CORE Journal 循環器
Volume 1, Issue 1, 2012
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目次
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Perspective
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総死亡の26%を占める循環器疾患にどう対応するか?
1号(2012);View Description Hide Description2002 年のWorld Health Report は,われわれに大きな衝撃を与えた。世界保健機関(WHO)の健康政策の大きな転換が表明されたからである。それまでのWHO 施策は,low-income countries の低栄養や感染症対策に傾注していたが,2002 年を境に,急速に発展しつつある国々における動脈硬化性疾患の急増に対応すべく,過栄養や身体活動低下への対策を取るべきであることを表明した。これは,世界統計で心血管疾患の死亡率が30%と群を抜いて高く,悪性腫瘍の13%の2 倍以上であったこと,その原因として肥満,高コレステロール血症,高血圧,さらに運動量の低下が危険因子になっていることが示されたからである。つまり,世界では心血管疾患対策こそが,世界寿命を延伸するためのもっとも効果的な方策であることが判明したのである。
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CQ&CORE
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- 動脈硬化
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CQ1 スタチンにより糖尿病発症リスクは増大するか?
1号(2012);View Description Hide Description動脈硬化予防を目的とした高LDL-C 血症の治療にスタチンが有効であることは,広く受け入れられている。一方,基礎研究では,スタチンが膵β細胞のインスリン分泌や脂肪,筋細胞におけるブドウ糖の取り込みを低下させるとの成績が示され(Yada T, et al. Br JPharmacol. 1999; 126: 1205-13, Nakata M, et al. Diabetologia. 2006; 49: 1881-92.),またわが国を中心にスタチンが糖尿病患者の耐糖能(または血糖コントロール)を悪化させるとの報告も散見される(Sasaki J,et al. J Atheroscler Thromb. 2006; 13: 123-9.)。 近年,非糖尿病患者におけるロスバスタチンの心血管病予防効果を検証したJUPITER 研究(RidkerPM, et al. N Engl J Med. 2008; 359: 2195-207.)において,スタチン群がプラセボ群と比べ,糖尿病の新規発症を増やすという結果が報告された。これを受けていくつかのメタ解析が実施され,スタチンによる「糖尿病の新規発症のリスク増加」が示唆されている(Sattar N, et al. Lancet. 2010; 375: 735-42, Rajpathak SN, et al. Diabetes Care. 2009; 32: 1924-9, Waters DD, et al. J Am Coll Cardiol. 2011; 57: 1535-45.)。スタチンにより糖尿病発症のリスクは増大しうるのか,増大するのであれば,診療現場ではどのように対応していけばよいのか。 -
CQ2 心筋梗塞患者でLDL-C が100mg/dL未満であれば,スタチン投与は不要か?
1号(2012);View Description Hide Description高LDL-C 血症患者におけるスタチンの心血管病予防効果はすでに確立している。とくに二次予防,すなわち冠動脈疾患の既往例では,LDL-C 値100mg/dL 未満が国内外において管理目標として設定されている。そもそも,1996 年に発表されたCARE 試験(Sacks FM, et al. N Engl J Med. 1996; 335: 1001-9.)において,ベースライン時のLDL-C 値が平均139mg/dL の心筋梗塞既往例にプラバスタチン40mg/日を投与し,LDL-C 値を平均97mg/dL まで32%低下させたところ,プラセボに比べて主要心血管イベントを24%抑制できたことが,この「100mg/dL 未満」の一つの根拠となっている。 その後欧米では,TNT 試験(LaRosa JC, et al. N Engl J Med. 2005; 352: 1425-35.)に代表される積極的脂質低下治療の成績が示され,ハイリスク患者の二次予防に向けては,LDL-C 値をさらに低い70-80mg/dL 未満に低下させることも推奨されている。では,心筋梗塞初発患者のLDL-C 値がはじめから100mg/dL 未満であった場合,そのまま生活習慣の改善で様子をみるべきだろうか,ただちにスタチンを投与すべきだろうか。 -
CQ3 糖尿病に対する厳格な血糖管理の効果は?
