CORE Journal 循環器

Volume 1, Issue 2, 2012
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目次
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Perspective
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エビデンスを臨床現場で活用するために必要なこととは?
2号(2012);View Description
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Evidence-Based Medicine(EBM)が浸透するようになって,臨床医学でもサイエンスを基盤とした医学が常識となっている。EBM に基づいてガイドラインがつくられ,それを遵守することも求められるようになった。しかし,現場での実践においては必ずしもガイドラインどおりにとはいかない。患者の特性や医療環境など,前提とされている状況とは大きく異なる場面に出会うことがある。その際にわれわれ臨床医がどのように対応すればよいかについて,考えていく必要がある。ここではEBM の普及への道筋について振り返りながら,今後臨床現場でいかにEBM を活用すべきかについて論じていきたい。
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CQ&CORE
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- 動脈硬化
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CQ1 透析患者における心血管イベント抑制に脂質低下療法は有効か?
2号(2012);View Description
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透析患者では,心血管イベントの発症率がきわめて高いことが知られている。とくにわが国では脳血管障害が多く,それにより患者のQOL が極端に低下するとともに,死亡率にも大きく関与しており,社会的・医療経済的にも大きな問題となっている。心血管イベント発症予防に,高血圧治療が重要であることは言うまでもないが,最近は脂質低下療法,とくにスタチンによるLDL-C 低下療法に期待が寄せられている。しかしながら,透析患者に対するストロングスタチン治療について検討した4D(Wanner C, et al. N Engl J Med. 2005; 353: 238-48.),AURORA(FellströmBC, et al. N Engl J Med. 2009; 360: 1395-407.)などの大規模臨床試験では,治療効果が十分には示されなかった。これに対し,2011 年に発表されたSHARP 試験(Baigent C, et al. Lancet. 2011; 377: 2181-92.)では,慢性腎臓病(CKD)に対するスタチン+エゼチミブという強力なLDL-C 低下療法が心血管イベント抑制効果を示し,CKD に対する脂質低下療法の意義が示されたように思われる。 このSHARP 試験ではステージ3 以上のCKD 患者が組み込まれ,ここには透析患者も含まれている。透析前患者と透析患者に対する脂質低下療法の効果には差がみられないことから,透析患者でも脂質低下療法が心血管イベント抑制に有効であるとされているようであるが,この結果を臨床現場で活かすことができるかについては,議論の余地がある。われわれは透析患者に対する脂質低下療法を実施すべきだろうか。 -
CQ2 HDL-Cを上昇させる治療は心血管イベントの抑制に有効か?
2号(2012);View Description
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血清HDL-C 値が冠動脈疾患の発症リスクと負の相関関係にあることは,国内外の疫学研究により示されている。一方,薬物療法や生活習慣改善によるHDL-C の上昇が心血管イベント(冠動脈疾患および非心原性脳塞)の予防に有効か否かについては,結論が得られていない。スタチンによるLDL-C 低下療法の確立により,次なる治療ターゲットとして期待されるHDL-C について,介入によるエビデンスはどの程度得られているのだろうか。そして,日常臨床においてHDL-C値を上昇させることを意識する必要があるのだろうか。 -
CQ3 糖尿病の脳・心血管イベント一次予防としての抗血小板薬の有用性は?
2号(2012);View Description
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2 型糖尿病においては,心血管リスクが増大していることが明らかとなっており,血糖コントロールの困難さなどもあり,血圧・脂質のコントロール目標は非糖尿病患者と比して厳格に設定されている。低用量アスピリン等の抗血小板療法は,二次予防においての有効性は確立されているが,一次予防については,大規模臨床試験のメタ解析をみても心血管イベントの有意な抑制効果が認められていない。わが国で行われたJ-PAD 試験においても心血管死はアスピリン投与群で有意な減少があるものの,動脈硬化性疾患の有意な抑制は認められなかった。これらの結果をどのように解釈すべきなのか。たとえば,出血リスクの増加などを勘案すると一次予防に対して糖尿病患者といえども抗血小板療法はまったく行うべきでないのか,あるいはあるサブグループについては意味があり得るのか,またほかの抗血小板薬であれば違った効果が得られた可能性があるのか。さらにもし,抗血小板療法を行うべきサブグループがあるとすれば,その判定に際し臨床的には何をマーカーとすべきなのだろうか。 -
CQ4 高血圧治療の降圧目標に下限値の設定は必要か?
