臨床精神薬理
Volume 27, Issue 3, 2024
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【展望】
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Quetiapine を再考する
27巻3号(2024);View Description Hide Description第二世代抗精神病薬開発の流れは,1 つは1958 年にWander 研究所が合成したclozapine とclotiapine(clothiapine), もう1 つはPaul Janssen 自身が発見したbutyrophenone系抗精神病薬のpipamperone の非定型性に目を付け,dopamine D2 受容体遮断作用より数倍以上強力なserotonin 5-HT2A 受容体拮抗作用を併せ持つserotonin dopamineantagonist(SDA)のrisperidone を合成したことに始まる。Clozapine からolanzapine が生まれ,clotiapine から生まれたquetiapine が続いた。3 番手となったquetiapine は先行するrisperidone とolanzapine の華やかな活動に1 歩遅れて,地味な存在を余儀なくされていたが,両剤の特許が切れる2005 年頃よりquetiapine の活性代謝物norquetiapine の薬理学的プロフィールが明らかにされ,抗精神病作用に加えて,抗うつ作用,抗不安作用,催眠作用を含めた幅広い向精神作用を示してトップに躍り出た。Norquetiapine という孝行息子のお陰である。海外での適応疾患も統合失調症,双極性障害の躁病・うつ病,単極性うつ病,全般性不安障害などに広がり,それに加えてほとんど全ての精神疾患に適応外使用されている。わが国でも,適応疾患は統合失調症と徐放錠の双極性うつ病に限られるが,適応外使用が増加の一途にある。しかし,2001 年に発売されてから1 年後にolanzapine に続いて,高血糖・糖尿病性ケトアシドーシスによる死亡例から緊急安全性情報が出され,糖尿病に禁忌となった。定期的な血液モニタリングが必要となっていることを忘れてはならず,適応内のみならず,適応外疾患に処方するには心して当たらなければならない。臨床精神薬理 27:211-225, 2024 Key words : quetiapine, norquetiapine, NET inhibitor, 5-HT1A agonist, clotiapine
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【特集】 Quetiapine を再考する
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統合失調症治療におけるクエチアピンの位置付け
27巻3号(2024);View Description Hide Description本邦でクエチアピンが発売されてから20 年以上が経過したが,この間に多くの第2世代抗精神病薬(SGAs)が発売され,現時点では11 種のSGAs が利用できる。また,クエチアピンは2017 年には双極性障害のうつ症状に対する保険適応も取得し,統合失調症治療以外の場面で使用されることも増えている。本稿では,多くのSGAs が利用できる現在,クエチアピンが統合失調症治療においてどのような位置付けにあるかについて,イギリスのモーズレイ処方ガイドラインや薬力学的特性から考察した。その結果,クエチアピンは他のSGAs と同等の有効性を示すが,糖尿病への投与は本邦では禁忌であるだけでなく,耐糖能異常,体重増加,心電図QT 延長の発症リスクがあり,一方でパーキンソニズムや高プロラクチン血症発症リスクは低いという特徴があるため,臨床現場ではこうした特性を生かした使用が望まれると考えられた。 臨床精神薬理 27:227-232, 2024 Key words : quetiapine, antipsychotics, schizophrenia, side effect, pharmacodynamics -
双極性障害におけるクエチアピンの有効性と治療上の位置づけ
27巻3号(2024);View Description Hide Description双極性障害では,躁病エピソードと抑うつエピソードの2 つの気分エピソードの症状改善を目指すとともに,維持期は再燃再発を目指す治療が必要である。双極性障害の薬物療法では,気分安定薬と同等に,第2 世代抗精神病薬が,治療の中心となっている。なかでも,クエチアピンは,抑うつエピソードへの治療有効性に強いエビデンスがあり,国内外の治療ガイドラインでも治療の第一選択に位置づけられている。躁病エピソードに対しては,気分安定薬との併用療法の有効性もエビデンスが高い。維持期では,病相の優位極性を考慮した薬物選択が必要であるが,クエチアピンは,躁病エピソード,うつ病エピソード両方の再燃予防に有効であり,やはり,第一選択に位置づけられている。近年,双極性障害の薬物療法は大きく変化しており,国内外のガイドラインも改訂されている。最新の標準治療の知識をアップデートし,個々の患者に合う治療をしていくことが重要である。 臨床精神薬理 27:233-239, 2024 Key words : bipolar disorder, quetiapine extended release, mania, depression, guideline -
うつ病に対するquetiapine 単剤治療の有効性について考える
