臨床精神薬理
Volume 27, Issue 11, 2024
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【展望】
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幻覚・妄想状態の兆しにおける見立てと治療戦略
27巻11号(2024);View Description Hide Description幻覚・妄想は精神医学における主要な症状であるが,その兆しを前方視的に判断することは難しい.しかしながら臨床場面ではそうした判断や対処を求められる場合がある.本稿では幻覚妄想の兆しの見立てや対応,治療に関して,参照枠となる考え方や事柄について述べた.その中で現在の精神医学の主流にあるDSM だけでなく,伝統的な精神医学で記述されてきた知見についても紹介した.幻覚妄想に限らず精神症状の兆しに注目することは,臨床的意義のみならず,精神疾患の病態解明においても重要である.臨床精神薬理 27:1135-1141, 2024Key words : hallucination, delusion, DSM
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【特集】 幻覚・妄想状態の兆しにおける見立てと治療
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初発精神病の評価と治療
27巻11号(2024);View Description Hide Description初発精神病は,多様な症状を包含する症候群であり,その臨床像は患者によって大きく異なる.このような多様性を持つ初発精神病の予後を最適化するためには,適切な評価と,発症早期からの包括的で個別化された介入が必要である.本稿ではまず,初発精神病の概念とその経過について概説し,さらに統合失調症への診断変更に関連するリスク因子について,最近の報告を踏まえて検討する.次に,初発精神病の予後とそれに影響を与える要因について概説し,特に長期予後を最適化する観点から再発予防の重要性を強調する.再発は治療反応性および長期的予後に大きな影響を与えるため,その修正可能なリスク因子に介入することは重要である.最後に,治療的観点から,初発精神病に関する国内外の各種ガイドラインの推奨事項を整理し,特に薬物療法を中心に,これまでの介入試験や疫学的研究から得られた知見や課題をまとめる. 臨床精神薬理 27:1143-1154, 2024Key words : first-episode psychosis, relapse prevention, guidelines, pharmacotherapy, antipsychotics -
減弱精神病症候群における見立てと支援
27巻11号(2024);View Description Hide Description精神病性障害に対するリスク状態At-Risk Mental State(ARMS)を操作的基準により同定する試みは,1990 年代から始まった.2013 年に改訂されたDSM-5 における減弱精神病症候群attenuated psychosis syndrome の収載により,本試みは一つの山場を迎えたと言えるだろう.しかしその後も現在に至るまで,操作的基準の是非や概念自体についても様々な議論が続き,臨床への導入という観点では未だ程遠い.一方で,多くの臨床家が遭遇する病態でもあり,薬物療法における注意点や,心理社会的支援の有効性など一般的な対応について理解をすることは重要である.本稿では,近年の話題として,操作的基準の見直し(PSYCHS 評価尺度),および診断横断的リスク状態の概念化(CHARMS 基準)について取り上げる.そして,現在の臨床場面におけるその支援と治療を解説したい.臨床精神薬理 27:1155-1161, 2024Key words : At-risk mental state, attenuated psychosis syndrome, clinical high risk, early intervention,ultra-high risk -
認知症に伴う幻覚・妄想状態の兆しにおける見立てと治療
27巻11号(2024);View Description Hide Description認知症患者には,しばしば幻覚・妄想が生じ,その頻度や特徴は認知症の原因疾患によって異なる.幻覚・妄想は,患者と介護者との関係を悪化させ,行動を左右し危険を生じる場合がある.そのため,症状が患者に苦痛を与えている場合や,生活の質を低下させている場合には,治療が必要になる.主要な精神疾患であり,幻覚・妄想を主症状とする統合失調症では,第一選択として抗精神病薬が使用されるが,認知症と統合失調症では症状の基盤となる病態生理が異なるため,抗精神病薬を投与しても統合失調症同様の効果は期待できない.認知症患者の多くは高齢者であるため薬物療法により有害事象を生じる頻度が高く,特に抗精神病薬は効果が乏しい上に死亡率が増加するというデ-タがあるため,注意が必要である.本稿では,各認知症疾患における幻覚と妄想の特徴と薬物療法について概説する. 臨床精神薬理 27:1163-1169, 2024Key words : antipsychotics, BPSD, dementia, psychosis -
