サーキュレーション・アップ・トゥ・デート
Volume 3, Issue 3, 2008
Volumes & issues:
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第1部特集
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- 大動脈ステントグラフトにおける治療最前線
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ステントグラフト内挿術における今後の展望と課題
3巻3号(2008);View Description Hide Description1991 年,J.Parodi による腹部大動脈瘤1),1994 年,M.Dake2)による胸部大動脈瘤に対するステントグラフト治療の報告以来,大動脈瘤治療体系にステントグラフト治療が重要な位置を占めるようになった.本稿では,腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術(endovascular aorticaneurysm repair:EVAR)および胸部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術(thoracicEVAR:TEVAR)について,その現況および今後の展望と課題について論じる. -
大動脈ステントグラフトの設計と留置のための画像診断
3巻3号(2008);View Description Hide Descriptionステントグラフトを用いた腹部大動脈瘤に対する血管内治療は従来の外科的手術と比較して,動脈瘤関連死亡率が有意に低いことが報告され1),米国ではステントグラフト治療の解剖学的適応を満たせば,外科的手術に対するローリスク症例においても多くの症例が治療されている.すでに本邦においても腹部大動脈に対し3 種類のデバイスが薬事承認されており,ますます治療症例数の増加が予想される.さらに本年,胸部大動脈瘤に対するデバイスも薬事承認され,本邦においてもようやく本格的な血管内治療の時代が到来した感がある.ステントグラフト治療を安全で確実に行うには,症例選択やデバイス選択を含んだ治療プランが重要であり,従来の外科手術と比較して画像診断の果たす役割は大きい.本稿ではステントグラフト選択と留置のための画像診断におけるポイントについて腹部大動脈瘤を中心に概説する. -
大動脈ステントグラフト内挿術の合併症とその対策
3巻3号(2008);View Description Hide Description大動脈瘤に対するステントグラフトを用いた経カテーテル的血管内治療(ステントグラフト内挿術)は,従来の外科手術と比較してその低侵襲性が認められ,米国では2006 年において腹部大動脈瘤治療の約50%が本法によっている.また,胸部大動脈瘤についても2005 年にW.L.Gore 社(Arizona,USA)のTAGR が米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)の使用承認を取得して以来,その適応が拡大されつつある. 我が国では,2002 年より「ステントグラフト内挿術」の術式名で手術手技料が保険適応となり,使用するステントグラフトについては2006 年7月に腹部大動脈瘤用が,2008 年3 月に胸部大動脈瘤用の機器が認可された.これら企業製造ステントグラフトが本格導入されるまでの間は各施設において任意に手作りされた機器が試用されてきた1 〜 3)が,今後は保険償還された製品が動脈瘤に対するスタンダード治療として使用され普及拡大するものと思われる. 本稿では,胸部および腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術にみられる合併症とその対策について,自作ステントグラフトの経験も含めて概説する. -
胸部大動脈瘤におけるステントグラフト内挿術
3巻3号(2008);View Description Hide Description大動脈瘤に対する標準的治療法である人工血管置換術は術式や補助手段の進歩によって最近の治療成績は概して良好なものとなっている.しかし,特に重症例における術後Mortality やMorbidityは決して低いとはいえず, さらなるbreakthroughが求められてきた.このような状況において,近年,ステントグラフトを用いた血管内治療が低侵襲治療法として注目されている. 胸部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aortic aneurysm repair:TEVAR)は1994 年にDake によって最初の臨床経験が報告された1). 本邦においてもGianturco Z ステントをはじめとする金属骨格とポリエステルあるいはPTFE製のグラフトを組み合わせた自作ステントグラフトが作成され,デザインやデリバリーシステムなどに工夫を加えながら徐々に臨床経験が重ねられ,2002 年にはステントグラフト内挿術の手術手技料が保険収載されることとなった. 表1 は2006 年における日本胸部外科学会の年次報告2)からTEVAR の症例数に関するデータを抜粋したものであるが,薬事承認されたデバイスがまだ存在しない状況にありながら,すでにB型解離や真性瘤破裂例に対する外科的治療の1 割以上がTEVAR によって行われている実態がわかる. 今年TEVAR 用企業製ステントグラフト(GoreTAG thoracic endoprosthesis)(図1)が保険算定されるようになったことを契機に,今後TEVARの症例数は飛躍的に増加していくと思われる. -