27巻3号(2024);View Description Hide DescriptionQuetiapine は統合失調症および双極性障害のうつ症状に対する効果とそこに関与する薬理学的背景が指摘されていることから「うつ病にもquetiapine の単剤療法が効果的なのか?」という疑問が生ずる。Quetiapine の単剤治療の効果については,その関心の高さからいくつかのランダム化比較試験,プール解析およびメタ解析,システマティックレビューが行われている。いずれの結果もうつ病治療におけるquetiapine 単剤治療の有効性を示した結果となっているが現段階においては代替抗うつ薬として積極的な使用は推奨されてはおらず,まずはガイドラインに準じた治療を行い,他に代替する治療法がない場合においてquetiapine 単剤治療のリスクとベネフィットについて,何よりもこの治療が適応外使用となることについて患者や家族と協議し共同意思決定において選択されるべきと考えられる。 臨床精神薬理 27:241-245, 2024 Key words : depressive disorder, quetiapine, monotherapy -
不眠症治療におけるクエチアピンの位置付け
27巻3号(2024);View Description Hide Description不眠症診療においてクエチアピンは睡眠薬の代替治療薬として用いることがあるが,その使用については慎重に検討する必要があると考える。近年の系統的レビュー・メタ解析ではクエチアピンの不眠症状に対する有効性は示されているが,安全性に関しては,体重増加,過鎮静,臨床検査値の異常など様々な副作用のリスクの増大が指摘されている。そのため不眠症診療においては,十分に有効性と安全性が示されている保険適用の既存の睡眠薬を用いて,十分な効果がなかった場合には,安易な適応外使用の薬剤を用いる前に睡眠衛生の再確認や他の睡眠障害の除外などの見かけ上の治療抵抗性でないことを確認することが重要である。また可能な範囲で認知行動療法などの非薬物療法を検討した上で,他の治療では十分な改善が見込めない場合に限り,リスク・ベネフィット比を評価して慎重にクエチアピンなどの適応外の薬剤の使用を検討すべきである。臨床精神薬理 27:247-252, 2024 Key words : quetiapine, insomnia, hypnotics, antipsychotics -
PTSD に対する薬物療法の意義:quetiapine に焦点を当てて
27巻3号(2024);View Description Hide DescriptionPTSD とは,強度のストレス体験を経験した者に起こることのある疾病である。トラウマ体験は当初から聴取されるとは限らないため,診断は困難であることも多い。治療は心理療法,特にトラウマに特化した認知行動療法が各ガイドラインで推奨されており,効果量は心理療法には劣るもののSSRI を中心とした薬物療法も推奨されている。本邦ではparoxetine,sertraline が保険適用であるが,第二選択薬や増強療法としてquetiapine を含む抗精神病薬が適応外使用ではあるが用いられることもある。Quetiapine はPTSD 症状全般やそれぞれの症状について奏効するというエビデンスが蓄積されつつあるがいまだ不十分であり,今後の研究が待たれる。 臨床精神薬理 27:253-257, 2024 Key words : PTSD (posttraumatic stress disorder), quetiapine, pharmacotherapy, treatmentguideline -
不安症に対するquetiapine 使用を再考する
27巻3号(2024);View Description Hide Description現在,各国の不安症に関する診療ガイドラインでは,選択的セロトニン再取り込み阻害薬,あるいは,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬などの抗うつ薬が第1 選択薬として推奨されており,不安症に対するquetiapine の使用に関しては,一貫した見解が示されていないのが現状である。そのような中,全般不安症においてはquetiapineの有効性を検証した二重盲検ランダム化比較試験やシステマティックレビューが複数報告されており,単剤療法や付加(増強)療法において,治療早期の段階で不安症状の改善が期待されている。しかし,抗うつ薬と比較して,忍容性や長期的な有効性の検証が十分に行なわれていないことが問題点として指摘されている。また,全般不安症以外の不安症におけるquetiapine の有効性・安全性については,研究報告が少なく,さらなる検証が必要といえる。 臨床精神薬理 27:259-266, 2024 Key words : quetiapine, anxiety disorder, social anxiety disorder, panic disorder, generalizedanxiety disorder -
境界性パーソナリティ障害の薬物療法
27巻3号(2024);View Description Hide Description臨床的な混乱や対立が生じやすい境界性パーソナリティ障害(BPD)に対しては,その基本的な疾患理解に基づいてバランス良く対応する必要がある。「患者の自殺念慮はアピールなので既遂しないし性格なので生涯にわたって変化しない」という先入観は,近年の研究で「自殺既遂のリスクは高いものの多くの患者が改善する」という知見に変化しており,自殺企図が高まる時期を既遂なく経過することが重要である。最近のエビデンスではBPD の中核症状に対する薬物療法の効果は十分とは言えず,患者に対する安全で有効な臨床マネージメントと精神療法が重視されるが,併用する薬物療法も重要な役割を担う。今回は,BPD の臨床実践で最も投薬されている向精神薬の1 つであるquetiapine に着目しながら,BPD 治療全体について包括的に述べる。 臨床精神薬理 27:267-274, 2024 Key words : pharmacotherapy, borderline personality disorder(BPD), quetiapine, clinicalmanagement, psychotherapy -
Quetiapine は注意欠如多動症の症状軽減に有効であるのか?
