臨床精神薬理

Volume 27, Issue 5, 2024
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【展望】
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治療抵抗性統合失調症と治療抵抗性うつ病の病態と新規治療,および今後の課題について
27巻5号(2024);View Description
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精神疾患は患者の日常生活および社会的活動に重大な影響を与える疾患である。疾患による苦痛や負担を軽減すべく,様々な治療が行われるが,既存の治療が奏効しないケースもある。特に複数の特定の薬剤を十分期間・十分量投与しても改善しない精神疾患は治療抵抗性精神疾患と定義されている。これらは現在治療の標的とされている病態生理とは異なった機序をもち,同じ症状を呈する症候群として診断がつけられていると推測される。今回は統合失調症とうつ病に焦点を当て,既存の病態仮説と,技術の発展に伴い新たに提唱された仮説,および新規薬剤治療とニューロモジュレーション治療を紹介する。治療抵抗性疾患の治療を進展させるにあたり,生物学的かつ臨床的な異質性と生物学的併存性を認識しつつ病態を解明していくことが必要である。このために,国際的なデータプールを共有してサンプル数を大きくする試みや,人工知能や機械学習を用いてビッグデータを解析し,新たなフェノタイプを算出しようとしたり時間軸も含めたデータ比較からバイオタイピングする動きが進められている。この動きについて,今回は特に国内での複数の研究を紹介していく。 臨床精神薬理 27:427-438, 2024 Key words : TRD, TRS, treatment, deep phenotyping, biotyping
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【特集】 治療抵抗例・難渋例の精神疾患治療Update
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治療抵抗性統合失調症へのアプローチ
27巻5号(2024);View Description
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治療に難渋する治療抵抗性統合失調症(以下,TRS)であるが,適応を持つ唯一の薬剤がclozapine(以下,CLO)である。TRS と治療反応性の統合失調症を比べると,ドパミン合成能,グルタミン酸濃度,灰白質体積や適応薬剤のドパミンD2 受容体への親和性の違いなどがみられ,両者が異なる病態生理に基づいている可能性が示唆される。CLO の有効性を他の抗精神病薬と比べると,短期だけでなく長期の場合でも陽性症状などに対する優越性を認め,CLO はTRS 患者の約4 割に治療反応をもたらす。忍容性の点では特に内服開始後20 週以内の無顆粒球症や心筋炎・心筋症,耐糖能異常などの重篤な副作用に注意を要する。電気けいれん療法に関するエビデンスは短・中期的なものしかなく,長期的には明らかにCLO 治療が必要になる。CLO の導入が遅れるほど治療反応性も低下するため,TRS と診断した場合には速やかに導入を検討すべきである。臨床精神薬理 27:439-446, 2024 Key words : treatment-resistant schizophrenia, clozapine, Clozaril Patient Monitoring Service(CPMS), electroconvulsive therapy, shared decision making (SDM) -
治療抵抗性うつ病に対する増強療法
27巻5号(2024);View Description
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抗うつ薬を中心とした薬物療法は,うつ病治療における主治療の1 つである。しかし抗うつ薬のみによってうつ病治療が完結することは少なく,適切な薬物療法が奏効しない,いわゆる治療抵抗性うつ病が全体の約3 割を占めている。現在,本邦で治療抵抗性うつ病に対する適応を持つ薬剤はaripiprazole とbrexpiprazole であるが,lithium や非定型抗精神病薬などの併用は海外のガイドラインでも推奨されている。本稿では治療抵抗性うつ病に対する増強療法について,また近年注目を集めているketamine について概説する。治療抵抗性うつ病に対する増強療法は,複数の薬剤で有効性が示される一方で,長期使用に関する報告は少なく安全性への懸念から慎重な投与が望まれる。しかし増強療法に関する知識を整理し,我々の選択肢を広げておくことは臨床上重要であると考えられる。臨床精神薬理 27:447-456, 2024 Key words : treatment-resistant depression (TRD), augmentation, lithium, atypical antipsychotic,ketamine -
