サーキュレーション・アップ・トゥ・デート
Volume 3, Issue 4, 2008
Volumes & issues:
-
第1部特集
-
- Drug Eluting Stentの再評価—循環器治療はどうかわるか? ステント治療のこれから—
-
-
薬剤溶出性ステントの作用のメカニズム
3巻4号(2008);View Description Hide Description従来,ステント留置後の慢性期再狭窄は冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention;PCI)のアキレス腱であった.この再狭窄を克服するために薬剤溶出性ステント(drug-eluting stents;DES)が開発された1 〜 3).現在,本邦では,シロリムス溶出性ステント(sirolimus-eluting stents;SES)とパクリタキセル溶出性ステント(paclitaxel-eluting stents;PES)の2 つの異なった薬剤を溶出するステ -
薬剤溶出性ステントとベアメタルステントの使い分け
3巻4号(2008);View Description Hide Description冠動脈インターベンションの問題点である慢性期の再狭窄は従来のベアメタルステントを留置することで,ある程度,その頻度を低下させることができたが,その効果には限界があった.薬剤溶出性ステントではステントの表面のポリマーから溶出した薬剤が血管内膜の増殖を抑制し,ステント留置後の再狭窄を劇的に低下させることが可能となった.実際に,薬剤溶出性ステントを留置することで,再血行再建率が著明に低下することが多くの無作為比較試験で,確認され1, 2),冠動脈インターベンションの適応が拡大してきた.ただ,溶出される薬剤が血管内皮の増殖も抑制し,結果として,ステント表面の再内皮化が遅延し3),ステント血栓症のリスクが高まる可能性がある.実際のステント血栓症,特に1 年以後に発症する遅発性ステント血栓症の頻度はヨーロッパの報告では0.5 〜 0.6% / 年と低い値であり4, 5),J-Cypherレジストリーの報告によると日本では,0.3% /年とさらに低い値とされている.ただし,ベアメタルステントよりは高い可能性があり,この点が,抗血小板薬の投与期間を含め,ベアメタルステントと薬剤溶出性ステントの選択の際に考慮される点となっている.本稿では,このようなステント血栓症の問題に加え,現在,使用可能な薬剤溶出性ステントのステントデザインに由来する問題を含め,薬剤溶出性ステントとベアメタルステントの使い分けについて,述べる. -
DESの問題点
3巻4号(2008);View Description Hide DescriptionDES の問題は,長期的な安全性に尽きる.効果に関する議論は,再狭窄や再血行再建術(Targetlesion revascularization:TLR)を低減させることに異論を挟む余地はないが,こと生命予後の比較論となると,DES そのものがどうこういうことを越え,薬物療法,PCI,CABG という,治療法の選択というもっと大きなカテゴリ間の問題であるといえよう.この問題を考える上では,保険システムや,医療環境,生命の価値観など,国や地域によって異なる,極めて複雑な背景が絡むことを忘れてはならない.本稿はDES の問題と称するタイトルをいただいたが,本質的な問題となっている,ステント血栓症(stent thrombosis;ST)をめぐる長期的安全性にフォーカスして議論を進めたいと思う. -
現在治験中のDES
3巻4号(2008);View Description Hide Description1999 年に臨床応用が始まり,現在全冠動脈ステントの7 割を占めるといわれている薬剤溶出ステント(drug-eluting stent;DES)は,日本でも2004 年のシロリムス溶出ステントであるCypher ステントに始まり,2007 年パクリタキセルを使用したTAXUS ステントが承認され,2009 年にはZotarolimus を使用したEndeavor ステントやEverolimus を使用したXience V ステントなど新しいDES が市販されようとしている.さまざまなプラットフォームがあり,現在海外で市販されているものと臨床試験が行われている主なものを合わせると20 種以上になるといわれているが,すでに失敗に終わったものも多くある.市販化が進まないものに関しては,ポリマーのないものやポリマー技術に問題のあったこと,薬剤の用量設定に問題があったことなどがあげられている.生体適合性が高く,薬剤も十分含有でき,弾性強度を十分確保できたポリマーコーティングを開発することは多くのメーカーにとって困難があったと考えられる.ここでは第2 世代として臨床応用され,日本にまもなく導入予定のDES 3種の構造と成績について述べていく. -
