眼科グラフィック

Volume 12, Issue 4, 2023
Volumes & issues:
-
目次
-
-
-
メイン特集 【専門医からポイント解説 緑内障患者に何をどう説明するのか】
-
-
-
1 【1章 検査の説明とポイント】
12巻4号(2023);View Description
Hide Description
緑内障は眼圧が原因で視神経が障害され,視野異常を来す疾患である.また,眼圧に重要な役割を果たす房水流出路である隅角の開放,閉塞により病型が分類される.そのため,緑内障の診断およびフォローアップのために行われる検査として,眼圧検査,隅角検査,眼底検査,眼底三次元画像解析,視野検査が挙げられる.これらの検査を的確に施行して正確な診断を行うために,患者が検査内容を十分に理解していることが重要である.また,行った検査の結果を十分に説明することは,患者が自身の病態を理解して積極的に治療参加するため,あるいは次回以降の検査を正確に行うために必須である.特に緑内障は慢性進行性疾患であるため,長い経過にわたって同じ検査を何度も繰り返して進行の有無を見ていく必要がある.本邦における主要な病型である正常眼圧緑内障などでは進行は極めて遅いため,非常に長期にわたり多数のデータを取らないと進行の有無がわからない.また,長期の経過の間には,転居などに伴う転医,あるいは病診連携など,複数の医療機関において検査結果を共有する必要があることも特徴である.本稿では,前述のような緑内障の特質を踏まえ,緑内障に必要な検査における説明のポイントを,検査別に解説する. -
-
3 【3章 薬物治療の説明とポイント】
12巻4号(2023);View Description
Hide Description
緑内障は慢性の進行性視神経症で,末期に至るまでは自覚症状に乏しいが,進行してから慌てて治療しても視神経障害・視野障害は不可逆のため,早期発見・早期治療が重要な疾患である.緑内障において現在,視野障害抑制のエビデンスのある唯一確実な治療は眼圧下降治療であり,治療は基本的には点眼による薬物治療が第一選択となる.しかし,治療してもそもそも早期では自覚症状がなく,また進行した緑内障においても,治療によって眼圧が下降できたとしても,目に見える形での改善があるわけではなく,現状維持が得られるベストの結果のため,薬物治療のアドヒアランスは極めて悪いことが多い.点眼は患者が自らの意思で,毎日実行・継続しなければならない治療法であり,点眼してくれなければ治療薬はまったく効果を発揮できない.また,正しい点眼ができなければ効果が減弱したり,逆に副作用発現につながったりしてしまうことも多い.点眼を継続しても特に症状の改善がみられるわけではないこと,どちらかというと緑内障点眼薬はさし心地が悪いものが多いことから,緑内障の薬物治療においてアドヒアランスの維持はそもそも困難だが,なかでも点眼回数や点眼に伴う副作用は点眼アドヒアランスの低下につながることが指摘されており,アドヒアランス不良は緑内障進行に著しく関与することが報告されている.アドヒアランスの維持,改善に対するさまざまな対策が研究・検討対象となっているのが現状である1,2).緑内障患者に薬物治療について説明する時には,緑内障治療の目的,目標とする眼圧値,薬物治療によって得られる効果と治療をしなかった場合の不利益,さまざまな点眼薬の特徴や作用,起こり得る副作用,注意すべき点,そして何よりも患者本人が自主的に治療に参加する必要があることを伝えなければならず,内容は非常に多岐にわたる.忙しい日常診療における短い診療時間の間に,医師側から容易に伝え切れる内容ではなく,また一度聞いたからといって患者側も簡単にすべてを理解できるものでもない.緑内障診断時,治療開始時には,これらの内容をわかりやすく伝え,理解を促し,患者本人が治療に参加する意欲を持てるように促していく必要がある.そのためには可能な限り時間をかけて説明すると同時に,わかりやすい説明ツールを用いるのも有用である.また同時に,治療開始後も眼圧下降および視野・視神経障害進行の経過を観察する中で,治療方針は個々の患者の状況や薬物への反応性などに応じて常に確認し,必要時には再検討していくものであることから,その都度,医師は患者によく説明し,理解を深めていく必要がある.緑内障薬物治療の基本目標は,なるべく少ない患者負担で, QOLを損ねることなく,必要最小限の薬剤で最大の治療効果を上げることであり,医師側は各薬剤の作用機序,副作用,禁忌などの特性をよく理解しておくこと,患者側には緑内障に治療の目標である,①目標眼圧へのコントロール(これは経過をみながら再検討していく),②視神経・網膜障害の抑制,視野の維持,そして何より,③一生見える人生のために患者側の努力が必要なこと,を理解してもらう必要がある.本稿では緑内障の薬物治療の説明とポイントについて概説する. -
