CORE Journal 循環器
Volume 2, Issue 3, 2013
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目次
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Perspective
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疫学研究の結果とRCTによる検証:HDL-C研究の解釈から
3号(2013);View Description Hide Description血中HDL-C 濃度が冠動脈疾患の発症頻度と逆相関することは,数々の疫学研究の結果として広く受け入れられ,新しい抗動脈硬化薬としてHDL-C を上昇させる薬剤に期待が注がれてきたおもな理由となっている。ところが,最近,コレステリルエステル転送蛋白(CETP)阻害薬やナイアシン製剤について検討した大規模臨床試験が相次いでネガティブな成績を示し,治療法としてのHDL-C 上昇が必ずしも単純でないことが明らかとなった。この一連の出来事を例に,疫学研究やランダム化比較試験(RCT)の結果解釈と日常診療における留意点について考えてみたい。
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Point of View
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CQ&CORE
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- 動脈硬化
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CQ1 低リスク患者に対するスタチン治療は必要か?
3号(2013);View Description Hide Description高リスク患者では,スタチンによるLDL-C 低下療法が冠動脈疾患ならびに脳卒中をも抑制するというメタ解析が発表され(Cholesterol Treatment Trialists’ (CTT)Collaboration. Lancet. 2010; 376: 1670-81.),その有効性はほぼ確立されていることから,スタチンなどによる厳格な薬物治療が勧められる。一方低リスク患者では,食事・運動・禁煙などの生活習慣の改善がきわめて重要であり,治療の中心を占めることになることは異論のないところであろう。脂質異常症の治療は予防医学であり,薬物治療においてはメリハリのついた判断が必要とされる。 しかし,低リスク患者において,必ずしも生活習慣の改善が十分でなく,LDL-C 値も目標値に達しない患者も多く認められるのも事実である。このような場合,場合によってはスタチンによる治療も考慮されるが,そこにはどのレベルのclinical evidence があるのだろうか? また,わが国においてはどう考えるべきなのだろうか? ここでは,現時点で,低リスク患者におけるスタチン治療の正当性について専門家の見解を述べていただく。 -
CQ2 オメガ3系脂肪酸は心血管病予防に有効か?
3号(2013);View Description Hide Description魚油に由来するオメガ3 系多価不飽和脂肪酸(以下,オメガ3 系脂肪酸)は,心血管疾患の予防や不整脈の抑制に有効であるとの成績が,古くから観察研究やランダム化臨床試験(RCT)により数多く示されてきた(Marchioli R, et al. Circulation. 2002; 105: 1897-903.,Yokoyama M, et al. Lancet. 2007; 369: 1090-8.,Tavazzi L, et al. Lancet. 2008; 372: 1223-30.,Kromhout D,et al. N Engl J Med. 2010; 363: 2015-26.)。しかし,これに対して最近,その有用性を疑問視するRCTやメタ解析の結果も報告されている(Bosch J, et al. N Engl J Med. 2012; 367: 309-18., Rizos EC, et al.JAMA. 2012; 308: 1024-33.)。オメガ3 系脂肪酸に関するこれまでの知見が意味することは何であろうか。また,日常診療にはどのように活かせばよいのだろうか。 -
CQ3 インスリンは動脈硬化を促進させるか?
3号(2013);View Description Hide Description糖尿病が心血管リスクを増加させ,高血糖がその要因となっていることは疑いがない。一方で,肥満などのインスリン抵抗性状態,あるいは高インスリン血症そのものが動脈硬化を促進させるともいわれている。また,肥満状態などのような内因性インスリンの上昇のみならず,インスリン療法などによる外因性の高インスリン血症も,動脈硬化を促進させる可能性が懸念されている。最近の2 型糖尿病の大規模臨床試験において,血糖コントロールが改善しても心血管イベントが抑制されなかったのは,強化療法においてインスリンが多用されていることも一因ではないかともいわれている。一方で,インスリンの心血管イベントに対する効果を論じる場合には,血糖の降下作用,低血糖が心血管イベントに及ぼす効果,インスリンの血管への作用等を勘案する必要があり,これらの問題を臨床試験のレベルで切り分けることの困難さも手伝って,未だに議論の多い問題である。現時点でわれわれは,インスリン治療をどのように捉え,実地臨床ではどのような治療選択をすべきであろうか。 -
CQ4 腎障害患者でのRAA系阻害薬の併用療法はどこまで有効か?
