癌と化学療法
癌と化学療法は本誌編集委員会により厳重に審査された、 日本のがん研究に関するトップクラスの論文を掲載。
Volumes & issues:
Latest Articles
-
総説
-
-
がん医療(抗がん治療から緩和ケアまで)のShared Decision-Making
51, 9(2024);View Description Hide Description意思決定のあり方は父権主義を経て,インフォ-ムド・コンセントの普及によって患者の自己決定に意識は向かっていった.医療の複雑化,高度化を背景に対話のプロセスに焦点が集まるようになり,今ではShared decisionmaking(SDM:共同意思決定)が推奨されている.共同意思決定は,主体の患者,医師に,日本では家族が加わり,医療チ-ムが支援する.対象とする内容は医療のみならずケアまで広げ,対話を繰り返す決定プロセスを指す.したがって,いつでも撤回や変更は可能である.共同意思決定が普及してきた背景には,国際的に事前指示(アドバンス・ディレクティブ: AD)の限界の指摘があり,プロセス重視のアドバンス・ケア・プランニング(ACP)に舵が切られてきたことにある.臨床現場で経験するがん医療にかかわる共同意思決定の課題として,非現実的な希望をもつ場合,認知症や決められない患者などについて概説し,代理意思決定者との対話での注意点について加えたい.
-
-
特集
-
- 免疫療法のバイオマ-カ-探索
-
免疫チェックポイント阻害薬のバイオマ-カ-としての腸内細菌叢の可能性
51, 9(2024);View Description Hide Description現在,免疫チェックポイント阻害薬(ICI)はあらゆるステ-ジの非小細胞肺癌,特にドライバ-遺伝子変異陰性肺癌の標準的治療の中心を担っている.腫瘍のPDL1の発現が有効なバイオマ-カ-として臨床応用されているが,PDL1陰性の肺癌にも一定の効果があることが示唆されてきた.ICI の治療効果を予測するためのバイオマ-カ-は,腫瘍局所の状態と宿主側の状態のそれぞれについて様々な検索が行われてきた.近年では宿主側の状態を反映する指標の一つとして腸内細菌叢が注目されており,その組成や多様性がICI の治療効果に影響する可能性がある.特定の腸内細菌の存在がICI 治療の効果を増強することが多数報告されており,さらに抗生物質の使用がICI の効果を低下させる可能性や腸内細菌叢の移植がICI 治療の効果を向上させる可能性も示されてきた.当科でも抗PD1抗体投与症例における腸内細菌叢の解析を行っており,特定菌種の同定とrealtime PCR での特定菌種の検索を行い,今後の追加研究に期待がもてる結果を得た.最近では腸内細菌叢のみならず肺内細菌叢・腫瘍内細菌叢にも注目が集まっており,これらの細菌叢の多様性が高い場合にICI 治療の効果が得られる可能性があることが報告されている.しかしながら,いずれの結果も単独でのバイオマ-カ-としては十分な根拠を示すことができておらず,腸内細菌叢を含む宿主環境に加えて,肺内細菌叢・腫瘍内細菌叢などの腫瘍局所の微小環境の両面から今後の研究を進めることが必要と考えられる. -
PD-L1 陽性癌関連線維芽細胞の免疫チェックポイント阻害剤のバイオマ-カ-としての可能性
51, 9(2024);View Description Hide Description近年は本邦でも食道癌に対する免疫チェックポイント阻害剤(immune checkpoint inhibitors: ICIs)の適応が拡がっており,切除不能進行・再発食道癌に対する一次治療からのICIs の使用が推奨されている.一方で,癌関連線維芽細胞(cancerassociated fibroblasts: CAFs)は癌微小環境を構成する主要な細胞であり,その存在は予後不良因子として報告されている.CAFs は腫瘍促進的な機能を有しており,近年では腫瘍免疫との関連も報告されている.われわれは,食道癌臨床検体においてprogrammed cell death ligand 1(PDL1)陽性CAFs の存在を確認し,予後不良因子であることを報告した.また,癌細胞とCAFs は互いにPDL1発現を上昇させ,腫瘍内を免疫抑制状態へ誘導していることを示した.このような癌微小環境下においては,PDL1陽性CAFs を治療標的とすることで,より効率よく腫瘍縮小効果を期待できる可能性がある. -