DESの新たな展開
3巻4号(2008);View Description Hide Description現在日本では,薬物溶出性ステント(drug-elutingstent;DES)としてsirolimus-eluting stent(Cypher)とpaclitaxel-eluting stent(Taxus)が認可・使用されている.これら2 種類のDES はfirstgeneration DES とも称され,薬剤による新生内膜増殖の抑制の結果,従来の金属ステント(baremetal stent;BMS)と比べステント内再狭窄を著しく抑制することが最大の特徴と言える1).その一方で,植込後1 年以上経過してから生じる晩期ステント血栓症がDES の問題点として注目されており,これら2 種類のDES と異なる薬剤やコーティングポリマー,プラットフォームを使用したsecond generation DES の開発に,各メーカーがしのぎを削っている.本項では,ステント内新生内膜増殖抑制という有効性と,晩期ステント血栓症の発症を予防するという安全性の両方を併せ持つ,現在市販されているDES とは異なるコンセプトで開発された,また開発途上のNewconcept stent を紹介する. -
DES植え込み後の治療戦略:予後・再狭窄の改善に向けて危険因子のコントロールや抗血小板薬などの使用
3巻4号(2008);View Description Hide Description本邦における冠動脈疾患患者は年々増加し,その治療法は著しく進歩している.特に血行再建術として冠動脈インターベンション(percutaneouscoronary intervention;PCI)は薬剤溶出性ステント(DES)の登場でPCI 最大の弱点であった再狭窄を8%まで減少させ,血行再建術の主流として広く普及した.しかし,PCI は虚血症状の改善あるいは急性期の予後を改善させるための局所治療であって,その後の動脈硬化進展予防の治療にはならないことを認識すべきである.すなわち冠危険因子の全身管理が長期予後改善のためには必要不可欠である.近年,薬剤介入による大規模臨床試験の結果が相次いで報告され,エビデンスとして構築された.これによって2 次予防に関する冠動脈危険因子それぞれの管理目標値がガイドラインで設定され,より厳格な内科治療が求められている.本稿では個々の危険因子管理の意義とトータルリスク管理の重要性を概説する.
-
連載
-
- CIRCULATION GRAPHICUS
-
透視図への挑戦
3巻4号(2008);View Description Hide Description前回解剖実習の話を書きましたが、「心臓透視図」がやたらと懐かしくなりまして、母校解剖学教室から借用した標本をもとにこのたびあらためて透視図にチャレンジしてみることにいたしました。 バイクやクルマの本にときどきエンジンの立体構造の透視図が載っています。設計図や分解図ではわからないことがよくわかる上に、その美しさもあってしばらく見入ってしまいます。構造とともに機能が頭に入ってくるようです。人体のエンジンであるところの心臓についても、今までさまざまな図が描かれてきました。コンセプトとして、「すべての弁膜構造など - 専門医に求められる最新の知識
-
メタボリックシンドローム
