Biotherapy
1987年9月の創刊のバイオセラピィに関する学術情報誌
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総説
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わが国のがんワクチン療法の克服すべき課題―がん治療用ワクチン療法FDAガイダンスを軸に―
25, 6(2011);View Description Hide Description米国FDA(食品医薬品局)が,がん治療用ワクチンを初めて承認したことで,長い間待ち望まれていたがん特異的な免疫療法がようやく現実化した。しかしながらがん免疫療法の研究者たちには,今後も治療用ワクチンにおける適切なサロゲートエンドポイントの検討や研究デザインの確立など解決すべき問題が多く残されている。第23 回日本バイオセラピィ学会(2010年,大阪)ではわが国におけるがんワクチンの承認をめざして,アカデミア,規制当局(PMDA),製薬企業から4名の専門家による討論会がもたれた。この総説では,そこで討論された内容,すなわちわが国におけるがんワクチン療法の現状と薬事承認に至るまでに克服すべき課題についてまとめてみる。
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特集
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- がんペプチドワクチン療法の進歩と課題
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同種造血幹細胞移植後の難治性小児血液腫瘍患者におけるWT1ペプチドワクチンを用いた免疫療法
25, 6(2011);View Description Hide DescriptionWT1 遺伝子の産物であるWT1 蛋白は小児血液悪性腫瘍である急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia,ALL),急性骨髄性白血病(acute myeloblastic leukemia,AML),非ホジキンリンパ腫などに高発現している。今回われわれは,再発高リスク群と考えられる小児血液悪性腫瘍患者に対して同種造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation,HSCT)後に再発抑制効果を目的としてALL,AML各1例に対してWT1ペプチドワクチンを施行した。WT1ペプチドワクチンはHSCTの1〜2か月後から開始しはじめの12 週間は毎週投与し,その後は2 週間に1 回投与することとした。現在2 例とも1 か月に1 回,WT1ペプチドワクチンの投与を受け,34〜41 か月の寛解を維持している。WT1 ペプチドワクチン接種に合併する有害事象はワクチン接種部位の皮膚の潰瘍が1 例でみられたのみで移植片対宿主病(GVHD)の悪化など有害事象はみられなかった。再発抑制効果を期待してHSCT 後にがんワクチンを投与した報告は今までにみられていない。WT1 ペプチドワクチンはHSCT 後にみられる移植片対白血病作用を増強し,再発を抑制することが期待される治療法である。 -
大腸癌に対するペプチドワクチン療法の進歩と展望
25, 6(2011);View Description Hide Description大腸癌は頻度の高い悪性腫瘍であり,世界中で約100 万人が毎年命を失っている。われわれは大腸癌細胞の網羅的遺伝子発現の解析から,RNF43,KOC1,TOMM34,VEGFR1およびVEGFR2などの新規腫瘍関連抗原を抽出し,さらにこれらの抗原のエピトープペプチドを同定した。これら5種類のエピトープペプチドを用いて大腸癌患者に対する第I相試験を行った。腫瘍細胞の免疫学的逃避機構を打破するため,免疫化学療法併用の試みが行われてきた。化学療法による殺腫瘍細胞効果は,化学療法剤による薬理学的効果だけではなく,宿主の抗腫瘍免疫によるところが大きいことがよく知られている。化学療法は腫瘍関連抗原の発現を増強し,同時に腫瘍細胞のCTL に対する感受性をあげることが知られていることも,免疫化学療法併用の理論的背景である。われわれは切除不能大腸癌に対する第II相試験として,エピトープペプチドとFOLFOX 併用免疫化学療法を計画しており,本療法による免疫学的反応と奏効率・治療奏効期間などを検討する。 -
シイタケ菌糸体抽出物の経口摂取による担癌での免疫抑制解除と抗癌ペプチドワクチン効果の増強