腹部大動脈瘤におけるステントグラフト内挿術
3巻3号(2008);View Description Hide Description本邦に薬事承認された腹部大動脈瘤用ステントグラフトが登場し,約2 年が経過した.このメーカー製造デバイスを用いたステントグラフト治療頻度は,初年度(8 〜 12 月)34 例,2007 年(1〜 12 月)917 例,2008 年上半期(1 〜 6 月)971例で顕著な増加傾向を見ている.今後もその使用頻度は上昇し,腹部大動脈瘤治療全体の40%を占める見込みである. 本稿では,これらの薬事承認を受けたメーカー製造のデバイスを軸に,その治療の適応と問題点を考えてみたい. -
大動脈解離に対してのステントグラフト内挿術
3巻3号(2008);View Description Hide Description本邦では腹部大動脈に対する業者製の治療用ステントグラフトが認可され,腹部大動脈瘤治療においてはステントグラフト留置術が第一選択肢となりつつある. 一方,胸部大動脈用のステントグラフトはいまだ認可されておらず,胸部大動脈疾患に対しては,真性瘤,大動脈解離とも限られた施設でのみ施行されている. 大動脈解離に対するprimary entry を閉鎖することを目的としたステントグラフト留置術に関しては,1999 年にその低侵襲性と従来の外科治療に劣らない初期成績が日,米,欧よりNew EnglandJ Med 誌に報告された1,2). その後,Nienaber らにより留置術の適応がCirculation 誌に発表され3),本邦でも高本らが策定した大動脈解離治療のガイドライン4)でもステントグラフト留置術が治療法の1 つとして取り上げられている. しかし急性解離を治療対象とするのか,慢性解離を対象とするのか,またどのような病型,病態に対し留置するのかなどについては,いまだに意見が分かれている. このように現在も発展中ではあるが,今後大動脈解離の治療体系に大きな影響を与えると考えられる本治療について我々の治療戦略,成績もまじえ,概説する. -
大動脈瘤破裂に対する緊急ステントグラフト内挿術
3巻3号(2008);View Description Hide Description大動脈瘤破裂は,いったん発症すると生存したまま医療機関に到達できる確率は50%程度であり,到達しても保存的に経過観察した場合には24 時間以内にその75%が死亡してしまう1). また,大動脈瘤破裂に対する外科治療は,部位にかかわらず依然として死亡率が高い.腹部大動脈瘤破裂の緊急手術における生存率は30 〜 80% 2)であるが,胸部大動脈瘤破裂の場合は25% 1)とさらに成績は不良である.特に胸部大動脈瘤破裂に対する手術は胸部正中切開や開胸を必要とし,さらに補助循環や大動脈遮断,場合によっては心停止,脳分離体循環なども必要であり,過大な侵襲がかかる.加えて,動脈硬化性大動脈瘤においては高齢かつ多臓器に及ぶ合併症を有するハイリスク症例が多く,術後の合併症も多い. 手術侵襲の軽減は,破裂性大動脈瘤の治療成績向上に重要である.従って,ステントグラフトの応用はその低侵襲性から,破裂性大動脈瘤の治療成績を改善することが期待される.事実近年「有用である」とする報告が相次いでいる.当施設でも,上記の理由で破裂症例に対してステントグラフト内挿術を8 例に施行し良好な成績を得ている. -
外傷性大動脈損傷に対するステントグラフト内挿術
3巻3号(2008);View Description Hide Description鈍的外傷性大動脈損傷(blunt aortic injury:BAI)は多発外傷例であることが多く,他臓器からの出血も存在する.特に頭蓋内出血や脳挫傷合併例では全身へパリン化を要する人工心肺の使用は困難である.BAI に対する急性期保存治療は一部の施設から良好とする報告もあるが1),外科治療の開始以前の不良な自然予後の報告を含め可能な限り早期の外科的修復を勧める報告が一般的である2,3). 一方,胸部大動脈瘤に対する従来の開胸人工血管置換術に比較して,ステントグラフト内挿術(thoracic endovascular aortic aneurysm repair:TEVAR)の低侵襲性が明らかとなり,早期成績においても良好であることが確認されてきた4).遠隔成績が不明な現時点においても,すでに全身状態不良なBAI をはじめとする緊急症例においては,通常開胸人工血管置換術に比較してTEVARの低侵襲性と良好な早期成績は第一選択の初期治療手段と考えている5). BAI に対する教室でのTEVAR の経験から有効性,問題点を解説する.