1号(2012);View Description Hide Description2 型糖尿病患者では動脈硬化性疾患が多発し,生命予後が不良であることから,近年では予後改善に向けた治療のあり方が問われるようになった。とくに,2 型糖尿病に重積する危険因子を包括的に管理することが重要であり,血圧や脂質などに早期から強力に介入する必要性が複数の臨床試験によって示唆されている。一方,血糖管理についてはどうであろうか。強力な血糖管理が細小血管障害を予防することは明らかであるが,生命予後に対しては否定的な試験結果が発表され,さまざまな物議を醸している。つまり,強力な血糖管理が全死亡を増加させるという皮肉な結果を生み出したのである。 理論的には,適確な血糖管理を実施すれば,イベント抑制に寄与するはずである。それとは完全に矛盾する臨床試験結果に対し,われわれはどのように解釈し,どのように日常臨床に結びつけるべきなのだろうか。 - 虚血性疾患
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CQ4 安定狭心症患者の予後改善としての治療選択はPCIか薬物療法か?
1号(2012);View Description Hide Description冠動脈疾患患者において,不安定狭心症を含む急性冠症候群(ACS)に対する血行再建治療は予後改善に有効であることが知られている。しかし,症状の安定している冠動脈疾患患者においては血行再建術,とくに経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は症状を軽減するものの,予後を改善するかどうかについては明らかではない。なぜならば,冠動脈疾患の予後を規定するACS は,必ずしも高度狭窄病変から発症するのではなく,狭窄率が軽度,あるいは中等度病変から発症するため,高度狭窄病変を減少させても予後の改善はないとも考えられるからである。 理論的には冠動脈バイパス術(CABG)を必要とするような重症冠動脈疾患を除いた安定型冠動脈疾患患者では,PCI は予後改善に大きくは寄与しないものと思われるが,この問いに対して専門家はどう答えるのだろうか。 -
CQ5 非保護左主幹部病変に対する血行再建は,CABGかDESか?
1号(2012);View Description Hide Description血行再建術として薬剤溶出性ステント(DES)を用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が広く行われるようになり,PCI の重大なアキレスア腱であった再狭窄は減少した。そのような状況のなか,依然として非保護左主幹部病変に対するPCI はガイドライン(日本循環器学会学術委員会合同研究班. Jpn Circ J. 2000; 64 suppl IV: 1009-22.)で禁忌とされている。しかしながら,冠動脈バイパス術(CABG)も術後の脳梗塞の発症を考慮すれば必ずしもリスクが低い治療とはいえず,ハイリスク患者における血行再建についてはいまだ議論の残るところではある。一方で,抗血小板療法の導入により急性冠閉塞が激減し,再狭窄もDES の導入により減少したことにより,PCI による血行再建はリスクや合併症が少ないことが期待される。事実,非保護左主幹部病変に対するPCI は,臨床的にも高齢者や合併症で手術リスクの高い場合には,選択される場合もある。 現在,非保護左主幹部病変に対する血行再建の手段として,CABG とDES を用いた比較試験が行われている。われわれは,リアルワールドでどのような選択をなすべきなのか。 -
CQ6 DES 治療後の2 剤抗血小板療法はいつまで継続すべきか?