25, 6(2011);View Description Hide Description癌に対する免疫療法を考えた場合,効率的に癌特異的CTLを誘導して十分な抗癌効果を得るためには,担癌に伴う免疫抑制を軽減することが重要である。本研究でわれわれは,経口biological response modifier(BRM)であるシイタケ菌糸体抽出物(LEM)を経口摂取させた場合,担癌に伴うTregによる免疫抑制を軽減することで腫瘍の増殖が抑制されることを明らかにした。さらにLEM の経口摂取は,抗癌ペプチドワクチンにより誘導される抗癌効果も増強させた。以上の結果より,LEMの経口摂取は臨床応用が可能であり,抗癌ペプチドワクチン療法などの癌免疫療法に併用しても有用であると考えられる。 -
大腸癌に対するペプチドワクチン療法の臨床試験
25, 6(2011);View Description Hide Description[大腸癌に対する癌ワクチンとしての特性をもつHLA-A24拘束性ペプチドワクチンが同定された。大腸癌特異的ワクチンRNF43,TOMM34 とUFT/LV 併用療法の臨床試験を行った。重篤な有害事象を認めず安全に施行できた。21例中,RNF43とTOMM34両方のCTL反応を認めた8例は,RNF43またはTOMM34いずれか一方のCTL 反応を認めた12例,両方のCTL 反応を認めない1例に比べ長期生存を得た。大腸癌に対するペプチドワクチン療法は,免疫反応モニタリング,臨床効果の評価,併用化学療法など多くの課題があるものの,今後の臨床試験により効果が評価されるであろう, 大腸癌に対する癌ワクチンとしての特性をもつHLA-A24拘束性ペプチドワクチンが同定された。大腸癌特異的ワクチンRNF43,TOMM34 とUFT/LV 併用療法の臨床試験を行った。重篤な有害事象を認めず安全に施行できた。21例中,RNF43とTOMM34両方のCTL反応を認めた8例は,RNF43またはTOMM34いずれか一方のCTL 反応を認めた12例,両方のCTL 反応を認めない1例に比べ長期生存を得た。大腸癌に対するペプチドワクチン療法は,免疫反応モニタリング,臨床効果の評価,併用化学療法など多くの課題があるものの,今後の臨床試験により効果が評価されるであろう。] -
膠芽腫に対するWT1ペプチドワクチン療法
25, 6(2011);View Description Hide Description膠芽腫に代表される悪性神経膠腫に対するWT1 ペプチドワクチン療法の現況について概説した。WT1遺伝子産物は様々な悪性腫瘍でその発現がみられ,がん遺伝子としての機能を有すると考えられている。WT1ペプチドワクチン療法の原理について,基礎的研究から前臨床段階の研究の文献を引用しながら簡略に解説した。これまでに行われた様々な悪性腫瘍に対する臨床試験からその安全性が確認されたWT1 ペプチドワクチン療法は,いくつかの悪性腫瘍においてその有効性が確認されつつある。再発膠芽腫に対する臨床第II相試験では,disease control rate:57.1%であり,無増悪生存期間中央値(median PFS):20.0週,6か月後無増悪生存率(PFS-6):33.3%を得た。この結果から,WT1ペプチドワクチン療法は,難治性の再発膠芽腫に対して安全かつ有効であることが確認された。今後の他臓器癌を含めた臨床試験での成績が期待される。さらに,本療法をさらに効果的にするためには,WT1 helper peptideとの併用,抗がん剤との併用についての研究を進めるとともに,全治療経過を通じたワクチン使用のタイミングについて考察する必要があると考えられた。 -
胆道癌に対するペプチドワクチン療法の現状と展望
25, 6(2011);View Description Hide Description進行胆道癌は極めて予後不良の疾患であり有効な標準療法の選択肢が乏しい。最近,癌精巣抗原由来ペプチドワクチンの安全性と臨床的有効性がいくつかの臨床試験で報告された。われわれも7種類のペプチドを使用した二つの臨床試験を標準療法不応進行胆道癌患者18 名に対して実施した。ペプチドワクチンは毎週1回皮下投与し,可能な限り継続した。1 番目の試験ではDEPDC1,URLC10,KOC1,TTK の4種類のペプチドを,2番目の試験ではCDCA1,CDH3,KIF20A の3 種類のペプチドをモンタナイド(ISA-51)とエマルジョンにして投与した結果,grade 3 以上の重篤な有害事象は認められなかった。ペプチドワクチン投与開始後のPFS 中央値は4.2 か月,OS 中央値は9.7 か月,1 年生存率は38.9%であり,ペプチドワクチン接種部位にgrade 2 の皮膚反応を認めた患者では有意に生存期間の延長が認められた(p<0.001)。胆道癌に対するペプチドワクチン療法は安全で臨床効果が期待できる治療法であり,今後の第II相臨床試験への展開が望まれる。 -
消化器固形癌に対するペプチドワクチン療法の開発