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連載
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- CIRCULATION GRAPHICUS
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解剖学教室の深夜
3巻3号(2008);View Description Hide Description「やあ、またあんたか」不意にドアが開いて解剖学実習室の戸締りに来た助手のN さんが言った。「ま、鍵だけはかけて帰ってよ。ここに置いとくから」最後に少しだけ微笑んで行ってしまう。時計を見ると、すでに夜の11 時をまわっていた。 ・・・三文小説の書き出しのようですみません。学生の頃の解剖学実習の話です。一所懸命やっているとすぐ夜になってしまうのです。今考えると、他の皆がとうに帰ってしまったあとの、保存液の臭気に満ちた広い解剖学実習室に、多くの人々が横たわっている中で生きて動いているのは自分だけ——という深夜を - 専門医に求められる最新の知識
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心血管疾患のバイオマーカー
3巻3号(2008);View Description Hide Description循環器診療で重要な心血管イベントとして,①心筋梗塞や不安定狭心症などの急性冠症候群,②急性心不全および慢性心不全の急性増悪,③急性大動脈解離や深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症などの血管イベントがあげられる.これらの心血管イベントの急性期診断やリスク層別化,予後推測,治療評価などに新しいバイオマーカーの活用が注目されている.本稿では生化学バイオマーカー臨床展開の重要性と効用について概説したい1~6). - 心臓血管手術のコツとピットフォール 一流術者のココが知りたい
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大動脈基部拡大に対するInclusion 法によるステントレス弁置換術
3巻3号(2008);View Description Hide Description大動脈弁輪拡張症(annuloaortic ectasia:AAE)のような大動脈基部拡大に対して,近年は自己弁温存術式が積極的に取り入られるようになってきたが,高齢者においては生体弁を用いたベントール型手術が確実である.またステントレス弁の手術に慣れている場合は,フルルート法で基部を置換する方法も有用である.しかし,バルサルバ洞の拡大の程度についての明らかな指標はなく,実際の現場において,大動脈弁置換術だけ行うか,ベントール型手術を行うか迷うときがある.ベントール型の手術成績は良好になったとはいえ,手術時間は延長し,出血のリスクも高くなる.今回紹介する方法は,特に軽度から中等度のバルサルバ洞拡大の場合に有用な方法である. - 心血管インターベンションのコツとピットフォール 一流術者のココが知りたい
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浅大腿動脈インターベンションのコツ
3巻3号(2008);View Description Hide Description大腿膝窩動脈レベルは,下肢動脈の中でも動脈硬化の好発部位であり,浅大腿動脈病変(super ficialfemoral artery:SFA)は跛行,重症虚血肢の責任病変となり得る.バルーン単独では再狭窄が多いことで知られている.従って,治療に際しては,最大の拡張効果が得られ,合併症が少ない,ステントの使用が望ましい. - World Report
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第2部特集
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- 不安定プラークの画像診断:診療へどのように活用されるか
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不安定プラークの診断と治療:マルチスライスCTからの検討
3巻3号(2008);View Description Hide Description近年のマルチスライスCT(Multi-detectorcomputed tomography:MDCT)の技術的な発展には目覚ましいものがある. 空間分解能(スライス幅0.50 〜 0.65mm),時間分解能(0.130 秒)が向上し,2005 年以降に普及した64 列CT は数秒間で心臓全体を撮影することが可能である.冠動脈造影上の有意狭窄の検出に対しても正診率が高く,MDCT は冠動脈造影の代用としての位置付けを得つつある.MDCT ではまた,冠動脈造影において評価することが困難であった冠動脈壁の情報を得ることができ,プラークの性状評価を行うことで急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)の予知に対する期待が高まってきている. 冠動脈の病理組織学的検討から,動脈硬化の初期には内膜の肥厚が起こるものの,内腔を一定の径に保つような代償機転が働き,プラークは血管壁の外方へ進展することが明らかになった(Gragov現象1)).ACS の発生はこういったpositiveremodeling(PR)を来した病変において脆弱なプラークが破綻し,血栓性閉塞を来すことが主因と考えられている.また,ACS の責任病変の多くは,以前の冠動脈造影では正常ないし50%未満の狭窄部位であった2).従って,冠動脈造影からは将来の心筋梗塞の予知は基本的に困難である.従来はカテーテル検査時における血管内超音波(intravascular ultrasound:IVUS)によって冠動脈壁の性状評価が可能であったが,MDCTによって非侵襲的にvulnerable plaque やvulnerablepatient の検出・同定が可能となることが想像される. -
