臨床精神薬理
Volume 27, Issue 6, 2024
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【展望】
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統合失調症の神経認知機能および社会認知機能の障害と陰性症状
27巻6号(2024);View Description Hide Description統合失調症患者の社会機能について,1970 年代後半から80 年代に陰性症状,1990年代から2000 年代に認知機能障害との関連が明らかになった。陰性症状と認知機能障害に対して十分な効果を持つ治療法はまだなく,治療上のアンメットニーズである。2000 年代半ばに米国のNational Institute of Mental Health(NIMH)で開催されたカンファレンスにおいて,神経認知機能および社会認知機能の障害と陰性症状を克服るすためのロードマップとして,標的とすべき領域の同定,標準的な検査方法の開発,治療法の開発という道筋が示された。神経認知機能障害と陰性症状については,標準的な検査方法が開発されているが治療法の開発には至っておらず,社会認知機能障害についてには,標準的な検査方法の確立の途中である。本稿では,統合失調症患者の認知機能障害と陰性症状に対する取り組みの現状を概観する。 臨床精神薬理 27:531-540, 2024 Key words : schizophrenia, negative symptoms, neurocognition, social cognition
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【特集】 統合失調症のさまざまな病態にどう対応するか
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統合失調症の陰性症状への薬物療法
27巻6号(2024);View Description Hide Description統合失調症に対する薬物治療の有効性を検討した研究の主要評価項目は陽性症状の改善や再発予防効果であることが多い。副次評価項目の1 つとして陰性症状に対する薬物療法の有効性を報告している研究もあるが,陽性症状が前景の統合失調症患者を主たる対象としている点に十分注意して解釈する必要がある。一方で陰性症状が前景の統合失調症患者に対する薬物療法の有効性を検討した研究は限定的である。陰性症状は統合失調症の症状の中核的な症状であるが,陽性症状に比し患者の訴えが少ないことや一次性陰性症状と二次性陰性症状の鑑別が難しいことに加えて,陰性症状に特異的に有効な向精神薬が少ないことなどの課題がある。本稿ではエビデンスレベルの高い研究手法であるメタ解析やガイドラインの結果を参考に統合失調症陰性症状に対する薬物療法の有用性についてまとめる。 臨床精神薬理 27:541-548, 2024 Key words : schizophrenia, negative symptoms, pharmacotherapy, meta-analysis, guideline -
統合失調症における認知機能障害の薬物治療
27巻6号(2024);View Description Hide Description認知機能は統合失調症の中核的な症状であり,その改善が社会機能や機能的転帰と関連している。約70%の患者が認知機能障害を抱えており,『統合失調症薬物治療ガイドライン2022』では,統合失調症の認知機能障害に対して第二世代抗精神病薬(SGAs)の使用を推奨している。併せて,抗コリン薬やベンゾジアゼピン受容体作動薬の併用は認知機能に悪影響を与えるため,避けるべきであると記載している。抗精神病薬以外の薬剤に関してはエビデンスが限られており,抗精神病薬との併用療法の効果は確立されていない。現在進行中の臨床試験では,新しい薬剤の統合失調症の認知機能障害に対する有効性と安全性を検証しており,将来的に新たな薬物治療が期待される。ただし,統合失調症患者の約30%は認知機能障害を示さないため,治験や治療においては認知機能の有無に基づく統合失調症患者の層別化が重要であることを強調したい。臨床精神薬理 27:549-553, 2024 Key words : schizophrenia, cognitive impairments, antipsychotics, adjunctive therapy, metaanalysis -
統合失調症における抑うつの薬物治療
27巻6号(2024);View Description Hide Description統合失調症における抑うつ症状は社会機能の低下や再発・入院リスク,さらに自殺リスクの増大と関連するため重要であるが,十分に評価されていない可能性がある。統合失調症の抑うつ症状に対する薬物治療戦略として,①抗精神病薬による治療,②抗精神病薬の減量,③抗精神病薬に抗うつ薬を併用,の3 つの治療方法が考えられる。無作為化比較試験やそのメタ解析の結果から抗精神病薬,特に第2 世代抗精神病薬はプラセボに比し統合失調症の抑うつ症状を有意に改善することが示されており,これを主体とした薬物療法が統合失調症の抑うつ治療の軸となる。一方で抗精神病薬は錐体外路症状や鎮静作用などを通して二次的に抑うつ症状をもたらす可能性も想定される。このため効果と副作用のバランスをとるために適切な薬剤選択や用量設定を行っていくことも重要であろう。臨床精神薬理 27:555-561, 2024 Key words : depression, schizophrenia, antipsychotics, dose reduction, antidepressants -
