臨床精神薬理
Volume 27, Issue 9, 2024
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【展望】
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精神神経領域における医薬品開発の現状と臨床試験の特性について
27巻9号(2024);View Description Hide Description精神神経領域における医薬品開発は活発であり,本邦でも数多くの向精神薬が上市され使用可能になった.しかし,標準治療薬でも十分な効果が得られていない患者が一定数存在し,治療効果に限界があることが臨床的課題の1 つである.新たな治療法の開発が望まれ,今日では既承認薬にはない新規性の高い作用機序の治療薬の臨床開発が行われている.医薬品開発では臨床試験が有効性と安全性の直接的な証拠となり,よく計画され適切に実施された試験により有効性が検証され安全性が示される必要がある.臨床試験には疾患特有の課題があり,この課題が有効性評価に影響する.このため,今後も有効性評価の方法や影響因子に関するエビデンスを蓄積することが重要である.臨床精神薬理 27:883-892, 2024Key words : drug development, modality, mental disorders, neurological disorders, new molecularentity
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【特集】 精神科領域における治験(臨床試験)
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わが国での向精神薬の臨床試験の経験とその歴史をめぐる
27巻9号(2024);View Description Hide Descriptionわが国における近代的精神科薬物療法の歴史は1955 年のchlorpromazine の導入に始まる.さらに1959 年に抗うつ薬のimipramine が導入され,2 大精神疾患の薬物療法が一先ずは確立された.その後も次々と向精神薬の開発が進められ,認知症の予防的治療を除いて,今日ではほぼ全ての精神疾患の薬物療法が行き届き,新規の向精神薬の開発への道を探るに苦慮する段階にある.筆者が辿った向精神薬の治験の経験に基づいて,その歴史を述べる機会を与えられた.抗精神病薬では,第一世代から始まり,第二世代の全てに関与し,最も苦労したclozapine の2009 年の承認・上市は感激であった.抗うつ薬では,第二世代と言われた三環系および四環系,第三世代のSSRI ,第四世代のSNRI およびNaSSA のほぼすべての開発に立ち会えた.抗不安薬では,BDZ に始まり,多くの5-HT1A受容体作動薬の開発に従事し,わが国創薬のtandospirone の開発に成功した.当時注目されたBDZ 受容体部分作動薬をも体験し得たが,いずれも成功しなかった..睡眠薬では,BDZ 系の後半のものと,その同作用機序の Z drugs の全ての治験に参加し,ramelteon の開発には第Ⅰ相試験から,orexin 受容体拮抗薬のlemborexant には第Ⅲ相試験で会えた.抗てんかん薬では,zonosamide から始まって,1990 年代の新規抗てんかん薬の全てに第Ⅰ相試験から参加できた.こうして1970 年の頃から今日までの治験の経験を概観することは,向精神薬の歴史とともに歩んできた自身と向き合うことに繋がり,懐かしくもあり楽しかった. 臨床精神薬理 27:893-910, 2024Key words : psychoactive drugs, amoxapine, phaseⅠstudy, clinical trials, history of development -
治験のル-ルアップデ-ト――GCP Renovation をふまえて
27巻9号(2024);View Description Hide Description国際的な産官コンソ-シアムであるICH にてE6 ガイドラインが合意されたことを受け,わが国では1997 年にGCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)が施行され治験を実施する上でのル-ルが法制化された.治験は被験者の人権保護を第一に科学的な質を担保して行われるべきであり,GCP にはそのために求められる要件や遵守すべき事項が細かく定められている.2003 年には医師主導治験の枠組みができ,医療上の必要性の高い薬剤等の治験を医師が自ら実施することが可能になった.現在ICH-GCP の改正作業が進められているが,クオリティ・バイ・デザインという新たな視点が盛り込まれる予定である.これからは,デ-タの信頼性を確保する上で重要なポイントをあらかじめ特定し,それに対して前向きにリスク管理を行うことで臨床試験の質を作りこめる組織であることが治験実施医療機関に求められることになる. 臨床精神薬理 27:911-916, 2024Key words : GCP, ICH, clinical trial, GCP Renovation, Quality by Design -
精神疾患領域の臨床試験への中央評価の実装に向けた取組み――うつ病患者を対象とした多施設共同研究の経験より