アルコ-ル使用による幻覚・妄想
27巻11号(2024);View Description Hide Description古くからアルコ-ル摂取に関連した幻覚妄想状態があることは指摘されてきた.アルコ-ルに関連した幻覚,妄想には,アルコ-ル離脱せん妄,アルコ-ル誘発性精神病性障害(AIPD),アルコ-ル幻覚症,統合失調症の合併などがある.AIPD はアルコ-ルの使用中,あるいは使用直後に幻覚,妄想などの精神病症状が出現し,飲酒との関連が明らかな場合に診断される.飲酒中断後は早期に症状は消退し,基本的には1 ヵ月以内,長くても半年以内には症状は消失する.DSM-5 やICD-11 の診断基準では,それ以上精神病症状が持続する場合は,統合失調症等の疾患への診断変更をすべきだとされている.AIPD は音声性の幻聴,被害妄想や嫉妬妄想といった妄想が出現することが多いが,アルコ-ル性の症状として特異的な症状はない.AIPD は比較的稀な病態であり,臨床,治療上のエビデンスは乏しく,今後の研究の蓄積が待たれる. 臨床精神薬理 27:1171-1177, 2024Key words : alcohol induced psychotic disorder, alcoholic hallucinosis, delirium tremens, hallucination,delusion -
うつ病に伴う幻覚妄想の兆しにおける見立てと治療
27巻11号(2024);View Description Hide Descriptionうつ病治療中に幻覚妄想の兆しが現れることがあるが,即座に精神病性の特徴を伴ううつ病と診断するのは早計であり,まずは脳炎や内分泌疾患などの他の医学的疾患を除外する必要がある.年齢に応じて統合失調症や双極性障害,高齢者では認知症などを鑑別することが重要である.治療においては,急性期には新規抗うつ薬と非定型抗精神病薬の併用が有効であり,重症例ではECT も有用である.維持療法は少なくとも6 ヵ月以上の抗うつ薬の継続が推奨され,抗精神病薬の併用期間は個々の患者の安全性を考慮して決定する必要がある.ECT で改善した患者に対しては,維持ECT も検討されるべきである.臨床精神薬理 27:1179-1184, 2024Key words : depression, psychotic features, antidepressant, antipsychotics, electro comvulsivetherapy -
双極症に伴う幻覚・妄想への対応
27巻11号(2024);View Description Hide Description双極症の半数以上で気分エピソ-ドに幻覚や妄想を伴うが,精神症症状が臨床に及ぼす影響は十分に検討されておらず,治療に関するエビデンスも乏しい.妄想がより一般的であるが,幻覚を伴うことも稀ではない.抑うつエピソ-ドより躁エピソ-ドで出現しやすく,気分に一致する内容を表出することが多い.気分に一致しない精神症性の特徴を伴う双極症では重症度が高くなりやすく,統合失調症との近似性が想定されている.双極症の経過中に幻覚や妄想を認めた場合,主に統合失調症や統合失調感情症との鑑別が必要になるが,症候学的に区別することはできず,DSM-5-TR では気分エピソ-ドの期間と精神症症状の期間との重なりや長短から診断を行うことになる.双極症の標準的治療である抗精神病薬は統合失調症や統合失調感情症にも効果が期待できることから,精神症症状を認めた場合には抗精神病薬を中心とした薬物療法が合理的である.臨床精神薬理 27:1185-1191, 2024Key words : psychotic features, auditory verbal hallucinations, delusions, schizophrenia,schizoaffective disorder -
境界性パ-ソナリティ症における幻覚・妄想と怒り