4 【4章 手術・レーザー治療の説明とポイント】
12巻4号(2023);View Description
Hide Description
緑内障治療は,本質的には眼圧下降治療である.薬物治療と異なり,手術やレーザーでは十分な眼圧下降効果が得られた場合,緑内障治療の点眼や内服から離脱することが可能になり,患者本人のアドヒアランスと無関係な眼圧下降が得られる.また,アレルギーや呼吸器系,心機能の抑制を含む点眼薬による副作用がなくなるというメリットもある.ただ,事はそれほど単純ではなく,緑内障手術にはさまざまな合併症がある.患者本人はまったく視機能障害の自覚がない状態の眼に手術を行い,光覚喪失に至るような合併症を来す場合も稀にはある.また,特に問題なく終わっても術前より矯正視力が下がってしまうことも多い.そういった意味で,緑内障治療目的でレーザーや手術を行う際は,緑内障手術を受けるということが,何を意味するのか理解してもらうことが重要である.特に最近はWebサイトや雑誌などでレーザー治療や低侵襲緑内障手術(minimally invasive glaucoma surgery;MIGS)の知識を持っている患者も多い.「レーザーだから安全」「MIGSだから安全」と思っている人もいるため,注意が必要である.ポイントをついた説明と同意が,患者の術後のQOL と術者の身を守ると考えている.説明のポイントの一番重要な点として,患者が緑内障という病気がどういう病気であるか理解している必要がある.当たり前だと思うかもしれないが,やはり医療雑誌やWebサイトなどから得た知識により正常眼圧緑内障では眼圧下降のメリットがないと思っている患者もいる.そのような患者には「基本的には眼圧が高いと視神経が死んでいくのですよ.また,正常眼圧でも自分の視神経が耐えられる以上の圧が加わると緑内障は進行していきます」といったような説明をして,眼圧下降の必要性を理解してもらうことが重要である.また,筆者は基本的に患者に手渡す説明用紙や文書に詳細な説明を記載し,口頭での説明は重要な点のみとしている.録画した動画などを用いることも手術の理解に重要である.口頭での説明のみでは,術後に「そのような説明は聞いていない」などと言われたり,トラブルになったりする場合がある.緑内障のレーザー治療としては,比較的頻度が高いと思われる選択的レーザー線維柱帯形成術(selective laser trabeculoplasty;SLT),マイクロパルス波毛様体光凝固(micro-pulse cyclophotocoagulation;MPCPC),レーザー虹彩切開術などについて記載したい. -
5 【5章 眼圧影響因子にまつわる本当のこと】
12巻4号(2023);View Description
Hide Description
緑内障は「視神経と視野に特徴的な変化を有し,通常眼圧を十分下降させることにより,視神経障害を改善,もしくは抑制し得る眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である」と定義されている1).このため,眼圧値が緑内障診療において重要なことは異論を挟む余地はない.しかしながら,眼圧値には,日内変動があり,その値は日常のさまざまな因子によっても変化し得る.日々の緑内障診療では,患者に眼圧下降の重要性を説明し,眼圧値を告げて,点眼できているかどうかを確認する作業を行うが,時に患者から「点眼はしっかりやっています.点眼以外に,日常生活で眼圧を下げるため,上げないために注意することはありますか?」と質問されることを経験する.本稿では,こうした疑問に答えるべく,眼圧に関する基本的知識を整理するとともに,眼圧影響因子について解説する.