27巻9号(2024);View Description Hide Description精神症状の評価においては面接実施者に起因する評価得点のばらつき(評価バリアンス)が,医薬品・医療機器等の介入効果を見る臨床試験の成否を分ける場合が多い.評価バリアンスの軽減のためには,参加する各医療機関における評価面接を,限られた人数の熟練した評価者が一括して行う分散型臨床試験が推奨されるが,そのような評価者が遠方へ頻回に移動するのは困難である.こうした中,汎用の情報通信機器(ICT)を用いた遠隔評価法と従来の対面評価法とで測定されるうつ病症状の一致度を,多施設共同研究を立ち上げて検討した.結果として,ICT を用いた遠隔評価により,対面評価と同等の客観的うつ症状測定が可能であること,および比較的少数の評価者が中央一括で精神症状を測定する妥当性が支持された.本稿では,以上のような遠隔評価の導入が臨床研究や治験を促進することを,日本脳科学関連学会連合・タスクフォ-スの活動にも触れつつ論ずる.臨床精神薬理 27:917-922, 2024Key words : decentralized clinical trials, mobile applications, psychiatric status rating scale,psychological interviews, remote interviews -
精神科領域の治験を促進するための学会としての取り組み
27巻9号(2024);View Description Hide Description医薬品,医療機器,再生医療等製品,プログラム医療機器等の治験だけではなく,研究開発全体を促進するために政府は様々な政策を講じて来ている.学会も同様に研究開発を促進するための取り組みを講じている.日本臨床試験学会は,精神科領域に限らず臨床試験に携わる専門職全体の知識と技術の向上をはかり,職種の枠を超えた情報交換と研究活動を推進することで,臨床試験・臨床研究を推進し,質の向上を図っている.精神科領域の最大の学会である日本精神神経学会は,精神疾患レジストリ(マイレジストリ)の後援などを通して治験や臨床研究を支援している.日本神経精神薬理学会は,早くから産学官連携を現実のものとすると共に,研究開発に関してあらゆる相談にのる窓口をトランスレ-ショナル・メディカル・サイエンス委員会に設置しており,これまでに数社の企業からの要請に応じて諮問会議を開催し,助言を議事録の形で提供している.臨床精神薬理 27:923-928, 2024Key words : clinical development, clinical trial, research & development, consultation -
精神科領域治験への誘い:治験調整医師・医学専門家としての経験から学んだこと――うつ病性障害領域を中心に
27巻9号(2024);View Description Hide Descriptionわが国の向精神薬開発の流れをプラセボ対照のRCT に焦点をあてて振り返った.一時期,社会問題にもなったドラッグ・ラグは世界同時開発にわが国が参加できるようになったこともあり,解消されてきた.向精神薬の場合,RCT の成功率は高くない,また,プラセボ反応率が年々増加し,治験薬との差がつきにくくなったことで開発に時間もコストもかかるようになった.その原因がどこにあるかを考察した.また,その解決策についていくつか検討を加えた.今日,向精神薬開発はある意味,デッドロックの状態にある.これからの精神科薬物療法の行く末を真剣に議論する時期に来ているのではないか.臨床精神薬理 27:929-932, 2024Key words : psychotropic drugs, clinical trials, placebo response, antidepressants, RCT -
精神科領域治験への誘い――治験統括医師としての経験から:統合失調症試験におけるプラセボ反応性
27巻9号(2024);View Description Hide Description治験は新規薬が承認を得るための臨床試験であるが,その試験成績は当該薬剤の薬効と安全性に関する情報のみならず,様々な情報を提供する.本稿では,統合失調症の治験から得られたエビデンスを基に,以下の3 つの臨床疑問に対する解を紹介し,治験が薬の有用性と臨床試験成績の理解に役立つことを概説する.臨床疑問1:日本で行われた急性期統合失調症に対する抗精神病薬の二重盲検ランダム化プラセボ比較試験のプラセボ群の反応性臨床疑問2:統合失調症試験におけるプラセボ群の反応性に影響する要因臨床疑問3:統合失調症と他の精神疾患とのプラセボ効果の大きさの違い臨床精神薬理 27:933-937, 2024Key words : schizophrenia, placebo response, placebo discontinuation, systematic review, metaanalysis -
睡眠・覚醒障害治療薬の治験
27巻9号(2024);View Description Hide Description本稿では睡眠・覚醒障害の治療に関する治験について,現在の開発状況,治験の実施方法に関するガイドライン,治験の面白さと難しさ,今後の課題について紹介する.睡眠・覚醒障害は70 種類以上あり,不眠症のほか,過眠症,睡眠関連呼吸障害,概日リズム睡眠・覚醒障害,睡眠時随伴症,睡眠関連運動障害などに属する多くの疾患についてそれぞれ企業治験や医師主導型治験が行われている.薬物療法のほか,不眠症に対する認知行動療法アプリ,睡眠関連呼吸障害に対する持続的気道陽圧(Continuous Positive AirwayPressure : CPAP)や舌下神経電気刺激療法(埋め込み型のパルスジェネレ-タ-)などの非薬物療法の治験もある.また本稿の主題ではないが,睡眠関連呼吸障害のスクリ-ニング装置,携帯型睡眠脳波計など睡眠・覚醒障害に関連した医療機器の審査件数も増加している.紙幅の関係でこれらをすべて紹介することはできないが,不眠症,中枢性過眠症,概日リズム睡眠・覚醒障害の治療薬の治験に関する情報を紹介したい.なお,本稿に掲載する情報は2024 年7 月上旬時点でのものである.また,国内で実施されている睡眠・覚醒障害治療の治験(企業治験,医師主導型治験)に関する主な情報はJRCT で入手可能である. 臨床精神薬理 27:939-942, 2024Key words : sleep-wake disorders, clinical trials, medical device program -