統合失調症におけるカタトニアの治療
27巻6号(2024);View Description Hide Descriptionカタトニアは,昏迷のような運動活動性の低下から,外的刺激の影響によらない興奮などの運動活動性の亢進まで幅がある複雑な臨床像を特徴とする精神運動性の障害であり,かつては「緊張病」として統合失調症の亜型の一つであったが,現在では,統合失調症を含め精神疾患に関連するもの,他の医学的な疾患に関連するもの,特定不能のものにわけられる症候群であるため,カタトニアを起こす原因疾患を鑑別することが重要である。カタトニアの治療は輸液などによる全身状態の管理に加え,原因となる疾患の治療を行うことが重要であるが,カタトニアに対してはbenzodiazepine 受容体作動薬か電気けいれん療法がよく用いられる。統合失調症によるカタトニアに関してはこれらに加え,非定型抗精神病薬も治療の選択肢に上がりうるが,悪性症候群の出現やカタトニアの症状を悪化させる可能性もあるため注意する必要がある。 臨床精神薬理 27:563-568, 2024 Key words : catatonia, organic disease, electroconvulsive therapy -
統合失調症における精神運動興奮(焦燥)の薬物治療
27巻6号(2024);View Description Hide Description精神運動興奮は,焦燥agitation と同義と考えられ,統合失調症の入院患者のおよそ半数にみられる。焦燥は攻撃的行動や暴力に繋がることがあり,その管理と治療は重要な課題である。統合失調症における焦燥に対する治療は,各国のガイドラインでは抗精神病薬,補助療法としてベンゾジアゼピン系薬剤が推奨されている。本稿では,焦燥に対する薬物療法について,システマティック・レビューとメタアナリシスを中心に解説した。抗精神病薬については,第1 世代薬と第2 世代薬の効果の差は明らかではないが,第2 世代薬は第1 世代薬より副作用が少ない。抗精神病薬の筋肉内や静脈内投与は,経口投与より薬物分布が速いことから効果の発現も速いことが期待されるが,そもそも同一薬剤の異なる投与経路での効果の比較はほとんど行われていない。抗精神病薬の補助療法としては,ベンゾジアゼピン系薬剤,気分安定薬であるvalproate,第1 世代抗ヒスタミン薬であるpromethazine,β遮断薬などが有効である。エビデンスからは,早急な鎮静が必要な場合はベンゾジアゼピン系薬剤や第1 世代抗ヒスタミン薬,衝動性や易怒性が著しい場合は気分安定薬,暴力が慢性的に持続している場合はβ遮断薬が選択肢となりうる。また,新たな焦燥の治療薬として,アドレナリンα2 受容体アゴニストであるdexmedetomidine が期待される。 臨床精神薬理 27:569-577, 2024 Key words : agitation, antipsychotics, benzodiazepines, mood stabilizer, beta-blockers, dexmedetomidine -
統合失調症における多飲症・水中毒と抗精神病薬
27巻6号(2024);View Description Hide Description多飲症・水中毒は精神疾患,とりわけ統合失調症患者に多く認められる。水中毒は死に至ることがあり,隔離・身体拘束を必要としたり治療に難渋する深刻な病態である。抗精神病薬の副作用,あるいは長期投与によるドパミンD2 受容体感受性の亢進の関与も示唆されているが,抗精神病薬が登場する以前から多飲症・水中毒は報告されており,抗精神病薬との因果関係は不明である。さらに,統合失調症患者における抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌異常の関与も示唆されているが,発生機序は明らかになっていない。これまで多飲症に関連した様々な用語が用いられてきたが,文献によってその定義が異なるため,これらを整理し,尿崩症などの身体疾患や薬剤などによる二次性の多飲症も含めて多飲症の分類を示した。治療は水分制限や心理教育による行動療法が中心となるが,改善に乏しいことが多い。薬物療法ではエビデンスは十分ではないが,clozapine の有効性が示唆されている。今後は,均一の診断基準や重症度尺度を用いて多飲症・水中毒の診断・評価・治療が行われ,その知見が集積されることが待ち望まれる。臨床精神薬理 27:579-587, 2024 Key words : antipsychotics, polydipsia, schizophrenia, water intoxication -
統合失調症における自殺と抗精神病薬――クロザピンを中心に