1号(2012);View Description Hide Description薬剤溶出性ステント(DES)の登場により経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の再血行再建術の施行は減少した。しかし,DES による急性冠閉塞および亜急性血栓性閉塞の頻度はベアメタルステント(BMS)と変わらないものの,BMS では認められなかった30 日以後から1 年までのlate thrombosis,さらに1 年以後のvery late thrombosis が発症することが明らかになった。これはDES による内皮形成の遅延のためであることが病理所見から示唆されている。 このvery late thrombosis の原因の一つとして,アスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬の2 剤投与(DAPT)の中止が考えられている。DAPT を長期に継続することができればよいが,長期のDAPT は出血性リスクを増加するため脳血管障害や消化管出血の原因となる可能性がある。また,消化管の内視鏡検査や手術時には中止する必要がある。DES 留置後,DAPT は現実にいつまで継続する必要があるだろうか,また,DAPT と血栓症の発症との関連についてはどう考えればよいのか。 - 心不全
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CQ7 エビデンスによるループ利尿薬の使用方法とは?
1号(2012);View Description Hide Description心不全の治療において,利尿薬は歴史的に初期の薬に位置づけられる。40 年以上前,心不全患者の治療が安静と減塩が中心であった時代にフロセミドが登場し,たちまち患者に利尿がついて,うっ血状態が改善することから,心不全は利尿薬で治癒できると思われた時代もあり,一部の循環器非専門医の間に「心不全の治療=利尿薬」という図式ができてしまった。しかしその後,慢性心不全においてはACE 阻害薬,β遮断薬が心不全患者の生命予後を改善するという前向き試験結果が多く得られ,利尿薬単独で治療を行うことはなくなってきた。 利尿薬は広く慢性心不全,急性心不全において,文字通り利尿を得てうっ血を改善するために使用されている薬剤であり,利尿薬を用いずに中等症以上の心不全患者を管理することは不可能である。その一方で,後ろ向きの解析では,フロセミドを多量に使用した患者の予後が悪いことも報告されており,現在,慢性心不全においてはフロセミド以外のループ利尿薬の検討も行われている。さらに急性心不全におけるフロセミドの投与法についても検討され,最近,DOSE 試験の結果が報告された(Felker GM, et al. N Engl J Med. 2011; 364: 797-805.)。 古くて新しいテーマである慢性,急性心不全患者へのループ利尿薬投与について,専門家はどう考えるのか。 -
CQ8 心不全に伴う貧血を治療すべきか?
1号(2012);View Description Hide Description心不全患者に対する薬物治療の大規模臨床試験の成果により,標準的な治療戦略についてはほぼ確立されてきた。一方,わが国においてもいくつかの登録研究が行われ,医療現場の心不全診療の問題点も浮き彫りになってきた。その一つが貧血である。 貧血は心不全患者の多くにみられ,その成因も一様ではない。過去に行われた臨床研究の成果では,貧血の存在は生命予後不良と関連することは繰り返し確認されている。また,貧血は慢性腎臓病と密に関連し,両者が混在することも多い。 心不全患者における貧血の改善策として,鉄剤の投与と赤血球造血刺激因子製剤(エリスロポエチン製剤)の投与が試みられている。今までにいくつかの小規模な臨床試験が行われているが,一貫性のある報告はなく,不要な貧血の改善は血栓症惹起の一因となるとの報告もある。また,従来使われてきた標準的心不全治療薬が貧血に及ぼす影響についても見直すことが必要になってきた。心不全患者における貧血をどう治療すべきだろうか。 - 不整脈
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CQ9 心房細動患者に対するカテーテルアブレーションの有効性は?
1号(2012);View Description Hide Description1998 年,Haissaguerre らにより心房細動のトリガーとなる期外収縮の大半が肺静脈を起源とすることが報告されて以来(Haissaguerre M, et al. N Engl J Med. 1998; 339: 659-66.),心房細動アブレーションの基本は肺静脈隔離術(PVI)であり,その有用性と手技に関し,多くの論文が発表されてきた。 2005 年以降,再発性発作性心房細動を対象とし,PVI と抗不整脈薬のどちらが再発予防に有効かを検証するランダム化比較試験(RCT)が複数行われ,症例数は多くないものの,いずれの試験においてもカテーテルアブレーションが抗不整脈薬より再発予防に有用であったことが示された。さらに2011 年,カテーテルアブレーションの有用性に関するRCT のメタ解析が相次いで報告された。それらの報告では抗不整脈薬との比較のみならず,発作性心房細動と持続性心房細動に対するアブレーション法として,complex fractionated atrial electrogram,いわゆるCFAE に対する追加的アブレーションが有効かどうかについても言及されている。 これらの知見から,われわれは心房細動にどのようにアプローチすればよいだろうか。とくに心房細動患者に対するカテーテルアブレーションの有効性についてはどう考えるべきだろうか。 -
CQ10 抗凝固療法適応のためのリスク評価はCHADS2スコアかCHA2DS2-VAScスコアか?