3号(2013);View Description Hide Descriptionレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA 系)阻害薬の腎保護作用が多数検討されており,慢性腎臓病(CKD)合併高血圧患者において,ACE 阻害薬やARB は第一選択薬とされている。CKD の成因によって他の降圧薬を第一選択にすることもあるが,糖尿病性腎症などを代表としてレニン-アンジオテンシン系(RA 系)阻害薬の腎保護は多くのエビデンスがある。一般にはRA 系阻害薬を高用量で用いることが推奨されるが,複数の異なる機序をもつ薬剤の併用により,さらに強力にRA 系を抑制することの臨床的意義はまだ明確でない。臨床的には,ACE 阻害薬とARB の併用以外に,いずれかの薬剤とレニン阻害薬の併用,さらにはアルドステロン拮抗薬との併用が考えられ,実際に臨床研究がなされている。 CKD 患者の腎保護に対して,単独治療より有用な併用療法はどの組み合わせであるのか,その組み合わせはCKD 患者の心血管疾患抑制にも有用であるかを専門家に述べていただく。 - 虚血性疾患
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CQ5 β遮断薬はすべてのST上昇型急性心筋梗塞患者に投与すべきか?
3号(2013);View Description Hide Description再灌流療法が初期治療として確立するまでの多くの臨床試験で,β遮断薬はST 上昇型急性心筋梗塞患者に服用させることで予後改善が得られることが示されてきた。その後,低左心機能患者でのβ遮断薬投与が左室リモデリングを抑制し予後を改善することが示され,心不全患者への基本的な薬剤として認められたこともあり,これまでβ遮断薬はST 上昇型心筋梗塞患者に対してクラスⅠの薬剤であった。しかし,再灌流療法がルーチンで行われるようになり,左心機能保持がなされるようになると,いくつかの観察研究の結果から必ずしも全症例での内服が勧められるわけではなく,症例に応じた処方が求められるようになってきた。では,本当にエビデンスのレベルで,今どうなっているのだろうか。さらに,評価が決定され,ランダム化比較試験が行えない薬剤を今後どのように評価していけばよいのだろうか。 -
CQ6 脳梗塞再発予防にスタチンは有効か? LDL-C 厳格管理の有用性と安全性は?
3号(2013);View Description Hide Description脳梗塞の再発予防においては,臨床病型に則した抗血栓薬の選択とともに,高血圧,脂質異常,糖尿病といった危険因子の管理が重要である。『脳卒中治療ガイドライン2009』では,脂質異常症を有する患者にはLDL-C をターゲットとしたスタチンの投与がグレードA で推奨されている。しかしながら,脳梗塞の再発予防を目的としたLDL-C 管理に関する十分なエビデンスは存在しない。海外の大規模臨床試験にて高用量ストロングスタチンの脳卒中二次予防効果が示される一方で,LDLCを下げることによる脳出血発症リスクの増加も示されている。 脳梗塞の再発予防においては,脂質低下療法による脳出血リスクを正しく理解することが必要である。さらにLDL-C 値をどのように管理すべきかを併せて知っておくべきである。われわれは脳梗塞再発予防にむけ,虚血性心疾患患者と同様にLDL-C を厳格に管理すべきだろうか。安全性・有用性の双方を考慮すると,LDL-C はどこまで下げるべきなのだろうか。 -
CQ7 浅大腿動脈に植え込むステントはDESか,BMSか?
3号(2013);View Description Hide Description2012 年1 月に米国に先駆けてわが国で承認され7月より臨床使用が開始された薬剤溶出性ステント[DES;Zilver® PTX®(クック ジャパン社)]は,900 例の市販後調査が終了し,全国に普及している。再狭窄予防効果はバルーンカテーテルやベアメタルステント(BMS)に比較して高いことが臨床試験で報告されているが,登録された病変は病変長14cm 未満,血管径4 ~ 7mm で,患者背景は間欠性跛行患者であり,透析患者,重症下肢虚血患者は含まれていない。 一方,わが国ではシロスタゾールが下肢閉塞性動脈硬化症に対して使用可能で,BMS 留置後の再狭窄予防効果を有することが報告されている。またわが国において,冠動脈ステントと同様に適応外(off-label)使用で,DES において30 日以内の亜急性ステント血栓症が1%前後に生じている。さらに,臨床試験ではDES留置後のアスピリンとクロピドグレルの2 剤抗血小板療法を少なくとも2 ヵ月以上継続することが推奨されたが,off-label 使用下においていつまで継続するべきか明らかではない。このような状況の中で,浅大腿動脈に植え込むステントはDES かBMS か? すべてDESで良いのか? 使い分けが必要か? 使い分けるとすれば,どのような患者に,どのような病変にDESを植え込むべきなのか? - 心不全
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CQ8 心不全患者では太っているほうが予後良好なのか?