2号(2012);View Description
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糖尿病合併高血圧患者を対象としたACCORD BP 試験(ACCORD Study Group. N EnglJ Med. 2010; 362: 1575-85.),冠動脈疾患合併高血圧患者を対象としたINVEST 試験(Messerli FH, et al. Ann Intern Med. 2006; 144: 884-93. Denardo SJ, et al. Am J Med. 2010; 123: 719-26.)などで,収縮期血圧120mmHg 未満への降圧治療の有用性が証明されず,一部のサブ解析で過降圧に伴うJ 型現象の存在が指摘されている。高齢者高血圧を対象とした到達血圧とイベント発症との関係に関する後付け解析では,収縮期血圧120mmHg 未満(Ogihara T. Am J Hypertens. 2000; 13: 461-7. ,Ogihara T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2011; 11: 414-21.)や,虚血性心疾患合併時の拡張期血圧70mmHg未満の危険性を指摘する解析結果もある(Fagard RH, et al. Arch Intern Med. 2007; 167: 1884-91.)。一般の大規模臨床試験成績では,現在の高血圧治療ガイドライン2009 に示される降圧目標を目指して治療する範囲において,過降圧の危険性を明示するデータはなく,到達目標を達成する厳格な降圧が薦められている。しかしながら,もし125mmHg 未満への降圧が危険な患者群が存在するとすれば,130mmHg 未満を目指す降圧治療では降圧目標の幅がきわめて小さくなる。たとえば125mmHg 未満を目指すとする1g/ 日以上の蛋白尿を伴う腎障害患者では,降圧目標自体に矛盾が生じる。 ガイドラインに降圧目標下限域を記載すべきだろうか。すなわち,降圧目標の下限域設定を必要とする患者群は存在する可能性はあるのか,あるとすればその下限域はどの値で設定すべきだろうか。 - 虚血性疾患
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CQ5 CABGはオフポンプとオンポンプ,どちらが有効か?
2号(2012);View Description
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冠動脈疾患において,多枝病変に対する冠動脈バイパス術(CABG)の予後改善効果は明らかであり,動脈グラフトの使用により,開存率も確保され成績もさらに向上している。最近のカテーテルによる冠動脈形成術(PCI)との比較試験でも,冠動脈病変が重症であるほどCABG の優れた予後改善効果が示されている。しかし,CABG のデメリットとしてあげられるのが,ポンプ使用(オンポンプ冠動脈バイパス術[on-pump coronary artery bypass; ONCAB])による術後の脳梗塞の発症である。この欠点を解消するために,ポンプを使用しない心拍動下でのCABG(オフポンプ冠動脈バイパス術[off-pump coronary artery bypass; OPCAB])が行われるようになり,わが国ではOPCAB の施行は60%を超えるといわれている。一方,OPCAB では手技の習熟度がより要求される(開存率が悪い可能性),完全血行再建の達成率が低いなどの欠点もあり,長期予後を不安視する面もある。冠動脈疾患患者において,CABGではONCAB とOPCAB,どちらが有効であろうか。また,エビデンスに基づき治療するにあたり,術者あるいは施設の成績の関与をどのように考えればよいだろうか。 -
CQ6 心房細動合併の冠動脈疾患に対して,抗血小板療法に抗凝固療法を追加すべきか?
2号(2012);View Description
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かつて心房細動は弁膜症に伴う不整脈であったが,高齢化や生活習慣の変化とともに非弁膜症性心房細動が急速に増えた。わが国でも約200 万人存在するといわれ,その数は今後さらに増加すると予測される。心房細動においては,抗凝固薬により心原性脳塞栓症を予防することが重要である。一方,原因を同じとする冠動脈疾患も増加しており,当然両者の合併症例が多くなりつつある。冠動脈疾患の二次予防には抗血小板薬投与が,さらにステントで治療された患者にはアスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬の2 剤投与(DAPT)が必要であるとされている。抗凝固療法とDAPT による出血性副作用と脳梗塞,心筋梗塞の予防効果を天秤にかけながら,はたして抗血小板薬1 剤に抗凝固薬を追加すべきか,DAPT と抗凝固薬の3 剤併用はどうか,いつまで治療を継続すべきか,など多くの臨床的な疑問が残されている。これまで抗凝固薬の標準であったワルファリンの効果を凌駕する新規抗凝固薬が使用される状況で,われわれは疾患が複合する患者をどのように治療すればよいだろうか。 -
CQ7 アテローム血栓性脳梗塞の既往がある心房細動に対し,強力な抗血栓療法を行うべきか?
2号(2012);View Description
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脳梗塞再発予防の抗血栓療法は臨床病型に則して選択される。非弁膜症性心房細動を原因とする心原性脳塞栓症に対しては抗凝固療法を行い,脳主幹動脈狭窄病変を原因とするアテローム血栓性脳梗塞に対しては抗血小板療法を行う。脳梗塞の原因が単一の発症基盤の場合は,抗凝固薬や抗血小板薬は単剤で使用されるが,再発例やアテローム硬化病変と非弁膜症性心房細動を有する場合は抗血栓薬を併用することが多い。強力な抗血栓療法により再発イベントは抑制される反面で,出血合併のリスクが問題となってくる。さらに欧米人に比較し,日本人は出血合併が多い民族であることも明らかとなっており,わが国における脳梗塞再発抑制に対する有効かつ安全な抗血栓薬の選択が重要である。われわれは日本人における抗血栓薬の併用による出血リスクのエビデンスを十分に理解し,適切な薬剤選択を行うことが必要である。では,抗血栓薬の出血リスクをどのように理解し,具体的にどのような治療を行うべきなのだろうか。 - 心不全
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CQ8 COPD を合併した心不全患者への適切な治療法とは?