27巻11号(2024);View Description Hide Description境界性パ-ソナリティ症(borderline personality disorder : BPD)の約半数が幻覚を有し,シュナイダ-の一級症状の有無による統合失調症との鑑別診断することは不可能である.BPD では怒りを伴うフラッシュバック的想起が多く,真正の精神病性の思考の障害,すなわち持続的でその人を支配する幻覚は稀である.メタアナリシスの結果,BPD 薬物療法のエビデンスは乏しく,精神療法のエビデンスが積みあがっている.ただ精神療法導入に際して怒りを伴うフラッシュバック的想起は治療関係において破壊的であるので,実臨床では補助的薬物療法が必要となる.そこで生物社会的理論(Linehan),トリプルモデル・複雑モデル(Zanarini)が提唱する気質とも類似する,診断閾値以下の自閉スペクトラム症傾向による過去の負の出来事に対するこだわりの強さ・見通しの悪さの観点から治療の可能性を論じた. 臨床精神薬理 27:1193-1201, 2024Key words : borderline personality disorder, auditory verbal hallucinations(AVH), anger,pharmacotherapy, autism spectrum disorder -
発達障害と幻覚妄想状態
27巻11号(2024);View Description Hide Description近年,幻覚妄想状態の背景に,発達障害の存在に気づくことが増えた.発達障害に心理的・環境的な負荷が加わり,一過性に統合失調症様症状を呈している患者に出会うことが多くなった.統合失調症と発達障害とでは,治療的アプロ-チは大きく異なる.統合失調症の治療は抗精神病薬を主体とした薬物療法が中心になるが,発達障害では薬物療法は精神病症状を呈した時期だけで使用量も少量でよいことが少なくなく,治療の中心は発達特性に配慮した環境調整になる.安心できる環境を提供することがしばしば治療的となり,薬物療法の効果よりも早く落ち着きを取り戻す患者は少なくない.本来は発達障害であったとしても,長い年月にわたって統合失調症として治療を受けているうちに,両者はますます鑑別が困難になってくる.これからの精神科臨床において,発達障害の視点を持つということは必要不可欠である. 臨床精神薬理 27:1203-1208, 2024Key words : neurodevelopmental disorders, psychotic symptoms, schizophrenia, pharmacotherapy,environmental adjustment -
てんかんに伴う幻覚・妄想状態の兆しにおける見立てと治療
27巻11号(2024);View Description Hide Descriptionてんかん患者は多彩な精神症状を合併することが知られている.幻覚妄想状態のような精神症が発生する確率は,一般人口の数倍に及ぶ.発作周辺期の精神症としては,発作後精神症が多く,気分障害的な色合いが強いが,幻覚妄想を合併することがある.攻撃性と結びつきやすいため,慎重な対応が必要である.交代性精神症は発作が抑制される傾向になると,交代性に精神症が発症するものである.抗てんかん発作薬の副作用として精神症が認められることがあり,注意を要する.発作と関係なく慢性的な幻覚妄想状態が認められる症例はてんかん全体の5.6%に見られるとされている.統合失調症と違って,疎通性や思路の異常などは目立たず,生活機能が比較的保たれるとされるが,実際には鑑別が困難である.その治療は統合失調症に準じたものになるが,clozapine を筆頭に発作を惹起しやすい抗精神病薬があり,薬剤選択に注意を要する.臨床精神薬理 27:1209-1215, 2024Key words : epilepsy, psychosis, peri-ictal, interictal, schizophrenia -
不安症における偽幻覚――対人恐怖症を例に
27巻11号(2024);View Description Hide Description不安症において偽幻覚を認める場合でも,そのことがすなわち精神症の診断を正当化するわけではない.社交不安症,身体醜形症,自己臭関連付け症,妄想症身体型を含む概念である対人恐怖症を例に,不安症における偽幻覚,不安症と統合失調症との鑑別,不安症における偽幻覚に対する治療について解説した.統合失調症を疑う特徴として,偽幻覚自体が特定の幻覚に限定されず多彩な症状を呈していること,偽幻覚以外の精神症症状を有していること,偽幻覚の内容に本人の性格傾向や生活史との断絶がみられることなどがあげられる.不安症に偽幻覚を伴う場合にも,基本的には不安症に対する薬物療法や認知行動療法などの精神療法を行うことが原則である.不安症に対する治療が無効な場合や,偽幻覚が多岐にわたったり,不安症の疾病構造が明確でなかったり,偽幻覚以外の精神症症状を併存していたりする場合などには,抗精神症薬の使用を考慮することも必要である. 臨床精神薬理 27:1217-1223, 2024Key words : pseudohallucination, anxiety disorder, at-risk mental state, Taijin-kyofu-sho, pharmacologicaltreatment -
強迫症における幻覚・妄想状態の兆しの見立てと治療