単科精神科病院における治験導入と組織における心理的安全性
27巻9号(2024);View Description Hide Description多くのアンメットメディカルニ-ズが残る精神科領域において,治験(臨床試験)の成功率を高めることが重要である.そのためには単科精神科病院の積極的な治験参加が必要と考えている.単科精神科病院において治験という新たな取り組みを導入する上で,多職種の協力は不可欠である.心理的安全性(psychological safety)を確保することで,治験を導入した後の多職種連携がより密になり,医療の質の向上にもつながっていくものと思われる.単科精神科病院での治験という新たな取り組みを,組織のアップデ-トの一つの機会として考え,自院の特色につなげていくといった視点が重要である.臨床精神薬理 27:943-946, 2024Key words : clinical trials, psychological safety, unmet medical needs -
精神科領域治験における治験の現状と課題――治験分担医師としての経験から:単科精神科病院
27巻9号(2024);View Description Hide Description向精神薬の臨床試験に関する現状と課題について精神科病院に勤務する医師の立場から論じた.新規向精神薬の開発は一般に諸外国に比べ長期間を要し,様々な理由から開発計画が中断することもある.原因として,人々の治験に対する理解不足,治験プロトコ-ルの煩雑さ,治験実施医師および医療機関の少なさ,新薬に対する理解不足,患者や医師の負担の大きさ,プラセボ(偽薬)投与のジレンマ,などがある.対策として,行政による臨床試験の意義と必要性の啓蒙活動,治験プログラムの合理化,学会での治験に関する研修会参加や治験実施を専門医更新の必要条件にするなどが考えられる.治験参加の利点として,精神障害者のunmet needs を把握し,新薬の作用機序および生化学的病理の理解が可能となる.閉鎖的になりやすい医療環境にアカデミックな風を吹かせることができ,治験研修会等を通して他の医療機関の医師と情報交換し交友関係形成の機会を得るなどが挙げられる. 臨床精神薬理 27:947-950, 2024Key words : clinical trial, psychiatric hospital, issue of clinical trial, placebo -
精神科領域治験への誘い――治験分担医師としての経験から:精神科クリニック
27巻9号(2024);View Description Hide Description従来,治験は診療所で行うことが困難と考えられていた.それは,治験に伴う事務量が多大であることや医療機関ごとに治験審査委員会(IRB)の設置が義務付けられていたことから,人的な余裕が診療所では不足していたためである.1997 年にGCP 省令が制定されたことで治験の法的な整備が行われ,時代が進むとともに,診療所が活用できるIRB の整備,治験事務機能の強化及び効率化のために,治験施設支援機関(SMO)と呼ばれる組織が醸成され,臨床試験コ-ディネ-タ-(CRC)が増えてきたことで,治験依頼者との連絡調整や,文書管理,モニタリングや監査への応対が,診療所においても円滑に遂行できるようになった.今回,診療所で治験に携わっている当事者として,診療所における治験に関して良かった点を含めて考察していく. 臨床精神薬理 27:951-954, 2024Key words : CRC, SMO, GCP, clinical trials in clinics, mental model -
臨床医が保険収載を目指す道筋の考察:先進医療B の経験から
27巻9号(2024);View Description Hide Description適応外使用は臨床医にとって重要な課題だが,企業の治験や医師主導治験で対策に取り組むことが困難な事例が多い.筆者らは,ラメルテオンにせん妄予防の適応症追加を目指し,先進医療B の臨床試験として,高齢がん患者の術後せん妄予防におけるラメルテオンの有効性と安全性に関する多施設共同二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験(通称:RAMP 試験)を行っており,本稿は臨床医が保険収載を目指す場合の企業との連携の重要性や,治験・医師主導治験を行えない場合の先進医療B の臨床試験を行う意義について,実体験を元に考察し,臨床医が先進医療B の臨床試験に取り組む魅力を伝える.臨床精神薬理 27:955-957, 2024Key words : advanced medical care system, insurance coverage, RAMP study, ramelteon, delirium -
精神科領域のCRC を養成するために
