臨床精神薬理

Volume 27, Issue 1, 2024
Volumes & issues:
-
【展望】
-
-
薬物療法とリハビリテーションの融合を目指して
27巻1号(2024);View Description
Hide Description
治験では,単独の薬物や機器による精神症状の改善をエンドポイントとして,様々な治療の開発が行われるが,実臨床下では,薬物療法とリハビリテーションの組み合わせによって,社会機能的転帰や主観的なウェルビーイングをターゲットとして行われることが多く,両者の間には乖離が認められる。薬物療法とリハビリテーションの組み合わせによる治療の最適化を図るために,Green らによる“ 知覚から社会機能的転帰” につながるモデルが参考になる。両者をつなぐ介在因子として社会認知,信念および動機づけが重要であることが示されており,本稿ではそれぞれを強化し,社会機能的転帰の回復につながる包括的治療戦略におけるポイントについて整理した。最後に,臨床研究および特定臨床研究において,治療法の組み合わせに関する試験を推進する重要性を強調した。臨床精神薬理 27:3-14, 2024 Key words : pharamacotherapy, rehabilitation, cognition, recovery, motivation
-
-
【特集】 薬物療法を活かす非薬物療法の新たなる展開
-
-
周産期うつ病予防を目指したスマートフォンアプリによるインターネット認知行動療法
27巻1号(2024);View Description
Hide Description
うつ病の予防に関してはインターネット認知行動療法(iCBT)の有効性が期待されている。筆者らは,頻度の高さや疾病負担の大きさ等から重要性の高い周産期のうつ病予防を目指して,スマートフォンアプリによるiCBT の有効性を検討するRCT を行った。研究の結果,対照群と比較して介入群におけるうつ病発症のハザード比(HR)は0.85〔95%信頼区間(CI) 0.61-1.20〕であり有意差はなかったが,ベースライン時点で軽度の精神的苦痛(K6 得点が5 ~ 8 点)を抱えていた群ではHRは0.38(95% CI 0.19-0.79)であり,閾値下のうつ症状を有する妊婦においてはiCBT が周産期うつ病予防に有効である可能性が示唆された。,軽度の精神的苦痛への対策が公衆衛生上重要であることや研究参加者のプログラムに対する満足度が高かったことから,本研究で開発したプログラムは無料サービスとして実装されている。 臨床精神薬理 27:15-21, 2024 Key words : Internet-based Cognitive Behavioral Therapy, Perinatal Depression, Prevention, Smartphones, Apps -
睡眠障害に対するデジタル治療アプリの開発の現状と課題
27巻1号(2024);View Description
Hide Description
近年,デジタル技術を用いた不眠症の認知行動療法を行うソリューションの開発と,その有効性を検討した報告が増加し,新しい治療提供手段として関心が高まっている。デジタル技術を用いた不眠症の認知行動療法には,対照条件と比較した場合の,有効性を示した多くのエビデンスがあり,夜間の不眠症状と日中の機能障害の改善効果があり,その効果は持続的であることが示されている。一方で,対面式治療と効果を直接比較した研究は限られる。また実社会で用いる場合に,どういった対象が良い適応になるのか,臨床家のサポートをどの程度行うことが最適なのかなど,まだ明らかになっていない点も多い。日本においても治療用アプリの薬事承認が始まり,今後ますます成長する分野として期待される。信頼性のあるサービスとして確立していくために,ガイドラインや,科学的根拠に基づく情報プラットフォームの整備などを行いながら発展させることが求められている。 臨床精神薬理 27:23-30, 2024 Key words : insomnia, cognitive behavioral therapy, CBT-I, degital therapy, telemedicine -
アルコール依存症に対する飲酒量低減治療アプリ開発
27巻1号(2024);View Description
Hide Description
本稿では,アルコール依存症に対する飲酒量低減治療アプリの開発に関する背景,経緯,現状,及び展望について概説する。治療アプリをうまく活用すれば,治療のコスト削減,アクセス改善,質の維持が並立できる可能性がある。筆者は認知行動療法をベースにした治療アプリによって,アルコール依存症の治療ギャップ縮小を目指しており,複数の医療機関,学会と連携しながらプロダクト開発,薬事臨床開発,事業開発を並行して進めている。現在,検証的治験が進行中であり,治験が成功すれば薬事承認申請,保険適用希望を経て上市を目指すことになる。治療アプリを併用した飲酒量低減治療が普及し,アルコール依存症の早期介入が広く行われる未来に貢献したい。臨床精神薬理 27:31-35, 2024 Key words : alcohol dependence, therapeutic app, software as a medical devices -
統合失調症に対するVR を用いたSST および感情認知トレーニングによる支援の実装
27巻1号(2024);View Description
Hide Description
