サーキュレーション・アップ・トゥ・デート
Volume 3, Issue 2, 2008
Volumes & issues:
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第1部特集
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- 急性冠症候群の新しい取り組み
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急性冠症候群の病理 −プラーク破裂とびらん−
3巻2号(2008);View Description Hide Description欧米のデータでは心臓突然死で冠動脈血栓症が認められた症例の責任冠動脈ではプラークの破綻が約60%,びらん病変が約40%で存在していたとされている.プラーク破裂やびらん病変への進展の機序については,現在までさまざまな報告があるが,今後のさらなる研究が期待される.特にびらん病変の血栓形成に至るメカニズムには諸説があるが不明な点が多い.本稿では急性冠症候群の病理として,プラーク破裂とびらん病変に焦点を絞り,そのメカニズムに関する最近の研究結果を含めて概説する. -
急性冠症候群の診断と画像診断 −動脈硬化の進展からvulnerable patientまで−
3巻2号(2008);View Description Hide Description不安定狭心症や急性心筋梗塞の多くは,冠動脈プラークの破綻を契機に血栓が形成され,冠動脈閉塞を来し発症する.このような一連の病態を急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)と呼ぶ1,2).一般に破綻しやすいプラークの病理学的特徴としては,コレステロールエステルの量が多く,lipid pool の大きなソフトプラークであること,マクロファージなどの炎症細胞の浸潤が強く,線維性被膜の傷害が進み薄くなることとされる3).冠動脈造影上,軽度もしくは中等度病変から急性冠症候群の発症が多いことが指摘されているが,冠動脈造影からの予測は困難であり血管内エコー検査(intravascular ultrasonography:IVUS)による観察が有用と考えられる. 近年,スタチン系抗高脂血症薬の投与による心血管イベントの抑制効果と,IVUS によるプラークの安定化が報告された(GAIN)4).最近,REVERSALtrial の結果が報告され,積極的なLDL低下療法によるプラークの安定化,プラークの進展抑制効果が発表された.動脈硬化病変の評価と急性冠症候群診断と画像診断法の役割と病変の特徴について,血管内超音波,血管内視鏡・血管内エコーの周波数解析について若干の知見を述べる. -
急性冠症候群の診断 −バイオマーカー−
3巻2号(2008);View Description Hide Description心筋トロポニンと心筋型脂肪酸結合蛋白(heart-type fatty acid-binding protein:H-FABP)の登場により,バイオマーカーは急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS),特に非ST 上昇型ACS の診断とリスク層別化の中心的な役割を担うようになった.さらに,治療戦略の決定や治療評価にも役立つことが示されている.また,単一のバイオマーカーによるACSの病態把握には限界があるため,異なる病態を検出・解析できるバイオマーカーを適切に組合せたマルチバイオマーカーアプローチの構築が行われている. -
急性冠症候群の急性期治療
3巻2号(2008);View Description Hide Description本稿では急性冠症候群に対するPCI の成績をレビューし,その効果と問題点を明らかとし,現状における急性冠症候群に対するPCI の位置付けを明確にする.なおST 上昇型心筋梗塞症に対するPCI は早期再灌流達成のためにその役割は確立しており,本稿では不安定狭心症とST 非上昇型心筋梗塞症の急性冠症候群に関して論じていく. -
不安定プラークの画像診断 −IVUS,内視鏡,OCT−
3巻2号(2008);View Description Hide Descriptionvulnerable plaque の同定には正確なプラーク組織性状の識別に加え冠動脈壁内の微細構造異常や炎症の程度を評価できる画像診断法が必要であり,現在,種々の画像診断装置が開発・発展過程にある6)(表2).ここでは,従来から臨床応用され蓄積データの多い血管内超音波法(intravascularultrasound:IVUS),血管内視鏡(coronaryangioscopy)と新しい画像診断法である光干渉断層法(optical coherence tomography:OCT)の特徴を比較し,それぞれのvulnerable plaque 同定への可能性について概説する. -
不安定プラークの画像診断 −MDCT−