-
-
サブ特集 【涙目は積極的治療の時代へ 流涙・鼻涙管閉塞 診療とマネジメント】
-
-
-
1 【1章 外来で涙道疾患を疑う症状および検査所見】
12巻4号(2023);View Description
Hide Description
日常の外来診療において,流涙症状を訴える患者を診る機会は多い.「涙が出てうっとうしい」「ぼやけて見える」「ハンカチが手放せない」「目の縁がただれる」など主訴はさまざまであるが,治療により流涙が改善するとたいへん喜ばれることが多い経験からも,流涙が日常生活に与える影響は少なくないと推察される.実際に,問診票(NEI VFQ- 2 5:the 2 5 -Item National Eye Institute Visual Functioning Questionnaire)によるQOV(quality of vision)の調査では,流涙症患者のスコアは76.3 であり1),これは視力が0.5 以下の患者でのスコア75 2)と同程度であった.また,涙道閉塞症例に対する涙管チューブ挿入前後での視機能評価では,より日常生活の見え方を反映する実用視力が,治療前ではその変動が大きく認められたのに対し,治療後には比較的安定し,瞬目回数も減少した.さらに波面センサーによる高次収差測定では,治療後に高次収差の改善を認めた3).これらの結果からも,流涙は積極的な治療対象になると考えられる. -
2 【2章 涙管通水検査の達人になる方法】
12巻4号(2023);View Description
Hide Description
涙管通水検査を,普段していない先生,何だか原始的でなるべくしたくないと思っている先生,患者に痛がられて敬遠している先生はぜひ外来の涙道診療に涙管通水検査を取り入れてみていただきたい.時間もかからず,診断・治療の一助になる非常に有用な検査である.また,涙管チューブ挿入中のチューブ管理の一助にもなる.ここでは,なるべく患者が痛がらない方法やストレスフリーのコツをお伝えしたい. -
-
4 【4章 涙道手術の世界にようこそ】
12巻4号(2023);View Description
Hide Description
涙道は「眼表面から鼻腔に至る川」の流れに例えると理解しやすい(図1).涙道閉塞は川(図1A)に作られたダム(図1B)で,水が溜まるのは流涙の症状となる.流れが悪いので淀みやすく,細菌などの生物が発生している状態(図1C)が涙囊炎などの感染症である.感染は周囲に広まり(図1D),細菌性,アレルギー反応による角膜炎や結膜炎をひき起こす.点眼薬を処方されても治らないと訴える症例の状態である.治療の選択肢である内服や点眼による抗菌薬投与は細菌感染に対する治療であり,原因である閉塞に対する治療ではない.症状が一時的に改善しても再発を繰り返すため,抗菌薬の内服や点眼などで消炎させつつ涙管チューブ挿入や涙囊鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy;DCR)を計画する.年々進歩する涙道治療ではあるが,「流涙は年のせいなので仕方がない病気です」と誤った説明を受け,放置されている症例も未だに散見する.医療法1)に明記されているとおり,医師には自施設で対応できないのであればほかの施設と連携を図り紹介する義務があるため,誤った対応により無用な責任を負わないよう他院を紹介しリスク回避を行う方が安全である. -
5 【5章 ガイドラインに沿った先天鼻涙管閉塞マネジメント】
12巻4号(2023);View Description
Hide Description
先天鼻涙管閉塞(congenital nasolacrimal duct obstruction;CNLDO)は鼻涙管開口部の先天閉塞であり,生後から流涙,眼脂が出現する1).新生児の6 〜20 %に発症するといわれる2 〜4).2022 年12 月に,『先天鼻涙管閉塞診療ガイドライン』が作成された5).このガイドラインは,Medical Information Network Distribution Service,いわゆる「Minds 形式」に準拠して作成されており,データベースから文献を網羅的に検索し,システマティックレビューを作成し,推奨とエビデンスレベルを決定する.個人の考えをなるべく排除し,偏りが少ないことが特徴である.涙道分野はエビデンスレベルの高い論文が少なく推奨が弱いこと,引用文献の多くが国外のものであり日本の実情と異なること,日本で発明されたベント式の涙道内視鏡による報告は少ないことなど課題はあるが,現時点でのCNLDOについての知識が網羅されている.製作に携わった者にとっては,時間と労力をかけて作成した我が子のような存在であるが,全30 ページにも及び,すべて読破した医師は多くないかもしれない.そのため,本章ではガイドラインに沿ったCNLDOのマネジメントをできるだけわかりやすく記載することを目的とした.診療はエビデンスのみでは決まらない.地域性,全身麻酔の可否,保護者の希望,医師の技量や考え方により変わるものであり,変えるべきものである.それを縛ることは本ガイドラインの本意ではなく,皆さんの診療の一助になることを切に願っている.対応するクリニカルクエスチョン(clinical question;CQ)もそれぞれに記載したので,詳しく知りたい方はガイドライン本文を熟読していただきたい.
-
-
連載
-
-
-
【今さら誰にも聞けない 眼科レセプトQ&A】添付文書について
12巻4号(2023);View Description
Hide Description
開業医や将来開業を考えている眼科医が,診療所を経営していく上で,必ず知っておくべき知識を,Q&A 形式でわかりやすく解説します. -
-
-
その他
-
-