癌と化学療法

癌と化学療法は本誌編集委員会により厳重に審査された、 日本のがん研究に関するトップクラスの論文を掲載。
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総説
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がん患者を対象とした治験におけるDecentralized Clinical Trials
52, 3(2025);View Description
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治験は限られた医療機関で実施されるため,実施医療機関から離れた地域に在住している患者にとって治験への参加を希望しても,通院に伴う時間的・経済的・身体的負担により断念するケ-スがある.国立がん研究センタ-中央病院による調査では,移動時間が片道120 分を超えると臨床試験への参加率が減少する傾向にあることが明らかとなっている.また,保険診療でがん遺伝子パネル検査を受けた患者のうち,エキスパ-トパネルで推奨された治療薬を投与できた患者は9.4%と低く,遠方に在住している患者が都市部にある実施医療機関まで来院できないことがその理由の一つとなっている.本稿で取り上げる分散型臨床試験(decentralized clinical trials: DCT)はこうした問題を解決するための一つの手段である.本稿では,DCT の最新の規制要件に加えDCT にはどのようなタイプが存在するか,国立がん研究センタ-中央病院で実施したパ-トナ-施設タイプの事例を基に,実施医療機関およびパ-トナ-施設で必要な準備やeConsent,オンライン診療,治験デ-タの転送,治験薬配送およびDCT における医療費などについて解説する.
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特集
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- 泌尿器科がんにおける臓器温存療法の今後
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限局性前立腺癌におけるActive Surveillance とFocal Therapy
52, 3(2025);View Description
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PSA 検査の普及により,前立腺癌の早期発見が進む一方で,生命予後にかかわらない臨床的に重要でない癌(insignificant cancer)の診断増加が手術や放射線治療などの過剰治療につながっている.その過剰治療による副作用は患者の生活の質(QOL)の低下を引き起こす可能性がある.したがって,限局性前立腺癌における臓器温存療法は制癌性と機能温存・QOL 維持を両立させることが期待される.この観点からは,監視療法やfocal therapy は臓器温存における理想的なコンセプトといえる.監視療法は低リスクや一部の中間リスク前立腺癌に対してすでに確立した治療戦略である.focal therapy は各種ガイドラインにおいて,限局性前立腺癌に対する一次治療としてはまだ推奨されていない.しかし,一次治療としてのfocal therapy では臨床的に重要な癌(significant cancer)を治療標的として治療介入し,その他のinsignificant cancer については監視療法を行うという点で監視療法とは親和性が高い.本稿では監視療法中に病状進行がみられた場合,限局した病変に対してfocal therapy を施行し,その後再び監視療法を継続する治療戦略について提案した.このアプロ-チは過剰治療を避け,患者のQOL を長期にわたり維持するための効果的な方法と考える.ただし,実現には画像診断技術・質の均一化や治療適応規準の確立が必要であるが,今後の前立腺癌治療の新たな道筋となる可能性がある. -
小径腎癌における腎部分切除と局所治療(Focal Therapy)
52, 3(2025);View Description
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ロボット支援手術の普及に伴い,腫瘍径4 cm 以下の小径腎癌(T1a)に対する腎部分切除が推奨され,現在では標準治療とされている.しかし,高齢や併存症により全身麻酔手術をためらうような小径腎癌の症例が検診などで偶発的に発見されることが増えており,腎部分切除の代替治療として局所治療(focal therapy)の必要性が高まっている.局所治療の主な方法には凍結治療やラジオ波焼灼といったアブレ-ション治療があげられるが,近年では定位放射線治療(stereotactic ablative radiotherapy: SABR)も保険適用となり,腫瘍径5 cm 以下の腎細胞癌に対して使用可能な低侵襲な選択肢として注目されている.さらに局所治療ではないものの,監視療法も非常に小さな腎癌に対しては有効な選択肢となり得る.これらの多数の治療選択肢から,腫瘍因子や患者因子など様々な条件を考慮した上で,患者と医療者との間で行われる共有意思決定(shared decision making)が,小径腎癌治療の方針決定において重要な役割を果たすと考えられる.明確な腎部分切除,アブレ-ション治療,SABR,監視療法の大規模な前向き比較試験が存在しない現状において,本稿では,shared decision making に寄与する各治療方法の特徴およびこれまでの治療成績について概説し,今後の小径腎癌治療の展望について考察を行う. -
