臨床精神薬理

Volume 27, Issue 2, 2024
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【展望】
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向精神薬の耐性と離脱症状,減量・中止時の離脱症状への対応
27巻2号(2024);View Description
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薬剤による耐性とは,繰り返し使用される薬剤に対する反応が低下するtoleranceと,微生物や腫瘍細胞が以前は破壊的な作用を示していた薬物に抵抗する能力を獲得するresistance がある。向精神薬における薬剤耐性とはtolerance であり,多くの依存性薬剤と同様にバルビツール酸系薬剤やベンゾジアゼピン系薬剤で耐性が生じ,薬剤の使用量が増加し依存症状を引き起こす可能性がある。さらにその薬剤の使用を止めると,離脱症状が現れる。耐性を生じる向精神薬では減量・中止の際に離脱症状を生じるため,基本的に緩徐に行うことが重要であり,急激な減量および中断は避けなければならない。また耐性を生じない向精神薬においても離脱症状を生じる可能性が高く,減量に際してはできる限りゆっくりと行う必要がある。耐性を生じないと考えられている抗精神病薬の長期使用では過感受性精神病となっている可能性もあり,減薬・減量には慎重な対応が求められる。臨床精神薬理 27:119-127, 2024 Key words : psychotropic drugs , drug tolerance, withdrawal symptoms, dose reduction, discontinuation
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【特集】 向精神薬の耐性と離脱
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抗精神病薬の耐性と離脱
27巻2号(2024);View Description
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抗精神病薬は,統合失調症の再発予防目的に長期にわたって使用されるため,耐性や離脱が形成されると言われてきた。しかし,臨床研究のエビデンスを概観すると,平均として抗精神病薬の長期使用によって用量が増えることはなく,「耐性」が一般的に出現するとは言えない。また,近年のランダム化比較試験やメタアナリシスを概観すると,抗精神病薬の中止後早期の精神病症状の急激な増悪(反跳性精神病)は認められておらず,また離脱性ジスキネジアについては一貫した結果が得られておらず,「離脱」が一般的に出現するとは言えない。しかし,一部の患者では,維持治療中に抗精神病薬の増量が必要となったり,中止によって反跳性精神病や離脱性ジスキネジアが出現したりすることが示されている。臨床家は耐性や離脱の可能性を過剰に恐れるべきではないが,一部の患者ではリスクがあることを鑑み,抗精神病薬を注意深く投与する必要がある。臨床精神薬理 27:129-136, 2024 Key words : tolerance, withdrawal, antipsychotics, schizophrenia -
抗うつ薬の「離脱症候群」
27巻2号(2024);View Description
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抗うつ薬の急激な減薬や中止に伴う症状は,米国を中心として「中断」あるいは「中止後」症状と表現されてきた。これは,抗うつ薬には「依存が無い」という通説に基づく。一方,英国では,「依存がある」という考え方が広がり,「離脱」と表現されるようになった。現在は,この二つの呼称が混在している。抗うつ薬の「離脱」症状は,イライラ,落ち着きのなさ,電気ショックのような感覚,発汗などからなる。平均発症日数は2日後,症状の平均持続期間は5 日間とされ,特に半減期の短い薬剤,薬剤を定期的に服用していない場合においてリスクは増加し,高用量もしくは8 週間以上の抗うつ薬の服用,離脱症状に脆弱な人,治療開始時の不安症状の有無,若年者などがリスク要因として挙げられている。英国の報告では,56%の人が「離脱症状」を経験し,その内46%がその症状をʻ 重症ʼ と捉えていた一方で,医師の多くはその状況をあまり理解していないとしている。また,「離脱症状」について説明を受けた当事者は,1%未満だったとの報告もある。離脱症状については,処方を始める段階においてこそ説明することが望ましいと考える。臨床精神薬理 27:137-142, 2024 Key words : antidepressant, withdrawal syndrome, discontinuation syndrome, dependence,Selective Serotonin Reuptake Inhibitor(SSRI) -
ベンゾジアゼピン系薬剤の耐性と離脱
27巻2号(2024);View Description
