別冊整形外科
整形外科領域における今日的なテーマを企画、公募によるオリジナル論文を掲載
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目次
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成人股関節疾患の診断と治療
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- Ⅰ.疫学・病態
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1.変形性股関節症:なぜ人工股関節全置換術後に腰痛が改善するのか―人工股関節全置換術前後の脊椎アライメント変化
44, 88(2025);
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Hip-spine syndromeは1983年にOffierskiとMacnabによって報告され1),それ以来股関節と脊椎の関係について多くの報告がなされてきた.変形性股関節症(股OA)の患者の脊椎アライメントは,骨盤の前傾・腰椎前弯の増強を認める1).また,腰痛の有症率も高く,人工股関節全置換術(THA)後に腰痛が改善することは股関節外科医であればしばしば経験することである.非股OA患者において腰痛と関連のある脊椎アライメントとして,腰椎前弯角(lumbar lordosis:LL)の減弱(flat back)やsagittal vertical axis(SVA)の増大の報告は多いが,先述のように股関節疾患のある患者は特有の脊椎アライメントを有しているため,異なる腰痛メカニズムが関与している可能性もある.これまでにTHA後の腰痛改善に関する報告は散見されるが,その明確なメカニズムはいまだ明らかではない. - Ⅱ.治療
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3.人工股関節全置換術 2)セメント人工股関節:セメント人工股関節全置換術の現状と今後の課題
44, 88(2025);
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セメント人工股関節全置換術(THA)は,長年にわたり臨床において用いられてきた信頼性の高い術式である.これはSir John Charnleyによってlow friction arthroplasty(LFA)として開発され1),以降半世紀以上にわたり,手技やインプラントの改良が積み重ねられてきた.現在でも,CharnleyのLFAの基本原理は継承され,セメントTHAの手技およびインプラントはほぼ確立されたものになっている.しかし,近年では骨セメントを使用しないセメントレスTHAが世界的潮流であり,本邦のレジストリによれば2022年度の初回THAにおける骨セメント使用率は寛骨臼側で約5.7%,大腿骨側で約16.8%と報告されている2).一方,75歳以上の高齢者や骨脆弱性を有する症例に対して,セメントレスTHAにおける大腿骨ステム周囲骨折や早期のインプラント弛みが指摘されており,再置換率が低く安定した成績を示すセメントTHAの有用性が再評価されているが3),その技術を習得する機会が若手術者の間で減少していることも問題となっている.セメントテクニックを十分に習得していない術者が増加すれば,今後適応のある症例に対してセメントTHAが提供できなくなる懸念もある.本稿では,セメントTHAの適応と利点,セメントテクニックの重要なポイント,さらにインプラント選択の課題について,最近の知見を交えながら解説する. -
3.人工股関節全置換術 2)セメント人工股関節:インプラントの進化からみる再手術率の大幅な改善―Double taper 型チタン製ステムと高度架橋ポリエチレンカップを用いたセメント人工股関節全置換術の長期成績
44, 88(2025);
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セメント人工股関節全置換術(THA)は,変形性股関節症や関節リウマチなどによる疼痛と可動域制限を大きく改善し,患者の生活の質(QOL)を向上させる術式として広く普及している.特に本邦では骨質や股関節形態の特性から,セメントを用いたインプラント設置が長年にわたり行われており,安定した長期成績が報告されている.セメントTHAの成否は,骨・セメント・インプラントの三者による複合体(bone-cement-implant complex)が適切に形成されることに依存する1).ステムやカップの材質・形状・表面性状はその安定性に大きな影響を及ぼす.特にステムについては表面の粗さやテ-パ-形状の違いが,骨とセメントとの界面挙動を変化させることが示されてきた.一方,高度架橋ポリエチレン(HXLPE)は従来のポリエチレンに比して摩耗粉の産生を著しく減少させ,骨溶解(osteolysis)やインプラントの無菌性弛みを抑制することによって長期成績を大幅に向上させていることは周知のとおりである.本研究では,double taper型チタン製ステムおよび第一世代HXLPEセメントカップを用いて施行されたTHAについて,15年前後の長期成績を検討し,特にX線変化であるradiolucent line(RLL)やsubsidence(沈下)と臨床成績の関連を解析した. -
