臨床精神薬理
Volume 27, Issue 10, 2024
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【展望】
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精神科医が知っておきたいがん治療の経過で生じる精神症状
27巻10号(2024);View Description Hide Descriptionがんと診断され,治療を受けることは,身体的にも精神・心理的にも,さらには,社会的,スピリチュアルの面からも大きな苦痛や障害を伴う.結果,様々な精神症状を伴う.単に精神・心理的な面だけではなく,身体的・社会的・スピリチュアルな苦痛や障害も精神症状に関連する.身体的には,がんによる生物学的な要因(内分泌的変化,炎症),がんの中枢神経系への転移,トル-ソ-症候群として知られる脳梗塞などが精神症状と関連する.がん悪液質,食欲不振,倦怠感,疼痛といった苦痛な身体症状が精神症状を引き起こし,悪化させる.精神・心理的には,がんと診断され死を意識すること,社会的には経済的な問題や就労の問題などが生じ,これも精神症状に影響する.そのため,単に精神・心理的側面だけでなく,身体的,精神・心理的,社会的,そして,スピリチュアルな面が相互に影響し合い,精神症状が発現する. 臨床精神薬理 27:995-1003, 2024Key words : depression, anxiety, delirium, bio-psycho-social, cancer
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【特集】 精神科医として関わるがん治療関連精神症状
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がん医療に特徴的なうつ病の診断と対応
27巻10号(2024);View Description Hide Descriptionがん医療において,うつ病は,QOL 低下,抗がん治療アドヒアランスの低下,身体症状の増幅,入院期間延長,死亡リスクの上昇(がん関連死および非関連死),自殺などと関連する.系統的なスクリ-ニングを通じて患者の同定・支援につなげることが大切である.「正常の心理状態」,身体症状,がん関連・治療関連倦怠感との鑑別が問題になりやすく,本稿ではその要点を述べた.食思不振などの一部の抑うつ症状は,身体疾患症状と判別が難しいため,複数の診断基準が提案されている.アメリカ臨床腫瘍学会,欧州臨床腫瘍学会,日本サイコオンコロジ-学会・日本がんサポ-ティブケア学会などから,関連するガイドラインが発行されており,薬物療法(抗うつ薬)と精神療法が主として推奨されているが,両者の位置づけについてはガイドラインにより若干の差異がある.抗うつ薬は抑うつ以外への有用性も指摘されており,その適応については総合的な判断が望まれる.臨床精神薬理 27:1005-1012, 2024Key words : adjustment disorder, antidepressant, cancer, depression, diagnosis -
進行がんにおける低活動型せん妄の診断と対応
27巻10号(2024);View Description Hide Description進行がん患者における低活動型せん妄は,頻度が高いが目立たない症状であるため見逃されがちである.しかし,低活動型せん妄も患者に大きな苦痛をもたらし,適切な診断と対応が求められる.診断にあたってはうつ病,認知症との鑑別が求められることが多い.原因については直接因子,準備因子,促進因子に分けて考えると理解しやすい.治療の基本は原因対策であり,非薬物療法を中心に行う.薬物療法については予後が日単位の患者,臓器不全がせん妄の原因である場合にはせん妄増悪の可能性があり慎重に検討する必要がある.がん患者のせん妄ガイドラインが2022 年に改定されており,一部低活動型せん妄に関する記載がなされている.がん患者の低活動型せん妄についてはまだまだ研究が乏しく今後さらなる研究が必要である. 臨床精神薬理 27:1013-1021, 2024Key words : hypoactive delirium, cancer, guidelines -
精神科医による傍腫瘍性神経症候群の診断と対応――自己免疫性脳炎を中心に
27巻10号(2024);View Description Hide Description傍腫瘍性神経症候群(PNS)とは,腫瘍に関連する神経筋障害のうち,免疫介在性の機序によるものをいう.症候は多彩で診断に苦慮することが少なくない.病態に関連する自己抗体は,細胞内抗原抗体と細胞表面抗原抗体に分けられ,さらに抗体の種類によって腫瘍との関連リスクや表現型が異なる.PNS のうち,精神症状を主体とし精神科医が臨床的に関与する表現型は自己免疫性脳炎(AE)に集約されると考えられる.AE の診断ではGraus 基準が用いられることが多く,特徴的な症状,頭部MRI,髄液検査などから正確な評価を行うことが重要である.AE は腫瘍随伴性と非腫瘍随伴性の両者で同様の症状を呈するため,ほとんどの成人AE 患者では,受診時に癌スクリ-ニングを検討する必要がある.AE のうち,主な疾患としてNMDAR 脳炎,VGKC 複合体関連疾患,及び抗Ma2 脳炎について症例を含め概説する.最近のトピックスとして,免疫チェックポイント阻害薬とAE の関連についても触れる. 臨床精神薬理 27:1023-1033, 2024Key words : paraneoplastic neurological syndrome, autoimmune encephalitis, cerebrospinalfluid analysis, tumor screening, anti-NMDAR encephalitis -
化学療法薬によって生じる精神症状と対応
