臨床精神薬理
Volume 27, Issue 8, 2024
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【展望】
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コンサルテ-ション・リエゾンにおける精神科薬物療法の役割と留意点
27巻8号(2024);View Description Hide Descriptionコンサルテ-ション・リエゾン精神医学とは,身体各科の要請に応じて提供される精神医学的サ-ビスすべてを含む概念であり,幅広い領域を包含している.一方,実際に対応を求められることの多い頻度の高い症状は,さまざまな身体疾患やその治療を背景に生じるせん妄や不安,抑うつ等である.また,精神疾患を有した妊産婦や妊娠や産褥期に新たに生じた精神症状への対応を求められることもある.したがって,薬物療法の適応になりやすい病態,なりにくい病態の双方が混在しており,薬物療法に際しての留意点も多彩である.本稿では,コンサルテ-ション・リエゾン精神医療で対応が求められることが最も多いがんを軸に,他の身体疾患,妊産婦への対応なども含めて,薬物療法の役割と留意点について私見をまじえて紹介した.あわせて,患者・市民参画の意義や医師主導の臨床研究の重要性について論じた. 臨床精神薬理 27:755-764, 2024Key words : consultation-liaison psychiatry, delirium, anxiety, depression, Patient & Public Involvement
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【特集】 リエゾン・コンサルテ-ションにおける精神科薬物療法
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抗がん剤治療中の向精神薬の選択とその留意点
27巻8号(2024);View Description Hide Descriptionがん治療中の患者における向精神薬の使用は,せん妄を含む精神症状の併存に対して使用する場合と,精神症状以外の目的で使用する場合に分けられる.がん関連治療薬と向精神薬の薬物相互作用で留意するべきは,がん治療薬そのものではなく,内分泌療法や支持療法,あるいは併存症に使用される薬剤で,中にはがん患者の生命予後に関連することもある.また,非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)内服中の患者にセロトニンの再取り込み阻害作用を有する抗うつ薬を使用すると易出血性を呈する.抗うつ薬は神経障害性疼痛や内分泌療法の副作用対策などがん治療に使用される場面が多いため慎重な薬剤選択が必要である.最後に,免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連副作用(irAE),特に重症筋無力症は抗精神病薬のパ-キンソニズムとの鑑別が難しく,抗精神病薬内服中どちらかを鑑別するためには,irAE 特有の症状を知っておくことが必要である.臨床精神薬理 27:765-772, 2024Key words : drug-drug interaction, SSRI, gastrointestinal bleeding, immune checkpoint inhibitor,immune-related adverse events -
緩和ケア領域における精神科薬物療法の実際
27巻8号(2024);View Description Hide Description緩和ケアの一環として行われる身体症状緩和のために,精神科治療薬が用いられることがある.疼痛,倦怠感,悪心・嘔吐,吃逆,呼吸困難,掻痒,ホットフラッシュと,終末期のせん妄に対して使用される精神科治療薬について概説する.エビデンスが少ないことが多く,本来と異なる用法,評価時期,評価アウトカムに注意を要する.これらは,身体症状緩和に対する精神科治療薬処方の助言を求められたり,精神症状治療中に併用されている身体症状緩和目的の精神科治療薬について理解する必要があるため,自ら身体症状緩和に携わらない場合でも知っておくべき知識である.臨床精神薬理 27:773-778, 2024Key words : pain, fatigue, dyspnea, terminal delirium -
向精神薬服用中患者における麻酔管理の問題点
