糖尿病ケア

　末期腎不全になると腎移植か、腎代替療法として血液透析か腹膜透析を行わなければなりません。2007 年末現在275,119 人が透析療法を受けており、このうち約95％が血液透析を行っています。腹膜透析は約3％で、腎移植は移植ネットワークに登録している人を対象にしても約1％の人が受けられているにすぎません1）。それぞれの治療方法の特徴を知り、正しい情報や知識のもと、患者さんが療法の選択ができるように支援することは重要です。今回、この3つの治療方法を解説し、透析導入期の患者さんへの援助について述べたいと思います。

　マスロー（A.H. Maslow, 1908 〜 1970）は、人間の内面的欲求を「生理的欲求」「安全への欲求」「社会的欲求」「自我欲求」「自己実現欲求」と5 段階に体系化し、最も低次元の「生理的欲求」は、食欲、性欲、睡眠欲としています。生理的欲求を満たすには体力が必要です。　透析患者さんは運動制限や蛋白制限、貧血により、筋肉が痩せ体力も低下していることが多く、慢性的な運動不足に陥っています。運動療法は血糖コントロールに有効なだけでなく、廃用症候群を予防し、QOL の向上に繋がります。

　近年、糖尿病患者数の増加は著しく、糖尿病腎症から透析導入へ至る症例は年々増加しています。透析療法は腎臓の機能のうち、体内に貯留した水分・老廃物や電解質の除去、血液pHの補正を代償しますが、エリスロポエチン産生やビタミンD の活性などは代償することができません。透析だけでは十分に補えない腎臓の役割を補助し、合併症の予防や治療をするためには薬物療法が必要となります。本稿では、腎臓の機能を補う目的で使用される主な薬剤および糖尿病透析患者さんの血糖コントロールについて述べます。

　慢性腎臓病（Chronic Kidney Disease：CKD）では、糸球体濾過量（Glomerular FiltrationRate：GFR） の低下に伴い、高血圧、貧血、高カリウム（K）血症、ナトリウム（Na）の貯留、リン（P）・カルシウム（Ca）代謝異常が出現します。透析患者さんは長期にわたる高血圧や貧血、体液調整障害により、動脈硬化の促進や心拍出量の増加など心血管に負荷をかけた状態が続くため、左室肥大が多く認められます。左室肥大は冠動脈の血流が減少し、心内膜側の心筋が相対的に虚血に陥り心筋の線維化を促進するため、拡張機能に障害をきたします。さらには収縮機能の低下を招き、不整脈などの虚血性心疾患やうっ血性心不全など心血管系障害が誘発されます。透析患者さんの血圧管理は心・脳血管系合併症のリスク管理においてとても重要になります。

　わが国の透析療法は95％が血液透析であり、糖尿病から腎症を発症し腎不全となった患者さんもまた、現状ではそのほとんどが血液透析を導入されます。透析患者さんは、通常、透析設備のある医療機関に通院しながら在宅療養を継続していくことになります。増加する糖尿病透析患者さんは透析看護の現場にどのような影響を与えているのか、本稿では外来透析専門クリニックに勤務する看護師の立場から、糖尿病透析患者さんを取り巻く現状と今後の課題について私見を述べます。