腎盂尿管癌に対する腎温存手術
52, 3(2025);View Description
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上部尿路上皮癌(upper tract urothelial carcinoma: UTUC)の標準治療は腎尿管全摘除術であるが,近年,腎温存手術(kidney-sparing surgery: KSS)が欧米・本邦のガイドラインで推奨され,その役割を拡大してきている.UTUC 罹患の好発年齢は高齢であり,合併症をもつ症例も少なくなく,両側腫瘍,(機能的)単腎,高度腎機能障害症例(imperative case)に対して制癌性を担保しながら腎機能を保持することで,長期での心血管疾患発症の予防や透析の導入を回避することを可能とし,生活の質(quality of life)を維持した上で生命予後を延長することが期待される.それに加え,最近ではリスク分類を用いることでlow‒risk UTUC に対してKSS を行うことが推奨されている(elective case).リスク分類の問題点は高い精度を保つために適応患者が非常に少ないことであったが,少しずつ改訂を加えlow‒risk UTUC の適応は少しずつ拡大しつつある.KSS は,(経尿道的・経皮的)内視鏡下レ-ザ-腫瘍焼灼術と尿管部分切除術を含む.内視鏡下レ-ザ-腫瘍焼灼術においてツリウムレ-ザ-は壁深達度が浅いことが特徴であり,ホルミウムレ-ザ-と併用することで尿管壁穿孔リスクを減らし,本邦においても少しずつ普及しつつある状況である.KSS の大きな問題はその再発率の高さであるが,術後補助上部尿路灌流療法と併用することで再発率の低下につながる可能性があり,本邦未承認ではあるがマイトマイシン含有reverse thermal gel(JelmytoTM)は良好な成績を示している.このように,KSS は超高齢社会のわが国で大きな需要があると考えられ,今後さらに普及していくことが期待される. -
膀胱癌に対する膀胱温存療法
52, 3(2025);View Description
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膀胱癌は筋層非浸潤癌(NMIBC)と筋層浸潤癌(MIBC)に大別される.NMIBC 患者の生命予後は一般的に良好であり,初期治療としての経尿道的膀胱腫瘍切除およびリスクに応じた膀胱内注入療法により,第一には膀胱を温存した状態での制癌を企図した治療が施される.再発および進展リスクの高い症例においては,その予防と最終的な膀胱全摘除の回避を目的としてBCG 膀胱内注入療法が施行されるが,これに抵抗性に高悪性度癌が残存もしくは早期に再発するBCG 不応例が存在する.BCG 不応のNMIBC に対しては通常膀胱全摘除が考慮されるが,近年この患者群における膀胱温存を企図した新規治療の開発が進んでおり,今後の発展が期待される.MIBC に対する標準治療は膀胱全摘除であるが,これが不適な患者あるいは膀胱の温存を強く希望される患者に対する治療は重要なアンメットニ-ズである.近年,三者併用療法を中心とするマルチモダリティなアプロ-チによる膀胱温存療法が治療選択肢の一つとして認知されつつあるが,適切な症例選択,治療プロトコルのさらなる改良と標準化が課題である.
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原著
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がん患者による電子患者報告アウトカムおよび電子お薬手帳の記録継続率と医師による情報参照率に関する前向き観察研究
52, 3(2025);View Description
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がん治療における電子患者報告アウトカム(ePRO)および電子お薬手帳の調剤情報の有用性を検討する目的で,通院による化学療法中の患者による記録継続率およびこれら情報の医師による外来診察時の参照率を調べる前向き観察研究を実施した.神戸大学医学部附属病院を含む3 病院で登録された患者20 名のうち18 名が観察期間終了まで記録を継続した.観察期間終了後の担当医師ヒアリングでは,全員がePRO および電子お薬手帳のデ-タを統合した「ePRO 電子お薬手帳デ-タ統合サマリ-」を参照し,患者の健康状態を短時間で正確に把握できたと回答した.これらの結果は,ePRO および電子お薬手帳が通院中のがん患者の院外での健康状態をモニタリングするための有用なツ-ルであることを示している.