27巻6号(2024);View Description Hide Description統合失調症患者は,一般人口と比較して自殺の危険性が高い。クロザピンは統合失調症患者の自殺を予防する効果があることが示されているが,クロザピン以外の抗精神病薬の自殺予防効果については明らかにされていない。統合失調症患者の自殺を予防するために薬物療法としてできることは,クロザピンを選択することだけでなく,副作用やアドヒアランスへの配慮が重要である。また,クロザピンの投与を中止する際は自殺の危険性が高まらないか注意を要する。 臨床精神薬理 27:589-596, 2024 Key words : schizophrenia, suicide, antipsychotic, clozapine, discontinuation -
早期発症統合失調症の薬物療法
27巻6号(2024);View Description Hide Description早期発症統合失調症は,診断基準は成人の統合失調症と同様であるが,発症前・発症後ともにその経過は多様であり,薬物療法をいかに開始するか,判断に迷う場合も多い。また,鑑別しなければならない他の精神疾患も複数存在し,小児の統合失調症において適応のある抗精神病薬も少ないのが現状である。薬物療法は,標的症状を明確にし,小児において起こりやすい代謝異常の副作用を特に注意した上で,循環器系,神経系などの身体状況とともにモニタリングしながら行うのがよい。第二世代抗精神病薬を用いることが勧められるが,代謝異常をきたしやすいオランザピンは第一選択薬として推奨されない。非薬物療法としても,教育機関や就労機関,地域支援機関との連携も含めた環境調整,家族介入,認知行動療法などを薬物療法と並行しながら行うことが重要である。臨床精神薬理 27:597-603, 2024 Key words : early-onset schizophrenia, children and adolescents, pharmacotherapy, antipsychoticdrug -
初回エピソード精神病の薬物治療
27巻6号(2024);View Description Hide Description本稿では,以下の2 つの臨床疑問に対する最新のエビデンスを収集し,「初回エピソード精神病に対する最適な薬物治療戦略」を考察する。臨床疑問1:「急性期」初回エピソード精神病患者に対する抗精神病薬を用いた薬物治療の有用性。臨床疑問2:「維持期」初回エピソード精神病患者に対する抗精神病薬を用いた薬物治療の有用性。臨床精神薬理 27:605-610, 2024 Key words : first episode psychosis, antipsychotics, meta-analysis -
ドパミン過感受性精神病の診断と薬物療法
27巻6号(2024);View Description Hide Descriptionドパミン過感受性精神病は長期間にわたる抗精神病薬治療の影響によって生じ得る不安定な病像を特徴とする。それまで安定経過であった患者が,再発しやすくなり,また薬剤の増量対応にも反応が乏しく,難治化を示してくる。診断学的にはリバウンド精神病・抗精神病薬への抵抗性・遅発性ジスキネジア・再発脆弱性が主徴候として判断される。病態として依然として不明な点も多いが,抗精神病薬によるドパミンD2 受容体のupregulationが古典的に推定されてきた。治療的対応も抗精神病薬によるドパミンD2 受容体の占拠率を薬力学的・動態学的に推定しながら進めることが一定の効果をもたらすと考えられる。また同時にドパミン過感受性精神病を来した場合,治療抵抗性統合失調症に該当することも多く,clozapine や電気けいれん療法の適応についても考慮することが必要となる。そして統合失調症の薬物療法には過感受性精神病を惹起させない予防的視点が何よりも重要である。 臨床精神薬理 27:611-619, 2024 Key words : clozapine, dopamine D2 receptor, dopamine supersensitivity, long-acting antipsychotic,treatment-resistant
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シリーズ
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症例報告
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統合失調症薬物療法における抗精神病薬の合理的多剤併用療法の試み
27巻6号(2024);View Description Hide Description日本を含めて各国の統合失調症に関する薬物治療ガイドラインでは,抗精神病薬の単剤使用が推奨されている。このことは第一世代抗精神病薬の多剤併用では強い副作用が生じていたためと思われる。近年,効果に比較して副作用が少ない第二世代抗精神病薬が多数開発されてきた。これらの併用療法は単剤に比較して強い効果があるが,必ずしも強い副作用を伴うものではない。本論文では,併用療法を試みた症例中から合理的と思われる1 症例を報告し,作用に比較して副作用が少ない組み合わせがあることを提示した。抗精神病薬の併用療法に関する臨床研究の必要性を述べた。臨床精神薬理 27:623-629, 2024 Key words : monotherapy, polypharmacy, antipsychotic, schizophrenia
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