27巻10号(2024);View Description Hide Description化学療法薬によって生じる精神症状の多くはせん妄である.しかし,それはがん患者のせん妄に一般的な感染症,脱水などによって生じるのではなく化学療法薬の副作用として生じる電解質異常,腫瘍崩壊症候群,免疫チェックポイント阻害薬に特異的な神経毒性としての精神症状などの病態を背景としている.新たな精神症状の変化を生じたときに,精神疾患を有するがん患者では,精神疾患の精神症状か化学療法薬による精神症状かを鑑別しなければならない.そのためには,電解質異常を起こしやすい,あるいは腫瘍崩壊症候群を起こしやすい患者背景を知っておく必要がある.また免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連副作用は,複雑な神経症状が多く向精神薬の副作用と誤解されやすい.これは生命予後に影響するため,特異的症状を知る必要がある.よって本稿では,精神科医でも知っておくべきこれらの化学療法薬によって生じる副作用背景の特徴について概説する. 臨床精神薬理 27:1035-1041, 2024Key words : hyponatremia, hypercalcemia, tumorlysis syndrome, immune checkpoint inhibitor,immune-related Adverse Events -
化学療法によって生じうる認知機能障害――ケモブレインの症状とその対応
27巻10号(2024);View Description Hide Descriptionがん化学療法により生じうる認知機能障害は“Chemobrain” と呼ばれている.主に,注意機能や集中力,遂行機能,ワ-キングメモリ-,処理速度などの非健忘型の症状が目立つことが知られている.患者のみならず医療者にもいまだ十分に認知されていないこと,患者自身の主観的評価と認知機能検査による客観的評価では程度に乖離を認めやすいこと,患者自身は日常での支障を感じているが,その背景にある認知機能障害の影響に気づいていなかったり周囲の人からも気づかれにくいため,一人で抱え込みやすく抑うつに発展するなどの課題がある.認知機能の改善を目的とした薬物療法は確立されておらず,認知トレ-ニングや患者教育,代償的方法の助言などの非薬物療法がまず推奨されているが,国内ではまだまだ支援体制は整っていない.こころのケアを専門とし,脳機能にも精通した精神科医が,がん医療者と連携していくことが今後ますます期待される.臨床精神薬理 27:1043-1051, 2024Key words : cancer, chemotherapy, CRCI(Cancer Related Cognitive Impairement), chemobrain,cognitive function -
放射線治療と関連する精神症状と対応:認知機能低下とアルコ-ル・タバコ離脱
27巻10号(2024);View Description Hide Description放射線治療は比較的安全性の高い治療として,近年ではがん患者の約半数が受けるまでに普及している.ただし,リスクがないわけではなく,放射線そのものの有害事象や対象となるがん腫や局在による機能変化,アルコ-ル摂取や喫煙などの患者特性によるリスクもあり,身体症状だけではなく,精神症状の頻度も高く,専門家による支援の必要性が提唱されている.本稿では放射線治療の対象になりやすく,かつ精神症状のリスクが高いとされる頭頚部がん・脳腫瘍の診療において併存・発生しやすい認知機能低下と緊急性の高いアルコ-ル・ニコチン離脱を取り上げる.精神症状が全身状態や身体治療に影響を与えるリスクもあり,身体治療を円滑に行うための精神科の専門家としての支援やかかわりも紹介したい. 臨床精神薬理 27:1053-1062, 2024Key words : cancer, radiation therapy, cognitive decline, alcohol withdrawal, nicotine withdrawal -
オピオイド鎮痛薬によって生じる精神症状とその対応
27巻10号(2024);View Description Hide Descriptionオピオイド鎮痛薬はがん疼痛の治療にかかせない薬剤である.早期からの緩和ケアの重要性が認識され,オピオイド鎮痛薬の使用が増加している.しかし,オピオイド鎮痛薬は適切に使用されない場合,副作用や依存,乱用といった問題を引き起こす可能性があり,米国やカナダで社会問題となっているオピオイドクライシスの事例を踏まえ,日本でも慎重な管理が求められる.本稿では,安全で効果的なオピオイド鎮痛薬の使用を促進するために,精神科医として知っておくべきオピオイド鎮痛薬に関連する問題について概説した.精神科医はがんの病態や治療,オピオイド鎮痛薬の特性や適正な使用法を知り,精神症状について専門家として適切な対処ができるように心がけたい.臨床精神薬理 27:1063-1068, 2024Key words : opioid analgesics, cancer pain, opioid withdrawal, addiction, chemical coping -
鎮痛補助薬によって生じる精神症状と対応
27巻10号(2024);View Description Hide Description慢性痛・神経障害性疼痛だけではなく,がん疼痛治療においても鎮痛補助薬は重要な位置付けをされている.鎮痛補助薬は,主たる薬理作用には鎮痛作用を有しないが,鎮痛薬と併用することにより鎮痛作用を高め,特定の条件下で鎮痛作用を示す薬物と定義されている.鎮痛補助薬は,抗けいれん薬,抗うつ薬,抗不整脈薬,糖質コルチコイド等様々な薬品が該当し,その有害事象は,めまい,傾眠,不随意運動,せん妄等の精神症状も多くを占める.発現した場合の対応として休薬・減量が基本となるが,鎮痛補助薬の作用機序を理解することで他剤への変更も選択肢となる.そのため,病態,作用機序,薬物動態,治療必要数,害必要数,有害事象等への理解と評価が肝要である.臨床精神薬理 27:1069-1077, 2024Key words : adjuvant analgesics, cancer pain, adverse event, side effect -
緩和領域でのベンゾジアゼピン受容体作動薬の使い方と副作用への考え方