治療抵抗性双極性障害へのアプローチ
27巻5号(2024);View Description
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双極性障害は躁状態とうつ状態を繰り返す疾患であり,統合失調症やうつ病と重複する症状を有し,躁症状と抑うつ症状が混在する混合状態は非典型的で多様な病態を呈する。双極性障害の治療ガイドラインでは躁状態,うつ状態,維持期に分けて各推奨薬剤が提示されており,適切な診断・治療には精神科医の知識と経験を基にした考察力・判断力が必要となる。エビデンスに基づく適切な治療を行っても十分な効果が得られない治療抵抗性双極性障害に対しては,現時点で急性期から維持期まで通して推奨される薬剤は存在しない。実臨床において,適切な診断・治療が実現されていないがゆえに治療抵抗性に至っている場合があり,精神病症状を伴う躁状態と統合失調症との鑑別,双極性障害のうつ状態とうつ病との鑑別を行い,双極性障害は「エネルギー調節障害」である可能性を念頭に入れながら,急性期から維持期を見据えた薬物療法を心がけることが重要である。臨床精神薬理 27:457-463, 2024 Key words : bipolar disorder, treatment-resistant, psychosis, mixed state, energy dysregulation -
治療に難渋する強迫症の薬物療法
27巻5号(2024);View Description
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強迫症(obsessive compulsive disorder : OCD)は,反復的・持続的な思考や衝動,イメージにとらわれる「強迫観念」と,手洗いや確認などの繰り返しや儀式行為,呪文を唱える,数を数えるなど心の中の行為を含む「強迫行為」を主な症状とする精神疾患である。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor : SSRI),認知行動療法,および,その併用療法が第一選択として推奨されている。SSRI 抵抗性においては,抗精神病薬やグルタミン酸調整薬などによる増強療法が考慮される。これらの,適用可能な治療オプションすべてでも十分な反応性が得られない場合に難治例とされるが,今後TMS やDBS といったニューロモデュレーションの適応と想定される。本稿では,適応外使用の薬剤も含め,初期治療の薬物療法,治療抵抗性・難治性への治療選択肢を総説したい。 臨床精神薬理 27:465-472, 2023 Key words : obsessive compulsive disorder, selective serotonin reuptake inhibitor, antipsychotics,neuromodulations, glutamate antagonist -
治療に難渋するせん妄の薬物療法
27巻5号(2024);View Description
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治療に難渋するせん妄は,(1)背景疾患に注意が必要なケース,(2)薬物療法の選択で難渋するケースに分けると治療戦略を立てやすい。(1)では,軽度の意識障害を呈する疾患の鑑別や,アルコールやベンゾジアゼピン系薬物の離脱などベンゾジアゼピン系薬剤が必要な病態などを見逃さないようにすることが重要である。(2)の薬物療法に関しては,①せん妄が遷延するケース,②興奮や焦燥が強いケース,③投与経路が限られるケース,④合併症のため薬剤選択に注意が必要なケースに分けて検討することで,限られたエビデンスの中で安全性に配慮した治療を組み立てることが可能となる。臨床精神薬理 27:473-479, 2024 Key words : delirium, prolongation, agitation, parenteral administration, complications -
治療に難渋するアルコール・薬物依存症に薬物療法は寄与しうるか
27巻5号(2024);View Description
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アルコール・薬物依存症(物質使用障害substance use disorder : 以下SUD)の主症状は物質使用に関するコントロールの喪失だが,それを改善する方法は心理社会的介入が中心である。SUD は治療導入自体が容易ではなく,治療につながっても早期に脱落しやすい。特に難治例は併存精神疾患や身体合併症,ケースワーク上の問題が重度かつ複雑であるか,本人の困り感がきわめて乏しく動機付けが皆無に近いため,さらに治療の導入や維持に困難を呈する。難治例に対しては,背景にある小児期逆境体験やトラウマ関連症状に対して共感的理解を示しつつ,多剤併用となったとしても十分量の薬物療法を提供し,早期に患者の精神症状に伴う苦痛を緩和することで,治療同盟の構築に役立つ。患者と治療者との信頼関係の維持が,その後のSUD の回復支援には不可欠な要素である。臨床精神薬理 27:481-488, 2024 Key words : substance use disorder, addiction, treatment-resistant, pharmacotherapy, therapeuticalliance -