3巻4号(2008);View Description Hide Description生活習慣の欧米化に伴い,日本人においては血清総コレステロールが増加しつつあるとともに肥満,糖尿病が増加し,メタボリックシンドロームの頻度もまた増加している.このメタボリックシンドロームは心血管疾患の重要な危険因子であるだけでなく,糖尿病の発症リスクもまた高くなると考えられている.従って,食事・運動療法を中心とした生活指導が重要であり,本年4 月よりその予防を目的とした特定検診がスタートした.今後はメタボリックシンドローム発症の病態に関する研究の進歩と共に生活習慣の改善のみでは十分なリスクの軽減が得られない人に対する有効な治療法の確立が急務であろう.Key words:メタボリックシンドローム,内臓肥満,心血管イベント,トリグリセリド - 低侵襲化がすすむ 血行動態評価:最新TOOLの使いこなし
-
中心静脈血酸素飽和度のモニタリングと最新TOOL:プリセップCV オキシメトリーカテーテル エドワーズライフサイエンス
3巻4号(2008);View Description Hide Description近年,中心静脈圧測定や高カロリー輸液などの用途に加えて,中心静脈の酸素飽和度(以下,ScvO2)を測定できるカテーテル(プリセップ中心静脈オキシメトリーカテーテル,Edwards Lifesciences 社)が利用可能となった.以下に,中心静脈の酸素飽和度をモニタすることの意義について述べる. - 症例から学ぶ循環器の薬剤治療ピットフォール
-
抗不整脈薬
3巻4号(2008);View Description Hide Description不整脈の発生機序を大きく分けると,興奮生成障害と伝導障害に加え,自動能亢進,旋回興奮(リエントリー),激発活動(トリガードアクティビティ)が上げられる.前2 者は徐脈性不整脈の発生機序に相当し,後3 者は主に頻脈性不整脈の機序と考えられている. 抗不整脈薬は一般に頻脈性不整脈を抑制する薬剤であり,自動能を抑制し,興奮旋回を消失させ,激発活動が生じないようにすることが抗不整脈薬に要求されている.心臓内組織の電気的興奮はNa,K,Ca などの電解質が細胞内外へ移動することにより行われている(図1).したがって,抗不整脈薬は伝導系細胞内へ流入するNa を遮断して自動能あるいは興奮伝播を抑制し,細胞内からのK の流出を遮断することにより伝導系の不応期を延長させて興奮旋回を消失させ,Ca チャネルや交感神経活性を抑制することにより激発活動を生じないようにしなければならない.
-
第2部特集
-
- 心房細動をどう治すか? コツとポイント
-
-
心房細動の初診対応
3巻4号(2008);View Description Hide Description心房細動の初診対応での最優先事項は, ①背景の確認および選別 ②患者教育 この2 つになる.どのような疾患でもこの2 つは初診時に重要なことではあるが,心房細動では以下に述べる理由により特に大切になる. 心房細動への対応は根治が難しいという疾患の性質上長期間にわたることが多くなるが,疾患管理の考え方は大きく3 段階に分けることができる.すなわち①背景の確認,②脳梗塞の予防,③症状への対応である. なぜ,この3 つに,この順番になるのか? 心房細動の予後を規定するのは心房細動自体ではないからである.極論してしまえば,初診時に頻脈であることや脈が不整であることに予後は規定されない. -
抗凝固療法
3巻4号(2008);View Description Hide Description循環器学会心房細動治療ガイドラインがこのほど8 年ぶりに改訂されることとなった.その中でも不整脈治療とともに脳塞栓予防は重要な課題となっている.心房細動に合併する心原性脳塞栓は,患者の予後やQOL に与える影響が非常に大きく,失語や寝たきりになることも少なくない.脳梗塞に占める心原性脳塞栓症の割合は,諸家により若干異なるが6 〜 23%と報告され,また心原性脳塞栓症の基礎疾患としては,非弁膜症性心房細動(non-valvular atrial fibrillation:NVAF)がほぼ半数を占めるとされている1).血栓塞栓症発症のリスクは基礎心疾患や患者背景によって異なるため,その予防を目的とした抗血栓療法の強度や薬剤は患者ごとに考慮する必要がある.2006 年8月に発表された欧米の新ガイドラインでは,比較的低リスクの患者にアスピリンの処方を許容しているがその効果には限界がある.ここでは,心房細動に対する抗血栓療法の現在の考え方,発作性心房細動における脳梗塞のリスク,処置,手術に際しての抗血栓療法の扱いなどについて,私見を交えて解説する. -
心房細動の薬物治療