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症例
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再発気管腺様囊胞癌に対し集学的治療によって病態制御を試みている1 例
52, 3(2025);View Description
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気管腺様囊胞癌(TACC)は比較的まれな疾患で再発例に対する確立された治療法はない.症例は80 歳台後半,女性.声門直下のTACC と診断され初診時に右肺上葉の孤立性肺転移を認めた.気管腫瘍に対し硬性気管支鏡下に腫瘍切除術を行い,放射線療法40 Gy を施行後,右上葉切除術を行った.初診から2 年目に気管局所再発に対し放射線療法35 Gy を施行し,初診から2 年6 か月目に左肺転移に対する肺部分切除術を施行した.初診から3 年目に両側多発肺転移を認めpembrolizumabを投与した.初診から4 年目に気管局所再発による血痰を認め,光線力学的療法を行った.さらに初診から6 年後,気道狭窄に対する気管切開と気管支鏡下での気管焼灼術を施行した.術後7 年目の現在,二次化学療法を施行中である.再発TACC に対し集学的治療によって病態制御を試みている1 例を報告する.
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特別寄稿
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- 第46 回 日本癌局所療法研究会
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切除不能再発胃癌の化学療法中に膵管胸腔瘻を来した1 例
52, 3(2025);View Description
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症例は69 歳,女性.食道胃接合部癌に対して術前化学療法施行後に胃全摘術を施行した.術後3 か月でリンパ節再発を来したため全身化学療法を導入した.七次治療のSOX 療法2 コ-ス施行後の術後3 年4 か月に発熱と左側胸部痛の訴えがあり,CT 検査で膵頭部リンパ節の増大,左横隔膜下リンパ節の縮小,膵管の拡張および左胸水貯留が指摘された.胸水穿刺を行ったところ胸水中のアミラ-ゼ値が82,179 IU/L と高値であり,膵管胸腔瘻と診断した.胸腔ドレ-ンを挿入後に内視鏡的膵管ステント留置術を施行したところ膵管胸腔瘻は軽快して,入院26 日目に退院となった.術後3 年6 か月で脳転移を来したため放射線治療を施行した後に化学療法を再開したが,術後3 年10 か月(膵管胸腔瘻発症から174 日後)に死亡した.総括: 胃癌化学療法中では,極めてまれな化学療法の奏効によって発症した膵管胸腔瘻の1 例を経験した. -
術前SOX+Nivolumab 療法で高度肝予備能低下を来すも病理学的完全奏効となった進行胃癌の1 切除例
52, 3(2025);View Description
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症例は63 歳,男性.貧血精査の上部内視鏡検査で胃体上部大弯の4 型進行癌と診断された.cT3N(+)M1(HEP),cStage ⅣB の診断でSOX+nivolumab 療法3 コ-ス,甲状腺炎発症後SOX 療法2 コ-スを施行し,RECIST PR となり手術方針となった.ICG 15 分停滞率・肝シンチグラフィで高度の肝機能低下を認め,肝生検でnivolumab 関連肝炎の診断となった.肝機能改善傾向後に脾摘を伴う胃全摘を施行したが,術後腹水貯留の遷延を認めた.nivolumab の免疫関連有害事象として肝炎・肝障害があるが,手術への影響は未だ不明であり,術前肝生検で免疫関連肝炎が明らかとなった胃癌の1 例を経験したので報告する. -
集学的治療にて予後延長が得られている多発転移を伴った進行直腸S 状部癌の1 例
52, 3(2025);View Description
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症例は50 歳,女性.健診での肝機能異常の精査目的に紹介となった.精査の結果,多発肝転移,肺転移を伴う直腸S状部癌と診断し,化学療法を開始した.mFOLFOX6+panitumumab を2 コ-ス,mFOLFOX6+bevacizumab を8 コ-ス施行し,さらにFOLFIRI+ramucirumab を1 コ-ス施行した.肺転移は消失し,肝転移巣も著明に縮小したため肝転移および原発巣を切除することとした.肝転移に対して肝部分切除術,原発巣に対しては2 か月後に腹腔鏡下高位前方切除術を施行した.術後補助療法としてcapecitabine を4 コ-ス投与したが,肺転移の再増大を認めたため胸腔鏡下肺部分切除術を施行した.5 か月後,肝S5 の切離面に再発を認め,肝右葉切除術を施行した.初診より2 年10 か月,再肝切除後から10 か月経過した現在,無再発生存中である.