治療に難渋する認知症の薬物療法
27巻5号(2024);View Description
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認知症に対する疾患修飾治療の萌芽として,遂にレカネマブ(レケンビ®)が使用できるようになった。レカネマブにはこれまで対症療法のみであり,事実上全例が治療抵抗性と言えるアルツハイマー病の治療に大きな変革を与えることが期待される。しかし,その使用に際しては,レカネマブの実際の効果と潜在的な副作用についての慎重かつ正確な説明が求められる。本稿前半ではレカネマブの臨床研究の結果に基づく期待される効果と副作用について概説する。また認知症の治療を困難にする代表的な要因として認知症に伴う行動と心理症状(BPSD)がある。BPSD は精神科医が対応を求められることが多いが,現状では効果的な薬物療法は限られている。本稿後半では,現時点での薬物療法のエビデンスを中心にまとめる。 臨床精神薬理 27:489-495, 2024 Key words : lecanemab, Alzheimer’s disease, amyloid-related imaging abnormalities, cerebralamyloid angiopathy, behavioral and psychological symptoms of dementia -
治療に難渋する不眠症の薬物療法
27巻5号(2024);View Description
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不眠障害は有病率6-10%の代表的な睡眠覚醒障害である。海外のガイドラインでは不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)が第一選択治療として推奨されており,睡眠薬による薬物療法はCBT-I で十分な効果が得られないとき,もしくはCBT-I を受けたくても治療にアクセスできないときに行うよう提言されている。しかしながら,日本ではCBT-Iは普及しておらず,CBT-I にアクセスできる患者は一握りである。そのため,日本では不眠障害に対して薬物療法で治療が行われることが多い。既存のガイドラインでは薬物療法で不眠障害が寛解に至らなかったときにどのように治療すべきか,明示していない。本稿では,睡眠薬を処方されても「睡眠薬が効かない」「眠れない」と患者が訴えたとき,どのように考え,患者からどのような内容を聴取し,どのような対応をとるべきかについて,睡眠専門医の立場から概説する。 臨床精神薬理 27:497-505, 2024 Key words : cognitive behavioral therapy, insomnia, hypnotics, sleep state misperception -
てんかんに随伴する精神症状とその対応
27巻5号(2024);View Description
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てんかんには精神病,うつ病,不安症などの精神疾患が併存しやすい。発作時精神病は,てんかん発作時に幻覚や妄想が現れる状態で,主に抗てんかん薬で治療される。発作後精神病は,重大な発作後に起こる精神病状態で,抗精神病薬やベンゾジアゼピン系薬剤が使用される。発作間欠期精神病は,発作と時系列的な関連がない精神病で,治療は統合失調症の治療に準じる。併存するうつ病は抗うつ薬で治療される。抗うつ薬の使用では発作誘発のリスクがないわけではないが,その影響は小さいと考えられるため基本的には抗うつ薬による治療をする方が望ましい。不安は発作関連の症状との鑑別が重要であり,不安症にはセロトニン再取り込み阻害薬や認知行動療法による治療がなされている。てんかん診療においては未だ精神科医が貢献できる余地は大きく,てんかんそのものでなくとも,随伴する精神症状については精神科医の積極的な関与が求められる。臨床精神薬理 27:507-516, 2024 Key words : epilepsy, postictal psychosis, interictal psychosis, alternating psychosis, epilepticpsychosis
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