3巻2号(2008);View Description Hide DescriptionマルチスライスCT(multi-detector row computedtomography:MDCT)による冠動脈造影は,64 列CT が普及することにより,狭窄度診断については成熟期を迎えたといえる.これまでは,陰性的中率が高い,いいかえれば,狭窄がないという結果ならその通りである,というだけ特徴のあった時代を経て,感度,特異度ともバランスがよく向上が見られた.その結果,診断精度は他の非侵襲的診断法に抜きん出ることになり(表1)1),臨床的には画像の信頼性,結果の信頼性が診断目的の心臓カテーテル検査と同等であり,心臓カテーテル検査をしなくてもCT で診断がつくことは,CT 専門の研究者以外からも広く認められるようになった.冠動脈プラークについても,これまでは,血管内超音波検査(intravascular ultrasonography:IVUS)や血管内視鏡といった侵襲的画像診断でなければ,不安定プラークを論じることができなかった.MDCT でプラークを同定することが可能となり(図1),インターベンションの場でなくとも,診療所でも,プラークの情報をもとに病態を考えながら治療をすることが潜在的に可能となった. -
不安定プラークへの治療
3巻2号(2008);View Description Hide Description急性心筋梗塞や不安定狭心症は,冠動脈内のプラーク破綻とそれに続いて生じる血栓形成により発症し,急性冠症候群という1 つの疾患概念としてまとめられる1).しかしながら,急性冠症候群の原因となる不安定プラークは冠動脈造影では有意狭窄病変を伴っていないことが多く,冠動脈造影のみで不安定プラークを検出するのは不可能である.従って,冠動脈内のプラークを評価するための他のデバイスが重要であり,その1 つが血管内視鏡である. 血管内視鏡は,冠動脈内に光ファイバーを挿入し,血管内腔の映像を得る装置である.血管内視鏡により血管内面の詳細な形態や色調,血栓の有無などが直接的に観察できる.
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連載
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- CIRCULATION GRAPHICUS
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ネッターの遺産
3巻2号(2008);View Description Hide Descriptionどの医学生も、Frank H.Netter の名を知らぬまま過ごすことは困難でありましょう。ネッター先生による図譜は、それがなければ退屈なはずの基礎系および臨床系講義のスライドにしばしば登場して学生の耳目を引き、そして私たちの興味や理解や、やる気の突破口になってくれたのです。これが「絵のちから」とでもいうべきものでしょう。 - 専門医に求められる最新の知識
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不整脈CARTO システムで難治性不整脈を治す
3巻2号(2008);View Description Hide Description最新の「CARTO XP」システムでは,診断装置のみでなく通電装置も使用可能となり,治療高率もさらに向上させることが期待できる.さらに,カテーテルで作成したマッピング画像にCT スキャンやMRI の3 次元画像を重ね合わせることができ(CARTOmerge 機能),これまで以上に心腔内を正確に描写し,病変部位を正確に把握でき,診断を下すことが可能となった.このようなCARTO システムを使用することにより,検査治療を正確に行えるようになると同時に,患者や術者へのX 線被曝時間の大幅な短縮が期待できる. 以下にCARTO システムの機能を提示し,どのような症例で効果を発揮できるかを説明したい. - 心臓血管手術のコツとピットフォール 一流術者のココが知りたい
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上行大動脈拡張を伴う石灰化大動脈弁狭窄症に対する大動脈弁置換術
3巻2号(2008);View Description Hide Description本稿では,このような症例に対する単結節縫合による生体弁置換術と上行大動脈狭窄後拡張切除+端々吻合手術のコツとピットフォールを取り上げてみた.現在,すでに術者となっている心臓血管外科医が素直に取り入れるとは思わないが,今後この手術を行う可能性のある若手達の参考になればと考える次第である. -
術後造影で美しい縫合と連続バイパス
3巻2号(2008);View Description Hide Description私が冠動脈バイパスを始めた20 年前は左内胸動脈を左前下行枝につなぐことが長期の予後を改善すると認識され,その手技が広まりつつあった.当時は今と比べグラフトの処理や吻合技術も未熟であり静脈グラフトはきれいに縫合できても,内胸動脈ではheal あるいはtoe に50~90%の狭窄を作る術者が多く,狭窄なく吻合できれば一流の冠動脈外科医といわれていた.吻合部に術後50%狭窄と判定された内胸動脈グラフトが狭心症の原因となったり,遠隔期に閉塞した経験はないが(図1)術者として気分のいいものではなく,内科医も造影での美しい形態を求めている.幸いにもこの10 年当院でのlive 手術で多くの有名な外科医のバイパス術に接する機会を得,それらを参考に現在私の行っている冠動脈バイパスでの縫合方法について解説する. - 心血管インターベンションのコツとピットフォール 一流術者のココが知りたい