27巻3号(2024);View Description Hide DescriptionQuetiapine は注意欠如多動症(ADHD)の症状軽減に有効であるのか。現時点ではADHD の多動- 衝動性や不注意といった中核症状および攻撃性に対するquetiapine の有効性に関する実証的なエビデンスは乏しく,また,忍容性に問題があると考えられる。攻撃性を含む自己制御の問題には,まずADHD 治療薬の最適化を行うべきである。双極性障害や統合失調症を併存する場合にはADHD よりもこれらの併存症への治療が優先され,各疾患の治療ガイドラインに従いquetiapine も選択肢となる。併存症が安定した後にADHD への薬物療法を行う場合には定期的な副作用モニタリングが必要である。ADHD にquetiapineの使用を検討する前に非薬物療法を十分に実施し,ADHD 治療薬の最適化についての再検討が求められる。 臨床精神薬理 27:275-280, 2024 Key words : antipsychotics, attention-deficit/hyperactivity disorder, quetiapine -
Quetiapine によるBPSD 治療戦略を再考する
27巻3号(2024);View Description Hide DescriptionBehavioral and psychological symptoms of dementia(BPSD)は,認知症にみられる知覚,思考内容,気分または行動の障害による症状と定義され,認知症患者の大半に何らかのBPSD が認められる。BPSD の悪化は介護者の負担を増加させ,認知症当事者の施設入所の早期化や生命予後の悪化につながるとされる。各国のBPSD 治療指針では,非薬物療法を優先して行い,切迫性のある場合を除き薬物療法は次なる手段として位置づけられている。BPSD への薬物療法は,精神病症状やアジテーションを中心に行われ,非定型抗精神病薬であるquetiapine は多様な受容体プロフィールと特徴的な受容体親和性(loosebinding),微調整可能な用量設定を活かし,重篤な副作用(耐糖能異常の悪化など)に注意しながら安全かつ有効に使用されてきた経緯がある。 臨床精神薬理 27:281-287, 2024 Key words : behavioral and psychological symptoms of dementia (BPSD), Alzheimer’s disease(AD), antipsychotics, quetiapine, Lewy body disease (LBD) -
せん妄治療におけるquetiapine の位置づけ
27巻3号(2024);View Description Hide DescriptionQuetiapine は,最初にプラセボ対照でせん妄の治療における有効性を実証された抗精神病薬である。Haloperidol 等の抗精神病薬と比較して効果の非劣性がRCT で示されており,複数の二重盲検プラセボ対照RCT で有効性が示されている。一般病院連携精神医学専門医によるエキスパート・コンセンサス(コンジョイント分析)では,過活動型/ 混合型せん妄かつ糖尿病がない場合,50%以上の専門医は,quetiapine を第1 選択薬として推奨していた。現場の状況にエビデンスやガイドラインが追いついていない現時点では,抗精神病薬の個々の薬理学的特性を考慮したアルゴリズムの方が,数少なく偏った内容のエビデンスに基づいた一般的なガイドラインより実臨床には役に立つ。そのようなアルゴリズムにおいて,quetiapine は過活動型せん妄に対する第一選択薬の一つである。臨床精神薬理 27:289-294, 2024 Key words : quetiapine, delirium, real-world data, conjoint analysis, guidelines
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