3号(2013);View Description Hide Description一般住民において肥満は独立した将来の心不全発症の危険因子であることが,Framingham Heart Study により示されている(Kenchaiah S, et al. N Engl J Med. 2002;347: 305-13.)。一方,心不全をすでに発症した患者においては6 ヵ月以上の経過における7.5%以上の体重減少が,年齢,NYHA 心機能分類,左室駆出率などの心不全の予後規定因子とは独立した予後悪化因子であり,心不全患者では体重が増加していることが予後良好であるという結果がAnkerらによって報告され(Anker SD, et al. Lancet. 1997; 349: 1050-3.),“obesity paradox”といわれていた。近年,大規模多施設試験のサブ解析でも同様の検討が行われ,慢性心不全患者ではCHARM 試験(Kenchaiah S, et al. Circulation. 2007; 116: 627-36.)により,急性心不全では登録研究ADHERE により同様の報告がなされた(Fonarow GC, et al. Am Heart J. 2007; 153: 74-81.)。 心不全患者では,本当に太っているほうが予後良好なのか?また,日常臨床においてわれわれは,体重に対しどのような配慮が必要なのか? - 不整脈
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CQ9 心臓再同期療法が有効なのはQRS幅が120ミリ秒以上か,150ミリ秒以上か?
3号(2013);View Description Hide Description薬物治療抵抗性の重症心不全の非薬物療法として心臓再同期療法(CRT)の有用性は確立され,『不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011 年改訂版)』でも「最適の薬物治療でもNYHA 心機能分類 Ⅲ度または通院可能な程度のⅣ度の慢性心不全を呈し,左室駆出率35%以下,QRS 幅120 ミリ秒以上で,洞調律の場合」はクラスⅠ適応としてCRT が推奨されている。一方,CRT に対して治療不応の症例(non-responder)の存在も指摘されている。複数の原因が考えられるが,QRS 波形や延長度もその一因としてあげられ,最近のメタ解析では,QRS 幅が高度に延長している場合や左脚ブロック型の場合はCRT が有用であるが,そうでない場合は必ずしも有用でないことが示されている(Sipahi I,et al. Am Heart J. 2012; 163: 260-7.)。 CRT の有用性を検証したほとんどの臨床研究が,QRS 幅が120 または130 ミリ秒以上の患者を組み入れているが,サブ解析では150 ミリ秒以上の患者で有用性を認めたとする報告が多い。これらのデータはどのように解釈し,応用すればいいのであろうか。ガイドラインではQRS 波形は特定されていないが,今後は限定されるのであろうか。
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From the investigators
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心血管高リスク患者におけるナイアシン投与:HPS2-THRIVE試験
3号(2013);View Description Hide Description心血管高リスク患者に対するナイアシン投与により,心血管イベントは抑制されず,さらにこれまで考えられてきた以上の有害事象が生じたというHPS2-THRIVE 試験の結果が2013 年の米国心臓病学会(ACC)で発表された。ナイアシンは古くから普及していた薬剤であり,ナイアシン/ laropiprant 配合剤は約70 ヵ国で承認されていただけに,今回のデータは世界を驚かせている。本誌はACC 2013 にて本試験結果を発表したJane Armitage 氏に試験の詳細を聞いた。
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榊原カンファレンス
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今回の症例:狭心症―緊急カテーテル検査からベアメタルステント留置に至るまで
3号(2013);View Description Hide Description狭心症は循環器疾患のなかで非常に頻度の高い病気です。治療アプローチとしては生活習慣の改善,薬物治療,血行再建術などがあります。臨床試験などをもとに治療ガイドラインもまとめられていて,一見,治療選択がクリアに行えるように思えますが,実際にはそんなに単純ではありません。病院により選択される治療戦略が異なり,A 病院に行けば薬物治療,B病院では経皮的冠動脈形成術(PCI),C 病院なら手術をうける確率が高くなったりします。 今回は狭心症の治療方針,治療選択について,1 症例をもとに議論したいと思います。心臓の表面を走行する冠動脈が一時的に異常に痙攣するように収縮し血管が狭窄することが原因になっているものを,冠攣縮性狭心症といいます。この冠攣縮性狭心症発作は夜間から早朝4時~ 6 時の時間帯をピークとして発症し,日本人に多いといわれています。治療は,Ca 拮抗薬といわれる血管拡張薬の内服が中心で,PCI などはあまり行われません。このようなことを背景に,今日は内科レジデント矢川先生から症例を呈示していただき,検討したいと思います。
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付録
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