不安定プラークの検出:血管内視鏡
3巻3号(2008);View Description Hide Description血管内視鏡は光ファイバーを介して冠動脈内を直接に観察が可能な装置であり,冠動脈内腔の形態,性状および色調の把握に優れている.1980年代に開発されていたが,実用的になったのは,1990 年代になって6,000 画素という詳細なファイバーによる画像を得ることができるようになってからである.以後,数多くの症例で使用されるようになり,急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)の病態の解明や不安定プラークの同定が可能となった. -
不安定プラークの診断と治療:血管内エコー法からの検討
3巻3号(2008);View Description Hide Description不安定プラーク,あるいはプラークの不安定性とはどういうものなのかについては,報告によりその定義に違いがある.すなわち,プラーク表面が破裂しやすいプラークという狭い定義を使う場合と,急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)を発症しやすいプラークという広い定義を使う場合がある.ただこの2 つの定義の間には,単に狭い広いといっても,広い定義が狭い定義を包含しているとは限らない.というのも,プラークが破綻しても必ずしもACS が発症するとは限らないし,またACS の原因が必ずしもプラークの破綻であるとは限らないことが示唆されている.すなわち,単純に「安定・不安定プラーク」を診断するといっても,いくつか考慮しなければならないことがある. -
不安定プラークの診断と治療:OCTからの検討 −OCTの診断方法/治療への活用−
3巻3号(2008);View Description Hide Description近赤外線を用いて対象物を観察する光干渉断層法(optical coherence tomography:OCT)は丹野らが世界に先駆けて考案し1),1991 年にHuang らがex vivo で網膜と冠動脈を観察し2),以後,眼科領域を中心に臨床応用されてきた.OCT の魅力の1 つとして約10 μ m(血管内超音波法の10 倍)という高い空間分解能があげられる.OCT を用いると冠動脈壁は,内膜,中膜,外膜の三層構造として観察が可能である(図1).もちろんプラークの組織性状,線維性被膜の厚さの測定,plaque rupture の観察なども行える(図2).近年,循環器領域において,これらのOCTの利点を活かし不安定プラークの検出および治療への応用に焦点が当てられ研究がすすめられている.本稿では,OCT による不安定プラークの診断ならびに治療への応用について自験例をまじえて論じる. -
不安定プラークの診断と治療:FDG-PETからの検討
3巻3号(2008);View Description Hide Description近年,我が国において動脈硬化を基盤とする脳・心血管障害の発症頻度が増えている.臨床上で問題となる動脈硬化病変は炎症性変化を伴い,脆弱で破綻しやすい不安定プラークである.画像診断は動脈硬化病変の病態評価や治療法選択を行う上で欠くことのできない存在となっているが,病変局所が実際に炎症性変化を伴った活動性病変であるかについて確立された検査法はない.最近では,18F 標識(fluorodeoxyglucose:FDG)をトレーサーとしたポジトロン断層撮影(positron emissiontomography:PET)が炎症病変を描出可能な新しい分子画像として応用され,血管壁や動脈硬化プラークにおける炎症の活動性や範囲の評価,その経時的評価や薬物療法の効果をモニタリングする試みが行われている.
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連載
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- 症例から学ぶ循環器の薬剤治療ピットフォール
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心不全薬 −利尿薬−
3巻3号(2008);View Description Hide Description社会の高齢化とともに,心不全患者は増加している.心不全は左室駆出率が低下して左室拡大を伴う収縮不全と,左室駆出率は保持され左室拡大も伴わない拡張不全の2 つの表現系に大きく分けて論じられ,慢性心不全に関するガイドラインでも,この2 つの表現系に分けて記載されている.収縮不全については,アンジオテンシン変換酵素,β遮断薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬,ミネラロコルチコイド受容体拮抗薬に生命予後改善効果を認める大規模臨床試験の結果が発表され,これを受けたガイドラインに従った治療の普及により,徐々にではあるが,生命予後が改善する傾向にある1).一方,拡張不全については生命予後改善効果が確立された治療法はなく,いまだに各医師の経験的な治療が行われているのが現状である. - 低侵襲化がすすむ 血行動態評価:最新TOOLの使いこなし
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色素希釈法でのモニタリングと最新TOOL:DDG アナライザ 日本光電
3巻3号(2008);View Description Hide Descriptionインドシアニン・グリーン(indocyanine green:ICG)という色素は,静脈内に投与されるとタンパク(グロブリンおよびアルブミン)に結合し,血管内を循環する.肝臓に到達した色素は,速やかに分解され,胆汁中に排泄される.大きなタンパク分子に結合するため基本的には血管外には漏出しないため,循環している血液の中にのみ分布すると考えられる.そのため,投与したインドシアニン・グリーンの希釈率を測定すれば,循環血液量を計算により求めることができる.