作用は自殺念慮の 1 例であった。「初発のエピソード発症からの期間」(p=0.011),「合併症の有無」(p<0.001)が副作用の有意な要因として抽出された。MADRS 合計スコアの投与開始からの変化量の平均値は,投与開始 4,8,12 週後,最終評価時で各々 -7.3,-12.2,-16.8,-13.2 と推移した。この変化量の減少方向への推移は,全体でも,また最大 1 日投与量別,診断名別,前薬物治療の有無別,併用薬の有無別でも同様であった。実臨床下の新たな安全性の懸念およびリスクは認められず,本剤の治療効果が示された。臨床精神薬理 26:1087-1101, 2023 Key words : quetiapine fumarate, bipolar depression, post-marketing product surveillance, safety and efficacy, extended-release tablets
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Letters to the editor
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Hydroxyzine はせん妄を誘発するのか,それとも治療するのか―「アタ P」の不思議/『Hydroxyzine はせん妄を誘発するのか,それとも治療するのか―「アタ P」の不思議』への返信
26巻11号(2023);View Description
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