27巻9号(2024);View Description Hide Description日本のドラッグロスの原因は,治験の費用や時間が多く掛かることで国際共同試験から外されることである.時間が掛かる要因の一つは同意が取れないことであり,その改善策を検討するため,当院の2018 年以降の8 試験の実施状況を調査した.結果は候補169人のうち,除外68 人,IC 実施88 人,拒否30 人,SCR 脱落26 人,投薬27 人であった.このことから投薬には多くの候補を必要とすること,IC 実施は34.1%に拒否されるが,他と比較して少ないことが分かった.当院ではCRC と医師が協働し,候補を多く挙げ,治験を選択肢の一つとして患者が知る機会を広げている.また拒否される要因の一つであるプラセボ対照は,治験薬での効果不十分に対し客観的に中止でき,患者にもメリットであると考えている.多くの候補を挙げ,回避できる拒否を減らし,効率よく治験を進められる精神科領域のCRC を養成する必要があると考えた. 臨床精神薬理 27:959-962, 2024Key words : CRC, psychiatry, clinical research, specialist -
治療用アプリ開発(臨床試験)への誘い
27巻9号(2024);View Description Hide Descriptionデジタル技術の発展に伴い,その活用は医療分野でも広がりを見せており,特に疾患等の治療,管理,予防を目的として,エビデンスに基づいた治療介入を行うデジタル製品(DTx,治療用アプリ)が注目されている.一方で,臨床試験デザイン,変更管理,保険償還,処方や流通,サイバ-セキュリティや個人情報への対応等,対処すべき課題も多くある.特に,臨床試験においてはSham(医薬品開発ではプラセボに該当)の開発が困難となり,二重盲検無作為化比較試験の実施が困難となる場合も少なくない.本稿では,治療アプリの臨床試験における現状の考え方,課題について,公開情報をもとに医薬品開発との違いも踏まえながら整理した. 臨床精神薬理 27:963-966, 2024Key words : DTx, SaMD, clinical trial, Sham, placebo
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シリ-ズ
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原著論文[二次出版]
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日本人青年期うつ病患者を対象としたescitalopram の多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間治療中止試験による再燃予防効果の検討【二次出版】
27巻9号(2024);View Description Hide Description【目的】日本人青年期うつ病患者を対象とした48 週間の再燃予防試験により,escitalopram(ESC)の有効性および安全性を検討する.【方法】本試験は48 週間の多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験であり,12 歳~ 17 歳のうつ病患者を対象とした.被験者は,非盲検治療期(非盲検期)として12 週間ESC を服用した.その後,非盲検期に寛解または反応の基準を満たした被験者は,二重盲検治療期(二重盲検期)としてESC かプラセボのいずれかを36 週間服用した.主要評価項目は,二重盲検期における再燃までの期間とした.安全性は,有害事象の発現率および重症度を評価した.【結果】スクリ-ニング期から非盲検期に移行した128 例のうち,二重盲検期に移行した被験者は80 例であり,その全例が主要な解析対象集団に含まれた.主要評価項目である再燃までの期間では,プラセボ群とESC 群間で統計学的な有意差は認められなかった(p =0.051,log-rank 検定).Cox 比例ハザ-ドモデルにおいて,プラセボ群のESC 群に対する再燃に関するハザ-ド比の推定値[両側95%信頼区間]は2.96[0.94,9.30]であった.また,複数の副次評価項目[Children's Depression Rating Scale-Revised(CDRS-R)合計点の変化量,Clinical Global Impressions-Severity Scale(CGI-S)の変化量等]において,ESC 群とプラセボ群間に統計学的な有意差が認められた.本試験の安全性/忍容性について,日本人成人うつ病の臨床試験の成績と比較して特筆すべき問題は認められなかった.【結論】日本の青年期うつ病患者(12 ~ 17 歳)を対象に再燃予防効果を検討した臨床試験において,再燃までの期間のlog-rank 検定では,ESC 群のプラセボ群に対する優越性は検証できなかった.しかしながら,副次評価項目の結果やpost hoc 解析の結果を踏まえると,ESC が再燃予防効果を持つ可能性が示唆された.安全性/忍容性については,日本人成人うつ病の臨床試験の成績と比較して特筆すべき問題は認められなかった.試験登録番号:jRCT2080224520なお,本論文は[Journal of Child and Adolescent Psychopharmacology 2023]で出版された論文を日本語翻訳した二次出版論文である. 臨床精神薬理 27:971-986, 2024Key words : major depressive disorder, escitalopram, preventing relapse, adolescents, Japan
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