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慢性完全閉塞病変(CTO)に対するインターベンション
3巻2号(2008);View Description Hide Descriptionインターベンションを行うにあたって常日頃心がけているコツについて,慢性完全閉塞病変(chronictotal occlusion:CTO)病変に対するインターベンション(CTO-PCI)における心構えも含め項目を列記し,それぞれ対処法を述べる.もちろんCTO-PCIに対してだけでなく通常の病変に対するPCI についても同様の心構えが要求されることはいうまでもないであろう. - World Report
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カナダでの心臓血管外科武者修行(現在の研修システムを通じて・・・)中編
3巻2号(2008);View Description Hide Descriptionここカナダではアメリカの心臓外科研修とは少し異なり,卒後すぐに心臓外科研修プログラムに入ることになります.また,日本の研修システムと一概に比較するのも簡単ではありません.はっきり言えるのは,①日本の初期研修に相当する部分がこちらでは医学部3 年,4 年の病院実習に一部相当する,②それぞれのレジデント学年での研修内容,到達目標がはっきり決まっている,といったことではないでしょうか.
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第2部特集
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- 集中治療室で行う補助循環時の患者管理
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ICUにおけるIABP留置時の患者管理 −IABP駆動タイミング−
3巻2号(2008);View Description Hide Description近年,重篤な心疾患に対する補助循環装置の技術的な発展により,循環器疾患の急性心筋梗塞に伴う心原性ショックや開心術後の低心拍出量症候群(low cardiac output syndrome:LOS),不安定狭心症,切迫心筋梗塞,難治性心室性不整脈など,その重症度に合わせたさまざまな補助循環装置(counter pulsation,IABP,PCPS,LVAD)が開発され臨床応用されている(図1). これらの補助循環装置の中で大動脈内バルーンパンピング(intraaortic balloon pump:IABP)は,比較的管理が行いやすく,効果的に心臓仕事量の軽減化や虚血心臓に対する冠灌流の維持が図られることから,臨床現場において汎用されている装置である1,2). しかし,臨床現場においてすべて満足いく結果が得られているわけではない.この問題点とは,不整脈に対する装置の駆動タイミングのズレや挿入された足の下肢虚血問題など,装置や周辺デバイスを含めた部分で,これらの問題を検証して開発が進められているのが現状である. 各社それぞれ独自に開発が進められている中で,今回その開発の糸口となった部分の理解を深めて,今後のIABP 留置時の患者管理に役立てていただきたい. -
左心不全に対する流量補助(percutaneous cardio-pulmonary support:PCPS)
3巻2号(2008);View Description Hide Description心臓に対する機械的な補助手段の中で大動脈内バルーンパンピング(intraaortic balloon pumping:IABP)に次いで広く使用されるようになった流量補助装置として, 経皮的心肺補助法(percutaneous cardio-pulmonary support:PCPS)が多くの施設で導入されている.その適応は,心臓手術後の低心拍出量症候群(low cardiac outputsyndrome:LOS)だけでなく,カテーテル治療のサポートとして1),また,救急現場の心肺停止(cardiopulmonaryarrest:CPA),低体温療法,呼吸不全,肺塞栓症などさまざまな場面で臨床使用されるようになった. 当院の2002 〜2007 年度までの補助循環症例の内訳を表1 に示す.離脱率(48 時間以上生存)と長期生存率(1 年以上)からも十分な成績とはいえないが,今回はPCPS を心不全患者に適応した際の,PCPS 中の管理のポイントとさまざまな工夫について紹介する. -
両心不全に対する流量補助
3巻2号(2008);View Description Hide DescriptionこのPCPS は,不全心の負荷を軽減し,全身循環を維持して臓器障害を予防し, 不全心の回復を期待するとともに,次の治療手段へ移行するまでの一時的な全身循環の維持を得ることができる.PCPS 補助によっても心機能が回復しなければ補助人工心臓(ventricularassist system:VAS)への移行も考慮しなければならない.従って,機械的循環補助中に自己心機能の状態を把握し,治療方針を決定することが重要となる.本稿では心不全,特に右心不全を伴う病態において両心不全に陥り,機械的流量補助を用いたその後の右心および左心の心機能評価や治療計画について述べる. -