25, 6(2011);View Description Hide Descriptionわれわれは消化器固形癌のなかでも難治癌とされる食道癌と膵癌を対象として将来の標準治療を見据えた二つの臨床試験を行った。一つはCpG-oligodeoxynucleotides(CpG-ODN)の強力なtype 1 IFNの産生誘導能に注目し,HLA-A*2402陽性標準治療不応の進行食道扁平上皮癌患者を対象に新規癌抗原(URLC10およびTTK)由来エピトープペプチドにCpG-B を併用するペプチドワクチン療法の第I相臨床試験である。有害事象は問題なく,免疫学的評価では9 例中6 例でURLC10 に対する,9 例中2 例でTTK に対する抗原特異的反応を認め,特にCpG-B併用例においてより強力な免疫反応が誘導されていた。臨床効果では9例中5例がSDと診断され,特にCpG-B併用6例中4例がSD であり,そのうち1例は12か月以上の長期間SD を持続した。現在,臨床的有効性を評価する第II相臨床試験が進行中である。もう一つは切除不能進行再発膵癌に対する腫瘍新生血管を標的としたHLA-A*2402 拘束性エピトープペプチドとgemcitabine(GEM)併用による第I相臨床試験である。有害事象はGEM 単独投与例と大差なく安全に施行可能であった。免疫学的評価においてはGEM 併用にもかかわらず61%と高率にCTL が誘導されていた。臨床効果についてはPR 1 例,SD 11 例でdisease control rateは67%であった。生存期間中央値(MST)は7.7か月であり,前治療のない15例のMSTは8.7か月と良好であった。この試験結果を受け,第II/III相試験(PEGASUS-PC試験)が開始され,2010年1月で登録が終了し,現在,追跡調査中である。ペプチドワクチン療法の治療開発においては,ペプチドワクチン療法を現在の標準治療に加えた形の臨床試験を推進する必要がある。
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総説
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バイオセラピィの息吹―カワラタケが拓いた世界―
25, 5(2011);View Description Hide Descriptionがん免疫療法の進歩について,歴史的変遷をまとめながら概説した。過去40年においてがん免疫療法は,カワラタケから抽出した蛋白多糖体PSK や細菌製剤などの初代免疫療法の開発に始まり,サイトカインの同定と臨床応用,活性化リンパ球の応用,がん抗原の同定とワクチンとしての応用,そしてモノクローナル抗体のヒト化と応用へと発展・進化してきた。この潮流のなかで,初代免疫療法剤から学ぶことは多く,これを次につなげなければならない。polysaccharide-K(PSK)の話題について示した。今,がん免疫療法は,副作用が少なく身体に優しい,生命予後を延長する第四のがん治療として市民権を得ようとしている。バイオセラピィの息吹を強く感じながら新規治療開発に向け,今後も不断の努力を惜しむまい。
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特集
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- 分子標的剤の現状
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食道扁平上皮癌におけるHER2 を標的とした分子標的治療
25, 5(2011);View Description Hide Description食道扁平上皮癌に対しては,広範なリンパ節郭清を伴った手術療法,化学療法,放射線療法などによる集学的治療が施行されている。しかし,進行食道扁平上皮癌患者の予後はいまだに不良であり,さらなる成績向上のためには新たな補助療法の開発が望まれる。一方,HER2を分子標的とした治療薬として,抗HER2 ヒト化モノクローナル抗体であるHerceptin やHER1/HER2 のチロシンキナーゼ阻害剤であるlapatinib が使用されており,それらの効果は様々な癌種において認められている。食道扁平上皮癌患者においても,HER2 を標的とした分子標的治療は,新しい有効な補助療法の一つとして考えられる。実際,われわれが本論文で示したように,食道扁平上皮癌患者の29.4%においてHER2 が発現されており,Herceptin とlapatinib はHER2強発現食道扁平上皮癌細胞株に対して増殖抑制とapoptosis を惹起し,それらの効果はHER2 強発現乳癌細胞株に対する効果と同程度であった。さらにlapatinibは,食道扁平上皮癌細胞株において細胞表面上のHER2の発現を増幅させ,Herceptin-mediated ADCC の効果を15〜25%増強させた。このHerceptin-mediatedADCCの増強効果は,HER2強発現細胞株だけではなくHER2低発現細胞株においても認められた。これらの結果から,HerceptinとlapatinibはHER2強発現ESCCに対して有効であり,Herceptinとlapatinibの併用療法は食道扁平上皮癌症例の29.4%に対して有望な補助療法の一つとなる可能性があると考えられる。