統合失調症を抱える人にとって,リカバリーが重要な意味を持っている。リカバリーとは「人々が生活や仕事,学ぶこと,そして地域社会に参加できるようになる過程であり,ある個人にとってはリカバリーとは障害があっても充実し生産的な生活を送ることができる能力であり,他の個人にとっては症状の減少や緩和である」と定義される。リカバリーの達成には心理社会的治療が不可欠であり,ソーシャルスキルトレーニング(social skill training : SST)や感情認知トレーニングが有効とされている。これらの心理社会的治療は,人的資源の不足から質の担保や均てん化が困難であるという課題がある。そこで,筆者らは仮想現実(virtual reality : VR)を用いた支援プログラムを開発することで,全国にこれらの心理社会的治療を普及させようとしている。本稿では,筆者らが開発に関与した統合失調症に対するVRを用いたSST および感情認知トレーニングによる支援の実装について解説する。 臨床精神薬理 27:37-43, 2024 Key words : schizophrenia, emotion recognition training, social skill training, virtual reality, implementation science -
精神科領域におけるロボット治療開発
27巻1号(2024);View Description
Hide Description
離島,へき地医療はじめ精神科医療に課題は多い。最近の音声認識,対話生成,遠隔操作システムの技術進歩には目覚ましいものがある。また対話継続研究も進んでいる。精神科領域においても特に認知症,自閉スペクトラム症(ASD)領域でロボット研究は世界各地で行われている。認知症支援ロボットの使用は,介護分野における人手不足の解消,介護者・スタッフへの癒し,羞恥心の減弱,被介護者が遠慮せずに長時間のインタラクションを実現といった可能性がある。ASD の分野では,ASD 者へのロボット親和性を背景にロボットには,人間にはできなかった役割が期待されている。統合失調症,うつ病,社交不安症,ひきこもりといった領域でもロボット研究は行われている。コンピュータグラフィックス(CG)上のロボット開発にも目覚ましいものがあり,今後は実体のロボットと適宜組み合わせることで,ロボットの精神科診療への貢献が期待される。臨床精神薬理 27:45-52, 2024 Key words : autonomus robot, voice recognition, dialogue generation, contineued dialogue, reote operation robot -
複雑性PTSD に対する認知行動療法
27巻1号(2024);View Description
Hide Description
複雑性PTSD は国際疾病分類の第11 回改訂版(ICD-11)において新たに採用された診断項目であり,その病態に基づいて適切に診断し,治療を行っていくことが求められている。ICD-11 の複雑性PTSD に対する直接的なエビデンスが限られることから,国際的な治療ガイドラインでは特定の治療法が推奨される段階にはないものの,従来のPTSD治療の第一選択であるトラウマ焦点化治療や,複雑性PTSD 症状に対応した多要素の治療の有効性が示唆されている。複雑性PTSD に特化した薬物療法のエビデンスは乏しい。本稿では,これまでの研究知見を紹介し,どこまで研究が進んでいるかを解説するとともに,薬物療法との棲み分けや併用の是非など,今後必要な研究や対策についても論じた。臨床精神薬理 27:53-58, 2024 Key words : complex PTSD, trauma-focused treatment, multicomponent intervention, pharmacotherapy -
成人期ADHD の認知行動療法
27巻1号(2024);View Description
Hide Description
ADHD のトリプルパスウェイ- モデルでは,ADHD の行動特性が複数の脳領域の機能障害によって引き起こされ,個人差が大きいことが明らかになっている。そのため,成人期ADHD の国際的な治療ガイドラインでは,CBT のどの技法が有効であるか,どのような心理的支援を実施すべきか,について一致見解がなく,本邦においても治療ガイドラインは確立されていない。CBT は,ADHD の症状のみならず,併存の多い気分障害や不安障害,さらには対人関係の問題や低い自尊心のようなADHD による二次障害への対処方として活用されている。ADHD 治療において,非薬物療法の需要と可能性は増加しており,本邦におけるエビデンスの蓄積が求められている。今後は,CBT の技法の改良や新しい介入方法が開発され,デジタルツールやオンラインプログラムを活用した介入も期待される。 臨床精神薬理 27:59-65, 2024 Key words : ADHD (Attention Deficit Hyperactivity Disorder), CBT (Cognitive Behavioral Therapy), cognitive behavioral model, triple pathway model, comorbidity -
マインドフルネス認知療法
27巻1号(2024);View Description
Hide Description
マインドフルネスの概念を導入したプログラムには様々なものがあるが,本稿ではマインドフルネス認知療法を取り上げ,最初にその適応,構造,治療機序について概観した。また治療効果のエビデンスについてうつ病,不安症を中心に概観し,薬物療法や通常治療とマインドフルネス認知療法を併用した場合,より効果が大きくなることを指摘した。一方で薬物療法単独とマインドフルネス認知療法単独との比較についてはうつ病の再発予防効果についてのみ明らかになっており,マインドフルネス認知療法単独の方が有意に再発率が低くなることを指摘した。一方で,幼少期の虐待体験の有無によってマインドフルネス認知療法と抗うつ薬それぞれの治療効果に違いがある可能性があることも指摘した。最後にマインドフルネス療法の研究における課題として,薬物療法との効果比較・長期的な効果,MBCT・薬物療法それぞれが適応になる患者背景の特定の2 つを挙げ,これについて議論した。 臨床精神薬理 27:67-73, 2024 Key words : mindfulness, antidepressant, cognitive therapy, depression, anxiety -