27巻8号(2024);View Description Hide Description近年の手術手技や麻酔薬の向上により,精神疾患患者が全身麻酔下で手術を受ける機会は増加している.本稿では,向精神薬服用患者の全身麻酔管理を行う上で留意すべき点について述べる.向精神薬の中枢抑制作用は,全身麻酔薬と相互作用・相乗作用を示すことがあり,麻酔薬作用の増強や覚醒遅延を呈することがある.向精神薬の持つ心筋伝導障害,α1 受容体遮断作用は,不整脈や異常低血圧を引き起こす可能性があり,麻酔中の循環動態に及ぼす影響が懸念される.向精神薬長期服用により,筋弛緩薬,鎮痛剤などの術中に通常使用する薬剤の作用効果は変化する.向精神薬服用患者の麻酔管理を行う際は,個々の患者や服用薬剤の特性に応じて,手術主科,精神科をはじめとする関連各科との情報共有を密に行い,術前から周術期を通して患者の精神状態の安定維持と厳重な循環管理,早期の服薬再開に努める. 臨床精神薬理 27:779-783, 2024Key words : anesthetic management, psychotropic medication, effect on circulation, changesin muscle relaxant action -
せん妄に対する精神科薬物療法の実際
27巻8号(2024);View Description Hide Descriptionせん妄に対する介入は,エビデンス水準の高さからは非薬物的介入法が先行しているが,せん妄は明らかな生物学的基盤をもつ病態であるため,非薬物的介入法に限界があるのも事実である.薬物療法による介入のエビデンスは徐々に蓄積されつつあり,治療では抗精神病薬,予防ではメラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬が挙げられる.これらによってリエゾン・コンサルテ-ションの現場におけるアルゴリズムは近年大きく変化している. 臨床精神薬理 27:785-791, 2024Key words : delirium, pharmacotherapy, melatonin, orexin, antipsychotic -
疼痛領域における精神科薬物療法の意義と限界
27巻8号(2024);View Description Hide Description国民が抱えている症状として痛みはランキング上位であり,また痛みの患者に対応すべき精神症状が多いことを考えると,精神科医として痛みを扱う意味は大きい.最近,国際疼痛学会が痛覚変調性疼痛という考え方を導入し,臨床的にも使われるようになってきた.これは色々な感覚過敏や認知機能障害などを含めた概念であり,ICD-11 の慢性一次性疼痛と重なるが,心因性とは全く異なることを理解する必要がある.さて,慢性疼痛を呈する患者に対しては,抗てんかん薬,抗うつ薬,抗不安薬など精神科医が習熟している薬を用いることも多い.本小論ではガバペンチノイド,抗うつ薬の鎮痛基礎薬理から始め,一次性疼痛の線維筋痛症と身体症状症を例にその臨床薬理を整理する.さらにそれらを踏まえ,慢性疼痛の薬物療法の限界,問題点についても触れる.臨床精神薬理 27:793-800, 2024Key words : chronic primary pain, nociplastic pain, gabapentinoids, antidepressants, pharmacologicaltreatment -
移植精神医学――移植患者の精神科薬物療法を中心に
27巻8号(2024);View Description Hide Description臓器移植医療の進歩によってこれまで救命できなかった末期臓器不全患者が回復することが多くなった.このような移植患者に併存する精神疾患は長期予後に影響を及ぼすとされ,精神医学的な評価および治療,患者や家族の心理社会的サポ-トが重視されている.また,臓器移植患者に対して精神科薬物療法を行う場合,末期臓器不全の状態を鑑みながら,身体への安全性,免疫抑制薬等との薬物相互作用,服薬アドヒアランスに十分配慮する必要がある.さらに,移植医療は,移植外科医,内科医,看護師,レシピエント移植コ-ディネ-タ-,心理士などの多職種チ-ムで実施されるため,患者の精神医学的問題をできるだけ共有し,移植チ-ムと協働することが重要になる.本稿では,一般的に臓器移植患者やその家族に生じる心の変遷を踏まえた上で,コンサルテ-ション・リエゾンにおける精神科薬物療法の実践について概説する. 臨床精神薬理 27:801-809, 2024Key words : transplant psychiatry, transplantation, psychopharmacology, consultation-liaison -
過量服薬・自殺企図歴のある患者への薬物療法