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ベンゾジアゼピン系薬剤はすみやかな抗不安効果や催眠効果を有し,古くから精神科臨床において使用されてきた薬剤である。ベンゾジアゼピン系薬剤のなかでは,トリアゾラムを中心にいくつか耐性形成について報告がある一方,リアルワールドデータからは,長期使用に伴う明らかな使用量の増加は認められていない。一方,ベンゾジアゼピン系薬剤の減薬や中止時には不安,頭痛,嘔気を中心としたさまざまな離脱症状が高率に生じるため,ベンゾジアゼピン系薬剤が長期にわたって使用される一因となっている。ベンゾジアゼピン系薬剤の減量の際には,漸減法や隔日法が用いられるが,十分な情報を患者と共有しながら進めるのが望ましい。精神/身体症状の不安定さから,ベンゾジアゼピン系薬剤の中止が難しい患者が一部存在すると考えられているものの,長期にわたるベンゾジアゼピン系薬剤の使用を許容するガイドラインは少なく,今後の議論が必要である。臨床精神薬理 27:143-149, 2024 Key words : benzodiazepine, z-drug, dependency, tolerance, withdrawal -
リチウムの耐性と離脱症状
27巻2号(2024);View Description
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リチウムを長期間投与しても,アルコールのように肝臓での代謝酵素が増えて耐性が生じることもなく,ベンゾジアゼピンのように身体依存が成立して中断時に離脱症状が生じることもない,と考えられてきた。ところが,リチウムの耐性や離脱症状を主張する意見もあるため,文献的に検討した。まず,リチウムの耐性やリチウム中断による抵抗性に関しては,いずれも一部の患者では双極性障害自体が重症化するため,リチウムを(再)投与しても効果が出にくくなることで説明できる。次に,リチウムの離脱症状に関してはリチウムに特異的な中断症候群は存在しないが,中断後1 年以内の再発は増える。しかしこれも中断後に再発頻度が増す反跳現象ではなく,再発時期が前方へシフトすることで説明できる。以上のように,リチウムの耐性や離脱症状はないが,リチウムを中止する際には,再発を早めないように2 週間以上かけてリチウムを漸減中止することが望ましい。臨床精神薬理 27:151-158, 2024 Key words : lithium, tolerance, discontinuation, withdrawal, rebound -
抗てんかん発作薬の耐性と離脱
27巻2号(2024);View Description
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抗てんかん発作薬(ASM)は,ベンゾジアゼピン(BZD)系以外でも投与期間が長期となるにつれて抗発作作用および副作用の双方に耐性形成が起こりうる。耐性には代謝性および機能性機序が関与しており,同じ系統の薬剤に対する交差耐性の形成も問題となる。ASM の離脱による最大の問題は発作再発である。発作が消失している患者でASM を中止した場合の発作再発率は12~67%とされている。投薬中止にあたっては,発作消失期間が短いほど再発リスクが高いが,10 年以上無発作でもなお相応の再発リスクを持つ可能性があることに留意が必要であり,減量・中止に際しては患者への十分な説明が大切である。ASM の減量は緩徐に行うべきで,特にBZD 系,バルビツレート,半減期の短いものや薬物動態が非線形のものは注意が必要である。また,怠薬による離脱リスクには心理社会的背景や薬剤の催奇形性が関与する場合もあり,アドヒアランスへの配慮が重要である。 臨床精神薬理 27:159-164, 2024 Key words : anti-seizure medication, epilepsy, tolerance, withdrawal symptom, recurrence -
抗認知症薬の耐性と離脱
27巻2号(2024);View Description
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現行の抗認知症薬であるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害剤の「耐性」に関して検討すると,3 種類存在するAChE 阻害剤はどれも約1 年程度しかベースラインの認知機能を維持できないものの,非使用群との比較においては少なくとも2 - 3 年の範囲では有効性が実地に検証されており,おそらくそれ以上の期間も有効性があるものと推認されている。個々のAChE 阻害剤に関して効果が減じる場合もあるが,その際は他のAChE 阻害剤に切り替えることの有効性も指摘されており,個別の薬剤の耐性現象の存在は推認できる。また,AChE 阻害剤の「離脱」に関して検討すると,何らかの理由による薬剤の中断により認知機能の急激な悪化が認められる場合があり,これは離脱による症状と考えられる。このように,AChE 阻害剤には有効性と限界が存在するが,今後は新しい疾患修飾薬の活用も期待されている。 臨床精神薬理 27:165-168, 2024 Key words : acetylcholinesterase inhibitor, Alzheimer disease, donepezil, galantamine, rivastigmine -