低酸素症および高炭酸ガス血症に対する人工肺補助(extra-corporeal lung assist:ECLA,extra-corporeal CO2 removal:ECCO2R)
3巻2号(2008);View Description Hide Description呼吸不全に対し人工肺を用いて救命する試みは,当初開心術の人工心肺の応用から始まった.当教室においても1965 年にKay-Cross 人工肺を呼吸不全のCO2 除去に用いた世界的にも早い臨床応用を行っている1). 1970 年代にはガス透過性に優れた膜型人工肺が開発され,呼吸不全に対して長期応用する体外膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)の概念が生まれた.ベンチレーターによる陽圧換気はガス交換を補助する一方で,肺の過伸展により残存する健常組織を損傷し,炎症反応を誘発し,肺障害を引き起こす.GattinoniはLFPPV-ECCO2R:low frequency positivepressure ventilation with extracorporeal CO2 removalの概念を提唱し,ベンチレーターの換気回数を下げて,炭酸ガスは膜型人工肺で除去する方法を実践した2). われわれは呼吸補助の場合には,extracorporeallung assist:ECLA と称し,動物実験と臨床応用を行ってきた.本稿では人工肺機能の評価方法,バイパス方法による違い,ベンチレーターの設定について述べる. -
乳幼児に対する流量補助(extra-corporeal life support:ECLS)
3巻2号(2008);View Description Hide Description1973 年にFallot 四徴症術後の患児に対して膜型人工肺を用いた流量補助(extra corporeal lifesupport:ECLS)が用いられ1)て以来,その需要は1980 年代に飛躍的に増加し2),現在では先天性心疾患にかかわらず後天性心疾患,呼吸不全,救急領域など幅広い領域でMechanical circulatorysupport として用いられている.そのような中で,multi-institutional Extra CorporealLife Support Organization Registry3)によれば術後ECLS を用いた患児の生存率は41%と低く,さまざまな施設で管理方法,補助循環回路などの工夫がなされている. そこで,今回は一般的なECLS について概説する. -
重症心不全に対する補助人工心臓(left ventricular assist system:LVAS)
3巻2号(2008);View Description Hide Description補助人工心臓(ventricular assist system:VAS)は,種々の薬物療法や他の機械的補助循環を行っても全身の循環を維持することのできない重症心不全患者に対して,左心補助(left ventricularassist system:LVAS)の目的で使用されることが多い.保険診療で装着が可能な体外設置型の「東洋紡VAS」は在院治療を必要とするが,2005 年5 月から臨床治験が開始された「EVAHEARTR」(株式会社サンメディカル技術研究所)をはじめとする埋込み型のVAS は自宅療養・就労復帰を可能にする.患者のquality of life を向上させるためにも,埋込み型VAS の普及が望まれている1).今回は東洋紡VAS を例に取り,LVAS 治療の急性期における患者管理のポイントを紹介したい.
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連載
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- 症例から学ぶ循環器の薬剤治療ピットフォール
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抗狭心症薬
3巻2号(2008);View Description Hide Description欧米では低リスク安定狭心症に対して薬物治療を先行する治療法が主流である.日本の経皮的冠動脈形成術(percutaneous coronary intervention:PCI)先行療法は,今後見直しを迫られる可能性がある.本稿では狭心症に対する薬物治療について整理したいと考える. - 低侵襲化がすすむ 血行動態評価:最新TOOLの使いこなし
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経動脈的熱希釈法でのモニタリングと最新TOOL:PiCCO
3巻2号(2008);View Description Hide Description重症患者の全身管理において組織血流量を意識することは極めて重要である.例えば,敗血症初期の治療としてearly-goal directed therapy1)が受け入れられているが,その基本戦略は組織血流の維持である.血圧,心拍数というバイタルサインは患者の循環動態を表現する指標として重要ではあるが,末梢組織血流は反映されない場合がある.末梢組織への十分な血液量を維持するには心拍出量を保つことが欠かせない.