27巻8号(2024);View Description Hide Descriptionリエゾン・コンサルテ-ションの場面では,自殺企図後の診察依頼が少なくない.自殺未遂歴は最も強力な自殺の危険因子であり,その対応には慎重を期す必要がある.自殺企図の背景には複雑な心理社会的要因が存在し,この課題に多職種で包括的なアプロ-チを行うことが理想である.一方で,患者数の増加に伴い,時間的制約や人員不足が生じ,このようなアプロ-チを常時提供するのが難しい現実もある.そのため,場合によっては,簡便な薬物療法に頼ることを避けられない場面もあるだろう.薬物療法を行う際には,その適否や薬剤選択を十分に考慮することが不可欠である.また,本人・家族との治療同盟や連携も重要である.本稿では,過量服薬や自殺企図後の患者に対する薬物療法を実施する際の注意点について,私見を交えて論じる.ただし,薬物療法に偏重するのではなく,心理社会的な支援を組み合わせた治療が重要であることを繰り返し強調しておきたい. 臨床精神薬理 27:811-816, 2024Key words : suicide attempt, overdose, pharmacotherapy, psychiatric emergency, suicide prevention -
妊産婦の精神科薬物療法と母乳育児をめぐる意思決定支援
27巻8号(2024);View Description Hide Description妊産婦の精神科薬物療法においては,母体および児のリスク・ベネフィットを十分考慮する必要がある.薬剤の胎児への影響を慎重に考慮する必要がある反面,十分な薬物療法を行わないことにより生じ得る精神症状の悪化は,妊娠期のセルフケア低下,睡眠障害や不適切な栄養による母体環境の悪化,産科的合併症,胎児の発育不全を引き起こす可能性がある.精神疾患の重症度,各精神疾患の治療における薬物療法の位置付け,各代替療法のリスク・ベネフィット,過去の病歴や治療反応性を考慮して薬物療法を行うか否か,行う場合はどの薬剤を選択するか慎重に判断する必要がある.薬剤の胎児や母乳への影響について服薬のリスクだけでなく,服薬中断のリスクについても十分な情報提供を行い,妊産婦と家族が適切な判断の下,治療選択ができるよう意思決定支援を行うことが重要である.妊産婦に関わる医療保健従事者間で薬物療法,治療方針,母乳育児に関して情報を共有し統一した支援を行うことが望ましい. 臨床精神薬理 27:817-824, 2024Key words : psychotropic treatment, pregnancy, lactation, shared decision-making -
ステロイドによる精神症状への対応,ステロイド治療中の患者の精神科薬物療法
27巻8号(2024);View Description Hide Description副腎皮質ステロイドは自己免疫性やアレルギ-性疾患等,様々な治療において広く使用されている.その効果は高く評価されており,多くの患者にとって有益な治療法である.しかし,ステロイドの使用には様々な副作用が伴う.その中でも,精神症状の発現は最も重大な問題の一つである.ステロイド誘発性精神疾患には,不安,興奮,気分高揚,抑うつ,幻覚,妄想など,様々な精神症状が含まれる.これらの症状は,患者の生活や治療計画に深刻な影響を及ぼす可能性がある.ステロイドの高用量や患者の年齢,既往歴などが危険因子である.治療にはステロイドの減量や中止が主要であり,必要に応じて向精神薬が用いられる.小児におけるCIPD に関してはまだ研究が不足しているが,治療計画を立案する際には,患者の年齢や発育段階,精神的な影響を考慮する必要がある.また,家族や介護者への情報提供や支援も重要である. 臨床精神薬理 27:825-831, 2024Key words : corticosteroid-induced psychiatric disorder, steroid psychosis -
インタ-フェロン誘発性うつ病とその治療
27巻8号(2024);View Description Hide Description一般科で使用される治療薬(薬剤)による精神症状(特に気分に関連した)は,あらゆる分野のあらゆる薬剤において起こるといっても過言ではない.しかし,実際の臨床場面では,その精神症状が薬剤によるものと判断されず見過ごされる場合も多い.本稿では,薬剤による精神障害(薬剤性精神障害)の診断,とらえ方,特徴,頻度,経過,発現機序,および治療と対策に関して,インタ-フェロン(以下IFN)を通して述べる.IFNは極めて副作用の頻度が高く,副作用の種類も多岐にわたる薬剤である.IFN 療法中に最も認められるのは抑うつ状態で,C 型慢性肝炎患者の場合,約30%に軽度の抑うつ状態が,約10%に重度の抑うつ状態がみられる.ところが,長年肝炎治療の中軸を担ってきたIFN が,C 型慢性肝炎,B 型慢性肝炎いずれにおいても第一選択から外れている.おそらく精神科医がIFN 誘発性うつ病に関してコンサルトを受けることは,今後,稀となると考える.しかし,IFN 誘発性うつ病の研究が精神医学にもたらした貢献度は大きく,ここに改めて総括しておく. 臨床精神薬理 27:833-840, 2024Key words : drug-induced psychotic disorder, side effect, interferon, cytokine, depression -