1号(2012);View Description Hide Description心房細動治療に関する最新のガイドラインは,いずれも最初の治療として心原性脳塞栓症予防のための抗凝固療法をあげている。その適用に際して現在多く使用されているのはCHADS2 スコアである。心不全,高血圧,75 歳以上,糖尿病に各1 点,脳梗塞または一過性脳虚血発作既往に2 点を付与し,合計点数が0 点は低リスク,1 点は中等度リスク,2 点以上は高リスクと評価する。わが国のガイドライン(日本循環器学会ほか. Circ J. 2008; 72 suppl Ⅳ : 1581-638.)は,2 点以上では抗凝固療法を推奨(適応),1 点では考慮可,0 点では不要と記載している。 CHADS2 スコアにはいくつかの問題点も指摘されている。たとえば心房細動患者の約半数が0 点,1点に集中しているにも関わらず1 点の場合の適応があいまいなこと,75 歳以上のリスクはさらに大きいこと,冠動脈疾患や65 歳以上の高齢者などが含まれていない,などがある。後者については,わが国のガイドラインにその他のリスクとして記載されているものの,その定量的評価は未ださなれていない。2010 年の欧州心臓病学会のガイドライン(Camm AJ, et al. Eur Heart J. 2010; 31: 2369-429.)ではCHA2DS2 -VASc スコアによるリスク評価が初めて記載された。これはCHADS2 スコアの不足分を補う評価法で,最近のデンマークのnationwide cohort study で7万例を超える多数例においてその意義が検証された(Olesen JB, et al. BMJ. 2011; 342: d124.)。 では,わが国では心房細動患者のリスク評価はどのように進めるべきであろうか。出血リスクが高いと考えられる患者への対応や,新規抗凝固薬の適応(ワルファリンとの違い)についてはどのように考えればよいだろうか。
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From the investigators
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閉経後女性におけるスタチンの糖尿病発症リスク
1号(2012);View Description Hide Description2012 年1 月,閉経後女性を対象としたWHI のコホート研究において,スタチン服用が糖尿病リスクを48%増加させることが報告された(Arch Intern Med. 2012;172: 144-52.)。女性を対象にした大規模な解析はこれまで行われておらず,大きな関心が寄せられている。そこで本誌では,この研究のfi rst author であるCulver 氏とlast author のMa 氏に,スタチンによるリスク・ベネフィットについての考えやアジア人データの解釈などを中心に聞いた。
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榊原カンファレンス
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[今回の症例:心房細動] 薬物療法の経過からカテーテルアブレーション実施に至るまで
1号(2012);View Description Hide Description本カンファレンスの最初のテーマとして心房細動(AF)を取り上げました。カテーテルアブレーションによる治療が普及したことでAF についての知見が急速に拡大し,循環器学のどの学会でもメインテーマとしてさまざまな角度から深く検討されるようになりました。このような時代背景のなかで一人の患者さんをどのように診断し,治療を進めていったらよいか学んでいきたいと思います。 今回の症例は,現在治療方針決定のため入院中です。担当医の萩谷先生から,第1 回検討会では,①外来での治療経過,②入院後の検査所見を紹介いただき,今後の治療方針につき検討し,次回のカンファレンス(第2 回検討会)で入院治療の経過を報告していただこうと思います。
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付録
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