Immunogenomics による免疫チェックポイント阻害薬の奏効予測バイオマ-カ-の同定
51, 9(2024);View Description Hide Description免疫細胞,HLA などの情報をゲノムから得られた情報を基に解明する研究分野であるimmunogenomics は,癌領域だけでなく自己免疫疾患,臓器移植など免疫反応がかかわる領域の病態把握に必須の研究分野となりつつある.次世代シ-クエンサ-によりT 細胞受容体,B 細胞受容体,癌変異情報などの網羅的理解が可能となった現在,われわれはimmunogenomicsが様々な病態の解明を行い,その情報に基づいた患者ごとの治療選択,病勢のモニタリングなど個別化医療の実現に大きく貢献すると考えている.本稿では,immunogenomics の理解のため,癌領域におけるimmunogenomics の具体例を紹介する. -
ミスマッチ修復蛋白IHC 検査のリアルワ-ルドデ-タが可視化する消化管がんに対するがん免疫療法における適切な患者選択の重要性
51, 9(2024);View Description Hide DescriptionKEYNOTE164,KEYNOTE158 試験の統合解析ならびにCheckMate 142 試験の結果,mismatch repair deficient (dMMR)/高頻度マイクロサテライト不安定性(MSIH)を有する固形がんと診断された患者を対象として免疫チェックポイント阻害剤の有効性が示され,がん種横断的にすでに保険承認されている.しかし消化管がんにおけるdMMR 症例がリアルワ-ルドにおいてどの程度存在するのか,詳細は不明である.そこで2019 年11 月~2023 年6 月に当院でミスマッチ修復蛋白免疫組織化学染色(immunohistochemistry: IHC)検査を行った消化管がん175 例を対象として,dMMR 症例の患者背景,ミスマッチ修復蛋白の欠損パタ-ンの特徴などについて検討を行った.高齢者の割合が高い集団においては,既報に比較して高い頻度でdMMR 消化管がん症例が存在している可能性があることが示唆された.また,ミスマッチ修復蛋白の欠損パタ-ンならびに年齢より,それらの症例の大部分は散発性(sporadic)のdMMR 症例と推測された.dMMR 大腸癌は右側結腸,女性に多くみられる傾向であった.本検討の結果より,高齢の消化管がん症例においては診断初期にミスマッチ修復蛋白IHC 検査を行い,免疫療法が有効である可能性のあるケ-スを適切に選定すべきである.さらにdMMR 消化管がん症例を対象に,高齢でも忍容性が高く,かつ有効な複合的免疫療法の創出が急務である. -
リアルワ-ルドにおけるNivolumab+Ipilimumab 療法の安全性と有効性
51, 9(2024);View Description Hide Description2010 年代に入り,免疫チェックポイント阻害薬を用いたがん免疫療法ががん薬物療法における新たな治療法となり,現在では多くのがん種で適応となっている.今日では免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた複合がん免疫療法が開発され,適応となるがん種も拡大されつつある.本邦で初めて承認された複合がん免疫療法は,抗PD1抗体阻害薬であるnivolumab と抗CTLA4 抗体阻害薬であるipilimumab を組み合わせたレジメンであり,ipilimumab の投与方法はがん種により投与量や投与間隔,投与回数が異なっている.複合がん免疫療法は単剤療法よりも高い治療効果を示す反面,重篤な有害事象の出現が報告されており,治療効果と有害事象の観点から,最適なipilimumab 投与方法の確立が望まれる.複数のがん種64 例で検討したところirAE 発現症例において複合がん免疫療法の高い効果が期待され,irAE によりipilimumab を早期中止しても効果が長く持続する症例が多く存在した.また,ipilimumab 高用量(3 mg/kg)投与はCTCAE Grade 3 以上の重症irAE の独立したリスク因子となる可能性が示唆された.
-
Current Organ Topics:Upper G. I. Cancer 食道・胃 癌
-
-