3.人工股関節全置換術 3)手術支援:側臥位人工股関節全置換術における非侵襲ピンレス拡張現実ナビゲ-ションOrtho Panther Lateral の使用経験とその有用性・課題
44, 88(2025);
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人工股関節全置換術(THA)において,術後の脱臼,可動域制限,摺動面摩耗,無菌性弛みなどの合併症の予防においては,至適角度でカップを設置することが求められる1,2).そのため,近年では多くの施設でカップ設置精度の向上を目的に,種々のナビゲ-ションシステムが導入されている3,4).2021年度のレジストリ-調査では,初回THAのナビゲ-ション使用率は全体の22.7%であったが,2023年度では31.9%と増加している5,6).特に術前CTが不要であるポ-タブルナビゲ-ションシステムが8.6%(2021年度)から17.4%(2023年度)と増加しており,比較的低コストで導入可能なデバイスの需要が高まっていると考えられる.一方で,現在THAで使用可能なポ-タブルナビゲ-ションの多くが骨盤にピンを挿入する必要があり,手術時間の延長や追加侵襲の懸念がある7).当科では,Ogawaらが骨盤座標取得の方法として利用したスマ-トフォンの拡張現実(augmented reality:AR)機能を採用し8),新たに開発されたポ-タブルナビゲ-ションシステムである,Ortho Panther(シェルハメディカル社)を2021年から導入を開始した.Ortho Pantherはほかのポ-タブルナビゲ-ションと異なり,骨盤へのピン挿入を必要とせずナビゲ-ションのための追加侵襲が不要な点が特徴である.開発当初は仰臥位THAでのみ使用可能であったが,2024年に側臥位THAで使用可能な“Ortho Panther Lateral”が開発された.本稿では,Ortho Panther Lateralの使用方法と,その有用性,課題,今後の展望について述べる. -
3.人工股関節全置換術 3)手術支援:術中の骨盤傾斜を補正するカップ設置支援デバイスHipPointer―視覚化による直感的かつ精度の高いカップ設置
44, 88(2025);
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近年,ロボット支援手術やナビゲ-ション技術の発展により,人工股関節全置換術(THA)における術中の骨盤追従機能が飛躍的に向上し,カップの正確な設置が可能となっている1~4).これらの技術革新は,術後成績の向上に寄与し,確実に患者の利益へとつながっていると考えられる.一方で,手術室では術中の不測の事態(ピットフォ-ル)に対して迅速に対応できる知識や技術も,術者には依然として求められている.特に従来のアナログ技術はしばしば「時代遅れ」とみなされがちであるが,術中における視覚的な情報を活用した直感的な操作は,むしろ現在においてもきわめて重要である.仰臥位によるTHAでは,寛骨臼の展開が容易であり,術中透視も活用できるという利点があるが,一方でレトラクタ-操作による骨盤傾斜の変化が,術中のカップ設置精度に悪影響を及ぼすリスクがある5~7).特に術中イメ-ジ画像に過度に依存すると,骨盤傾斜の変化により設置精度が低下する可能性がある8,9).われわれは,このような視点から骨盤傾斜を術中に補正し,術前計画通りのカップ設置を可能とするHip-Pointer(日本MDM社)を開発した(図1)10~12).本デバイスは骨盤傾斜を追従するのではなく,上前腸骨棘(ASIS)を基準に骨盤傾斜の補正を行い,機能的骨盤基準面(functional pelvic plane:FPP)を再現することで,正確なカップ設置を支援するものである.本研究の目的は,仰臥位THAにおいてHip-Pointerを用いた際のカップ設置精度を検証し,術中に生じうるピットフォ-ルとその対処法,さらに本デバイスを活用するうえでのコツについて明らかにすることである. -
3.人工股関節全置換術 4)長期成績:旧来のポリエチレンライナ-の摩耗に対して摺動面交換を行った人工股関節再置換術の成績
44, 88(2025);
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旧来のポリエチレンライナ-を用いた人工股関節全置換術(THA)の術後にライナ-の摩耗や骨溶解を生じ,再置換術を要すことがある(図1).当院では骨溶解が進行しているライナ-の摩耗を再置換術の適応としている.インプラントの弛みがない場合には高度架橋ポリエチレンライナ-および新しい骨頭へ交換する摺動面交換術が考慮される.しかし,その術後成績は十分には明らかになっていない.そこで,当院で施行した摺動面交換術の術後成績を調査した. -