薬物療法と精神分析的精神療法の役割分担と共同作業―直接解決と間接解決―
27巻1号(2024);View Description
Hide Description
精神分析的精神療法は,自由連想法のもと無意識を扱う治療法である。何かの症状をターゲットにするよりは,自分のこころとの付き合い方を扱い,それを通して生き方に無理が減り,結果的に症状や問題行動が軽減する。心理的資質(Psychological Mindedness)とは,開かれたこころを持ち自分を内省し,自分のこころの動きとの関連において事象を理解しようとする姿勢を指し,この拡大がメリットをもたらしそうな症例が適応となる。「タビストック成人うつ病研究(TADS)」など最新の研究知見も紹介した。一人の患者に対して,管理医(A : Administrator)と,セラピスト(T : Therapist)の二人の治療者が機能を分担して当たる診療形態であるA-T スプリットによって,A は薬物療法をはじめとした一般精神医学的な対応や現実的な問題を担当し(直接解決),T はこころの内奥を扱うことに専心する(間接解決)。 臨床精神薬理 27:75-81, 2024 Key words : psychoanalytic psychotherapy, A-T Split, psychological mindedness, direct solution, indirect solution -
腸内細菌と精神疾患
27巻1号(2024);View Description
Hide Description
ヒトの皮膚や粘膜面には膨大な数の細菌群が常在している。多くが偏性嫌気性菌で培養や同定が困難であったが,次世代シーケンサーなどの遺伝子配列解析技術の進歩やコストダウンにより,腸内細菌の研究が盛んに行われるようになった。精神疾患患者では,腸内細菌の多様性が健常者よりも低下し,腸内環境の恒常性に関わる有用菌の減少,炎症を惹起するような菌の増加が疾患横断的に報告されている。健康な腸内細菌組成に近づけるために,プレバイオティクス(prebiotics),プロバイオティクス(probiotics),便移植が行われている。本稿では,腸内細菌が脳機能へ影響を与えるメカニズムや,精神疾患を対象に腸内環境の改変を目的に行われた新しい研究を紹介する。また近年では,精神科薬物療法と腸内細菌の関連を検討する,psycho-pharmacomicrobiomics という新しい研究領域が注目されている。改変可能な腸内細菌組成を研究し人為的に調整することで,精神科治療に新しい展開が訪れる可能性がある。臨床精神薬理 27:83-91, 2024 Key words : microbiota-gut-brain axis, psycho-pharmacomicrobiomics, prebiotics, probiotics, fecal transplant
-
-
原著論文-薬物療法を活かす非薬物療法の新たなる展開
-
-
片頭痛診療における鎮静薬適正化支援外来の取り組みについて
27巻1号(2024);View Description
Hide Description
片頭痛患者は市販の鎮痛薬による自己治療に至ることがあり,鎮痛薬を頻回に内服することで,薬剤の使用過多による頭痛となり,もともとあった片頭痛がさらに悪化する可能性がある。薬剤の使用過多による頭痛は依存症と類似することが指摘されており,再発も多いため,適切な予防療法だけでなく,依存症に対する対応,疾病教育等の非薬物療法が必要と思われる。そのため,薬剤の使用過多による頭痛の改善及び予防を目的に多職種で構成されたチームによる個別プログラムを提供する鎮痛薬適正化支援外来での取り組みに触れ,鎮痛薬乱用に対する非薬物療法について考える。臨床精神薬理 27:93-99, 2024 Key words : medication overuse headache, migraine, multidisciplinary team therapy, cognitive behavioral therapy
-
-
シリーズ
-
-
-
原著論文
-
-
双極性障害患者における服薬実態と剤形ニーズに関する検討
27巻1号(2024);View Description
Hide Description
双極性障害における再発の原因の1 つに,服薬アドヒアランス不良が挙げられる。抗精神病薬持続性注射剤(long-acting injection : LAI)は服薬アドヒアランスを改善し,再発予防効果が高く,国内外のガイドラインでLAI の使用が提案されている。しかし,双極性障害患者のLAI 使用率は低い。今回,本邦における双極性障害患者の服薬状況や剤形嗜好に関する現状と課題を明らかにするため,インターネットによるアンケート調査を行い500 人から回答を得た。その結果,剤形に関する説明は44.8%が受けておらず,説明された剤形は錠剤が90%と高かったが,錠剤以外の剤形説明は30%以下であった。一方,「剤形に関する説明を受けたい」「剤形を自分で選びたい」と回答した割合は高く,多くの患者が剤形選択への関与を希望していた。薬剤満足度や治療アドヒアランスを高めるために,共同意思決定による適切な剤形説明を普及する必要があると考えられた。臨床精神薬理 27:103-111, 2024 Key words : long-acting injection, dosage form, patient satisfaction, web-based survey, bipolar disorder
-