中枢神経刺激薬(methylphenidate,modafinil,lisdexamfetamine)の乱用,依存,離脱
27巻2号(2024);View Description
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中枢神経刺激薬は薬物依存症を起こす薬物の1 つとして知られており,物質関連症の発症に関与している。精神科領域で使用される刺激薬は,ADHD 治療薬であるmethylphenidate 徐放錠,lisdexamfetamine,ナルコレプシーの治療薬である短時間作用型methylphenidate,modafinil が代表的である。中枢神経刺激薬によるADHD やナルコレプシーの症状改善は,症状に悩む患者の生活の質および自尊心の改善に大きく寄与する。一方,中枢神経刺激薬における耐性と離脱のリスクは,使用者側の体質や遺伝的素因,環境要因によっても異なるが,臨床医は十分な知識を持って,必ず留意する必要がある。加えて,昨今は中枢神経刺激薬の適応外使用,特に精神科的診断のない一般の成人が認知機能を高める目的で誤用するケースが増加していることが知られている。本稿ではこれら中枢神経刺激薬の特徴や社会的背景に関しても述べ,その薬理作用や乱用に至るリスクを概説する。 臨床精神薬理 27:169-178, 2024 Key words : attention-deficit hyperactivity disorder, pharmacotherapy, stimulant, methylphenidate,modafinil, lisdexamfetamine -
中枢性抗コリン薬の耐性と離脱
27巻2号(2024);View Description
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中枢性抗コリン薬は,中枢におけるムスカリン受容体への結合により抗パーキンソン病作用を示し,薬剤性パーキンソニズムやジストニアに使用される。末梢性の副作用として頻脈,口渇,便秘,排尿困難など,中枢性副作用として認知機能障害やせん妄があり,長期的な使用は推奨されない。抗コリン薬の中止により認知機能障害の改善が示されている一方,錐体外路症状の再発の可能性には注意が必要である。抗コリン薬の急速中止の試験からは,不安,落ち着きのなさ,脈拍数上昇,起立性低血圧などの離脱症状が出現することが示されている。抗コリン薬の緩徐中止でも離脱症状が出現する可能性はあるものの,急速中止と比べて頻度は低い。よって,抗コリン薬を中止する場合には,急速中止ではなく緩徐中止が安全と考えられる。 臨床精神薬理 27:179-187, 2024 Key words : anticholinergic drugs, antiparkinsonian drugs, extrapyramidal symptoms, tolerance,withdrawal
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シリーズ
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原著論文
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精神科病院療養病棟における遅発性ジスキネジアの横断的研究
27巻2号(2024);View Description
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遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia : TD)は異常不随意運動であり,抗精神病薬,特に第1 世代抗精神病薬の使用に伴う副作用として知られる。本邦では,1996 年にrisperidone を嚆矢として,より副作用の少ない第2 世代抗精神病薬が上市されたが,その後精神科病院におけるTD 発現状況の調査は少ない。本研究では精神科病院療養病棟においてTD 発現状況を横断的に調査した。対象は抗精神病薬服用中の入院患者101 名(男性50 名/女性51 名)。TD の評価はAIMS(Abnormal Involuntary Movement Scale)を用いた。本研究でTD 発現者は18 名(17.8%)であった。TD 発現者18 名のうち15 名(83.3%)で舌にTD を認めた。さらにTD 発現者は,総薬剤数が有意に多く,CP 換算値が有意に少なかった。一方で年齢,性別,抗精神病薬の服薬期間,薬剤数についてTD 非発現者と有意差はなかった。TD は,現在でも精神科病院に蔓延しており,第2 世代抗精神病薬の使用に際しても十分注意する必要がある。TD は依然として精神科臨床における重要な課題である。 臨床精神薬理 27:191-201, 2024 Key words : tardive dyskinesia, abnormal involuntary movement, antipsychotics, cross-sectionalsurvey, Japan
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