3.人工股関節全置換術 4)長期成績:Modulus stem を使用し15 年以上経過した人工股関節全置換術のX 線変化
44, 88(2025);
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現在,人工股関節全置換術(THA)で用いられているステムはセメントレスステムやセメントステムを含め,さまざまなコンセプトのステムが存在している.日常診療ではステムを選択する際には術者の好みはあるものの,すべての症例で同一の機種で対応することは限りなくむずかしく,大腿骨形状を加味して選択していることが多いと思われる.特に大腿骨頚部前捻が強い症例や後捻症例では意図した前捻にするためにもさまざまなステムがある.当院ではこれらの症例について,以前よりセメントレスステムを使用してきた経緯より,セメントレスのmodular typeのステムを選択している.Modulus stem(Lima社)はsandblast加工を施したfin付きの円錐形状のステムであり,modular typeであるため前捻角を自在に操作できる.また,大腿骨髄腔リ-ミングの調整で脚長補正も容易に行える.ステム遠位での良好な固定が期待できる点より幅広い大腿骨形態に対応できる特徴がある.本邦では2005年より使用ができるようになり,当院では2006年より使用開始した.使用適応としては,①過前捻症例,②後捻症例,③転子下骨切り症例,④高度変形例で軟部組織が硬く脚長が伸びないと思われる症例,⑤転子部骨折偽関節症例,⑥遠位固定を意図したい症例,⑦65歳以上の高齢者を中心に使用してきた.Modulus stemの中期成績はよい1,2)が遠位固定であるためstress shieldingが幅広い範囲で出現すると報告されている3).そこで,当院でModulus stemを使用し15年以上経過したTHAの生存率,X線変化,特にstress shieldingの程度やほかのX線変化の特徴,合併症などを調査した. - Ⅲ.術後合併症への対応
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1.手術部位感染(SSI),人工関節周囲感染:人工股関節周囲感染診断と治療を目的とした全自動多項目遺伝子検査(The BIOFIRE joint infection panel)
44, 88(2025);
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人工関節周囲感染(periprothetic joint infection:PJI)は,迅速な診断と治療が求められる.PJIは,バイオフィルムの形成が継続的に起こるため,抗菌薬治療に抵抗し1),バイオフィルム内の細菌は増殖可能であるが培養不能な状態を含む代謝の遅い形態へと変化する2).したがって,原因となる微生物を迅速に特定し,抗菌薬に対する感受性を特定することが治療を成功させるうえできわめて重要となる.培養法は,現在も整形外科感染症診断における必須検査であるが,結果が出るまでに時間を要し,抗菌薬を投与されている場合に検出が困難である.超音波処理により培養法の感度は向上しているが3~6),培養結果が陰性の患者は依然として多い.このような培養検査で検出がむずかしい感染症に対し,ポリメラ-ゼ連鎖反応(PCR)は,特定の病原体または遺伝子を迅速に同定し,培養困難な細菌の同定が可能である7~11).これまでPCRはデオキシリボ核酸(DNA)抽出など煩雑な工程と特殊な機器,特定の専門知識が必要であった.このような状況下で,診断を迅速化した全自動遺伝子検査が登場し,本邦に導入されている.筆者らの施設における全自動多項目遺伝子検査の導入は,新型コロナウイルス感染症パンデミック時の呼吸器感染症の診断である.新型コロナウイルス感染症の流行のため,関西医科大学総合医療センタ-にゲノム解析センタ-を創設し,次世代シ-ケンサ-(NGS)は主に新型コロナウイルス感染症のウイルス種の判別に使用し12),院内感染や呼吸器感染症との鑑別に全自動マルチプレックスPCRを使用した.現在,PCR検査は日本全国の病院において使用できるようになっており,昨年は整形外科領域ではじめて市販化された敗血症性関節炎における原因微生物の迅速な同定が行えるThe BIOFIRE joint infection panel(JIパネル)[BioFire:bioMérieux社]が認可された.JIパネルは,31種の細菌や真菌を同時に検出し,8種類の抗菌薬耐性遺伝子を1時間程度で検出できる全自動マルチプレックスPCRである13~16).本研究の目的はJIパネルによる股関節疾患感染患者での関節液中の病原体の特定における診断精度を培養検査と比較し評価することである.
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