腎不全・透析患者における精神科薬物療法
27巻8号(2024);View Description Hide Description透析患者は全国で約35 万人いると報告されている.患者はさまざまな心理的なストレスを抱えており,約4 分の1 がうつ病を発症すると言われ,早期発見と適切な対処が必要となる.腎不全・透析患者に対する精神科薬物療法は,尿毒症や身体疾患に対する治療薬によって生じる精神症状を適切に除外したのち,各薬剤の特性に合わせて腎機能に応じた用量調整を行い,原則として低用量から開始する.必要に応じて長期間をかけて増量することが基本となるが,薬効を適宜評価し,治療に反応しない場合は速やかに薬剤の中止を検討することが望ましい.各薬剤の特性については,非透析患者の場合は代謝経路,透析患者の場合は透析性について特に押さえておくことは重要である.臨床精神薬理 27:841-847, 2024 Key words : renal failure, dialysis, pharmacotherapy, metabolic pathway, uremia -
抗発作薬に伴う攻撃性・イライラへの対応
27巻8号(2024);View Description Hide Descriptionてんかん患者の3 人に1 人が何らかの精神症状を合併し,てんかん診療において,発作だけではなく精神症状へのケアが必要な場面は多い.てんかんに伴う精神症状の一つに抗発作薬による薬剤性の精神症状がある.抗発作薬による精神症状は攻撃性,イライラが多い.あらゆる抗発作薬の添付文書に攻撃性に関連する症状の記載があるが,中でもlevetiracetam とperampanel が攻撃性やイライラを惹起しやすい.この2 剤に関しては,精神症状の差異が指摘されている.これらの抗発作薬を処方する際は,精神症状既往などリスクの高い患者に対しては特に,丁寧な説明とその後のフォロ-が求められる.薬剤性の精神症状を発症した場合は,精神症状に対してマイナスの影響が少ない薬剤に変更する.薬剤性の精神症状は,該当の薬剤を開始したタイミングと精神症状発症の時間関係から疑うが,鑑別に際しては発作周辺期,発作間欠期精神症状などを考慮する場面がある.臨床精神薬理 27:849-855, 2024Key words : epilepsy, aggression, irritability, antiseizure medication
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シリ-ズ
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原著論文
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日本人統合失調症患者を対象としたblonanserin テ-プ製剤長期投与におけるresolution/remission の出現の推移と治療継続率――2 つの長期臨床試験のpost hoc 解析
27巻8号(2024);View Description Hide Description世界初の経皮吸収型抗精神病薬blonanserin テ-プの2 つの長期臨床試験デ-タを用い,effectiveness 評価の一環として,resolution〔PANSS の中核症状8 つ(P1,P2,P3,N1,N4,N6,G5,G9) がそれぞれ軽度以下( ≦ 3) の状態〕およびremission(resolution 状態が6 ヵ月以上継続)の概念を用いてpost hoc 解析した.「国内長期投与試験」(52 週間)の治療継続率は58.0%,被験者の43.0%がremission を達成し,その46.5%が364 日以上継続貼付した.二重盲検期を含む「継続長期投与試験」の継続期(52 週間)に移行した102 名の日本人被験者の治療継続率は50.0%であり,23.5%がremission を達成し,その91.7%が364 日以上継続貼付した.Blonanserin テ-プの長期使用は,remission達成の先にあるrecovery を見据えた治療選択肢の一つになり得ると考えられる.臨床精神薬理 27:859-875, 2024Key words : blonanserin, transdermal patch, schizophrenia, remission, Japanese patients
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