27巻10号(2024);View Description Hide Descriptionベンゾジアゼピン受容体作動薬は鎮静,催眠,抗不安,抗てんかん,筋弛緩作用を有する薬剤であるが,耐性や依存性などの副作用が問題となっており,短期間の使用や代替薬の使用が推奨されている.がん患者においても可能であれば避けることが望ましいが,緩和領域では,不眠のみならず,痛みや悪心・嘔吐,呼吸困難,難治性せん妄などの症状緩和目的,あるいは治療抵抗性の苦痛に対する鎮静目的でしばしば用いられる.症状緩和目的でベンゾジアゼピン受容体作動薬を使用する場合,ふらつきや鎮静などの副作用が生じた時には中止や減量が原則となる.また,長期投与となった場合の依存形成といったデメリットも理解したうえで投与の可否を判断する必要がある.一方,鎮静目的でベンゾジアゼピン受容体作動薬を用いる場合,その結果生じる可能性のある循環抑制や呼吸抑制と鎮静による苦痛緩和のバランスをとりながらの投与量の調整が必要となる.臨床精神薬理 27:1079-1085, 2024Key words : benzodiazepine receptor agonist, palliative care, palliative sedation -
併存精神疾患に対する向精神薬で生じる精神症状と対応
27巻10号(2024);View Description Hide Description本稿では,がん治療中の精神疾患患者における向精神薬の使用に関する臨床的な問題を扱う.特に,向精神薬の変更や追加により引き起こす可能性のある錐体外路症状(パ-キンソニズム,ジストニア,アカシジア)やセロトニン症候群,離脱症状,奇異反応について解説し,それぞれの症状への対応を具体的な症例を通じて紹介する.がん治療過程でこれらの症状が出現した際のリスク評価,診断と治療について解説し,医療現場で実践できることを目標とする. 臨床精神薬理 27:1087-1094, 2024Key words : psychotropic drugs, extrapyramidal symptom, serotonin syndrome, withdrawalsymptom, paradoxical reaction
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シリ-ズ
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臨床に役立つ基礎薬理学の用語解説 第60 回 GADD45(Growth Arrest and DNA Damage-inducible alpha, beta, gamma)family
27巻10号(2024);View Description Hide Description
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症例報告
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Blonanserin テ-プ製剤への変薬により遅発性ジスキネジアが改善した2 症例
27巻10号(2024);View Description Hide Description遅発性ジスキネジア( tardive dyskinesia : TD)は,抗精神病薬の副作用として出現する異常不随意運動であり,患者に様々な身体のみならず心理的問題を引き起こす.統合失調症薬物治療ガイドライン2022 によるとTD 発現時の対応としては抗精神病薬の減薬や変薬が考慮される.今回,我々は,blonanserin テ-プ製剤(BNS-T)の投与によりTD が改善した2 症例を経験した.いずれの症例も同製剤以外の抗精神病薬錠剤からの変更により異常不随意運動評価尺度(AIMS)と単位時間当たりの異常不随意運動の出現回数の減少を認めた.精神病症状はBNS-T の用量調整でコントロ-ル可能であった.BNS-T への変薬によりTD が改善した理由として,経皮吸収型製剤ゆえの血中濃度の安定化が寄与していた可能性がある.これらの症例からBNS-T によるTD の症状軽減の可能性が示唆された. 臨床精神薬理 27:1097-1106, 2024Key words : tardive dyskinesia, abnormal involuntary movement, antipsychotics, blonanserintape, case report
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総説
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大うつ病性障害患者に対する抗うつ効果増強療法におけるbrexpiprazole の位置づけについて
27巻10号(2024);View Description Hide DescriptionBrexpiprazole(BRX)は,ドパミンD2 受容体に対する固有活性が小さく,セロトニン5HT1A/2A 受容体への親和性が高いことから,アカシジア,不眠などの有害事象の軽減が期待される.2023 年12 月「うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)」を効能効果として承認を受けたBRX は,検証試験において抗うつ薬単剤治療で反応が不十分な大うつ病性障害患者に対する増強療法として有効であることが示された.また,長期試験においてBRX の忍容性は全般的に良好であり,新たな安全性の懸念は認められなかった.しかしながら,BRX の使用には体重増加のリスクや遅発性ジスキネジアの発現リスクの課題があり,注意深い観察が必要である.国内外のエビデンスより,BRX は既存抗うつ薬が効果不十分なうつ病患者全般に対する抗精神病薬増強療法として第一選択の位置づけになる可能性があることが示唆された.臨床精神薬理 27:1107-1125, 2024Key words : adjunctive therapy, antipsychotic, brexpiprazole, major depressive disorder, review
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