27巻11号(2024);View Description Hide Description精神病様症状体験(Psychotic-like experiences)は一般人口においても一定の割合でみられ,強迫症においても報告されている.さらにPLEs の水準に留まらない精神病症状が強迫症と併存し,難治化することもある.本稿では,精神病様症状を有する強迫症の症例の治療経過を提示し,強迫症において幻覚・妄想状態の兆しが生じた場合の見立てと治療について考察する.強迫症状と精神病様症状が併存している場合,どちらの病態が主体であるのかの見立てが重要になる.幻覚・妄想状態の兆しを有する強迫症に対しても認知行動療法を援用したアプロ-チは有用である可能性がある.一方,薬物療法に関する知見は十分ではなく今後の臨床研究の蓄積が望まれる. 臨床精神薬理 27:1225-1232, 2024Key words : obsessive-compulsive disorder(OCD), At-risk mental state(ARMS), Psychotic-like experiences (PLEs)
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シリ-ズ
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原著論文
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急性期統合失調症患者に対するblonanserin 経皮吸収型製剤の有用性検討
27巻11号(2024);View Description Hide Description急性期統合失調症患者は病識および治療動機付けに欠けるため経口的薬物治療に同意を得られないことがある.今回我々はこのような急性期患者に対して非定型抗精神病薬blonanserin 経皮吸収型製剤(BNS-p)を使用した症例について同剤の有用性を後方視的に調査した.本調査では主治医判断によりBNS-p が定められた用法用量どおりに貼付された急性期統合失調症患者(ICD-10, F20)30 例を調査対象としてPANSS-EC,PANSS 幻覚・妄想,CGI-S を貼付開始時,貼付24 時間以内,第7,14 病日および中止時に評価した.貼付開始時のBNS-p は40-80mg/ 日が用いられていた.PANSS-EC 合計点中央値は開始時23.5,24 時間以内23 であったが,7 日後17,14 日後では14.5 まで低下した.PANSS 幻覚・妄想スコア,CGI-S は,第7, 14 病日には各々およそ1 ポイント以上の低下がみられた.24 例が2 週間の観察期間を完了し6 例があらゆる理由により使用中止した.副作用はアカシジア1 例,皮膚掻痒症3 例を認めた.以上のことからBNS-p は急性期統合失調症患者の治療において低侵襲性でかつ十分な治療有用性を有することが示唆された.臨床精神薬理 27:1235-1248, 2024Key words : acute schizophrenia, blonanserin transdermal patch, PANSS-EC, early-effect, PK/PD theory -
反復性うつ病患者に対して維持療法を行わない治療戦略と比較した場合におけるvenlafaxine による維持療法の費用効果分析
27巻11号(2024);View Description Hide Description反復性うつ病患者に対するvenlafaxine による寛解後の維持療法は,うつ病の再発リスクを低下させることが報告されているが,日本における費用対効果の観点からの有用性は明らかになっていない.本研究では日本の公的保険診療下において,反復性うつ病患者に対して維持療法を行わない治療戦略(経過観察による治療戦略)と比較した場合における,維持療法としてvenlafaxine を投与する治療戦略の費用対効果を評価した.分析の結果,経過観察による治療戦略に対する維持療法としてvenlafaxine を投与する治療戦略のICER(incremental cost effectiveness ratio)は1,438,328 円/ QALY(quality-adjusted life years)となり,日本の公的な費用対効果評価制度におけるICER の基準値である500 万円/QALYを下回っていた.日本の公的保険診療下における反復性うつ病患者に対する治療戦略として,venlafaxine による寛解後の維持療法は,経過観察による治療戦略と比較して,費用対効果に優れた治療法であることが示唆された.臨床精神薬理 27:1249-1261, 2024Key words : venlafaxine, depression, maintenance treatment, cost-effectiveness, Japan
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