3巻4号(2008);View Description Hide Description心房細動治療において抗不整脈薬に期待される作用とは,心房細動の心拍数コントロールか,あるいは洞調律を維持しようとするリズムコントロールに集約される.どちらのアプローチをとろうとも,生命予後にはほとんど影響しないが1),QOL の観点に立つとこの2 つは同等ではない.個々のケースにおいてどちらがより望ましいかは,心房細動のタイプ,患者背景によって左右されるだけでなく,使用可能な薬剤の種類によっても異なるため,国によって,さらには時代によってさまざまなガイドラインが誕生することとなる.特に日本では近年行われたJ-RHYTHM やJ-BAF などの試験結果を受け,薬物治療の方針も修正が必要となった.本稿ではまず,比較的安全かつ簡単なレートコントロールから話を始める. -
心房細動アブレーションの現状
3巻4号(2008);View Description Hide Description1998 年, フランスのHaissaguerre らはNewEngland Journal of Medicine 誌に発作性心房細動の始まりとなる期外収縮は90%以上が肺静脈に起源があると報告した1).そしてその起源に対して高周波カテーテルアブレーション治療すると,60%の成功率で心房細動が消失したという.この報告を機に心房細動に対するカテーテルアブレーションは始まったといえる.
-
連載
-
- 心臓血管手術のコツとピットフォール 一流術者のココが知りたい
-
胸骨部分切開による心拍動下冠動脈バイパス術
3巻4号(2008);View Description Hide Description冠動脈バイパス術の歴史は,低侵襲手術の追及の歴史でもある.1990 年までは,人工心肺を使用し表面冷却法(topical cooling) を用いて心臓を冷却し心停止下に冠動脈再建していた.しかし現在では,心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)が,単独冠動脈バイパス術の6 割を超えるまで普及し,人工心肺を使用せず,より生理的な環境で手術が行われるようになってきた.それに伴い,以前は手術適応から除外されていた症例に対しても,手術適応が拡大され,良好な成績が報告されている.しかしながら,超高齢者症例等のハイリスク症例では術後管理に難渋する症例も存在することは事実である.そこで,さらなる低侵襲手術をめざすために,胸骨部分切開による心拍動下冠動脈バイパス術(M-OPCAB)を導入した.この術式の最大の利点は,胸骨—鎖骨の連続性を保つため,術直後から上肢の運動制限や荷重制限が無いことである.ゆえに,術直後から積極的に呼吸リハビリが可能であり,無気肺等の呼吸合併症を予防できると考えられる.著者は,100 例以上の症例を経験したが,はまってはいけないpit fall や,技術的learning curve が存在することは事実である.この術式が,適応となる症例に対峙したときに,若い術者の先生方の少しでも参考になれば幸いである. - 心血管インターベンションのコツとピットフォール 一流術者のココが知りた
-
急性心筋梗塞に対するインターベンション
3巻4号(2008);View Description Hide Description急性心筋梗塞(AMI)に対して,再疎通療法が標準治療になって久しい.当初は薬による血栓溶療法が主流であったが,バルーンカテーテルによるPCIを経て,再疎通後にステントを使用することが現在では一般的である.本稿では,このような現在の状況下で,AMI に対してより有効な心筋灌流を得るための再疎通療法について述べたい. - 循環器疾患 内科医からのアプローチ 外科医からのアプローチ
-
弁膜症に対する形成術—特に僧帽弁/弁膜症に対する内科治療
3巻4号(2008);View Description Hide Description開心術成績の向上と安定化により,術後のQOL を高める術式である形成術が盛んに行われるようになった.形成術のタイミングも心機能維持の観点から疾患が重症化する前の早期に考慮される傾向になってきている.今回は,形成術のうち,僧帽弁閉鎖不全症に対する形成術の適応,その手術手技,そして,成績を中心に述べる./本稿では臨床上最も多く遭遇する,僧帽弁,大動脈弁疾患について概説する.