2号(2012);View Description
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慢性心不全患者に対する大規模臨床試験から得られたデータの集積を受けて,ACE阻害薬,β遮断薬の有用性が確立されてきた。現在,時代はエビデンスをreal worldへ展開するにあたっての問題点の打破が主眼となりつつある。エビデンスで得られた知見を現場診療に応用する際に問題となる主題の一つとして,慢性閉塞性肺疾患(COPD)の合併例があげられる。COPD合併例ではβ遮断薬をはじめとする薬物治療が困難となる。反対に,COPDの治療に用いられてきたβ2刺激薬は心不全の長期予後を悪化させる可能性もある。抗コリン薬が新たな治療手段となるが,その安全性についても検証が必要である。喘息においてβ遮断薬の使用は原則禁忌であるが,COPD合併例については,観察研究ではβ遮断薬の使用は決して長期予後を悪化させないとの報告もある。さらに,交感神経など神経体液性因子の活性化はCOPDにおいても予後に悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。心不全においてはCOPDの合併は重要な予後規定因子となる。この関係は高齢者に多い拡張不全でより顕著である。実際の診療現場において,COPD合併心不全患者の治療方針はどうあるべきか。 -
CQ9 急性心不全での点滴強心薬の使用方法とは?
2号(2012);View Description
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急性心不全の治療目標としては,従来,呼吸困難感の改善と血行動態の改善に主眼が置かれていた。しかし近年,長期予後に対する後ろ向きの検討を行ったところ,患者背景因子を統計的に補正しても点滴強心薬を使用した患者の長期予後は悪化していることが示された。急性心不全の大規模レジストリーADHERE(Abraham WT, et al. J Am Coll Cardiol. 2005; 46: 57-64.)からも同様の報告がなされている。また動物実験からも,点滴強心薬が心筋障害を生じる可能性が指摘され,急性心不全の治療において点滴強心薬が第一選択薬として使用されることはなくなってきた。その一方で,収縮期血圧と臓器環流が保てない症例では,救命のために点滴強心薬を使わざるを得ない。ESC 心不全のガイドラインでは収縮期血圧に応じて,収縮期血圧が保たれている状態では点滴血管拡張薬投与,収縮期血圧が保たれない場合は点滴強心薬との記載がなされた。しかし前向き試験のない状況であり,臨床現場ではその使用法について試行錯誤が今も続いている。臨床現場において急性心不全に対して点滴強心薬を使う目的と適応,方法などについて,専門家はどのように考えるのか。 - 不整脈
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CQ10 心房細動の薬物治療はレートコントロールかリズムコントロールか?
2号(2012);View Description
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心房細動治療の基本は,血栓塞栓症リスクを有する患者に対する抗凝固療法と,症状・QOL の改善および心不全予防を目的としたレートコントロールである。一方,発作性AF はしばしば症状が強く,レートコントロール薬投与後も繰り返す発作のためにQOL が著明に障害される例も多い。わが国で実施されたJ-RHYTHM 試験(Ogawa S, et al. Circ J. 2009; 73: 242-8.)の結果では,とくに発作性心房細動に対しては,生命予後の観点からはレートコントロールとリズムコントロール間に差を認めなかったが,患者の忍容性をエンドポイントに加えると,リズムコントロールがレートコントロールより優れていた。では実際の臨床ではどちらの治療戦略から開始すべきであろうか。レートコントロールにはどの薬剤が適しているだろうか。またリズムコントロールの進め方,とくに抗不整脈薬はどのように選択するのが妥当であろうか。抗不整脈薬療法では無効や副作用をきたすことが多いのも事実で,その場合は別の薬剤に変更するかカテーテルアブレーションが考慮される。本誌1 号では,心房細動に対するカテーテルアブレーションの有用性を論じていただいたが,日常診療において,発作性心房細動の治療はどのように進めるべきあろうか。
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From the investigators
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経口抗凝固薬服用中のPCI施行例における抗血栓併用療法:WOEST試験
2号(2012);View Description
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経口抗凝固薬服用中の患者に経皮的冠動脈血行再建術(PCI)を施行する場合,従来の3 剤併用療法(抗凝固薬+クロピドグレル+アスピリン)は,アスピリンを除いた2剤併用療法に比べ出血リスクを増加するのみならず,血栓塞栓症リスクを抑制しないという結果が,2012 年の欧州心臓病学会(ESC)学術集会Hot Line セッションで発表された。海外ではほとんどのケースに3 剤併用を実施しているため,本試験の結果は大きな話題をよんでいる。そこで本誌では,ESC 学会会場にて,この研究の責任医師の一人であるJurriën M. Ten Berg 氏に,本研究の意義や解釈について聞いた。
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付録
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